第23章

第221話 問い

 休日が明けて、平日がやって来た。


 リビングでご飯を食べていると、フィルがよたよたと部屋に入ってきた。どうやら、今になって起きてきたらしい。らしい、というのは、彼はときどき眠る振りをするので、今の今までそれをしていた可能性もある、ということを意味する。


「おはよう」箸を口の一歩手前まで持ってきたタイミングで、月夜は言った。


「やあ」フィルが応答する。


「眠っていたの?」


「どう思う?」


「たぶん」


「何が、たぶんなんだ?」


「たぶん、眠っていたのでは?」


「自分では確認できないからな」


「何が?」


「眠っていたか否かが」


 それがごく自然な流れだとでも言うように、フィルは座っている月夜の膝の上に乗った。月夜はご飯を食べているだけなので、それで邪魔になるということはない。


 フィルが欠伸をする。映画一本分ほどの壮大な欠伸に見えた。


「眠いの?」


「いや、別に」フィルは首を傾けて、手を舐める。「少々、眠いだけだ」


「頭が回っていないみたい」


「今、捻っているんだよ。同時にはできないだろう?」


「捻りつつ、その勢いのまま、回すことは可能では?」


「さっさとご飯を食べたらどうだ?」


 フィルに言われて、月夜は止まっていた手を動かす。


 今日はよく晴れていた。晴れすぎているといっても差し支えない。つまり、外は完全に真夏の様相だ。それに合わせて、月夜も真夏の服装をしていたが、それはいつものことなので、何も特別ではない。問題は、夏の間は、寒くても夏の服装をしなければならないという点だ。月夜が寒さを感じることはあまりなかったが。


 フィルは月夜の膝の上で丸くなる。なるほど、これがネコと呼ばれる所以か、と月夜は納得する。


「散歩へは行かないの?」


「お前が学校に行くときに、一緒に行く」


「学校に?」


「散歩に」


「私は行かない」


「学校に行くんだろう?」


「行く」


「退屈な一日の始まりだ」


「退屈な一生の場合、すでに毎日がその性質を受けている」


「退屈なのか?」


「うーん、どうかな」


 日々を退屈と感じたことはなかった。そもそも、毎日ファンタスティックな出来事が起こるはずがない。そういうふうに生きている者もいるらしいが、それは、きっとファンタスティックの意味が違うのだろう。


 ファンタスティックに生きたいだろうか?


 言い換えれば、ファンタスティックな死を望んでいるということになるだろうか?

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