第244話 どうしても諭す

 ソファの横に座っていると、なんとなく地震が起きたような感じがした。地響きが聞こえる。立ち上がって、窓の外を見てみたが、特に変わった様子はなかった。もっとも、地震は普通目には見えない。


 ルーシは目を覚まさなかった。彼は今は眠っているが、その表情に起きているときと違いがあるかと問われれば、答えるのは難しいだろう。本当に、目を閉じているくらいの違いしか分からない。


 ルーシはなぜ死んだのだろうか、と月夜は考える。もちろん、そんなことを考えても意味はない。意味がなくても考えてしまう。


 人の死について考えることは、人の生について考えることと対応している。どちらか一方を考えることはできない。すなわち、ルーシがどのように死んだかを考えるということは、彼がそれまでどのように生きてきたかを考えることと等しい。


 人はなぜ死ぬのだろうか。なぜ、次の生命を生み出さなくてはならないのか。


 死ぬのは怖い?


 感覚的には怖いと感じる。


 けれど、たぶん、自分の死は自分では認識できない。


 嫌だと感じる隙もない。


 感じたときには死んでいる。感じるのをやめるのと、感じられるのが同時に起こる。終わりと始まりが同時に存在する。生という状態の終わりは、死という状態の始まりを意味する。


 フィルはどこにもいなかった。たぶん、二階の自室にいる。フィルの自室ではない。彼に自室はない。この家そのものが彼の自室みたいなものだ。家には月夜とフィルしか住んでいないのに、どういうわけか月夜には自室がある。


 ルーシをここへ住まわせても良いのではないか、という気がした。以前もそんなふうにして、もう一人、少女と一緒に住んでいた。その少女はルンルンの手によって殺され、代わりに月夜が生き残った。


 やめろ、と言ったのに、ルンルンはなぜルーシを傷つけたのだろう?


 しかし、それは、文字通り、傷つけただけだ。完全に殺すことをしなかった。


 ルーシが抵抗したからだろうか。


 彼が自分の家の周辺にいた理由もよく分からない。何をしたいのだろうか。物の怪はいつも神出鬼没だ。小夜もそうだ。彼女は基本的には姿を現さないが、応用的には姿を現す。

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