第80話 自然的判断の帰結

 ちょっとしたピクニック気分だった。どこへ出かけたわけでもないが、自宅の庭でバーベキューをする者もいるから、それに似ているといえば似ているかもしれない。


 風が少し冷たかった。でも、くしゃみが出るほどではない。


 フィルがご飯を食べる。


 月夜はその隣に座っている。


「何が一番美味しい?」


 なんとなく気になって、月夜は彼に尋ねた。


「魚かな」フィルが答える。


「そこにあるものの中では?」


「ハンバーグ」


 フィルは生きていないので、本当は何も食べる必要はない。けれど、彼は時として何かを食べる。食べることに喜びを感じているのかもしれない。月夜も食べれば美味しく感じるが、それを喜びと呼べるのかと考えると、いまいちぴんとこなかった。美味しくは感じるが、美味しいイコール喜びかは分からない。


「そういえば、昔、猫のハンバーグを出すレストランの話を読んだことがある」フィルが言った。「どこで読んだのかは覚えていないがな。大方、小夜にでも読んでもらったんだろう」


「猫って、食べると美味しいの?」


「前にもそんな話をしたな。美味しくないから食べないというのが、そのときの結論じゃなかったか?」


「そうだったかも」


「人間にとっては、気持ちの悪いものなんだろう。少なくとも、この国の人間にとってはな。それで、その物語の主人公も、猫のハンバーグだと知って、最後には吐き出すんじゃなかったかな。でも、それを知るまでは平気な顔をして食べていたんだ。おかしいだろう? 美味しければ何でも食べるわけじゃないんだ。食べられるものだから食べるというのが、事実に近いのかもしれない」


「食べられるというのは、ポテンシャルのこと、ではないよね?」


「wantさ」


「一度、食べてみるのもいいかも、とは思う」月夜は意見を述べた。「食わず嫌いという言葉があるくらいだから、食べてみないことには分からない」


「食べることが、罪になることもある。宗教ではよくある話だろう? 不思議だな。色々なものを食べるくせに、人間は食えるものと食えないものを区別しているんだ。もちろん、人間が人間を食うようなこともしない。物理的な意味合いでは、食えないわけじゃないさ。食うことがタブーだとされているんだ」


「どうして、タブー?」


「お前も人間なんだろう? 同じ人間に訊いてみたらどうだ?」


 自分の周囲に、そんなことを訊ける人間がいるだろうか、と月夜は思案した。今度、街行く人を捕まえて、インタビューをしてみるのも良いかもしれない。

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