44.精霊術師、ゴーストを生む
「「ププッ……」」
「んんっ? エリス嬢、ティータ嬢、あっしの顔になんかついてやすか……?」
近くの飲食店で昼食を済ませた直後のことだった。ルコの口元が汚れていたので、エリスとティータはおかしくてたまらない様子。
ルコは普段、煤とかで服や顔が汚れてもあまり気にしないタイプっぽいし、こっそり指摘してやらないとな。
「ルコ、口元――」
「――はっ……!」
俺の小声に対し、ルコがはっとした顔で口元を拭うも、それでもあっけらかんとした様子で笑っていた。
「それじゃあ、おかげさんでたっぷりと腹ごしらえもできたんで、これからレオンの旦那の武器を作りに行きやす!」
「いや、ルコ、その前にちょっとやることがあるからついてきてほしい」
「へ……?」
ルコはきょとんとした顔になりつつも、席を立った俺たちのあとに続いた。
「――あ、あっしをゴーストメンバーに……!?」
「あぁ、そうだ」
冒険者ギルドにて、驚いた顔のルコの前で俺はうなずいてみせた。
ゴーストメンバーとは、予備としてのメンバーのことだ。ダンジョンや依頼を攻略する際、どういう構成で達成したかはギルドカードに逐一記録されるし、参加しない予備メンバーはカウントされないので成否判定にも影響を及ぼさない。
「あっしも旦那のパーティーに入ることができるなんて感激でありやす!」
ルコはとても感激した様子だが、俺が今回彼女をパーティーに入れた理由は、予備としてではなく保護するためなんだ。鉄壁の効果はパーティーメンバーにも適用されるため、俺と関係しているってことで彼女に危害が及ぶ可能性を考慮したってわけだ。
というのも、風の洞窟で脅迫状を置いていったやつらは、それだけ必死な割に何故か俺たちには直接手を下してこなかったし、その代わりに関係者に手を出すなんてこともありうると睨んだんだ。
「――それじゃ、今度こそ、あっしは工房のほうへ戻って風刃の杖を作りやす!」
「あぁ、頼んだよ」
「頼んだのー!」
「頼むわね」
鍛冶師ルコにとっての主戦場は、やはり鍛冶屋だからな。俺たちは彼女と手を振り合って別れたあと、例の杖ができるまで間が空くってことで、地の洞窟ダンジョンへ向かうことにした。
といっても今回はダンジョンの攻略が目的じゃなく、そこでの依頼を達成させるためでもない。
脅してきたやつらを放置するのは気持ち悪いので、ダンジョンの最速記録を作りに行く振りをして、そこまで誘き出してやろうと思ったんだ。このまま無視し続けた場合、下手したら俺たちが食事をした店までも荒らしに来る可能性すらあるしな。
そいつらはなんらかの理由があって今回も直接は手を出してこないだろうが、新しい記録を出させないよう、モンスターの大群を押し付ける等の間接的な妨害くらいはしてくるかもしれない。なので、脅してきた連中の尻尾を掴んで、二度と悪さができないように叩きのめしてやればいいんだ。
やがて地の洞窟ダンジョンの入り口前に到着すると、俺はエリスに自分の姿を消してもらい、念のためにティータに気配を消去してもらった。無の鎖によってエリスもティータも同じように消えるため、完全にゴーストパーティー状態だ。
さあ、あとは俺たちを脅してきたやつが来るのを待つだけだ。それが個人によるものか、パーティーなのかすらも未だにわからないが、もうすぐその正体が明らかになるだろう。
しかし、しばらく待っても全然来ない。もしや、勘付かれたんだろうか?
「「「――あっ……」」」
そう思い始めた矢先、まもなく一組のパーティーがやってくるのが見えた。
男三人、女一人の四人パーティーだ。ならず者たちをバラバラにしただけあって、どんなに狂暴な連中なのかと思いきや、意外と普通っぽいパーティーだったので驚く。
「「「「……」」」」
彼らは一様に警戒した表情で、入り口前で立ち止まって周囲をじっくりと見回したあと、互いにうなずき合って中へ入っていった。
俺たちを脅してきたのは本当に彼らなのか、もしかしたら人違いなんじゃないかと疑問に思うも、こっちが洞窟へ着いたあとに最初に来たパーティーってことで、タイミング的には犯人の可能性が高い。
そういうわけで、少し間を空けてから慎重にあとを追うことにした。
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