65.精霊術師、闇を照らす
「「「「っ!?」」」」
俺たちが闇の洞窟ダンジョンへと足を踏み入れた直後のことだった。
星のブレスレットのおかげか、暗闇の中ではっきりと周りを見渡せることに驚かされたわけだが、それ以上に衝撃的だったのが、周辺に肉片や所持品等の残骸が幾つも散らばっていたことだ。
これを見たとき、俺は風の洞窟ダンジョンで見たならず者たちのバラバラ死体を思い出した。
ってことは、まさか【堕天使の宴】の仕業なのか……?
「お、おえぇっ……。そ、そなたらはよく平然としていられるな……」
王女マリアンが青ざめている。そういえば、無の鎖から彼女だけ外してたんだっけか。
そうだな……話を聞くためにも、今だけ彼女を俺たちの輪に入れておくか。ということでティータに耳打ちすることに。
「……了解したわ」
「マリアン、もう大丈夫だろ?」
「そ、そんなわけが……って、あれ? もうなんともない……!?」
「なあ、それなら聞かせてくれないか? こんなことを、【堕天使の宴】はできるのか……?」
「……う、うーむ。普通は無理だとは思うが、あやつさえいればできるかもしれない」
「あやつって、もしかしてレーラってやつかな?」
「そ、それだっ! 実際にこの目で見たわけではないのだが、レーラがいたときは洞窟ダンジョンの最速攻略記録を、この闇の洞窟以外更新しまくっていたから楽しかったものだ……」
「なのに、なんで途中からいなくなったんだ?」
「それが、リヴァンの話によれば、病気だとかで離脱してしまったのだ。ちょうど、貴様ら――い、いや、そなたらへの妨害行為を本格化させようとしていたときだったから、タイミングが悪すぎた……」
「病気か、なるほどな……って!」
「「キャッキャ」」
エリスとティータが近くにいない上、やたらと羽音がするなと思ったら、モンスターの蝙蝠――ローグバット――を数十匹集めてきていた。おいおい……。
「レオンがおしゃべりしてる間に、少しでも集めたほうが記録を作りやすいと思ってー」
「ふふっ、この案は私が考えたのよ、レオン。これなら、一気にボス部屋へ行けそうでしょ……」
なるほど、そういう意図があったんだな。それにしても、ローグバットは鋭い牙で噛みついて血を吸うだけでなく、超音波で仲間を集めてさらに敵の理性を失わせる能力もあるんだが、エリスとティータの前では赤子も同然みたいだ。
「エリス、ティータ、ありがとう。でも今は大事な話をしてるところだから、もう少し遊んでてくれ」
「「はぁーい」」
蝙蝠たちを子分のように引き連れたエリスとティータが、スキップするように洞窟の奥へと走り去っていく。
「マリアン、さっきの話の続きだけど、レーラっていうのはどんなやつなんだ?」
「あやつは、確か召喚術師だったはずだ」
「召喚術師……」
ってことは、レーラは風の上位精霊ジンを召喚した? それくらいしか考えられないが、もしジンを召喚した場合、残骸がもっと遠くまで散らばっているはず。ここまで纏まっているわけがないんだ。
じゃあ召喚術師のレーラは一体、なんの精霊を召喚したっていうんだ……?
うーん、ダメだ。どれだけ考えてもわからない。
普段から恩恵があるものの一つの精霊にしか頼れない精霊術師と、色んな精霊を召喚できるが召喚時以外恩恵がない召喚術師は似ているところがあって、精霊に頼るところなんかは同じだから、その種類については俺も詳しいのに。
とにかく、ここまでやる相手だ。今までと変わらないと思って油断していたらきっと足を掬われるはず。
この闇の洞窟ダンジョンのどこかに、やつらがまだ潜伏している可能性だってある。
そういうわけで、【堕天使の宴】パーティーはどこへ行ったのかと、ここに主に棲息している闇の精霊に訊ねてみたわけだが、沈黙を貫いていた。
……そういえばそうだったな、闇の精霊は基本的に無口なんだ。光の精霊がお喋りなのとは対照的に。
仕方ない、こうなったら闇の洞窟ダンジョンを攻略するか。王女マリアンに冒険者の大変さを身をもってわからせるためにも、俺たちと一緒に泥まみれになってもらう。
「ど、どうしたのだ? 余をそんな風に睨みつけて……はっ、ま、まさか、汚すというのか……!?」
「ああ、たっぷり汚してやるよ、マリアン」
「い、い、痛くしないでえぇっ!」
「……ダメだ、痛くしてやる」
「ひ、ひいぃっ!? レ、レオンは女泣かせなのだな……。わ、わかった。余は目を瞑っているから、その間にさっさと終わらせるのだっ!」
ん、マリアンが急に地べたに横たわったんだが、一体どうしたんだ?
まあいいや。彼女についてはしばらく放置するとして、俺たちがここにいることで、親しみを覚えた闇の精霊が【堕天使の宴】の居場所を教えてくれる可能性だってある。記録がかかっているとはいえ、攻略自体難しいダンジョンだし気長にやろう。
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