64.精霊術師、異次元を感じる


 俺たちは第二王女のマリアンをパーティーに加入させ、闇の洞窟での依頼を受けたのち、馬車を走らせてそこへ向かっているところだ。


 ちなみに、【堕天使の宴】パーティーに関してはリーダーの彼女が解散の手続きを済ませたから問題ない。


 パーティーとしての記録は残るが、もう一度作ろうとしてもランクはFからのスタートな上、名前を変えないといけない仕組みになっている。


 また、俺が持っているカードはギルドに提出して処分、あるいは更新してもらわない限り消えることはないので、マリアンに変な気を起こさせないためにも、一応証拠品として持っておくことにした。


「レ、レオン様あ」


「ん? マリアン、どうしたんだ?」


「そ、そのぉ……カード、返してほしいんですううぅ……」


「…………」


「ぜーったい、裏切らないので、お願いですう……」


 お、星のブレスレットが点滅したから真っ赤な嘘だな。というかマリアンは裏があると猫撫で声になるからわかりやすい。


「ダメだ。な、エリス、ティータ」


「うん。メーだよ、マリアン?」


「そうよ、嘘をつくと舌を消すわよ、マリアン」


「ひ、ひいぃっ……」


 ティータの発言にはさすがに肝を冷やしたらしく、マリアンも借りてきた猫のように大人しくなってくれた。


「わたしが服も消しちゃうっ」


「あ、嗚呼ぁっ! こ、このままではっ、余が、余の高貴な体が、汗臭い冒険者どもに凌辱されてしまううぅっ!」


 服がなくなったマリアンが耳まで真っ赤になり、局所を手で隠しつつ勝手にあえいでいる。想像の中じゃ凄いことになってそうだ。


「はい、服を返すねー」


「お、おおぉ、余の服が元に戻った!?」


「はいまた消しー」


「嗚呼ぁぁっ! 汚されるうぅぅっ!」


「「キャッキャ」」


 マリアンの反応が極端だから、遊戯感覚でエリスたちが喜んでる。散々妨害されてきたからお仕置きになるかと思ったが、あまり効いている様子はない。それどころかみんな喜んでいる感じだし、次元が違うな……。




「「「「……」」」」


 やがて、俺たちは目的地の闇の洞窟へと辿り着いたわけだが、入口前でしばし呆然と立ち尽くしていた。


 まず、光の洞窟に比べるとあまりにも入り口が狭く、背を屈めるようにして一人ずつ入る必要があることに驚かされる。


 また、牙でも生えているかのように周りが尖っていて、牙の合間から覗く闇も異様なほどに不気味であり、見ていると悪魔の胃袋の中へ吸い込まれそうだと感じた。


「気味が悪い場所だな」


「うん、ちょっぴり怖いとこだねー」


「ええ、ほんのちょっとね」


「あ、あうあうっ……」


 王女マリアンが震え上がっているが、これが本当の意味での普通の反応なんだろう。俺たちには精神的耐性に加えて無の鎖があるわけだが、マリアンだけには教育を施すためにも除外するようにティータにお願いしたんだ。


 闇の洞窟は、洞窟系ダンジョンの中で最も古いだけでなく、難易度も一番高いらしい。実際、それに関する依頼をこなそうとするパーティーはいても、ダンジョン自体の攻略を目指す者はほとんどいないのだという。


 なので、冒険者ギルドにある闇の洞窟ダンジョンの攻略ランキングには、現存していないような古いパーティーばかり載っているってわけだ。というか、【堕天使の宴】がここに関しては記録を残すどころか唯一クリアすらしていないことからも、その難易度の高さが容易に窺える。


 ――来るな……決して来てはならぬ……。


「…………」


 なんだ、今脳裏に響いた声は……? 闇の精霊のものかと思ったが、違う。似ているがそれとはもっと別の、を感じさせる声だった。


「エリス、ティータ、今の、聞こえたか?」


「……うん。なんか、とっても怖いし、それに懐かしい感じだった。ね、ティータ」


「……そうね。嫌な感じではあるけど、私たちが忘れてしまった何かのような。とにかく、強大な力を感じるわ……」


 エリスとティータがそこまで言うなんて、やたらと物騒な感じだな。大丈夫なんだろうか?


「お、おいおーい! 貴様ら、さっきから余がチビりそうなことばかり言うでないっ!」


「「「じー……」」」


「ふ、不遜な態度を取って申し訳なかったっ! 反省しているからそんなに睨むでない、本当だっ!」


 星のブレスレットが点滅してるし、相変わらずだな。


「でも、もういないみたいだから大丈夫ー」


「そうね。消えたみたい」


「そ、そうか。なら行くとしようか、エリス、ティータ」


「ちょっ!? お、おおいっ、そなたらっ! 余を一人、こんなところに残して行くでないぞおおぉっ!」

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