第104話 割れるのが自然

 時間なので、学校に行かざるをえなかった。ルゥラが作った料理は、まだ半分ほど残っている。弁当箱に入れて持っていこうかなどと考えたが、食べられる自信がなかったので、月夜は置いていくことにした。


「帰ってきたら、きちんと食べてもらうからね」


 ルゥラは何が何でも月夜に料理を食べてもらいたいらしい。そう言ったときのルゥラの顔は、無邪気な子どものようで、事実として彼女は子どもだ。具体的な年齢は分からないが、少なくとも自分よりは年下だろうと月夜は推測した。外見から中身を判断するという、酷く原始的な処理の仕方だが、ほかに頼れる情報がないので仕方がない。


 玄関の外に出ると、眼前には平皿に埋め尽くされた道路が広がっていた。自宅の敷地内にも、何枚もの皿が散乱している。


 ルゥラは、家の中から出てきて、月夜に向かって手を振っていた。月夜が学校に行っている間、彼女はここを居場所とするようだ。自分以外に誰も使っていないので、いられること自体は問題なかったが、今まではどこにいたのだろうとか、これからどうするつもりなのだろうとか、この散らばった皿はどう片づけるのだろうとか、とにかく疑問は尽きなかった。


 けれど、今は学校に行くしかない。すべては生活の上に成り立っているからだ。

「その理屈は、概ね正しいが、どうも無理矢理な感があるな」


 フィルはルゥラと一緒に家にいるつもりはないようで、月夜と一緒に玄関の外に出た。たぶん、今日も散歩に行くのだろう。知らない人間(正確には人間ではない)を自宅に一人でいさせるというのは、少々心もとない気がしたので、彼にルゥラと留守番してもらっても良かったが、嫌だと言うだろうと思って、月夜は頼まないでおいた。


 皿に埋め尽くされた道路を歩くのは、大変だった。割れるものは、極力割りたくないと願うのが人の常だ。だから割れないように配慮して歩く必要があったが、配慮も何も、踏まないことには歩けないから、配慮しているふうを装う以外になかった。つまり、配慮になっていない。


 幾枚か、皿が割れる。


 しかし、割れることで安定する。


 割れないようにする方が難しいというのは、割れるのが自然であるということにほかならない。


「学校まで、こんなふうになっていたら、どうしよう」


 月夜の問に答える張本人はいなかった。


 もしかすると、さらに料理を増やしているかもしれない。

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