第140話 二項対立
自分が学校に行っている間、ルゥラが何をしているのか月夜は知らない。色々と話は聞くが、具体的な行動内容について把握していない。彼女が嘘を吐いているという可能性もなくはない。ただ、嘘を吐く理由がルゥラにはない。
人を信じるのは案外難しい。信じるに至るには二つの経路がある。一つは、蓄積された情報をもとに、その人が嘘を吐く割合と真実を伝える割合を見出して、真実を伝える割合の方が大きい場合に、信じることにする場合。もう一つは、何の条件もなしにとにかく信じる場合だ。前者は論理的思考によるが、後者はそうではない。しかし、「信じる」という言葉が持つイメージとしては、後者の方に傾いているように思える。
月夜はルゥラと出会ってまだそれほど長くない。けれど、もう半分以上彼女を信じようとしている自分がいることに気がついていた。それはたぶん、あまり認めたくはないことだが、ルゥラが自分より幼い見た目をしているせいだ。つまり、信じてあげないと可愛そうだという心理がはたらいている。できるだけ批判的に判断しようとはしているが、明示的な姿に逆らうのは難しい。やはり、自分も動物だからだろう。本能的な判断に左右されるということだ。
「人を信じることも、疑うことも、しなければいいのにな」
隣を歩くフィルが呟く。彼は今朝は月夜と一緒に家を出て、これから散歩に行くところだった。
「頭の中ではできるけど、現実に反映するのは難しい」
「信用と疑念の二項対立か。では、二項ともとってしまえばいいんじゃないか? 中和されて、結局どちらもとらないのと同じになるのではないか?」
「それも、頭の中ではできるけど、現実に反映するのは難しい」
「まあ、そうだろうな」
「フィルは、日中ルゥラと一緒にいる時間は少ないの?」
「さあな。少ないかもしれないし、案外少なくないかもしれない。まあ、お前に比べたら多い方だろう」
それは、ゼロと比較しているから当たり前だ。
「ルゥラと遊んであげたら?」
「どうして、俺がそんなことをするんだ?」
「フィルしかいないから」
「学校を休んで、お前が遊んでやればいいじゃないか」
「たしかに」
坂道を下りきる。この辺りにはもうほとんど皿は落ちていない。
「まあ、気が向いたらな」フィルがぽつりと呟いた。
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