59.精霊術師、逆恨みされる
「――そ、そういうわけで、そんな具合であたいらは敗北しちまって……」
都の某所にある小屋にて、今までの経緯をいかにも恐々と話す剣士ルディ。
「……な、な、なんだ、と……? それでは、貴様らは何もできなかったというのか……?」
彼女を筆頭にひざまずいた四人組を前に、仮面をつけた人物が声を震わせる。
「あ、相手が強すぎてさあ、それでいつの間にかやられちまったんです。だ、だろ、アダン」
「え、ルディ、なんでそこで俺に振るのよ……って、そんな怖い顔されても。ま、まあ、そういうわけですし、しょうがねえですよ。イシュトもそう思うだろ?」
「え、どうして僕に振るんだよ……って、二人とも顔が怖いって。ぼ、僕も相手が悪かったと思う。気がついたら倒れてたし……ね、リヴァン?」
「……あぁ。やつらは、強すぎた――」
「――喝だっ!」
「「「「……」」」」
激怒した様子の仮面の人物を前に黙り込む四人組だったが、まもなくルディが挙手した。
「ルディ……貴様っ、次はどんな弁明をするつもりだ!?」
「い、いや、リーダー、弁明とかじゃなくて、言い辛いんですけどレオンから伝言が……」
「伝言だと?」
「今夜九時、ギルドで待っているそうで。そうじゃないとリーダーの正体を言い触らすと……」
「そ、それはつまり、余の名前が刻まれたギルドカードを盗られたと申すのか……」
やや間を置いて気まずそうにうなずく四人組。
「いや、待て、なんでそうなったのだ!? 大体、人質を取ったのにあっさりやられるとは、貴様らはただの阿呆なのかっ!? このクソの役立たずどもめがっ!」
「…………」
そのタイミングで顔を上げた四人組の一人、盗賊リヴァンのこの上なく尖った視線を前に、仮面の人物がたじろぐ様子を見せる。
「い、いやっ、今のはさすがに言い過ぎた。とにかく、やつらは余が説得してみせる。所詮は貧乏人だから、もうこんなことはしないという反省文とともに金を握らせればカードを返してくれるはずだ。その間、貴様らは切り札のレーラを引き摺ってでも連れてきて闇の洞窟で待ち伏せし、今までの恨みを晴らすのだっ!」
「「「「了解」」」」
四人組がその場を立ち去ろうとする際だった。
「うっ……」
リヴァンがよろめいて倒れそうになり、白魔術師のイシュトが支えようとしたところで、鬼のような形相で払いのけられる。
「リ、リヴァン?」
「……はぁ、はぁ……イ、イシュト、余計な真似をするな。自分は、大丈夫だ……」
「そ、そうなんだ。無理だけはしないでよ」
「イシュトの言う通りだよ、リヴァン。あのレーラを説得できるのは、この世であんたくらいなんだからさ」
「ふわぁ……そうそう。あいつは会話もろくに通じねえし、何考えてるかマジでわからねぇやつだしなぁ……」
「…………」
剣士ルディと黒魔術師アダンが続けて言葉を発するも、リヴァンはそれらがまったく聞こえていないかのように虚ろな目をしていた。
「「「リヴァン……?」」」
「――あ、いや、なんでもない……」
◇ ◇ ◇
「――うっ……?」
都内にある某パーティーの宿舎にて、ボロボロの白いローブを纏った男――白魔術師のドルファン――がベッド上でおもむろに目を開けた。
「……こ、ここは、一体どこだというのだ……?」
ドルファンは上体を起こすと、目をしばたたかせながら訝しげに周りを見渡す。そこは広々とした部屋の中であった。
「お、目覚めたのか」
「む……?」
勇ましい声がした方向を彼が見やると、豊かな胸まで髪を伸ばした美人が立っていた。
「お、おおぉっ、胸もさることながら、顔も美しいではないかっ……」
「はあ? おいおい、洞窟で倒れてたから介抱してやって、そんでようやく意識が回復したと思ったら、いきなり品定めかよ? 好きもんだなあ」
「フフッ。英雄色を好むというだろう! 僕の場合はまさにそれなのだ。ちなみに、名をドルファンという。君の名前はなんだ?」
「ドルファンか、面白いやつだな。俺の名はアリーナ。【月下武人】っていうA級パーティーのリーダーだ」
「ふむ、アリーナというのか。A級というのもいい。お前のことを気に入ったからよろしく頼むぞっ!」
「ははっ、まあよろしくな?」
二人は笑みを浮かべ合い、がっちりと握手を交わしてみせる。
(ククッ……どんな特徴を持つパーティーかはまだわからんが、すぐに把握、掌握してみせる。このままでは終われんのだよ。レオンたちにやり返して恨みを晴らすためにも、僕の意思を反映できるパーティーにしてみせる。まずはこの女から手懐けてやるとするか。巧みな白魔術の見せ所だな……)
ドルファンはアリーナの胸の谷間を覗き込みながら、ぐるりと喉仏を動かした。
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