第31話 館の主
「ったく、ようやく手に入れたマイホームだってのに、散々だな」
俺は洋館に意識を向けて、未来予知で何度か何者かがいるのかを探った。
だが俺の見る未来には人影一人映らず、ただただ一人でに食器や家具が動いている未来のみだ。
「もしかしてオバケでしょうか?」
「あのおっさん! これ分かってて売ったんじゃないでしょうね! 今度会ったら文句言ってやるわ!」
カーヤはあのおっさんが相当嫌いなのか、事あるごとに盾突いていた。
しかしこの肌寒い夜で野宿するのは気が進まない。
街に帰るにしても歩いて帰るにはそれなりに時間がかかってしまう。
俺たちはなんとか原因を探れないかと再び、洋館へと足を踏み入れた。
――ギィィィ……
「や、やっぱり挨拶って大事よね。おじゃましま~す! 今日からこの館の持ち主であるカーヤ・スカーレットで~す!」
持ち主は俺なのだが、今はそんな細かいことを気にしていられる場合ではなかった。
カーヤは明るい声で誰もいない洋館の中へと挨拶をする。
反応するものは当然なく、むなしく館の中に響いた。
「今度は大丈夫か?」
「やっぱり挨拶が大事だったのよ! 礼儀を忘れるところだったわ!」
――…テ…ケ……
「なんだ!? リリアなんか言ったか!?」
「い、言ってませんよ!」
このリビングのどこからか、かすかに声のようなものがした。
はっきりとは聞き取れなかったが、確かに聞こえた。
――デテイケ……
「や、やっぱり何かいます~!」
リリアは館を飛び出し庭で頭を抱えてうずくまってしまった。
俺とカーヤは声の正体が何なのか、恐怖心にかられながらその場にとどまった。
すると、部屋の隅から白いモヤのようなものがうっすらと姿を現し始めた。
だんだんその形がはっきりしてくると、それは一匹のゴーストだった。
青く燃える炎はまるで
「貴様らぁ! なんで出ていかんのじゃ! わざわざこんな風に驚かせてやってるっちゅーのに!」
完全にゴーストの姿がくっきりと表れると、それはいきなり元気に喋りだした。
「な、なぁにこれ? これがおばけの正体?」
「これとはなんじゃ! わしはこの館の持ち主じゃ! それを勝手に私が持ち主ですなど抜かしよって!」
ゴーストは手足がない代わりに体をくねくねと躍らせながら、何やら怒っていた。
この館の元々の持ち主だろうか。
姿が消えていたから俺の未来予知に映らなかったのかと俺は一人納得していた。
リリアは俺たちが話す声を聞くと、恐る恐る玄関の扉からこちらの様子を伺っている。
「この館、あなたのなの? もう死んでるんじゃないの?」
「あぁ。わしは20年前に確かに死んだ。それ以降この建物を買いに若い奴らがこぞってやってきよるから全員追い払ってやってたんじゃ」
なるほど、だから物件販売のおっさんは金だけ貰ってさっさと帰ったのか。
この物件がいわく付きだということを隠し、俺たちに紹介してきたわけだ。
「なるほどね~。でもこの物件はあたしたちが買ったの。あなたの意思なんて関係ないのよ!」
「なんじゃと~! ……まぁ別に譲ってもいいんじゃがの。わしには一つ心残りがあるんじゃ」
少し深刻そうに話すゴーストは、聞いてもいないのにその心残りとやらを話し出した。
「わしは昔、そこそこ腕の立つ盗賊での。その日も元気に盗みを働いておったんじゃ」
「堂々と何を言い出すんだこいつは」
いきなり犯罪自慢をしてくるゴーストに俺は驚いていた。
「わしはその日、大きな宝石のついた指輪を盗んだ。それはかなりの力を秘めておった。わしはそれをこの館に置いておくのは不用心だと思い、近くのダンジョンの奥深くに隠したんじゃ」
「うんうん、それで?」
カーヤはゴーストの話に興味津々になっている。
きっと訪問販売なんてものがこの世界にあったら間違いなくちょろい客リストに入るだろう。
「わしはそれを隠すことに成功して、この館へと戻ってきた。そして晩飯を作ろうと厨房に行ったときに、足を滑らせてフライパンに頭をぶつけてしまった。そして死んだ」
「話が急展開すぎるだろ! そんな死に方だと死んでも死に切れんわ!」
まるで嘘のような話に俺はツッコまずにはいられなかった。
カーヤは今のが笑いどころとは気づかず、とても真剣に聞いていた。
一方でリリアはいつの間にか俺たちの横で話を聞いていた。
俺は幽霊よりもこっちに少しびっくりした。
「わしはその指輪がまだきちんと保管されておるか気になって成仏できんのじゃよ……だからこうやってまだここにおるというわけじゃな」
「なるほどな~」
ゴーストは話し終わり、こちらの様子を伺っている。
だからといってどうすればいいのか俺にはわからなかった。
「じゃあ、あたしたちがその指輪を取ってくればいいんじゃない? それが見れれば成仏できるんでしょ?」
なるほど、カーヤは鋭い所を突いてきた。
普段はバカなのにこういう時は頼りになるのがカーヤの良いところだ。
「おぉ! わしはその指輪の安否さえ確認できればそれでいい。行ってくれるのか」
「そういうことなら任せとけ。ここは俺たちのマイホームだからな、絶対に取ってきてここを俺たちの家にするぜ」
「よし! なら賭けをしようじゃないか。お前たちが取ってこれたらこの家を明け渡そう。ただし、失敗したならお前たちの金品を置いてこの家から出て行ってもらうからな」
俺たちに少し不利な賭けだったが、ゴーストに俺たちが指輪を取ってきたらこの家を明け渡してくれるということを約束させると、そのダンジョンの場所を教えてくれた。
この洋館からさほど遠くは無い、地図によると二時間ほど歩いたところにあるところだった。
「じゃあとりあえず今日は夜も遅いし、ここに泊まらせてもらってもいいか?」
「ダメじゃ」
「なんでだよ!」
俺たちはゴーストに庭へと追い出されると、ガチャリと鍵を閉める音が聞こえた。
「おい! 俺たちどこで寝ればいいんだよ! もう夜も遅いんだぞ!」
俺がドアを叩きながらそう言うと、中でゴーストがガサガサと音を立てながら、右の部屋の窓が開いた。
「うるさい奴らじゃの~! これでもつこうとけ!」
するとゴーストは窓から人数分の寝袋とテントを放り投げてきた。
これでこの庭で一晩過ごせと言うことだろうか。
「結局野宿かよ!!!」
俺たちはこんな夜遅くにテントの設営を始めることになった。
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