35.精霊術師、葛藤を覚える
「…………」
「レオン、大丈夫ー?」
「……大丈夫なの、レオン……?」
「あ……」
俺は気が付けば、二人の美少女に顔を覗き込まれていた。
「だ、大丈夫だよ、エリス、ティータ。ちょっと考え事をしてただけだから」
「そうなんだぁー」
「……なるほど……」
この二人は顔がそっくりなのに対照的な反応を見せるので、俺はたまに噴き出しそうになってしまう。そんな彼女たちを連れて鍛冶屋へと向かっていたわけだが、いつの間にか考えすぎてしまっていたようだ。
というのも、ソフィアからとある人物――ドルファンについて聞かされたからだ。
あいつは最近、何故か単独でウロウロしていて、さらに怪しい行動が目立ってるみたいで、つい先日冒険者の中でもゴロツキに近いような連中とつるんでいたそうだ。
ドルファンは色んなパーティーを渡り歩く一方、前回所属したパーティーの中には突然失踪した者たちも少なくないとか。
ソフィアの見解によれば、【天翔ける翼】パーティーから疑いの目を向けられ始めたことで、自身の悪行がバレないように始末しようとしているのではないかということだった。
俺がいなくなったことで鉄壁パーティーではなくなっただろうし、ドルファンの白魔術が関係ないことがファゼルたちにバレたらただじゃ済まないだろうから、それは充分にありうる話だった。
つまり、ドルファンの企みによって口封じも兼ねてファゼルたちが始末されるかもしれないってことだが、俺はもうまったく関係ないと思う気持ちがある一方、元パーティーってことで若干気になっていたんだ。
追放されたことで恨みがあるとはいえ、殺されるほどのことを彼らがしたわけではないからな。ただ、だからってあそこまで見下してきたやつらを助けるのもなあ……って、もう例の工房が見えてきた。これについてどうするかは、結論をもう少し先延ばしにしよう。
「――お待ちしておりやしたっ!」
入り口前に鍛冶師のルコが立っていて、俺たちの姿を見つけるなり駆けつけてきた。
「これが孤高の指輪でありやす!」
「おぉ、これが……」
ルコの両手に乗っていたのは、少し青みがかった銀色の指輪だった。装着してみると、素早さが目に見えて上がるのがわかる。速度だけなら炎の鎧の身体能力向上よりも普通に上だ。さらに効果が重複する上、風耐性も上がるんだから笑いが止まらないな。
「凄いな……って、そうだ、お金を払わないとな」
いかんいかん、俺は自分だけ喜んでしまっていた。優れた装備を作ってくれたんだから対価を払わないと。
「……タダでも構わねえですよ!」
「えっ……?」
「親方と違って時間かかりやしたし、それに……」
「それに……?」
なんだ? ルコが照れ臭そうにもじもじしてるんだが……。
「こんな凄いものを作らせてもらって、感謝しかねえです!」
「でもなあ、この前、オヤジに炎の鎧を作ってもらったときもタダ同然だったし……」
あれは貴重な鱗を二枚渡せたからまだよかったが、今回は完全にタダなので良心が傷む。
「ど、どうしてもっていうなら、今度お食事にでも行きやしょう!」
「え、えぇっ……?」
これって、デートってことか? なんとも意外なことを言う子だな……。
「もー、レオンがまたモテてる。わたしのものなのにっ」
「……エリス、ダメ。それは独占っていうのよ……」
「ティータだってそのつもりでしょー?」
「……うん」
「やっぱり!」
エリスとティータが揉め始めたところで、ルコがニヤリと笑ってみせた。これは、まさか……。
「にひひっ。エリス嬢に加え、ティータ嬢まで追加ということで、察するところレオンの旦那は、いわゆる遊び人でありやしょう? それなら、あっしにもチャンスはあると思いやして……」
「…………」
なるほど、エリスだけでなくティータを連れてきたことで、ルコにそういう風に思われてしまったか……。かといって二人とも俺が契約した
「しょ、食事くらいなら……」
「おおおぉっ、楽しみにお待ちしておりやすっ!」
「わたしもついていくもん!」
「じゃあ、私も……」
「へへへっ、その勝負、望むところでありやすっ!」
「…………」
一体なんの勝負をしてるんだか……っと、無理矢理でもいいからここで話題を変えないとな。
「あ……そういえば、孤高の指輪は一つしか無理だった?」
「それが……すいやせん。あの材料であっしの未熟な腕だと、一つしかできねえっすね。親方の腕なら二つくらいいけたかもしれやせんが……」
「なるほど……」
一つしかないとなると、俺しか装備できないんだよな。炎の鎧にしても、ティータの分はないし。これから風の洞窟へ向かおうと思っていただけに、三つは必要なんだが。
また取りに行くっていう手もあるとはいえ、確か同じレアを獲得するには、最低でも一カ月期間を置かないと精製されないらしい。
「レオン、その指輪に触れさせて……」
「ん、ティータ、これに興味があるのか? ほら、いつでも触っていいぞ」
「…………」
ティータが俺の人差し指にはめた孤高の指輪に触れてきたわけだが、そこで彼女の目から輝きがフッと消えた。な、なんだ……?
「……これでもう、大丈夫……」
「な、何が大丈夫なんだ?」
「何が大丈夫なのー?」
「何がでありやすか!?」
ルコを含めた俺たちの質問に対し、ティータがまもなく瞳に輝きを取り戻しつつ、重い口を開いた。
「いいことを思い出したの……。無の鎖っていう、古代の技……レオンにそれをつけたから、指輪の効果がパーティー全体に行き届くようになったわ……」
「「「っ!?」」」
ってことは、一つだけでもいいようになるってことか。これはあまりにも便利すぎるし、ティータの恐るべき能力の片鱗を垣間見た気がした……。
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