6.精霊術師、理解に苦しむ
「あ、あなたが無の精霊マクスウェルなのか……?」
「うん。わたしね、エリスっていうの。あなたは?」
「え、エリス……?」
「うん、そうだよー?」
あ、そっか、精霊たちにもちゃんと個人名があり、自分のことは自分で名付けることができるんだっけか。人間でいうとエリス=マクスウェルって感じなのかな。
「俺の名はレオン。無の精霊よ、あなたと契約を交わした者だ」
「え、ええ!? まさか、そ、そんな、わたしが人間さんと契約だなんて……! 嘘ぉ、信じられないよー……」
「…………」
この子が無の精霊なのはわかったが、やたらとあたふたしちゃってるな。そんなに意外だったのか……。
「わ、わたし、無知で無教養で、それでいて能天気だけれど、それでもよければ……!」
「は、ははっ。面白い精霊さんだ……」
普通、精霊っていう存在は幾つもの精神の集合体なだけあり、下位であっても人間の数百倍知能が高いといわれてるのに、ここまで無邪気な雰囲気の精霊、今まで見たことも聞いたこともないな。さすが、誰も契約できなかった無の精霊というだけあって、とにかく破天荒ってわけか。
「わっふぅー! 面白い精霊さんだなんて、わたし、褒められちゃったぁー!」
おまけにちょっと舌が縺れてる感じがあるのは、それだけ喋る機会がなかったからだろうな。優秀というより、鬼才のような雰囲気を漂わせる子だ。
「よろしく。俺のことはレオンって呼んでいいよ……うっ?」
無の精霊が急に大きな目を輝かせて近付いてきたと思ったら、がしっと両手で握手をされてしまった。
「よろしくなの! わたしのことはエリスって呼んでね、レオン!」
「あ、ああ……」
シャイなのかと思えば別人のように人懐っこいし、本当に掴みどころのない子だが、そもそも精霊は個性的な子が多いっていうし、これくらいで驚いてたらきりがない――って……。
俺は思わず自分の両手を見つめた。え、今……普通にこの子と握手したよな。精霊に直接触れられるなんて聞いてないぞ……?
「レオン、そんな顔してどうしたの? もしかして、具合悪いとかー!?」
無の精霊エリスに心配そうにおでこを触られた。やっぱり普通に接触できてる。
「んー、熱はないみたいだよ?」
「い、いや、なんで精霊と直接触れ合うことができるのかなって……」
「それは……多分、わたしがオリジナルだからかも?」
「オ、オリジナルだって……?」
「うんっ」
そういえば、精霊術師の中でも最も相性がいい精霊とは分身ではなくオリジナル(生身)と契約できるらしい。その場合、こうして普通に触れられるだけではなく、受けられる精霊の恩恵も極めて高くなるんだとか。それもあらゆる属性の精霊の中で最上級とされる無の精霊ってことは……。
いやー、凄すぎて想像もできないな。俺、一体どうなっちゃうんだ? 夢でも見てるんじゃないか。思えばソフィアが俺は必ず成功するとか言ってたし、それが早くも現実味を帯び始めた格好なのかもしれない。
「――わぁ、このお花、とってもきれぃ……」
「……あ……」
エリスが俺の持ってるファレリアの花をうっとりと眺めていた。
「欲しい?」
「うん、欲しいっ!」
「そっか……じゃあやるよ」
「わーいわーいっ! レオン、大好きっ!」
「ちょっ……」
ためらう様子もなく、がばっと抱き付かれてしまった。
「ちゅぅー……」
しかも背筋を伸ばしてキスまでしてきたし……って!
「お、おいおい、人懐っこいにもほどが――」
「――ねぇねぇ、見て見てーっ、レオン。これ、似合うー?」
エリスが頭に花を乗せると自慢げに見せつけてきた。飾るんじゃなくて頭の天辺に乗せるだけなんだな。行動がいちいち異質すぎて理解が追い付かない。
「レオン―?」
「あ、あぁ、似合ってるよ」
「やったー!」
「…………」
花を乗っけたままくるくる回ってるし、器用だなあ。あくまでも依頼をこなすために採取したものだしあげるつもりはなかったが、こんなに喜んでくれてるしいっか。依頼主も凄く高飛車な感じだったしな。
なんかエリスがいると、こうした荒廃した神殿でさえも明るい場所に見えて気分が晴れてくるし、永遠に枯れない花でも手にしたような気分になる。それに彼女と一緒なら、下級の依頼くらいであれば楽々とこなせそうだ。
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