第243話 どうしても返す

 ルーシを家の中へと運び込んだ。月夜一人では大変かと思われたが、彼の身体は想像以上に軽く、よって何の難もなく移動することができた。これが、彼が生身で空中を移動できる理由かもしれない。


 リビングのソファにルーシを寝かせ、怪我をしている箇所の処置をした。濡れたタオルで皮膚の裂けた部分を押さえ、流れ出る液体を拭い取る。それからガーゼを貼った。消毒をするべきか否か迷ったが、とりあえず今はしないでおくことにした。本来内側にあるものが外側へ出るのは良いことではない。また逆に、本来外側にあるものが内側へ入るのも良いことではない。これが、止血をし、消毒をする理由だ。


 一通り処置が終わっても、ルーシは意識を失ったままだった。自室から毛布を持ってきて、眠っている彼にかけておいた。それで効果があるか分からないが、気休めくらいにはなるだろう。もちろん、休まるのは月夜の気でしかない。ルーシの気がどうなるかは分からない。


「どうして、ルンルンの仕業だと断定できる?」


 処置がすべて終わってから、月夜はフィルに尋ねた。彼は、ルーシの傷を一目見ただけで、彼女の仕業だと判断した。


「傷口があまりにも大袈裟だったからな。俺の知っている中で、一番大袈裟なのは彼女だ」


「説明になっていないと思う」


「じゃあ、直感とでもいえばいいか」


「そちらの方が、まだ説得力がある」


 しかし、状況から判断して、ルーシを襲う動機があるのは、ルンルンのほかにいないといえそうだった。おそらく、彼女はルーシを追っていた。だから月夜とフィルのもとへ来た。そして、彼の足取りを掴み、二人よりも先にこちらへ来て攻撃した。もちろん、彼女以外にもそうした目的を持つ者がいないとは言い切れない。けれど、その可能性を考えると、現時点で有力な結論を導くことはできなくなる。


 小夜の仕業、ということも考えられる。彼女はルーシと一度応戦したことがある。しかし、彼女は基本的に山の中から出てこない。月夜が知っている限りでは、小夜が家の前まで来たことはない。


「これから、どうするんだ?」


 フィルに問われ、月夜は彼を見る。


「しばらく、看病する」


「そのあとは?」


「帰す」


「どこへ?」


「もといた所へ」


 月夜の返答を聞いて、フィルは笑った。


「それじゃあ、天国か地獄かな」


「眠っている内に帰した方がいいかな?」


「お前にそれができるならな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る