第2話 最後のギャンブル

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 見知らぬ男の後ろの黙ってついていくと、まるでスプーンで岩をくりぬいたかのような穴に入っていった。



「ここは?」


 洞窟だろうか。この街にこんなところがあったことを俺は知らない。壺やら剣やらいろんなものが置いてある。銃刀法違反じゃないのか?そんな真面目なことを考えている場合ではないか。


「勇気がある奴が来る場所さ。この大会で優勝者が出るたびに声をかけている。着いてきたのはお前が二人目だよ」


 そう言うとローブの奥で薄気味悪い笑い声が聞こえる。


(優勝者が出るたびにって、この大会は十年毎の開催だぞ!? 一体何歳なんだこいつは……若く見えるが若くないのか……?)


 相手の状態はギャンブルにおいて重要な判断材料だ。年齢を外してしまうなんて久々なことだった。


「そうか。それで、ここではどんなギャンブルが出来るっていうんだ?こんな狭い所じゃあテーブルギャンブル以外ないだろう。それともなんだ、そこの銃でロシアンルーレット的なものか?」


「まぁ焦りなさんな。よっこいしょ…これを出すのも久々だねぇ」



 男は棚からどえらい分厚い本を取り出した。かなりホコリが積もっていて、できれば触りたくもない。それを真ん中の丸型テーブルの上にそっと置き、とあるページを開いて何やら唱えだした。



「ブツブツ……」


 何やら本に向かって独り言を喋っている。彼が独り言を話していくと、本が薄紫色に輝きだした。



ブォン……!



 今度は黙り込んだかと思いきや、彼の後ろで魔法陣が展開され、洞窟の奥に真っ暗なゲートが開いた。奥に何があるのか確かめようと目を凝らすが、見れば見るほど吸い込まれそうな黒色しか見えなかった。


「もしお前が"命がけのギャンブル"を知りたいなら、この先に進むといい。だがこの扉に入ると死ぬかもしれないよ。どうする?」


 男はニヤニヤとした顔でこちらの様子を伺っている。これがお前のいうギャンブルか?えらく子供だましだ。


「舐めてるのか?俺は世界一のギャンブラーだ。この程度の事で賭けに出られなくてどうする!」


「威勢がいいねぇ……じゃあ、その扉をくぐる前に、ここに二枚のカードを用意した。どちらか好きな方を引いてごらん」


 そう言うと、男はポケットからカードを二枚取り出しテーブルの上に置いた。特に何の変哲もないカードだが、男の見た目に反してとてもきれいなカードだ。十年前と同じものかはわからないが、使われた形跡はない。


「ふむ……こっちだな」


 俺は深くは迷わず右のカードを引いた。俺はカードギャンブルの時はいつも深く悩まない。感覚の向いた方を選ぶのがルーティンだった。


 選んだカードにはドクロのマークが描かれていた。その様子を見た男は不敵な笑みを浮かべながら少し高めの声で嬉しそうにこう言った。


「死のマークだね。お前は向こうの世界で死ぬ、そう出てるよ」


「ふん、どうだか。」


「それでも進むというのなら、どうぞお好きに」


「構わないさ。俺はどこの世界でも一番になってやる」



 こうして俺は怖気づくことなく扉へと歩を進めた。正直なことをいうと今、胸が高鳴っている。こんな気持ちは久々だ。決勝戦ですら味わえなかった。命をかけるってのはこんなにも胸が高鳴るのか。

 いつものポーカーフェイスを崩し、少しニヤケ顔になりながらゲートに向かっていく。


 ゲートに片足を突っ込んだあたりで男の方から声が聞こえた。



「フフ…行ってらっしゃい」



 その言葉が最後まで聞こえることなく、俺の意識は途絶えた。



 こうしてこの世から京谷きょうやという人物は消え去った。そして新たな世界、ギャンブルが栄える異世界へと旅立ったのである。

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