第32話 庭キャンプ
あれから暗闇の中でテントを設営している俺たちは、幸いにも明るく輝く満月の光で作業を進めることが出来ていた。
しかしテントの設営なんてやったことが無い俺は、二人が楽しそうにやっているのを座って見ているだけだ。
「ちょっと京谷! あんたも手伝いなさいよ!」
「テントの設営なんてやったことが無いんだ! お前そういうの得意だろ」
カーヤは昔、教育でテントの設営も学んでいたのか手際よくペグを打ち固定している。
その手際の良さはまるで職人の様だった。
「ま、あたしにかかればすぐ出来上がりますけどね~! リリアちゃん、京谷は手伝ってくれないから外で寝てもらいましょうね」
「こ、こんな寒い中ですか……?」
「おい待て! そりゃないだろ! じゃあ俺も手伝うぞ!」
カーヤとリリアはたまに怖いことをいう。
リヴァイアサンの時だってあいつは本当に俺のことを喰おうとしたんだ。
なんとかリリアが口を聞いてくれて、俺たちが得た賞金でたんまり食べ物を買って持ってきてやると言って事無きを得たが、結局持って行っていない。
きっと今頃怒ってるだろうなぁ。明日の試合は荒れそうだ。
それから俺たちは和気あいあいとテントの設営に勤しんだ。
「やっと出来た~!」
あれから数十分かけ、俺たちはテントを完成させた。
かなり大きく、俺たち三人が寝るには十分すぎる大きさだ。
きっとここの館の主も、仲間と野宿をよくしていたのだろう。
所々に汚れという過去の思い出が刻まれていた。
「なかなか立派じゃないか! これだと全員足を伸ばして寝れそうだな」
「なにあんたも寝ようとしてるのよ」
「手伝ったんだからいいだろ!?」
――グゥゥ~……
俺とカーヤが言い合う横で、リリアの腹の虫が大絶叫を上げた。
確かに俺たちはリヴァイアサンの水上ロデオから飯を食べていないことに気が付いた。
「そういえば腹減ったな。なんか食い物が欲しい所だが、この辺りに店は無さそうだし……」
「お腹空きました~」
「そういえばここにキッチンがあったじゃない! きっとまだ食材が残ってたりするかも!」
そう言うや否や、カーヤは館の扉を力強く何度も叩き、ゴーストを呼んでいた。
「すいませ~ん! あたしたちお腹が空いてしまって、何か食べられるものはありませんか~?」
カーヤが問いかけると、また中でガチャガチャと音を立てながら右の部屋の窓が開いた。
「まだなんか用があるのか! 寝袋を用意してやっただけ感謝せいよ!」
窓から顔を出すゴーストの先端が赤く燃えながら反論する。
きっとあれは怒っている証拠だろうか。
「お願い! 今夜だけ! 今夜だけだから!」
カーヤは可愛くウインクして両手を合わせておねだりした。
こいつは喋らなければ、見た目だけはとてもかわいいのだ。
するとゴーストはまんざらでもない様子で部屋の奥へと姿を消した。
「……今夜だけじゃからな!」
すると窓から薪や鍋とそれなりの食料をドサドサと落としていった。
ここの家主はなんだかんだいって、面倒見がいいらしい。
「わ~こんなにいいんでしょうか?」
「用意してくれたんだもの! ありがたく頂くのが礼儀ってものよ!」
赤い野菜に黄色い芋、とりあえず野菜スープくらいは作れそうな食材だ。
「あ、火はどうしよう。リリアは獣化状態で炎魔法とか使えるのか?」
「いえ、私は風の魔法を主に使うので火はちょっと……」
俺は生活スキルの中に火を起こせるものが無いか探していると、カーヤが思い出したかのように立ち上がり、薪を手に取り窓の方へと歩いて行った。
「どうした?」
「いいことを思いついたわ! ゴーストちゃ~ん、出てらっしゃい!」
「今度はなんじゃあ!」
カーヤが窓に向かって呼ぶと、またゴーストが勢いよく窓を開け顔を出した。
もう窓の傍で待機しているんじゃないかっていうくらい素早い対応だ。
するとカーヤはゴーストに向かって薪を勢いよく振り下ろした。
「う、うわぁ! なんじゃ! やめろお!」
ゴーストの青い炎に炙られた薪はあっという間に火が付いた。
「京谷! 火が付いたわ!」
「お~なるほどな~」
自分の魂の火を利用され怒るゴーストを無視しながらカーヤは火のついた薪を使って焚火を起こした。
その後俺たちは無事食事も終え、三人仲良くテントの中で夜を明かすことに成功した。
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