58.精霊術師、輝きを放つ


「あ、レオン、向こうのほうになんかフワフワなのがいるよー」


「バチバチしてそうなのがいるわ、レオン」


「お……」


 道が幾つも分かれた、広い広い光の洞窟内を歩き回り、俺たちはようやくモンスターを発見した。触ったら火傷しそうな光球――プラズマ――だ。


 こいつが低確率でドロップする光の粒を5個集めるというのが、今回受けたB級の依頼だった。


 ここじゃ地の精霊の存在感が薄い上、主にいる光の精霊たちが悪戯好きで嘘の情報を教えてくるため、ここまで時間がかかってしまった。


『ジジジジジジジッ……!』


「うっ……」


 俺が近寄ると、プラズマが威嚇するように体を大きくしながら眩い光を放ってきたが、それと同時にティータが無効化してくれたので大丈夫だ。下手すりゃ盲目になりそうなほどの強烈なフラッシュだった。


「あっ……」


「レオン、どうしたのー?」


「赤い顔をして、どうしたの、レオン?」


「い、いや、なんでもない……」


 プラズマが放つ光によって、エリスとティータの体の輪郭や肌が透けちゃってたからな……っと、今はそんなことを考えている場合じゃなかった。


 このモンスターには物理攻撃が効かないので、ティータに魔法防御力を無効化してもらい、壁際に追い詰めてから風刃の杖のウィンドカッターでプラズマを攻撃する。


 それによってあっさり倒すことができたが、また探すのがしんどいな――ってそうだ。俺たちには破壊と再生のペンダントがあるんだった。


 そういうわけで、俺たちはプラズマをその場で生き返らせてはまた倒すということを繰り返し、あっという間に光の粒を5個ゲットするとともに、ボス部屋への突入を果たすことに。


「ここは……」


 今までのように視界が一気に開けたと思ったら、雲が届くほど高い山の上に立っていた。


「わーいっ、わたし、雲の上に乗っちゃうー」


「ほらほら、危ないわよ、エリス」


「えっ……」


 本当にエリスが雲の上に乗った? って一瞬思ったが、ティータが体重を無効化しただけか。


「「キャッキャ」」


 二人とも楽しそうだなあって思ったら、俺まで無の鎖によって無効化したらしく体が浮いた。こりゃ癖になりそうな感覚だな……お、近くの魔法陣が輝き出したから、いよいよボスが登場しそうだ。


『――ヒュオオオオォッ……』


 僅かな時間を置いて現れたのは、光の輪と翼を持った白い衣姿の少年――アンゲルス――だった。


「見て見てっ、天使さんだぁー」


「どう見ても天使ね」


「あぁ、天使だ……」


 傲慢さを漂わせる不敵な笑みをも携え、俺たちを見下ろすその様はまさにアンゲルスという名に相応しい。


 通称、。そう呼ばれるのも実体がないために魔法しか効き目がないからだが、ほかにも理由があり、物理ダメージを反射したり、熱を放射したりして、攻撃してきた前衛を殺してしまうからだという。


 また、魔法防御力もかなり高いみたいだから、精霊王といえども一瞬しか無効化できないだろう。


 なので俺はプラズマを倒している間も、どうやって倒そうかとボスのことを考えていたわけだが、結局わからずじまいだった。


 俺は魔術師系統と呼ばれる精霊術師なのに前衛みたいなもんだから、こういう物理に強いやつを倒すのは苦労するだろうとは思っていた。


 実際、アンゲルスに挑戦するほとんどのパーティーは、魔術師系を揃えて倒すのだという。


 ちなみに、冒険者ギルドで確認したんだが、【堕天使の宴】パーティーの持つ記録は、15分46秒ということでやはりナンバーワンだった。アダンだっけか。あんなに火力の弱そうな黒魔術師が一人だけじゃどうしようもないはずだし、リヴァンも頼りにしていたレーラってやつのおかげだと考えるのが自然だろう。


『ヒョオオォォッ』


 来る――って、あれ……? アンゲルスは俺たちを狙って急降下してきたと思ったら、すぐに上昇してしまった。攻撃すると見せかけて、またすぐ飛ぶっていう、まるで挑発しているかのようなふざけた動きだ。


 そういや、このボスはグリフォンのように自分から積極的に攻撃を仕掛けてくるタイプじゃなかったな。物理でも魔法でも、自身の体に攻撃を加えてきた相手に執拗に向かってくる習性を持っているらしい。


 つまり、まずはこっちからなんらかの攻撃を仕掛け、やつを能動的アクティブな状態にする必要があるってことだ。


 ん-、どうしようか。弓でもあればいいんだがそれはないし、エリスとティータには無効化する力はあっても、何か攻撃魔法を使えるわけじゃない。


 って、そうだ。俺たちは無重力状態だったんだ。そういうわけで、空気を切ることを意識すると風刃が発動したので、それを利用して飛行し、とりあえずボスを杖で攻撃してみたら、当たっているはずなのに空振りした。


 こうなると普通は反射ダメージが心配になるところだが、相手の物理防御力を無効化してない上、こっちは鉄壁だから問題ない。


『ヒュアアアアアアアアッ!』


 お、アンゲルスが顔を赤くしながら俺に攻撃してくる。たったこれくらいで激怒状態になるなんて、今までのボスと比べると異様に沸点が低いな。やはり、そこはプライドの高い天使ならではってところか……。


 やつの攻撃は、頭上のわっかを光らせるだけのものだったが、これが失明するほど眩しいだけじゃなく、全身が焼け付くように熱い。炎の鎧を着ていなかったら相当なダメージを受けていたはずで、物理殺しと呼ばれるのもうなずける。


「レオン、頑張ってぇー!」


「私のために頑張ってね、レオン」


「ティータったら、また言ってるー!」


「ふふっ」


 ただ、熱や光はエリスとティータが無効化してくれるから、防御面についてはやはり心配ない。


 問題は、いかにして攻撃するかだ。魔法攻撃といっても、こっちには風刃の杖から発動される風刃しか手段がない。魔法防御力をちょくちょく無効化したとして、魔力の低い俺がこれをボスに当て続けたとしても、5分間の制限時間内ですら倒すことは難しいだろう。


 さあ、どうしようか。このままじゃ【堕天使の宴】の記録を打ち破ることは到底不可能だ。


 それでも、諦めるわけにはいかない。なんとかして方法を考えなければ……って、今ボスが輪を光らせた瞬間、周囲の光の精霊たちが顔を出してきた。


 光の精霊は知を司っているので、何かヒントを教えようとしているのかもしれない。彼らは普通、天使のほうを応援するはずだが、こっちには精霊王がついているわけだし、その可能性は充分にありうる。


 光を発した瞬間にヒントがあるとしたら――


「――あっ……」


 そうだ、そういうことか。


「エリス、ティータ、ボスが次にわっかを輝かせたタイミングで、やつの魔法防御力と光を無効化させてくれ!」


「うん、わかったー!」


「わかったわ」


 アンゲルスの輪が輝きを発した直後、俺は懐からナイフを取り出して反射すると、やつの体に魔法の風の刃を浴びせてやった。


『ヒュアアアアアアァアアアアッ!?』


 天使の断末魔の悲鳴がこだまするのも当然で、やつに光は通じないどころか吸収してしまうが、それに内包された魔力が光とともに反射され、さらに光の部分はティータが無効化したため、を食らった格好なんだ。


 アンゲルスはまたたくまにズタボロ状態となり、あえなく撃沈した。


 このやり方は光魔法を放ってくる相手にしかできないとはいえ、とりあえず思い通りの結果になったのでよかった。


《B級パーティー【名も無き者たち】の光の洞窟の攻略時間、13分20秒。新記録です!》


「「「おおぉーっ!」」」


 今までと比べるとかなり苦労しただけに、俺たちの喜びはひとしおだった。よしよし、今回も新記録を達成できただけでなく、レアドロップ品である天使の輪もゲットできた……って、エリスが素早く拾い上げると、頭に乗せてしまった。


「レオン、見て見てー、わたし天使になったよー」


「それ、羨ましいっ。私もつけたいから貸して、エリス」


「やだっ」


「エリスッ」


 天使の輪がすっかりエリスたちの玩具になる中、周りの景色が元に戻っていく。


 アンゲルスに関してはドロップするとしたらこのアイテムだけであり、これさえあれば高級レア装備の一つ、ひかりのブレスレットっていう腕輪が作れるみたいなんだ。これについてはどんな効果なのか全然知らないこともあって楽しみだな。

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