第36話 決め手
あれから特に作戦もないまま、三回戦が始まってしまった。
順番に牌を捨てていく中、俺は少し恐れながらもまだ見ていない『火』をポンすることにした。
「それポンだ!」
すると俺の椅子の下に赤い魔法陣が展開され、だんだんと椅子が熱くなってきた。
「お、おい嘘だろ……? どこまで熱くなっちまうんだ? 命に危険は無いのか!?」
「京谷さん! 大丈夫ですか!?」
「死んでも京谷の事は忘れないわ!」
俺はどこまで熱くなるのか額に汗を浮かべたが、ほどよい暖かさの所で魔法陣は消えた。
「血行が良くなるイベントじゃ」
「なんだよそれ! ビビッて損したわ!」
その後も俺たちは順番に牌を捨てていった。
「ふむ、最後じゃ。盛り上げるとするかの」
するとダンダリオンは光の牌をポンした。
麻雀卓全体を黄色い魔法陣が埋め尽くす。
「これでツモれば綺麗な演出が起こるでの。期待しておるぞ。まぁお前たちに勝ち目は無さそうじゃがの。おーっほっほ!」
「くそっ! 俺たちに勝機は無いのか……!」
高笑いするダンダリオンを横目にその後も静かに牌を引き、捨てる行為が数回行われた。
すると、カーヤが牌を引いて9つ並べると、並んでいる牌が光り出した。
「え、え? なにこれ! なんか光ってるんですけど!」
「な、なんじゃと!?」
すると9つの牌が自動で倒れ、『火の123』『火の111』『火の333』が揃っていた。
全て火の役で完成されていた牌は、とんでもなくすごい確率だ。
「カ、カーヤ! 凄いじゃないか! 上がってるぞ!」
「こ、これ勝ってるの……? ラッキー!」
「バ、バカな……! お前だけはわけのわからん事ばっかり考えておったからスルーしていたが、まさかここまでとは!?」
「カーヤちゃん凄いです!」
「え、えへへへ……」
そうか、カーヤはずっと何も考えていなかったから心を読まれずに済んだんだ。
もしかすると、カーヤは上がっていても全く気付かずにゲームを続行していたのかもしれない。
光のイベントによって強制的に演出が行われたことによって、カーヤが勝っていることが判明したのだ。
「この我が負けるとは! なんとも屈辱! ……しかし、楽しかったので良いとしよう。この指輪を持っていくがいい」
すると麻雀卓の真ん中が自動で開き、中には緑色の大きな宝石の着いた指輪があった。
「よ、よっしゃあああ!」
「あたしのおかげね!? 感謝してよね!」
「これでついにお家が手に入るんですねー!」
俺たちは指輪を手に入れると、そそくさとそのダンジョンを後にした
ダンダリオンはもう一度やりたそうにしていたが、心を読まれるというのはなんだか気持ちが悪い。
そのまま俺たちは洋館へと戻り、ゴーストのゴルディンへと指輪を渡しに行った。
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
「いやぁまた遅くなっちまったな。これでちゃんと家を明け渡してくれるといいんだけど」
ダンジョンからここへ戻る間に、また日が沈んでしまった。
俺たちは再び洋館の門を開け、扉を開けた。
「おーいゴルディン、戻ったぞ~」
俺が呼びかけると、また隅から青い炎が姿を現した。
「お、おぉ帰ったか! それで、どうじゃった!? 指輪はあったか!?」
「これで間違いないか?」
俺はポケットから緑色の宝石が付いた指輪をゴルディンに見せた。
「お、おぉこれじゃあ! まだちゃんと残っておったんか~! 安心したわい」
「じゃあこれで洋館を明け渡してくれるか?」
「あぁいいじゃろう」
「やったぁ!」
「ようやくお家が手に入りましたねー!」
俺の後ろで二人がハイタッチして喜んでいる。
ようやくこの長い家探しも終わりか。
「よし、じゃあわしは成仏するとするかの……ふん!」
ゴルディンは力を込め成仏しようとした。
「……ふん! ……あら?」
「どうした?」
「……成仏ってしようと思ってするもんでもないの。お前達と一緒にここで暮らすとするかの」
ゴルディンは自力で成仏できないことを悟ると、青い炎をゆらゆらとさせながらキッチンの方へと向かっていった。
「う、嘘だろ!?」
「オバケと一緒に住むなんて嫌ですー!!」
「もう怒ったわ! ほんとに調理用の火にしてやるんだから!」
カーヤは傍にあった板を手に取り、ゴルディンを追いかけまわし始めた。
「や、やめんか小娘! わしはなんもせんから!」
「うるさーい!」
俺とリリアはそんな様子を眺めながら、賑やかな洋館になったなと浸っていた。
「それはそうと、この指輪どうしよう」
ゴルディンは一度見たっきり、指輪の事には触れなかった。
というのも手もないので触れることなどできないのだが。
「とりあえず貰っちゃうか」
「京谷さんもドロボーですね?」
「違うわ! これは報酬としてもらっておくことにするのさ」
「うふふ」
カーヤが洋館中逃げ回っているゴルディンを追いかけるのを見守りながら、角にあった椅子に座ってそれを眺めていた。
シェアハウスももしかしたら悪くないのかもしれないと思う俺であった。
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