7.精霊術師、妬まれる
あれから俺とエリスは冒険者ギルドへと向かった。
彼女を冒険者として登録し、パーティーを組むためだ。オリジナルの精霊なだけあってそうしたこともできるのだ。
町に着く頃にはすっかり周囲は暗くなっていたが、地の精霊や光の精霊から力を借りることができたので迷うこともなかった。ずっとエリスにしがみつかれていたせいか、色んな属性の精霊たちに冷やかされて参ったが。
「――ここなのー?」
「あぁ、ここだよ」
「楽しみ!」
やがて笑顔の髑髏のフラッグを掲げたギルドに到着する。ここは昼間ほどじゃないが夜でも冒険者の出入りが絶えることはなく、中は相変わらず盛況だった。
「…………」
中に入って早々、みなぎるような熱い視線がこっちに集まってくるのを感じる。おそらくエリスが俺にしがみついてるから羨ましいんだろうな。精霊というだけあってソフィアにも全然負けてないくらいの美少女だし。
依頼用のファレリアの花については、エリスにプレゼントするってことで、まずカウンターで依頼の失敗報告をしたあと、係員にエリスについての書類を手数料とともに提出し、ギルドカードを受け取った。これで無事彼女は冒険者の仲間入りとなった。
「わーい、わーい! わたし、冒険者になったー!」
これくらいのことでピョンピョンとはしゃいで飛び回るエリスがなんとも可愛い。まさかこの子が無の上位精霊だとは誰も思うまい。まだ俺と同じFランクに過ぎないが、これから一緒に上げていけばいいんだ。
そうだ、まだ俺とエリスの二人しかいないものの、ついでにパーティーも作っておくか。
よし、できた。その名も【名も無き者たち】だ。雑用係すらもクビにされてしまった俺や、長い間ずっと一人ぼっちだったエリスのことを考えたらピッタリだと思ったんだ。ギルドカードにもしっかりと表示されていた。
このカードは自分たちの名前、年齢、性別、現在位置、所持金、パーティーメンバー、ランクだけじゃなく、攻略したダンジョンの種類やその達成した時間さえも記録できる優れモノなんだ。
「……あら、レオン様ではないですか」
「あっ……」
カウンターの奥から、書類を持ったソフィアが姿を見せたかと思うと笑顔で俺に近付いてきた。そのことで、俺に集まっていた棘のある視線がますます鋭利さを増していくのがわかる。痛い痛い。この状況は両手に花みたいなもんだろうしなあ。
「レオンー、この人だぁれ?」
「あ、あぁ、ギルドの受付嬢さんでソフィアっていうんだよ」
「ふーん……恋人ぉ?」
「「えっ……」」
俺はソフィアと顔を見合わせてお互いに下を向いてしまった。
「ち、違うよ」
「そ、そうですよ。あなたのほうこそレオン様のガールフレンドでは?」
「うん、そうだよ。わたしはエリスっていうの。レオンはねー、わたしの契約――」
「――あーあー! えっと、この子は新しい仲間なんです」
危ないところだった。もしエリスが無の精霊だとバレたらとんでもない騒ぎになりそうだ。ただでさえ周りから注目されてる状況なわけだしな。しかもオリジナルときたもんだ。
下位の精霊でさえオリジナルなんて伝承レベルで見かけたことすらないわけで、それが最上級の精霊だと発覚した場合、町を歩くたびに指を差される見世物的な存在になってしまうだろう。
「そ、そうなのですね。レオン様ならきっと新しい仲間もすぐ見つかると思っていました」
「正直諦めかけてましたけど、俺のことを認めてくれたソフィアさんのおかげみたいなもんですよ。さすが、熾天使と呼ばれるだけあるなって……」
「もう……照れるので熾天使だなんて言わないでくださいよ。レオン様のこと、悪魔って呼んじゃいますよ?」
「あはは……」
エリスもだが、ソフィアとの会話は本当に楽しい。天は二物を与えずというが、彼女は見た目だけじゃなく性格もいいからここまで慕われてるんだよな。
「エリスさん、でしたよね? レオン様はとってもいい人でしかも頑張り屋さんですから、よろしくお願いしますねっ」
「ふ、ふんだっ。そんなのわたしが一番よく知ってるもん……」
「……お、おい、エリス、急にどうした? 失礼だろ」
「ぶー」
エリスが頬を膨らませて俺の後ろにすっかり隠れてしまった。さっきまではしゃいでたのにこの変わり様。もしかして嫉妬しちゃったのかな? でも、なんだろう。ソフィアが今、エリスのほうを見てはっとした顔になったような。もしかして精霊だとバレた? 気のせいだろうか……。
「あ、あの、レオン様……」
「はい、ソフィアさん?」
「……あ、いえ、やっぱりなんでもないのです。では、仕事が残っておりますのでこの辺で……」
「りょ、了解……」
妙だな。ソフィアは今、何を言おうとしてたんだ? あの何かに酷く驚いたような顔……滅多に笑顔を崩さない人なのに珍しいこともあるもんだ。
エリスが無の精霊だとわかったけど、言えば騒動になると思ってやめたとかそんなんだろうか? 考えてもわかりそうにないし、勝手にそう判断させてもらうとしよう。
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