第6話 ポーカー
俺がカモれそうな相手を物色していると、また後ろから声がかかった。
「よぉ兄ちゃん。ギャンブルの相手探しかい?」
声をかけてきた男はかなりの筋肉質だ。
最初にギャンブルを仕掛けてきた大男とそこまで違いがないようにみえる。この世界にはマッチョが多いのだろうか。
(話し方が同じなんだよ最初のやつと! って見た目も似たようなやつじゃねぇか! 違いがわからんわ!)
「あぁそうだ。俺とやってくれるのか?」
俺は脳内でツッコミを終えると、平然と答えた。
見たところ、こいつは酔っぱらっている。その証拠に、明らかに顔が赤く足取りが悪い。
「ようしならギャンブルだぁ! ひゃっはぁ!」
こいつならもしかしたら勝てるかもしれないなと思っていると、大男がグラスを持った右手を振り上げながら叫び、あたりに中身の飲み物が少し零れた。
「俺から一つ提案がある。ポーカーなんてどうだ?」
俺は自分が得意で勝機がありそうなポーカーを提案した。この世界にポーカーがあるのは先ほどのグループを見て把握済みだった。
未来予知の可能性も試したかった俺は、運勝負ではなくあえて実力も絡むものにしてみた。
「こっちから声をかけたからな。ルールはお前に任せるぜ~」
酔っ払い大男は俺の声がきちんと聞こえているのかどうかわからないが、受け入れてくれたようだった。
(よし来た。今は運気が最悪だからな。イカサマを使って勝たせてもらうぜ)
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
京谷の簡単ポーカー説明!
ポーカーのルールが分からないとこの先ちんぷんかんぷんになっちまうかも知らないから説明しておくぜ!
ポーカーは五枚のカードで組み合わせを使って戦うギャンブルだ。作中で出てくる役の強さだけでも覚えていってくれよな。
ブタ<ワン・ペア<スリーカード<フルハウス<ストレート・フラッシュ<ロイヤルストレートフラッシュ
の順番で強いぜ! じゃあまたな!
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
俺と酔っ払い大男はテーブルの席についた。
その男の下僕なのか、みすぼらしい格好の少女がゆっくりとカードを配る。表情はぼろ雑巾みたいなローブを被っているせいで見えづらい。ちなみに賭けているのは相変わらず一万円札だった。この世界ではなかなかに評判が良かった。そして賭けるものはなんでもいいらしい。
「俺にいいカードを配ってくれよ~?」
少女はおぼつかない手でカードをシャッフルし、それぞれの前にカードを五枚配った。配られたカードを見ると何一つマークも数字も揃っていない。俗にいうブタである。運気ってのはここまで重要なのかと身に染みて感じる手札だった。
「ところで、そこの少女は一体なんなんだ?」
「あぁこれか? 外でゴミを漁ってたから拾ってきたんだよ」
大男はぶっきらぼうにそう言った。
「さ、チェンジするか~?」
酔っ払いは、自分は手札を変える気はないですよ~と言わんばかりに五枚のカードをひらひらと顔の横で降っていた。
俺はハートの6を残し、残りのカードを綺麗に揃えてチェンジした。結果はワンペア、ダイヤの6を引いて二つそろっただけ。残りはダイヤの4・クローバーの8・Jだった。相手はニヤニヤしながらこちらの様子を伺っている。
「俺はチェンジしないでいくぜ~!」
ーーOPEN!!ーー
男は数字の77733でフルハウスだった。
(一発で引いたっていうのか!?こいつら運ばっかり上げてるんじゃないだろうな!)
「おおお? 俺っち運がいいねぇ!」
周りから歓声があがる。こいつも俺がステータス鑑定しているところを見ていたんだろう。運が低いことをいいことに声をかけてきたのかもしれない。
「もう一回だ。」
俺は大男にそう告げると、再びカードが配られる。今度はワンペアを引いた。今の俺のステータスからすると宝くじ3等に当たるくらいに運がいいんじゃないのか?
「じゃあ俺っちはぁ……二枚チェンジだな」
「俺は三枚チェンジだ」
俺は捨てるカードを綺麗に揃えて机の上に置いた。大男は乱暴に三枚のカードを投げ捨てていた。
そして捨てられたカードの枚数分が少女の手の中にある山札から配られる。
結果俺はワンペアから変わらず、男はスリーカードだった。
「お~また俺っちの勝ちか~。ちょっと手札が弱かったからドキドキしたぜ~?」
そこから俺は、あえて数戦負け続けた。
代り映えしない試合に男も飽き始めてきたらしい。
「おいおいまだやるのか~? 張り合いがなくて俺っちつまんねぇぞ~」
あくびをしながら手に持っていたカードを机の上にやまなりに放り投げながら、椅子を後ろの後ろに伸びをしながらもたれかかった。
周りも飽き始めたのか、最初ほどギャラリーは集まっていない。
「まぁみてなって。こっから逆転が始まるぜ」
俺は自信に満ち溢れた表情と声色でそう言った。
ディーラー役の少女が少し怪訝な表情を浮かべている。そこで俺はすかさず新たな条件を提案した。
「ここで一気にベットといかねぇか?」
「ほぉ、この状況で大博打とはお前、生粋のギャンブラーだな?」
「俺は身ぐるみの全てを賭ける。だからお前はそこの少女を賭けろ」
「少女を賭けろだ!? う~んまぁいいか。もう飽きてきたところだ。お前の全てを奪っておしまいにしてやる」
大男はこれ以上やるのは面倒だと思ったのか、すんなりと受け入れてくれた。もう少し粘られると思っていたのだが、これは好都合だった。
少女は呆気に取られながらも小さな手で再びカードを配り始めた。
五枚のカードを手に取り確認するが、相変わらず手札はブタ。現実と違って運気が収束するってものが存在しないのだろうか。
【京谷の手札:スペードのJ・ハートの4と5・ダイヤの3と9】
大男は汚い歯を見せながらニヤリと笑った。勝ちを確信したような顔だ。
「さ、俺は手札交換無しでいっちゃうぜ~? 身ぐるみ全て置いていく用意をするこったなぁ!!」
ーーOPEN!!ーー
大男:ハートの56789 ストレート・フラッシュ!
大男は立ち上がりながら思い切り五枚のカードをテーブルの上に叩きつけた。
そのカードの絵柄と数字を見て、少女はまた負けか……といった表情で顔を下げてしまった。
「…は?」
ポーカーで最強の役であるロイヤルストレートフラッシュが机の上に並び、勝ちを確信して立ち上がっていた大男と、
ギャラリーはドッと沸き上がった。さっきまで飽きていた人たちも何が起こったのかを見るために帰ってきた。
「悪いね。俺の勝ちだ」
俺はイカサマをした。この世界ではギャンブルをしている当人がイカサマを指摘しないといけないシステムで、ギャラリーが口を出すのはご法度らしい。一番最初に見たイカサマ野郎を見てそう悟った。
「うっそだろ!? お前の運気は1じゃなかったのか!?」
酔いが醒めた様子で大男はそう叫んだ。
(こいつ、やっぱり俺のステータス鑑定を覗き見してやがったか!)
そう、俺の手札はブタだった。だが俺はこの数戦で必要なカードを手元に残しておいたのだ。カードを綺麗に重ね少女に渡すことで、口頭では枚数を告げていたが交換した枚数をパッと見ではわからなくした。そしてロイヤルストレートフラッシュに必要なカードを手元に残しておき、この勝負で入れ替えたわけさ。ようやく五枚が揃ったぜ。
少女は山札の枚数が少し減っていることに気づいたようだが、わざわざ中止はしなかったようだ。
(それぞれの絵柄の10~Aを抜き続けりゃそら気づくわな。10枚以上も減っているんだ)
「悪いね。この少女は貰っていく」
「くっそぉぉぉぉぉ!!」
机に拳を叩きつけながらベソをかく大男を横目に、俺はギャンブル大会で優勝した時よりもかっこをつけながら、少女の手を引き酒場を後にした。
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