49.精霊術師、伝え聞く


「おめでとうございます、冒険者様。これが報酬の銀貨8枚、銅貨50枚で、前例に倣ってB級昇格となります」


「ど、どうもありがとう」


「ありがとー」


「ありがたく頂戴するわね」


 冒険者ギルドにて、俺たちはめでたくCランクの依頼の報酬を受け取るとともにB級まで上がった。


 炎の鎧を一つ売却したので、現在の所持金はこれまで使った分を引いても、金貨10枚、銀貨20枚、銅貨132枚だ。結構な小金持ちになった上、遂に上級パーティーにもなれたわけだが、手放しには喜べない状況だった。


 というのも、専属受付嬢のソフィアの姿がどこにもなかったのだ。一体どうしたんだろう?


「――あの、そこにいるお方は、レオンさんでいらっしゃいますねー?」


「あ、はい」


 カウンター付近でキョロキョロしていると、俺は眼鏡を掛けた受付嬢から声をかけられた。この人とは今まで話したことはないが、それだけ俺たちが有名になっているということだろう。


「ソフィアさんから、伝言と手紙を預かっておりますー」


「伝言と手紙……?」


「はいー。風邪を引いているようなので、うつしてしまわないためにも、一日だけお休みしますとのことでしたー。それとですねー、レオンさんに渡してほしいと、手紙を預けてきた方がいるとのことです」


「そういうことだったんですね。ソフィアさんには、どうかお大事にと伝えておいてください」


「はいー。では、この辺で失礼いたしますねー」


 精霊でも人間のように風邪を引くんだな。意外だった。やっぱりそこは精霊とはいえ、生身なのが大きいんだろうか? しかし、手紙って、まさかじゃないだろうな?


 俺は受付嬢から渡された手紙を早速読んでみることにした……って、エリスとティータがつま先立ちになって必死に俺の手元を覗き込もうとしていた。二人とも、目を輝かせていかにも興味津々といった様子。


「レオン、わたしにも読ませてー」


「私も読みたいわ、レオン……」


「エリス、ティータ、ちょっとの間だけ我慢してくれ。あとで俺が教えてやるから……」


「えーっ? 今見せてっ」


「はい……エリス、少しは待ちなさい」


「うー」


 お姉さんのティータが我儘な妹のエリスをたしなめてくれると助かるなあ。そういうわけで、俺は改めて手紙に目を通すことに。


「――こ、これは……」


「「っ!?」」


 俺の反応に対し、エリスとティータがいてもたってもいられない様子。


「レオン、何が書いてあったのー?」


「どんな内容なの、レオン……?」


「……これはな、果たし状だ」


「「果たし状――!?」」


「――しーっ……!」


「「……」」


 俺は自分の口に人差し指を当てると、周囲を窺った。ちらほらと怪訝そうにこっちの様子を窺うやつはいたものの、すぐに興味を失ったのか視線をほかのほうに移していた。


 俺たちが記録を作り続ける【名も無き者たち】なのは既にわかってるとは思うし、雲の上の出来事的な意味合いで、一般の冒険者にとっては興味の対象から外れつつあるのかもしれない。


 まあそれに関しては、ダンジョンの最速記録を打ち立てたいものの、目立とうとは考えてないこちらにしてみても好都合だった。もし仮に身辺調査でもされて、オリジナルの精霊を二人も連れていることがバレたらとんでもない騒ぎになりそうだしな。


 周りからの疑わしい視線を感じなくなったことで、俺は改めてエリスとティータのほうを見やった。


「【堕天使の宴】パーティーから、俺たちと正々堂々勝負がしたいってさ。約束の場所と日時も書いてある」


「そうなんだぁー、レオン、勝負するの?」


「それは、なんだか怪しい気がするわね、レオン……」


 対照的な反応を見せるエリスとティータ。もちろん、勝負するつもりではいるし、罠だろうとも思っている。だが、物理、精神に恒久的な耐性を持つ俺たちにとってみたら、それこそどんな裏があろうとも望むところだ。


「この勝負、受けてやろうじゃないか。そろそろお仕置きしてやらないとな」


「うんっ、わたしもお仕置きするー!」


「私も、お仕置きしてあげたい気分ね……」


 エリスとティータも目を怪しく光らせてやる気満々の様子。ただ、いくらそいつらに負ける気がしないとはいえ、油断は禁物だ。


 もしかしたら俺たちの知らないメンバーがいて、そいつが滅法強い可能性だってあるわけだからな。むしろそのほうが、屈強なならず者たちをあいつらがバラバラにできた件についても納得できる。


 とにかく、二度と妨害する気を起こさせなくさせる程度には痛めつけてやらないとな。そのためにも思いっ切り暴れ回りたいってことで、破壊と再生のペンダントを作ってもらうべく俺たちは例の工房へと向かうのだった。


 それがあれば、間違って殺してしまったとしても、それが自分たちの手によるものであればすぐに生き返らせることが可能なんだ。ただ、約束の日時が今日の夜だから、そこに間に合うかどうかだけが懸念材料だ。

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