第37話 部屋決めじゃんけん

「よし! じゃあみんなで部屋決めやるぞ!」


 俺たちは今から洋館にある六つの部屋のうち、どこを自分の部屋にするのかを決める段階にいた。

 入って右側の廊下にある三つの部屋は、一つはキッチン兼食事処。もう一つは風呂場。そしてもう一つはトイレ。


 なので左側の三つの中から決めなければならない。

 全ての部屋を見て回ったが、それぞれに特徴がありベッドだけは全ての部屋にあるようだった。


 一番奥は元々ゴルディンの部屋なのか、盗品らしきものがいっぱい置いてある部屋だ。不気味な人形や短剣に農具など、正直落ち着く部屋ではない。


 真ん中にはゴルディンにも妻が居たのだろう、女性が住んでいたであろう家具や花柄のシーツが設置されていた。


 手前は客室だろうか。一番まともな見た目で余計な装飾もなく、綺麗なベッドに小さな机、姿鏡と必要な物は全て揃っている。

 まぁこの中だと二択になることは容易に想像できるな。



「よし、じゃあいっせーのでで部屋を指差すぞ! 被ったらじゃんけんだ!」


「いいわよ! 被ったら承知しないんだから!」


「あの部屋だけは嫌です……!」


「あと京谷! 未来予知はダメだからね!」


「へいへい」


 やはり考えていることは同じの様だ。ゴルディンの部屋にだけはなりたくない。


「いくぞー! せーの!」





 俺たちは一斉に指を刺した。

 リリアは真ん中の部屋を選び、俺とカーヤは一番手前の客室を指差した。


「や、やりました~! 私は決まりです~! ふふん!」


「いやぁああああ! もうなんで被るのよ! ちょっと京谷、空気読みなさいよ!」


「俺だってあんな不気味な部屋は嫌だわ!」



「誰の部屋が不気味じゃとー!?」


「「あんただよ!」」


 盛り上がっているとゴルディンがどこからともなく姿を現した。

 俺とカーヤが同時にと、ゴルディンはしゅんとした様子で炎が小さくなった。


「そ、そこまで言わんでも……いいじゃろが……」


 ふらふらと部屋の角で拗ねるゴルディン。

 だが今はそんなおいぼれに構ってる暇はない。なぜなら、ここで俺が負ければあの不気味な部屋になってしまうからだ。それだけは避けないといけない。




「よし、じゃんけんだ……」


「い、いいわよ……ほんとに未来予知しちゃだめよ!? したらわかるんだからね!?」


「わかってらぁ。いくぞ! じゃーんけーん……」



――ポン!



 俺がチョキでカーヤはパー。俺の勝ちだ。


「はぁはぁ。俺の勝ちだ」


「ちょ、ちょっと! あんた未来予知使ったわね!? その息切れが何よりの証拠よ!! ノーカン、ノーカンよ!」


 カーヤは涙目になりながら俺を叩いてきた。

 まぁ確かに今のはちょっと可哀そうかもしれない。まぁ冗談ってやつだ。


「わ、わかったよ。冗談だって。もっかいいくぞ」



――ポン!



「うぎゃあああああ! まけたああああああ!」


「ふふん、ズルするからそうなるのよ」


 今度は俺がパーを出すと、カーヤにチョキを出された。

 今思い出したが、こいつは運気が120もあったはずだ。

 めちゃめちゃ不利じゃねぇか!



「あんな部屋でどう寝ろっていうんだよ!」


「お宝満載でウキウキじゃろが! 何ハズレみたいな言いぐさしとるんじゃあほたれ!」


「お宝どころかゴミ部屋じゃねぇか! ハズレだよハズレ!」


 ゴルディンは構ってもらえなくて再び炎をカッカさせながらこちらに来たが、俺がそう言うとまたシュンとした様子で隅っこに帰っていった。



「くそ、じゃあ部屋は奥が俺。真ん中がリリアで手前がカーヤな」


「文句ないわ!」


「うふふ、すみませんねぇ」


 俺以外の二人は上機嫌で部屋へと入っていった。

 くそ、なんで未来予知発動すると息切れするんだよ。こんなのバレバレじゃねぇか。

 まぁ初見だと通用するかもしれんが、何回も使ってると普通にバレそうだな。注意しよう。


 俺は無敵かと思っていたスキルの弱点が身に染みて感じるじゃんけんとなった。



  ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼



「ふぅ、ようやく落ち着いたな。これでもう宿屋に泊まらなくてもよくなるってわけか~。なんか最初とは大違いだな~」


 俺は不気味な盗品が周りに転がる中、ベッドに寝転がりながら俺がこの街に初めてやってきた時を思い出していた。なんだかんだ上手くいって美少女が二人も俺の仲間になり、なんとそれなりの家まで手に入れてしまったのだ。



「おっと、そういえばこの指輪ってなんか特別な力とかあんのかな? あんなに厳重に守ってたわけだし、なんかあるんじゃねぇの!?」


 俺はベッドから飛び起き、持っていた指輪をポケットから取り出して指にはめてみた。

 すると指輪についている緑色の宝石が煌々と輝きだし、しばらくすると光が収まった。


「な、なんだったのだ今のは!? もしかして伝説のスキルが手に入ってたり……」


 俺は慌ててステータス表を取り出す。

 なんとそこには、新しいスキル『交換エクスチェンジ』が習得可能になっていた。


「うっひょー! やっぱりそうだ! ゴルディンは盗賊だもんなぁ! きっとこれは何でも盗めるスキルに違いない……ただ交換ってところが謎だな」


 俺はベッドの上で一人舞い上がった。

 これがあれば何でも手に入るに違いない、そう思っていた。


「よし、さっそく使ってみるか……この部屋には都合よくお宝がいっぱいだからな。あそこの短剣とか盗ってみるか」


 俺は部屋の角の木箱の中に入っている綺麗な短剣に手を伸ばし、スキルを発動した。


交換エクスチェンジ!」


 すると俺の手が光り、木箱も光を帯び始めた。

 おぉ、これが強奪か……なんて便利なんだ……


 そう思ったのもつかの間。俺の手には俺が要求した短剣ではなく、横に同じく入っていた錆びたぼろい短剣だった。


「あ、あれ!? なんで!? 確かに俺あっちの短剣に意識を向けてたような……」


 俺はもう一度手を伸ばし、綺麗な短剣目掛けて意識をより集中させた。

 再び光が灯り、俺の手に一つの物体が手に入る。


「なんで鞘なんだよ! なんこれ!? 使いづら!」


 俺の手には剣を収納する鞘が収まっていた。そして代わりに短剣が、鞘があった場所と入れ替わっている。

 このスキルは高価なものは盗めないようだ。その証拠に、さっきからボロいガラクタしか強奪することが出来ない。そして交換するものがあれば自動的に入れ替わるようだ。


 俺の舞い上がった気持ちがどんどん沈んでいく中、俺は一つ面白いことを思いついた。



「そろそろみんな寝た頃合いだな……ちょっとスキルの試しついでに嫌がらせしに行くか」


 俺は二人に交換エクスチェンジでちょっかいをしにいこうと、部屋を忍び足で抜け出した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る