69.精霊術師、重たいと思う


「それでは、レオン様、契約いたしましょう……」


「はい、ソフィアさん……」


 俺はベッド上でソフィアと体を寄せ合い、唇を重ねた。


「それじゃ、ソフィアさん、行きますよ」


「き、来てください、レオン様……んっ……」


 傍らではエリス、ティータ、マリアンが俺たちの行為を羨ましそうに見ているが、これは契約の儀式だから仕方ないんだ――


「――はっ……」


 気が付くとそこは安ホテルの一室で、俺は一人でベッドに横たわっていた。なんだ、夢か、がっかりだな。


 でもよく考えたら、エリスやティータと契約するときにそんなことはしなかったわけで、あまりにも都合がよすぎた。


 って、エリスとティータだけじゃなく、マリアンもいないと思ったら、まもなくドタドタと慌ただしい足音が近付いてきた。なんだ……?


「はっ、放すのだっ!」


「だーめっ」


「放さないわよ」


 エリスとティータに手を引っ張られたマリアンが部屋に入ってくる。さては、例のカードを持って逃げたか。


「おいおい、マリアン、まったく反省してないな。これはどういうことだ?」


「ぬううぅ」


 彼女の体を念入りに調べると、やはりカードを隠し持っていた。


「ちなみに言うとな、それは偽のカードで、本物はこっちにある」


「なっ……!?」


 本物のギルドカードについては、盗まれないようにレア装備と一緒に無効化していたからな。


「証拠品を持ちだして、また悪巧みを働くつもりだったのか?」


「だったのー?」


「そうなのかしら……?」


「い、いやっ、それは断じて違うっ! 余を信じてほしい……」


「「「……」」」


 マリアンが涙目で訴えかけてくるが、思いっ切り星のブレスレットが点滅している。やっぱり全然反省してないな。


「――嗚呼ぁっ!」


「「キャッキャ」」


 というわけで、またエリスたちに服を消す、戻すのを繰り返す変なお仕置きをやってもらうことに。マリアンは悲鳴を上げつつも少し喜んでそうだから複雑だが。


「それで、何をやるつもりだったんだ?」


「……はぁ、はぁぁっ……と、とりあえず、証拠品を持ちだすとともに王宮へと戻り、それから兵を率いてここへ舞い戻るつもりであった……」


「「「……」」」


 俺たちは呆れ顔を見合わせた。とんでもないやつだ……。


「そんなことをしても無駄だってのはわかってるだろ?」


「そ、それはそうだが、言い訳が必要だったのだ……」


「「「言い訳?」」」


「う、うむ……。余は汗臭い冒険者にさらわれたので、今まで帰ってこられなかったんだと。父上は物凄く厳しい人なのでな。貴様ら――い、いや、そなたらを投獄したあと、あとでこっそり釈放するつもりであった。これは本当だぞ?」


 星のブレスレットが反応しない。なるほど、そういう事情があったのか。


「でもなあ、いくら父親が怖いからっていちいちそんな言い訳を用意するなんて、よくそれで王宮を抜け出して冒険者になろうなんて思ったな。覚悟が足りなすぎるんじゃないか?」


「レオンの言う通りだねー」


「私もレオンに同意するわ」


「そ、それはだなっ、そなたらが、父上の恐ろしさを知らぬだけだ。第一王子が子供の頃に王宮から黙って抜け出したときなんて、冬の真っ只中なのに下着一丁で三日三晩、時計塔の天辺に縛られて死にかけたのだぞ! しかも、それは甘いほうの処罰でな……」


「それで甘いほうの処罰なのか……」


「ひどーい」


「酷いわね」


「うむ……。ちなみに、余の姉である第一王女は使用人と密会したことが発覚し、冷宮に幽閉されてしまった。あれからもう三年にもなるが、その間一度も余は顔を見ておらん……」


 俺たちは声を封じられてしまった。マリアンの父、すなわちこの国の王は我が子であっても容赦がないってことで、彼女が必死になって言い訳を探すのもわかる気がする。


「わかった。そんなに言うなら帰っていいよ。な、エリス、ティータ?」


「うんっ。マリアン、ばいばいー」


「そうね。さようなら、マリアン」


「い、いや、待ってほしい。ただ帰るだけでは、罰を受けてしまうではないかっ! そ、そりゃ余も悪かったが……あ、そうだ、があった!」


「ん……?」


 マリアンが何かをひらめいた顔になったわけだが、何故か嫌な予感がするな。


「余の好みの殿方を見つけて、帰りたくなかったと言えばよいのだっ」


「「「えっ……」」」


 なんだよ、その言い訳は。


「いや、ちょっと待ってくれ。さっき、第一王女が使用人と密会して幽閉されたみたいなことを言ってたよな? その言い訳だとまずいんじゃ?」


「それはない。余のような超がつくやんちゃ者には、一般人を含めて婚約者など一生見付からぬだろうと父上は嘆いておられた。だからむしろ喜ばれるであろう。そういうわけだから、殿、パーティーはそのままにしておいてくれ。また暇を貰ってきたときはよろしく頼むぞっ!」


 おいおい、なんか勝手に婚約者にされてるし、しかもその相手が第二王女って……いくらなんでも荷が重過ぎるぞ……。

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