57.精霊術師、黒幕を暴く
「――な、なんだって……!?」
俺はルディたちから、俄かには信じられないことを聞かされていた。
なんと【堕天使の宴】パーティーの背後にいたのは、この国の第二王女だったというのだ。偉い立場の人間が絡んでいるんじゃないかとは予測してたが、まさか王族だったとは。開いた口が塞がらないとはこのことだな。
「それで、第二王女が黒幕だっていう、確固たる証拠はあるのか……?」
「もちろん、あるさ。これがそうだよ」
ルディがおもむろに履いている靴を脱いだかと思うと、その底から何かを取り出して渡してきた。これは、ギルドカードだ。こんなところに隠し持っていたのか。
早速拝見したわけだが、カードを持つ自身の手が震えた。そこには、紛れもなく第二王女の名前――マリアン=A=ランフィス――が刻まれていたのだ。彼女こそが【堕天使の宴】のリーダーだった。
冒険者ギルドに登録する場合、誰であろうと偽りの名前を使うことはできない。なのでもう、第二王女が黒幕なのはこれで確定した。
「レオン―、なんでそんなに驚いてるの?」
「とても偉い人が黒幕だったからよ、エリス」
「そうなんだぁ」
ただ、相手が人間の王族なら、こっちには精霊の王であるエリスとティータがいるわけだからな。俺たちの世界で偉いのは王女のほうかもしれないが、強さでいったら断然精霊王のほうだ。
とにかく、第二王女が黒幕だと判明したことで、大量の弓矢を放たれた件についても納得できた。色々と不明なのはその動機と、メンバーのリヴァンの能力、それにカードにもう一人記されているレーラとかいう人物くらいだ。特に最後のやつは連中の切り札みたいで、なんでいないのかも含めて謎が多い。
【堕天使の宴】についての悪い噂は結構耳にするし、このパーティーを作ったのが王女だと発覚したら、それこそとんでもない騒ぎになるだろう。
「その黒幕に伝えるんだ。このことを世間にバラされたくないなら、今夜の九時にギルドへ一人で来るようにと」
「「「了解っ……!」」」
ルディたちは挙って青い顔でうなずくと、時折こちらを振り返りつつ逃げるように立ち去っていった。
王国側ではあるとはいえ、比較的中立な冒険者ギルドで待ち合わせなら、よからぬことを考えたとしても実行するのは難しいだろうからな。証拠品のカードはこちらにあるわけだし、おそらく単体でやってくるだろう。
相手がこの国の第二王女だからって、恐れる必要はない。なんせこっちには相手の弱みだけでなく、精霊王までついているんだ。正々堂々と、やつらの今までの非道な行いについて断罪してやらないとな……っと、その前にもう一つのパーティーをなんとかしないと。
「「「……」」」
ファゼルたちの目は死んだ魚みたいになっていたはずだったが、若干こっちの顔色を窺うような素振りを見せてきた。
俺たちの力を思い知っただろうから心配がないように見えるが、基本的には抜け目のない連中だから、色々と話を聞かれているし対処しないといけない。それこそ俺たちより先に王女に接触するとか、そういう狡賢いことも考えそうだしな。
「レ、レオン、よかったら俺も協力するぜ……」
「う、うん、あたしも協力するっ」
「マールも、協力しちゃうよお」
こいつら、俺に断られるのがわかって言ってるな。この発言自体、悪意がまったくないとアピールするのが目的で、拒まれたら愛想笑いを浮かべながらギルドへと直行する腹積もりだろう。
「その前に、さっきのも含めて、今までのお礼をしなくちゃなぁ……」
「「「っ!?」」」
そのあと、俺は元所属パーティーの【天翔ける翼】を相手に、最初は手加減しつつ最後には死ぬほど暴れ回ってやった。
……ふう。これでもう、わだかまりはほぼ完全になくなったな。
というわけで、ファゼルたちの無残な死体を光の洞窟の外へ運んだあと、再生しつつティータにお願いして最近の記憶を無効化してやった。
「――あ、あれ、なんで俺たち、ここにいるんだ……?」
「な、なんなの、あたしたち、宿舎にいたはずじゃ?」
「変なのお……って、二人とも、その怪我……」
「「へっ……?」」
「…………」
どうやら、【堕天使の宴】にやられた記憶も消してしまったみたいだ。これじゃあ、折角心の傷も回復しつつあるところを台無しにしちゃったな。
まあいいか。呆然としている三人を尻目に、俺たちは再び洞窟へと入った。心配事はなくなったし、光の洞窟ダンジョンの最速攻略記録を目指すとしよう。
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