第35話 読心術

 俺たちはダンジョンの最深部でダンダリオンと属性マージャンのギャンブルをスタートした。


 ガシャガシャと牌の山が形成され、俺たちは順番に8つの牌を取った。

 全ての牌が配り終え、ダンダリオンから時計回りに京谷、カーヤ、リリアの順で行われることとなった。


「よし、我からじゃな。ほれ」


 ダンダリオンは『水の3』の牌を捨て、新しい牌を一つ引いた。

 次は俺の番だ。



――――――


『京谷の持ち牌』

炎の22 水の3 土の1 光の13 闇の33


――――――



(まずは炎の2と闇の2か3、そして光の2が狙い目だな。積極的にポンしてさっさと上がってやるか)


「よし、じゃあ俺はこれを捨てる」


 持ち牌から今は必要なさそうな『土の1』を選択して捨てた。

 手に入ったのは『炎の1』。

 カーヤもリリア、ダンダリオン共に動きは無く、俺のターンは終わった。


「じゃああたしはこれね」


 カーヤが『風の2』を捨てるのを見ると、リリアが座ったまま指を刺し、声を発した。


「それ! ポンです!」


 リリアは作戦なのか、ひとまず『風の222』を揃えると右下に並べた。

 すると、並べた直後にリリアの椅子の下から緑色の魔法陣が出現し、下から突風が吹いた。



――ヒュゴオオオオオ!



「きゃあ! なにこれ!」



 リリアの服が風で捲れ上がると、それを見たダンダリオンは鼻息を荒くした。


「素晴らしい! 最高ね!」


「おい! どういうことだこれ!」


「おっと、言い忘れておったな。ポンすると揃えた属性に応じて魔法陣が展開され、ささやかなイベントが起こる」


「そういうことは最初に言え!」


 ダンダリオンはとんでもなく重要なルールを隠してやがった。

 しかし、ささやかと言っているくらいだから命の危険は無さそうだ。


 リリアが『風の3』を捨てると、ダンダリオンはそれをポンした。

 右下に風の333を揃えると、下からから突風が吹き荒れた。


 ダンダリオンの薄い布切れが風になびく。



「おぉ、若い男の舐めるような視線を感じる」


「見てねぇわ!」


 この禍々しい雰囲気の場所でなんとも和やかな空気が流れていた。



(うかつにポンするのは危険か……? 風は特に問題なさそうだが、火は怖そうだ……)


 ダンダリオンは『闇の3』を捨てると、俺は迷いながらもポンした。



「それ頂き!」


 俺は『水の3』を捨て、『闇の333』を右下に揃えると俺の下に紫色の魔法陣が展開した。


「何が起こるんだ……」




――『京谷は、昨晩テントの中で寝ているカーヤの鼻を葉っぱでくすぐり、嫌がらせをした』




 魔法陣は俺のやった過去をベラベラと話し始めた。


「……は?」


「ちょ、ちょっと京谷! そんなことしてたの!?」


「そんなことしてたんですか!?」


「な、なんでバラすんだおい!」


「ほほ、闇のイベントは過去の展開じゃ。いらんことをすればそれがバラされる。いやぁ愉快愉快」


 なんて悪趣味な魔法陣なんだ! 俺は二度と闇を揃えはしないと心に誓った。


 その後リリアは水をポンすると、テーブルからコップに入ったキンキンの水が提供された。


「あ、あのぉこれ飲んでもいいものでしょうか……?」


「ここの地下水は名水じゃ。冷たくて美味しいぞ」


 リリアはコップに入った水を一口飲むと、その冷たさに気持ちよさそうな顔をしていた。


 あれから何事もなく順番は二周し、その後カーヤは『火の3』を捨てた。

 


「ロンじゃ」



 ダンダリオンはカーヤの捨てた牌で勝利してしまった。

 ただの運勝負なのだろうかと俺が思っていると、ダンダリオンの口から衝撃の言葉が放たれた。



「いやぁお前たちは素直じゃのお。ず~っと自分の持ってる牌と欲しい牌を心で何回も復唱しよる。そんなに何回も言わんでも聞こえておるぞ」


 ダンダリオンは笑いながら不思議なことを言った。

 俺たちの牌が全てわかる? どういうことだ。


「な、なんでそんな事わかるんだ!」


「ほほ、若いのう。わしは読心術の使い手ダンダリオンじゃ。お前たちの考えていることなど簡単にわかる」


「そ、そんなのありかよ!」


「今まで思ってたこと読まれてたんですか!?」


「じゃああたしが考えてたマイホームを手に入れたらやりたいこと十選もバレてるってこと!?」


 一人だけ何か違うことを考えているようだったが、俺はこの読心術の使い手をどう攻略すればいいのか頭を悩ませた。


 この悩んでいることも、俺が何の牌を揃えようとしているかも全て筒抜けのこの状況で、俺はどうすれば勝てるのかを必死で考えた。



「さ、第二回戦といこうではないか」


 ダンダリオンは再びゲームをスタートし、俺たちの前に9つの牌が用意された。

 俺が見た持ち牌も、見た瞬間心で言ってしまう。その時点でダンダリオンには漏れてしまっているのだろう。


 リリアは必死で目を点にして牌の事を考えないようにしているが、真面目なリリアに嘘を貫き通すというのは難しいだろう。

 




「ポ、ポンです!」


 あれから数周、リリアは土の属性を三つ揃えた。

 すると椅子の周りから土がむくむくと造形され、リリアの手を椅子にびったりと固定させてしまった。


「な、なんですかこれ! 動けません!」


「土は一回休みじゃ」


「すごろくじゃねぇんだからさ!? あとお前だけ全部しってんのズルくね!?」


「なぁに。そっちの方が楽しいじゃろうて」


 俺たちはこの属性マージャンを攻略する鍵を見つけられず、二回戦もダンダリオンの勝利で終わってしまった。

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