時を越えた約束 

錆びたがらくたさん

第1話 プロローグ


 全てには始まりと終わりがある。けれど終わりとは同時にまた、始まりと言う意味でもある。だからこそこの今この時、彼の残した遺産はその両方の意味を得た。





 その日は何時もと変わらない何気ない一日のはずだった。

 空を見上げれば眩しく光る太陽と共に上空を巡回しているドラゴンライダーが引いた雲が真っすぐと空をキャンパスのように染め上げ人々の営みの音が聞こえる住宅街では笑顔は絶えず、一番の人口密集地たる都市部でも人々は何時ものように自身の目的地へと向かう。

 そんないつも道理の日常だったはずの今日が――――突如として変貌する。


 ―――GAAAAAAAッ!!


 突然の襲来。

 ドラゴンライダーが守るその広い空からソレはいくつもの焼き焦げた遺体と共に落ちて来た。黒い球体。それにはいくつもの異様に長い手や足が無数に生え耳障りな悲鳴にも似た轟音と共に殺戮と破壊を始めた。

 ビルは倒れ爆発し、人々は死に悲鳴と怒号が平和だったその世界に溢れ始めた。


 第一級特殊災害。


 そう呼ばれるそれは人間を襲う外敵、モンスターが繁殖期を終えて絶えて間なく攻めて来るパレードと呼ばれる現象と違い突然降ってきた一体の強力なモンスターに似た何かが全てを壊し蹂躪する。


 人々は絶望し、成す術も無く死ぬかにも思われた――――が、それは違う。


「私の縄張りでこんな振舞いするだなんて……いい度胸じゃないッ!」


 対抗出来ないと思われていた人間はそんな絶望的な相手であっても諦めず、対抗する術を用意していた。


「変身、コードブラット・プリンス」


 赤髪の彼女は腕を空高く掲げると身に着けて居る赤い腕輪が煌びやかに照らす。

 全身が光に包まれる特殊なエネルギーで構成されたプロテクターに置き換わっていく。


【ぶっらッと来たぜ、レッドでファイヤーッ!】


 陽気な電子音と共に光が収まると彼女の姿は変容していた。

 何処か機械的なプロテクターが全身を包み込み、しかし巫女服のようなデザインをしたプロテクター。背にはそんなデザインに似つかわしくもない大型のガトリングガンと大口径な大砲を装備する赤髪の彼女は先ほどの電子音にイライラを募らせながらガトリングをその外敵へと向けた。


「さて、お仕事の時間だ――――って、皆遅いじゃない!」

「申し訳ありません、ブラッド」


 複数人の人が振って来た。それぞれ違う獲物を手にし、赤髪と同じよう機械的なプロテクターへと身を包んだ彼らは彼女と違い全身をプロテクターで覆っていてプレートアーマーよう。そんな彼ら彼女らを引き連れて赤髪の彼女は奮闘する。

 ガトリングを撃ち出し黒玉操る異様に長い手足を押し止め、大口径の大砲でそれを一本一本捥ぎ取っていく。その間、他のプロテクターを纏っている人たちは逃げ惑う民間人たちを避難させる。戦闘はその間も継続され、戦いは壮絶さを増していく。


「ッチ、数が減らない」


 ―――だが、決着は一向に付かない。

 捥ぎ取った腕も次の瞬間にはその倍の数で復活、彼女らへ襲いかかって来た。 

 避難に動いていた彼、彼女らも応戦するが――――それも虚しく命を散らしていった。そんな姿を目撃した彼女は舌打ちし、悔しさを露わにしながらも攻撃を続ける……が、やがて彼女ではすべての攻撃に対応出来ず、裁けなくなって来る。段々と防御を突破して来た攻撃が増え、彼女の肉体を傷つけ生傷が増し血を流す。そして膝を付く事に―――


「ホントなんなのよ、コイツ」


 ―――それでも諦めない彼女の体は既にボロボロ、一目で既に動ける状態ではないと分かるぐらいに傷だらけの状態でありながら折れた大砲を杖替わりに、もう一方の手でガトリングを撃ち放ちながらその目に闘志を燃やし続ける。惨劇の広がるその場で彼女は倒れる事無く立ち続け、攻撃を続けるがそれも長くは持たないだろう。


「……アイツにお礼も言えずに死ぬのね―――最低な私にはお似合いの最後……か」


 ガトリングの弾薬が切れシリンダーの音のみが響くその瞬間、黒玉の行動が変わる。

 その大きさに不釣り合いな口が現れるとそれを大きく開け、光がそこへと集まっていった。


「ッチ、一気に辺り一面吹き飛ばすつもりかッ!」


 彼女は既に弾薬の切れたガトリングと杖替わりにしていた大砲を放棄すると、太腿に装備していた予備の武装を取り出す。ボロボロの二丁拳銃。先ほどまで装備していた物と比べ偉く年代物であるが確かな強さを感じるそれを、装備するとそれを向ける。


「……」


 その表情は死地へ向かう戦士よう。死ぬことを厭わない心を胸に彼女は走り出す――――事が出来なかった。


「―――紅四型回転式拳銃ブラットリーフォなんて懐かしい物、良く残っていたもんだ」


 黒いゼクター。

 彼女の目の前に現れたはゼクターを身に纏っている謎の人物は現れるや否や誰も知らないはずである切り札の名を知っていた。


「貴様一体……」

「それにそんなボロボロの状態でそれを使うだなんて自殺行為も良い所だぜ」

「―――!?」


 切り札の詳しい機能まで知っている。そんな事実に驚きが隠せない彼女であったがそんな事はお構いなしと彼は彼女の落とした武装を拾い構える。


「いつの時代でも基本は同じ、ベースまで同じなら問題なく使える。名付けるなそう――――多連装回転砲二型バルカン2及び五式多目的粉砕用多弾倉砲ゲイボルグ5ッ!」


 武装は光で包まれ、そして修復される。色は元の色から黒の混じった深みのある紅色へと変わり、一目みるだけで変わっているの分かる。そんな彼はその武装を持ち、強大な敵へと向かって行った。

 そしてこの時彼はこう考えた。


(やべぇ、昔片手間に作ったゴミ掃除機が進化しちまってるぜぇ)


 ―――っと。


 マスクで隠れた額には汗を浮かべ自身のやらかしてしまった事と何故このような事になったかを思い出す。そしてそれは彼の始まりでもありそれを語るには今の時代から約二万年前まで遡る事となる。



 ……――――あぁ、アイツらは今頃どうしているだろうかな?


「先生、今日もシブトク生きてますか?」

「―――生憎、そろそろ冥土へと向かいそうだよ」

「ッ!」


 俺を慕ってくれた弟子が普段俺へと憎まれ口を叩いている彼女らしくない表情で俺へと繫げられている生命維持装置を操作して俺を生かそうとしてるけど―――もう遅い。


「先生、安心てください。絶対に助けてみせますから!」


 もう遅いよユイ。

 あの装置は俺が作ったんだ、レットアラートを鳴らしている時点で俺の命が風前の灯火って事ぐらい分かる。だから俺は既に手遅れなんだよ。


「もう、やめなさい」


 忙しなく動く手を俺が止めてやると彼女は涙流すその瞳で俺へと振り向く。あちゃー、女の子を泣かすのはあの時で最後って誓っていたはずなのに泣かしちゃったなぁ。


「……先生」

「ユイ、時が来たんだよ……」


 涙は止まらず、そのまま無言で医療用ベッドで寝ている俺へと抱き着く。俺もホントは抱き返したかった。けど、そんな体力死にかけの俺には残っているはずもなく義手に置き換えた機械の右腕で彼女の頭を撫でるのみ。ホントごめんね、俺がこんなにひ弱で。


「行かないでください先生、私を――――ボクを1人にしないで……」


 ありゃありゃ、もうボクってのは卒業したと思ってたけど今出ちゃったかぁー……

 撫でるのを辞めず、俺はその問いに答えない。ってか、答える事が出来ない。だって、もう意識が朦朧としてきたからね。


「ご、めん、な」


 人生生きて33年。この世界に招かれて年17年。思い出せば色々とこの世界でやらかしたなぁ。

 始まりは高校のクラスごとこの異世界へと転移。その後は無能な王様に勇者としての素質が無いからと俺とアイツらだけ国から追い出されたっけ……ムカつくけど今思えば懐かしいな。


「先生死なないで」


 昔はどんな危機的状況でも6人で協力し、死ぬものかと必死で抗っていたのにいざ死をまじかにすると何とも安らかな気持ちになるものだね。

 アラームが鳴りやまず、俺の義眼に映る視界の片隅には生命維持装置がこれ以上俺を生かせ続ける事が出来ないとエラーを吐き続けている。でも、そろそろかな。

 義眼を通じ、アラームの機能を止めると俺はゆっくりと目を閉じた。

 もうお別れだ。あの可愛い弟子や親愛なる友、そして―――この憎たらしくも愛おしいこの世界とも。


「――――、――――」


 俺も俺自身が何を言ったかは分からない。けど、最後の力を振り絞ってまで無意識で言ったって事はどうしても伝えたい事だったんだな……


 そんな風に考えながら俺の人生は終わりを迎えたのだった―――――










 ―――――だった。












 ―――――うん、終わったと俺も思ってたんだよ。



「―――残念、何故か新しい人生始まっちゃってまぁーす!」

「何を言ってるんですか、このバカ兄様は」


 朝食で使った食器を洗いつつ、まるでゴミムシ以下の存在を見ているかのような冷酷な瞳でこちらを見つめる妹を前に俺は自然に地面へ座り深く、深ぁぁぁぁく頭を下げ、土下座するプライドを捨てるのであった。


 妹、コワイ。




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