50.精霊術師、矢面に立つ
冒険者ギルドを出た俺たちは、その足で例の工房へと向かっていた。
「レオン、何か浮かない顔だねー」
「大丈夫? レオン……」
「……ん? 大丈夫だよ、エリス、ティータ。別に今は何も思い悩むことなんかないし――」
「――ソフィアのこと考えてたんでしょー」
「うっ……」
やはりエリスは鋭い。
「ダメでしょ、エリス。そんなこと言っちゃ」
「えー? ティータ、なんでー?」
「レオンは友人のソフィアのことを心配しているのよ。風邪を引いているからって」
「ふーん。じゃあ、わたしも風邪引いちゃうもんっ」
「おいおい……」
「そんなこと言っちゃダメよ、エリス。私だけじゃなく、レオンにもうつっちゃうわ……」
「そ、そうなんだぁ、ごめーん……」
俺の代わりに注意してくれたティータお姉さんは本当に頼りになる。
彼女はともかくとして、エリスに関しては風邪を引く心配はなさそうだな。バカにしてるとかじゃなくて、彼女の性格や能力を考えると風邪すらも翻弄しそうだ。
お……二人と色々会話しているうちに工房が見えてきたわけだが、何やら様子がおかしい。
この時間帯、大体外で俺たちのことを待ってるルコの姿が見当たらないし、普段とはなんとなく雰囲気が違うんだ。それに、妙に胸騒ぎがする。気のせいだろうか……?
「――お、あんたら、久々じゃねえか!」
「「あっ……」」
工房の入り口で声を上擦らせたのは、俺とエリスだった。中にいたのは、炎の鎧を作ってくれた鍛冶屋のオヤジだったからだ。
「このおじさん、誰なの……?」
ティータが警戒した様子で俺の後ろに隠れる。
「そっか、ティータは最初の頃にいなかったから知らないよな。この人はルコの親方のオヤジさんなんだよ」
「そうなのね。初めまして」
「おうっ、お嬢ちゃん、初めまして、わしはここの主でなあっ! しっかし、またしても可愛い子を増やしてるし、お兄さんは本当に隅に置けねえなあ……」
「ははっ……色々ありまして。それより、ルコはどうしたんですか?」
「あぁ……なんだか、あれからかなり張り切ったらしくて、ちょっと熱があるみたいでなあ。出張から帰ってきてから、まだ話もしとらん。わしの大事な一番弟子だし、今はゆっくり休んでもらっているところだ」
「なるほど……」
熱があるってことは風邪かな? ソフィアもそうだったし、最近流行してるんだろうか。俺たちも気をつけないとな……。
「というか、あいつの名前を知っとるということは、お兄さんたちが色々と精錬を頼んでくれたみたいだな。ルコはまだまだ粗いところがあるから、迷惑をかけてしまったかもしれんが……」
「いえいえ、彼女には世話になったので、本当に感謝してますよ」
「そうかそうか、それならいいが……ここへ来たのは、何か用事があるのだろう?」
「あ……はい、これで破壊と再生のペンダントを作ってもらいたくて……」
「……お、おおぉおっ!」
俺が素材を見せると、鍛冶師のオヤジが食いつくように見入ってきた。なんだかこういうところ、ルコとそっくりだな。もしかして親子なんだろうか?
「よしよし、ルコが世話になったみたいだから、タダで作ってやるぞ!」
「い、いいんですか……? お金ならあるし、ちゃんと払いますよ」
「いや、問題ない! サラマンダーの鱗に続いてこんな凄い素材を叩かせてもらえるのだからな。その代わり、これからもルコと仲良くしてやってくれ!」
「わ、わかりました。ところで、ルコは娘さんなんですか?」
「まあ、似たようなものだな。女房はいるが子供がいないわしにとって、あいつはわしの娘のような存在でなあ。あの子が都へ来てからはずっと家に居候させているというわけだ……」
「なるほど……」
一番弟子であり、義理の娘でもあるって感じだろうか。
お、早速オヤジによる精錬の作業が始まった。相変わらずの凄腕だ。ルコの技術も凄いが親方は最早別次元だな。
「ね、ティータ、どう? 綺麗でしょー」
「……そうね、見惚れちゃうわ……」
ティータに得意顔で火花を見せるエリスがなんとも微笑ましい。
「――ホイ、できたよ。これがアチアチの破壊と再生のペンダントね」
「「「おおぉっ……!」」」
さすが、都では右に出る者がいないとされる鍛冶屋のオヤジだ。叩き始めたと思ったらすぐに完成させちゃうんだからな。金もかからないし、上手い、早い、安いとはこのことだ。
「これの効果はわかってるとは思うが、自分で破壊したものなら、人間だろうとモンスターだろうと家だろうとなんでも再生できる優れモンだ! ちなみに、壊したあと10分以内に再生しなかったら二度と元には戻らないから、そこにだけ気を付けろ!」
「了解です」
「うんっ、わかったー!」
「よくわかったわ……」
さて、約束の時間まで余裕があるし、ルコの見舞いにでも行くかな――
「――レオンッ、なんか変なのー」
「……変? エリス、何が変なんだ?」
「なんかね、こっちにいっぱい人が来てるー」
「そうね、エリスの言う通りだわ。しかも、なんだかよくないことを考えてるみたい……」
「よくないこと……?」
ま、まさか、それって、つまり……? そういえば、闇の精霊がさっきからちょくちょく姿を見せ始めている。これは、何者かの陰謀を表すものだ。
「ん? お兄さん、そんな顔してどうしたんだい? まさか、ペンダントに傷でもついてたか――?」
「――オヤジさん、今すぐ伏せてくださいっ!」
「っ!?」
鍛冶屋のオヤジが伏せた直後だった。周囲から、視界を埋め尽くすほどの矢が降り注いできたのだ。
もちろん、俺たちはオヤジを庇うようにして立ち、矢を受けることに。もちろん、無の精霊の恩恵である物理耐性のおかげでチクっとした痛みが走る程度だ。
それにしても、未だに降りやまない膨大な量の矢といい、かなり遠くから放っているとは思えない精度といい、相当な手練れの集団であることが窺える。
「な、なんだか気分わるー」
「矢じりに毒がついてたみたいだから、私が無効化しといたわ……」
「…………」
この念の入れよう、間違いなく【堕天使の宴】パーティーが絡んでいるな。正々堂々と勝負するというのは真っ赤な嘘で、やつらは最初から奇襲を仕掛けるつもりでいたんだ。
「い、い、今のは一体……?」
鍛冶屋のオヤジは無事だったが、かなり衝撃を受けた様子で呆然としている。無関係の人間も平然と巻き添えにしようとするとは……。
ただ、あれだけの数の弓兵を雇えるんだし、下手に手を出せばこっちが火傷するくらい、黒幕は尋常じゃない人物のはずだ。それでも、やつらに制裁を加えたいという気持ちは、俺の中でより一層強くなっていた。
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