第13章

第121話 相互作用

 フィルとルゥラをリビングに残して、月夜は一人でウッドデッキに出た。別に理由はなかった。彼女が自分の行動に理由や意味を持たせることは、そうでない場合に比べて極端に少ない。


 家の傍にある山を見る。


 そこには、小夜が暮らす神社が建っている。


 ここからでは見えない。


 そして、正確には小夜はいつもそこにいるのではない。


 小夜という存在が、どのような存在なのか、月夜はいまいち理解していなかった。自分の知り合いであることに間違いはないが、どうして小夜が自分と知り合いなのか、その点について考えたことはなかった。


 自分の記憶に一部欠落している部分があるかもしれない、と考える。


 しかし、人間は基本的に忘れん坊だから、記憶に欠落が認められることなど当たり前だ。記憶が過去のものであればあるほど、それは無意識の中に刷り込まれていく、らしいが、意識で無意識を捉えられない以上、その真偽を確かめることはできない。


 どんなに科学的な説明でも、突き詰めていけば最終的にはそこに辿り着く。人間は主観から逃れることができないからだ。自分に見えているものと、相手に見えているものは、たぶんまったく同じではない。だから、それらが同じだと証明することはできないし、もしできると言ってしまえば、それは宗教に一歩近づくことになる。


 結局のところ、科学だけでは解決の道には至らない。


 かといって、そうではないものすべてが宗教かといえば、そうでもないように思える。


 人にはそれぞれ抱いている信念があるから、そういう意味では、それぞれがそれぞれの宗教を形作っている。けれど、それは当たり前のことだから、わざわざ取り立てて宗教だと言うのも違うように思える。宗教だと言うことが宗教かもしれない。


 小夜はどんな信念のもとに行動しているのだろう?


 一つ挙げられるのは、彼女は月夜に対して敏感に反応する。月夜のことを心配しているし、彼女の身の回りに危険が及びそうになると、それを事前に教えてくれる。


 その点では、フィルも、そして真昼も同じかもしれない。


 ルゥラはどうだろう?


 ルゥラだって、月夜に食事をとらせようとした。それは、誰かに何かを食べさせたいという、彼女自身の願望かもしれないが、その結果として得られるのは、相手が料理を食べて、生物学的に満たされることだ。つまり、自分のためにしたことが、結果的に相手のためになる。


 自分はどうだろう?


 誰かのためにはたらいているだろうか?

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