第122話 冗談という冗談を言う

 結局、ルゥラが作った料理は、その大半を彼女が自分で食べることになった。フィルも協力したみたいだが、ルゥラが食べた量の方が遙かに多い。量を程度づける表現は、多いだろうか、それとも大きいだろうかと月夜は考える。考えても仕方のないことだった。だから、仕方がない、仕方がないと自分に言い聞かせる。


「ごちそうさま」両手を勢い良く合わせて、ルゥラが言った。「美味しかったです」


 フィルはすでに眠りに就いている、ように見える。彼は月夜の傍にいる間は丸まっていることが多いから、彼女の中ではそれが彼のデフォルトとして登録されている。


「月夜にも、もっと食べてほしかった」ソファに座っている月夜に対して、ルゥラが真剣な眼差しを向けてくる。


「もう、食べられないと言った」月夜は応える。「私が食べられる量を用意してくれると、助かる」


「私は助からないもん」ルゥラはまた膨れっ面になる。総合的に見てフクロウのような表情だった。


「助かるとは、どういう意味だろう」


「私、フィルが気に入った。私の料理を食べてくれるから」


「そう」


「でも、月夜も気に入った」そう言って、ルゥラはにっこりと笑った。


「どうして?」


「なんとなく、好きだから」


 眠っているフィルを起こして、月夜は風呂に入ろうとしたが、先にルゥラを入れることになった。彼女が入りたいと言い出したからだ。しかし、三人で入るには少々狭いし、そもそも三人で入る必要はない。


 どうやら、物の怪も風呂には入るみたいだ。ここで、物の怪は風呂に入るのが好きみたいだ、といった推測をするのは間違いだ。フィルとルゥラの二人だけでは、サンプルとしての数が少ない。


 ルゥラのための衣服をどうにかしないといけない、と月夜は考えた。おそらく、彼女は今後もここにい続けるつもりだろう。幼い頃のものが残っていただろうか。


「小夜が動き出した」リビングで座って待っていると、唐突にフィルが呟いた。「素早い対処だな。彼女らしい」


「何をどう動くことにしたの?」


「皿を片付けることにしたみたいだ」


「片付ける? どうやって?」


「魔法で」


「魔法?」


 フィルはそれ以上何も言わない。彼は存在そのものが冗談みたいだから、言っていることも本当か冗談か分からない。しかし、それで良いと思われる。彼にとっては冗談も本当なのだろう。


「小夜は、あの山から出られないからな」フィルが言った。「サンタクロースに作業を委託したようだ」

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