第33話 初めてのダンジョン

「――おぉ、もう朝か」


 テントから差し込む光に俺は目が覚めた。

 今日は封印された指輪を取りにダンジョンへ向かう日だ。

 リリアはいつも通り早起きで、カーヤはまだ寝ている。


「あ、京谷さんおはようございます。今日はいよいよ初めてのダンジョンですね! ワクワクしてきました!」


 そうはしゃぐリリアはまるで遠足前の小学生だ。


 俺はカーヤを叩き起こし、俺たちはこの洋館を手に入れるためにさっさと身支度を整え出発した。



  ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼



「ねぇ京谷~まだ着かないの~?」


 あれから俺たちはミラガライド王国を抜け、一時間ほど歩いていた。

 何気に最初以来の国外だ。

 道中には森があったり川を越えたりしたが、そこまで険しい道のりではないのだが、カーヤは疲労困憊の様子だ。


「しっかりしてくださいカーヤちゃん! きっともうすぐですよ」


 リリアは獣化して俺の肩にちょこんと乗っている。

 三十分ほど前に歩き疲れたと駄々をこねるのでしかたなく俺の肩に乗せているのだ。


「あんたはいいわよ! さっきから肩の上で座ってるだけなんだから! 京谷、あたしもおんぶしてよ」


「バカ言うな! ダンジョン行く前に瀕死状態なっちまうわ!」


 俺たちはぎゃーぎゃーと騒ぎながら歩いていると、目的地の場所へと近づいてきた。



「えーっと地図ではこのあたりのはずだが……」


 あたりを見渡すと、草原の中に不自然なと盛り上がった小さな丘のようなものがある。


「あの丘が入り口か? ちょっと回り込んでみるか」


 俺たちはその丘を迂回するようにグルリと回ると、反対側に石で出来た門が姿を現した。

 恐らくここがダンジョンの入り口だろう。

 門を三人でこじ開けると、目の前には下へと続く階段があった。



「うわ~ここを下っていくんですか? 真っ暗ですよ~?」


 リリアが言う通り、階段の下は全く光が無かった。

 壁には均等間隔で松明のようなものがあるが、火は灯っていない。


「そうだなぁ、ここまで来て引き返すのもあれだし、進んでみるか」



――ボウゥ



 俺が先頭で扉の中へと足を踏み入れたその時、壁に吊るされていた松明が入り口から順番に火が灯っていった。


「おわ! びっくりした! 設置魔法か何かか? 未来予知しとけばよかったぜ」


「こんなんでビビるなんて、京谷もまだまだね~。未来予知に頼り過ぎなんじゃない?」


 人感センサーのような松明に驚いた俺をスルーし、カーヤは手を頭の後ろで組み悠々と階段を下り始めた。


「くそ、今に見てろよ。こっからすげぇ仕掛けがあっても教えてやらんからな!」


「あたしなら初見で回避してみせるわよ~!」


 余裕そうなカーヤを筆頭に、少し距離を置いて俺とリリアは続いて階段を下りて行った。

 



  ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼




 あれから階段を三十段ほど降り、迷路のような古びたダンジョンをひたすら歩いていた。

 足場は悪く、砂利や岩があたりに散乱していた。


 危険があると勝手に知らせてくれる未来予知だったが、先が気になる俺はこまめに発動するようにしていた。正直かなり疲れる。


 俺とリリアはまだカーヤとは距離を取りつつ、後ろを歩いていた。

 カーヤは後ろを振り返らずに手を壁に着きながらズカズカと道を進んでいる。



――カラカラ……



「ッ!」


 すると俺は見えた三十秒後の未来に怪しげな気配を感じた。


 それを予知した俺はリリアの前に腕を出し歩くのを止めた。

 リリアは不思議そうな顔でこちらを見ている。


「ちょっと京谷~?リリア~? ちゃんと着いてきてる~? 足場悪いわね~ほんと」


(へへ、さっきの仕返しだ)


 俺がそう思った矢先、カーヤの目の前の曲がり角から片手に骨を持った動くガイコツが現れた。


 食パンを咥えた女子高生が曲がり角でぶつかるくらいの距離でガイコツを見たカーヤの顔はみるみる青くなり、杖を振り回し悲鳴を上げながらこちらへと走ってきた。


「ぎいいやぁぁぁぁぁぁ! 出たぁぁぁぁ! 助けて京谷リリアー!」


「はっはっは! さっきの仕返しだ! 驚いたか!」


「なんでもいいから助けて~!!!」


 俺とリリアはカーヤを追いかけるガイコツをなるべく引き付けると、エンチャントした短剣とリリアのブラストで瞬く間に砕け散った。



――ガシャァン! カラカラカラ……



「はぁ、はぁ。なんであんたたち着いてきてないのよ!」


「いやぁ驚かせたくってな。曲がり角からガイコツが出てくるのは予知済みだ」


「もう! 喧嘩はダメですよ!」


 リリアは俺たちが喧嘩をしていると思ったのか、手をバツの形にして仲裁をしてきた。

 だが俺たちのこれは喧嘩ではない。いつもの日常のやり取りなのだ。




 その後俺たちは出てくるガイコツやコウモリを倒しながら、一番奥深くまでやってきていた。

 そこには真ん中に赤い宝石が埋め込まれた厳重そうな大きな扉があった。


「結構歩いたが、ここが最深部か?」


「そうかもしれません、これ以外に道は無さそうですし」


「ならちゃっちゃと指輪取って帰りましょ! 早くふかふかの布団で寝たいわ~!」


 カーヤはもう帰って寝ることを考えていた。

 

 この扉の先に何があるのか俺は未来予知で確認しようとしたが、どうにもこの扉の先の映像が見えない。

 恐らく魔法の扉か何かだろう、厳重に封印されているように見えた。



「これ普通に開くのかな?」


 俺が扉に手をかけると、赤い宝石が輝きだして押すこともなく自動で扉が開いた。



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