60.精霊術師、不思議に思う
光の洞窟ダンジョンも最速記録を更新したということもあり、俺たちは意気揚々と冒険者ギルドへと帰還したところだった。
「――おめでとうございます、レオン様っ。報酬は金貨1枚と銀貨5枚で、これよりA級に昇格となります……!」
「「「おおっ……」」」
これで遂にA級か。あと一つ上がったら、かつて俺が所属し、追放された【天翔ける翼】パーティーに並ぶことになるな。現在はすっかり落ちぶれている様子だが。
あのときは、こんな日が来るとは夢にも思わなかっただけに、諦めずに頑張ってきて本当によかった……。
「ありがとうございます、ソフィアさん」
「ソフィア、ありがとねー」
「礼を言うわよ、ソフィア」
「ふふっ……。エリスさんもティータさんも、よく働いておられるようですね――」
「「「――っ!?」」」
ソフィアが言い終わった直後だった。彼女が倒れそうになり、カウンターにしがみつく格好になった。
そこは、スタッフ以外は立ち入り禁止だというカウンター奥の個室。
俺たちの専属受付嬢の部屋ということで、特別に入ることが許可されたため、背負ったソフィアを隅に置かれたベッドに寝かせることに。
「――はっ……」
それから数十分ほど経ったのち、彼女は薄らと目を開けた。
「ソ、ソフィアさん、大丈夫ですか?」
「ソフィア、大丈夫ー?」
「大丈夫なの、ソフィア……?」
「……は、はい。ご心配をおかけいたしました、レオン様、エリスさん、ティータさん……」
「いや、ソフィアさん、無理に起きようとしなくていいから、しばらく横になっててくださいよ」
「でも……」
「専属受付嬢なんですから、俺たちの言うことを聞いてください。なあ、エリス、ティータ?」
「うん、ゆっくりしなきゃ私が風邪になって、服を破っちゃうよー?」
「ダメよ、そんなことしちゃ。エリス……」
エリスのせいでルコの裸を思い出しちゃったじゃないか。しかもちょっとだけ期待してしまった自分に罪悪感を覚える。倒れた直後だっていうのに。
「レオン様、顔が赤いですし、ドキドキしていらっしゃいますね。どこか具合でも悪いのでしょうか?」
「うっ……」
さすが楽の精霊なだけあって、ソフィアはそういうところをすぐ見抜いちゃうな。
「異変がないかどうか調べますので、私の胸にレオン様の手を置いてください……」
「え、ちょっ」
ソフィアに右手をさらわれたかと思うと、胸の谷間に置いてしまった。や、柔らかい。
「うーん、どうしてでしょう? レオン様の原因不明のドキドキが止まらないですね……」
いや、そりゃそうだろうと。ソフィアって、もしかして精霊なだけあってエリス並みに天然なんだろうか。
「レオン、わたしの胸にも手を置いてー」
「私が先よ、エリス」
「むー! ティータはダメー」
「はぁ?」
「おいおい……」
結局、エリスとティータによって俺の左右の手が誘拐されることに。
二人とも、微妙に大きさが違うんだな。二人ともソフィアよりはないが、意外とティータよりエリスのほうがちょっとサイズはあるような……って、俺は何を真面目に解説しちゃってるんだか。
「そ、それより、ソフィアさん、風邪は治ってなかったんですか?」
「それが、変なんです」
「へ、変……!?」
一瞬、俺のことかと思って動揺してしまう。
「はい。ピタッと症状が治まったと思ったら、またこんな風にぶり返してしまって……もしかしたら、これは考えたくはないのですが……」
「ソフィアさん……?」
なんだ、ソフィアの声が震えている。これはとても珍しいことだ。
「平穏な状態が今にも崩れそうなので、それが影響したのかもしれません……」
「「「ええぇっ……?」」」
彼女は楽の
そういえば、今夜は第二王女と会う約束があるんだっけか。相手にどんな策略があろうと、俺たちの力なら大丈夫だとは思うが、それでも油断は禁物だろう。とにかく、できる限り注意を払う必要がありそうだ。
それから、夜の九時までにはまだ時間に余裕があるってことで、俺たちは馴染みの工房へと足を運ぶことに。
「――おう、よく来たなっ!」
「どうも、オヤジさん……って、あれ、ルコはどうしたんですか?」
「ルコはー?」
「どうしたのかしら、ルコは」
俺たちがしきりに周囲を見回すも、ルコの姿はどこにも見当たらなかった。って、オヤジの服の中をエリスとティータが覗き込んでるが、いるわけないんだからそんなところまで探さないでくれ。
「わりーが、ルコなら今朝ぶっ倒れちまってなあ」
「「「えぇっ!?」」」
「ただ、心配すんな。あいつはもうケロッとしてる。ただ、万が一のことも考えて家にいさせてるだけだからよ」
「「「なるほど……」」」
そういや、なんかルコがソフィアと同じ症状になるのが続いている気がするんだが、気のせいだろうか?
「それより、こっちへ来たってことは、なんか叩いてほしいもんがあんだろ?」
「あっ、そうでした、これを……」
ルコが無事だと聞いて安心した俺は、光の輪で星のブレスレットっていうのを作ってもらうことに。それがどんな効果なのか、直に精錬するオヤジならわかると思うから楽しみだ。
「――ホイ、できたよ、これがアチアチの星のブレスレットね」
「「「おぉっ!」」」
さすが、鍛冶師のオヤジだ。材料を揃えて精錬し始めたと思ったら、もう完成させてしまった。
「それで、これはどんな効果なんですか? 名前は知っていても、売りに出されてるのを今まで見たことすらなくて……」
「これはな……霧の中だろうと闇の中だろうと魔法の煌めきを発して、周囲の景色がはっきりわかるようになる上、それを相手に悟られないんだ。さらに相手が嘘を言っていると点滅するから即座にわかるし、魔力が上昇する効果もある。魔法の属性を光にすることもできるぞ」
「な、なるほど……」
色んな機能が備わっていて便利な腕輪だなあ。
「ん、どうしたんだ、お兄さん、そんなに顔を赤くしちまって」
「い、いえ、なんでも……」
これがあれば風呂の中でも色々とくっきり見えるんじゃないか、なんてことを考えてしまって、最近の自分は何か変だと不思議に思った。
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