43.精霊術師、翻弄される
「おめでとうございます、レオン様っ、報酬の銀貨6枚 銅貨50枚と、Cランク昇格ですよ!」
「「「おぉっ……!」」」
冒険者ギルドでは、専属受付嬢のソフィアによって、俺たちの報酬が手渡されるとともに昇格が言い渡されたところだった。
これで、俺たちの所持金は全部で銀貨12枚、銅貨114枚だ。食費や宿泊費、馬車等で銅貨が36枚消えたわけだが、まだまだこれだけの余裕がある。さらに、ティータの無の鎖があるから炎の鎧は一個だけでよくなったので、売れば金貨10枚分は確保できる。
ただ、ここへ戻ってきてからいいことばかりでもなく、周囲から異様なものを見るような目で見られていることも確かだった。この様子だと、自分らが破竹の勢いで新記録を作り続けているパーティー【名も無き者たち】だとバレてるのは確実っぽい。
なんせ、風の洞窟までわざわざ追いかけてきた上、置手紙で脅したやつがいるわけだし、この分だととっくに周りに言いふらしてそうだ。
それでも、いずれ明らかになるのは時間の問題だっただろうし、何より今はティータが加入して3人パーティーなので、以前よりも不自然さはかなり軽減されたはずだ。
「あの、レオン様、さきほどから不穏な視線を沢山注がれておりますが、大丈夫でしょうか……」
ソフィアが心配そうに俺の両手を握ってきて、それが原因で穏やかじゃない視線がさらに増してる気がする。
「だ、大丈夫ですよ。なんせティータがいるから、俺たちは平静さを維持できるので」
「なるほど、道理で落ち着かれているなって思いましたよ」
「……体が熱いわ。なんだか、照れるわね」
ティータのやつ、無表情なのに頬だけほんのりと赤いし可愛いもんだな。
「うー、レオンッ、ティータだけじゃなくてわたしも褒めて褒めてーっ!」
うーむ……急にそんなことを求められてもな。ただ、エリスが余程期待してるのかまっすぐ俺の目を見つめてくるので何か言ってやらないと……。
「そうだな……エリスの存在も俺にとっては心強いし、いてくれるだけで心が落ち着くよ」
「そうなんだー! 嬉しいっ!」
エリスが大喜びで抱き付いてきた。こんなことくらいで満足してくれるんだから可愛いもんだ。
「エリス……それ、レオンのお世辞……」
「ティータ、お世辞ってなあに?」
「ふふふ、エリスさん、それは知らないほうがいいですよ」
「えーっ! ソフィア、どうして? 知りたい知りたいっ。ねえねえ、お世辞ってどれくらい美味しいの!?」
「「「……」」」
そういやお腹空いてきたし、あとで鍛冶屋の子と一緒に食事にでもいくとしようか。
周りからこれでもかと注目される中、俺たちは気にせずにCランクの依頼を受けたのち、例の工房へと向かうことにした。あんな卑劣なことをやる連中に屈したくないし、なるべく堂々としていたいんだ。
「――あ、レオンの旦那っ、お待ちしておりやした!」
工房前では、ルコが目を輝かせて迎え入れてくれた。てかもう、待ち構えてたみたいだし、こっちの行動を予測されてるっぽい……。
「今度はこれで風刃の杖を作ってほしい」
「お、おおっ……おおおぉっ! 風を感じやすっ……!」
ルコが怪鳥の吐息に釘付けになってる。彼女はやはり鍛冶師だから、素材に恋をするようなタイプってことで今まで独り身だったんだろう。
「もう、大好きでありやす……」
「えっ?」
「へへっ、今のはどうかお気になさらずっ! 今回もタダではりきって作らせてもらいやすよ!」
「いやいや、さすがにタダは悪いから、今回はお金を出させてもらうよ」
「それでしたら、お金の代わりに、あっしが欲しいものを旦那に要求しちゃっても……?」
「ん、どういうこと?」
「そ、その……ちょっとお耳をお貸しくださいっ!」
「あ、あぁ」
そんなに公然と言い辛いものなんだろうか? 鍛冶師が欲しいものってなんなのか逆に気になるな。
「レオンの旦那の純情をいただきやすっ――!」
「――えっ……?」
とか言ってる間に頬に口づけされてしまった……。
「あ、あっしはこれで充分でありやす! でも旦那、純情そうな顔して、結構慣れてる感じでありやすねえ……」
「そ、それは、まあ……」
エリスと契約したばかりのとき、一方的にやられたしな……。
「あーっ! わたしもするっ!」
「私も……」
「お、おいおいっ……!」
俺はルコだけでなく、エリスとティータに立て続けにキスされることになった。
周りの精霊たちが挙って冷やかしてくるのがわかる。これじゃ純情どころかただの遊び人だねって。いやいや、俺は受け身だっていうのに、なんでそうなると思ったが、内心喜んでるのがバレちゃってるか……。
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