番外台本/三人用【酔い晒し編】

こちらは、番外台本【さらし編】となります。


腐れ縁の男たちが年末年始に集まって酒を飲みながら、あーだこーだしている一幕をお楽しみください。


──────────


▶始めに

・台本の自作発言、作品の転載、登場キャラクターの性転換、台本の内容が壊れるような行為は禁止です。

・使用されるときは、不特定多数の目に入るところ(コメント欄やキャプションなど )に『台本タイトル』『作者名』の明記めいきをお願いします。


・そのほかの細かい お願い事は【台本利用上のお願い】のページ(▶https://kakuyomu.jp/works/16816700427787953461/episodes/16816700427788115278)を読んでください。


─────────


【比率】

男声2人:女声0人:不問(ナレ)1人の3人用 声劇台本になります。


【上演時間】

35分~40分程


──────────


〜ロングタイトルver.〜

▷不機嫌なお見合い相手は、腐れ縁の青年とほがらかに笑うみたいです。



〜ショートタイトルver.〜


不機嫌シリーズ/番外台本

さらし編】


──────────


【登場キャラクター】

風神かぜかみ まなぶ

▷25歳/国防陸軍の幹部士官(少尉)

▷五人兄弟の長男

▶真面目な性格で、弟たちに振り回されがち。

▶言葉づかいは、淡々としている。無表情がデフォで表情筋が怒りと喜びにしか機能しない。むっつりスケベ(←笑うとこ)

▶恋人関係になった【寒原かんばら 絢乃あやの】を心からいている



今地いまじ 澪留みおる

▷25歳/国防海軍の幹部士官(少尉)で艦艇かんてい乗り

▷三兄妹の長男

▶にこやかに笑う 話し上手なお兄さん★(長文セリフ多め)

▶普段は穏やかな口調で話す。まだまだ独り身を謳歌おうかしたい。おかにいるあいだは顔見知りの相手か、一夜限りを楽しんでいる。特殊な職種である国防軍人に理解ある女性が好み。

▶やっとこさ関係が進展した腐れ縁とそのお見合い相手を応援している。



N(ナレーション) 不問

長文バッチコイな人におすすめ✨

瀧月たきつきの作品にはなくてはならない語り役。皆勤賞。がんばれ。

(今回は風神 諭の弟(次男)のセリフもありますが、読む読まないはお好みでどうぞ。)



──────────

────────


──2077年の師走しわす


N:あと数時間で新年がやってくる大晦日おおみそかの夜。北関東のとある農村地域。

風神かぜかみ まなぶは、自室(は実家の主屋おもやから庭を通った先にある離れの二階建ての家屋かおくにある。)でひとり将棋しょうぎをしていた。



大晦日/夜の八時過ぎ



諭:心の声

《……ここをせば、こうなるか…》



N:パチンッ…、パチンッ…

駒を打ち付ける音が室内に響く。この部屋から離れた居間いまにはまなぶの弟たちが年末番組でも観ているのか、笑い声がこの部屋まで聞こえてくる。



諭:心の声

《年末になっても弟らは変わらんな。まあ、これが平穏というやつか。今年は実家に戻れてよかった……》



N:あと数時間で新年だが、帰省きせいできていることに有難ありがたみを感じるまなぶ。すると、足音が聞こえた。縁側の通路から急ぎ足でこの部屋へと近づいてきている。




諭:心の声

《この足音は……》




澪留:あ〜〜〜、寒いっ寒いっ



──障子の貼られた格子戸を開けて室内に入ってくる澪留みおる



諭:やはり、貴様か



澪留:やあ、マナブくん

おじゃましてるよ〜



諭:お疲れさん。

軍服ぐんふくということは、基地から直接 戻ったのか



澪留:そうよぉ、五日前に帰港してね。事務作業とかもろもろ片付けたし、その足で戻ってきたんだー



諭:実家に挨拶は?



澪留:もちろん、してきたよー。あ、これ手土産ね〜



諭:飲む気 満々だな。

度数高めの酒と、酒が進みそうなツマミか。貴様、朝帰りするつもりか?



──冬用の外套がいとうをいそいそと脱いでいる澪留みおる



澪留:さっき、ご挨拶したけどー

もみじさんから どうせ朝までいるなら ご飯 も食べてけばって言ってくれたよー?

あと、母ちゃんにもマナブくんの家に行くなら手土産持って行けって頼まれたくらいだし〜

あ、コタツだ! おじゃま〜



諭:私と貴様の仲だとしても、年末くらいは実家で過ごせばいいものを。

来てすぐにコタツか、貴様も相変わらず自由なやつだな?



澪留:あったけぇ〜…

このまま、寝れる……



諭:(ため息)寝正月か

澪留みおる軍服ソレから着替えなくていいのか? シワになるぞ



澪留:あー…出たくないけど、シワつくとアイロンがけに時間かかるし着替えるかぁ……

コタツって睡眠の魔物 ひそんでるよなー



N:澪留みおるは、いそいそとコタツから出て、部屋の押し入れを物色ぶっしょくする。




諭:何を探してる?



澪留:えー、なにかしら着替えようかと思ってねー

この押し入れじゃなかったけ?



諭:貴様が一昨年おととしれに置いていった服は反対側だ



澪留:あ、こっちに仕舞しまってくれたのか〜

あっれ?懐かしい〜w

一昨年おととしは※幹部校かんぶこうのジャージで過ごしてたっけw



(※幹部校かんぶこう

★幹部育成校の略称。防衛省 管轄の国防軍大学(四年制)を卒業したものが進学する。海軍は幹部士官としての上級知識を専門分野(たとえば艦艇 乗りは練習艦に乗って遠洋訓練などを主体で学ぶ。)に分かれて修学する。)



諭:(ため息)

……一昨年おととしは貴様がべろんべろんに酔っ払って着てた服を濡らしたから、仕方なくジャージで過ごしたんだろうが



澪留:マナブくん、よく覚えてんね〜



諭:貴様のせいで、私も着替えることになったからな



澪留:そんなこともあったな〜



N:澪留みおるは、へらへら と笑いながら軍服の上衣じょういを脱いで、ハンガーに通せば鴨居かもいへと引っ掛ける。彼がワイシャツを脱いだときまなぶおもむろに話しかけた。




諭:澪留みおる、傷増えてないか?

前は、胸にそんな傷なかっただろ



澪留:あー、これかー

うん、ちょっとだけヘマしてねー



諭:めずらしいな。いつもなら名誉の負傷とか言うのに



澪留:さすがに、この傷は名誉とは言えないかな〜



諭:……なにがあった?



澪留:うーん、まあ、マナブくん だからいっか

……あ、そのまえに着替えていい?



諭:ああ。構わん。風邪をひかれても困るからな



澪留:お言葉に甘えて〜



N:そう言い返せば、手早く軍服ぐんぷくを脱いで鴨居かもいにかける。それから押し入れにある備え付けのタンスから ラフな衣類 を取りだし、着替えた。




澪留:よかったー、着れた〜

サイズ変わってないや〜

(伸びをして)……さてと。お待たせー、お酒 飲みながら話そっか



諭:好きにすればいい。貴様が持ってきたものだしな



澪留:それもそうだね〜



N:澪留みおるは、自分が手土産として持参した紙袋から酒の瓶やツマミをコタツのテーブルへと並べていく。そのあいだに、打っていた将棋台しょうぎだいを片付けるまなぶ




澪留:片し終わったー?



諭:ああ。大丈夫だ



澪留:おっけー。

じゃあ……乾杯かんぱい

今年も一年、お疲れ様でした〜



諭:乾杯かんぱい。お疲れ様。

(飲む)……ん、なかなか 香りが豊かだな



澪留:でしょ〜

帰省するなら持っていけって、今回の航海こうかいで一緒だった海曹長かいそうちょうがくれたんだー



諭:そうか。

やはり、一人は居るよな。酒にやたらくわしい人



澪留:いるよね〜

お陰で、苦手だったにござけとか焼酎しょうちゅうが平気で飲めるようになっちゃったよー



諭:国防官こくぼうかんとしての洗礼だな。

うん?このツマミ缶、なかなか手に入れるのが難しいやつじゃないか



澪留:そうそう。

航海 期間中だったけど、サセボに寄ることがあってね

そこで保存食を売りにしてる お店で買ったんだ〜

営業日が不定期なんだけど、今回は運が良かったよ〜



諭:……うん、なるほどな。味付けもどこか懐かしい感じがするな



澪留:だよね〜

ワタシ、これ食べた時 ばあちゃんの手料理が食べたくなっちゃってさ。郷心さとごころっての?

帰りたいなーって思ったw



諭:思香子しかこさん はお元気か?



澪留:母ちゃんからの話を聞くかぎりは元気にやってるみたいよ〜



諭:そうか。思香子しかこさん、78だったか?



澪留:そうねー。次の誕生日で78歳かな。そろそろ、一緒に暮らさないか?って父ちゃんが話してるらしいけど

まだまだ現役だって拒んでるって〜



諭:まだまだ日舞にちぶ講師こうしを続けるとは、思香子しかこさん らしいな。

私の祖母も会いたいと言っていたし、いずれ、連れて行ってあげたいな



澪留:いいねー。休みが重なったら、一緒に行く?



諭:休みが重なればな



澪留:なかなか難しいもんな〜



諭:仕方ないさ。

貴様は艦艇かんていりだからな。

帰港きこうする頃には季節が変わってるなんてザラだろ?



澪留:そうなんだよ〜

今回は、けっこう長期の航海でさー

出港する頃は暑かったはずなのに、すっかり年の暮れじゃん? 帰港きこうしたとき、ビックリしちった。めちゃくちゃ寒いし、街中まちなかで見かける人が、みんな厚着だったからさ〜



諭:まあ、今年は11月の半ばでも暑さがぶり返したりしたからな



澪留:(おつまみ モグモグ)

……そう言えば、マナブくん。

11月初めの基地の一般公開日、暑くて辛かったんじゃない?

海上生活でもおかの天候くらい調べれば出てくるからね〜



諭:あー、いや。あいにくと今年は軍病院のベッドの上だったな



澪留:えっ、マナブくんが入院って どれだけ手酷い状態だったの?



諭:まあ、任務中に 少々 手こずってな。背中から腰を刺された



澪留:うわっ……、聞いただけで痛い話なんだけど



諭:まあ。入院レベルの怪我はしたが、生きてるしな



澪留:それはそうだけどさー



諭:そういう貴様は、あの胸の傷はどうした?



澪留:あー、そうね〜…



N:話をしながら、なかなかのハイペースで酒をついで飲むをしている二人。

酔いつぶれることは今のとこ無さそうだが、除夜の鐘が鳴る時間帯に意識があるかは分からない。

少し言いよどみながらも、澪留みおるは言葉をはっする。



澪留:怪我したのは、今年の春過ぎだよ。しばらく基地で内務班ないむはんとして過ごすことがあってさ。同僚二人と、部下三人。ワタシを含めると六人で昼食を外で食べようってことになったんだよ。

その時に着替えるのが億劫おっくうで迷彩服で出かけちゃってさ



諭:……襲われたのか



澪留:お、さすが マナブくん。物分りが早いね



諭:迷彩服で営外に出たって時点でだいたい察しがつく。

そんな事件があったなんて知らんぞ



澪留:まあ、情報規制だろうね。新隊員の教育 期間中でもあったし、テロだとしても相手は民間人だ。そんな相手に襲われるなんてトンデモナイ話でしょ?



諭:だからって、澪留みおるや他の隊員が一命を取りめたから良かったが。

情報規制とはどういう了見りょうけんだ!海軍の考えか?それとも、防衛省ぼうえいしょうか!



澪留:……言いたいことは分かるけど、仕方ないこともあるよ。いくらか昔より陸海空りくかいくうの仲が改善された現代でも。

すべては共有されないし、さすがにアケボノ所属のマナブくんにまで届いちゃったら大問題でしょ?



諭:私が中央のアケボノ所属じゃなかったら、情報が届いていたと?



澪留:どうだろう。

ヨコスカの陸軍りくぐん 駐屯地ちゅうとんちには話が届いてたみたいだけど。誰かしらが『殉職者じゅんしょくしゃが出てないなら騒ぐことじゃない』って言い出せば終わる話だからね。

……ほら、マナブくん。飲みな。



諭:(舌打ち、飲む)

……そもそも、ヨコスカはよその地区より国防軍こくぼうぐん厚意的こういてきだったろ?



澪留:そう。ワタシたちも そういう甘えみたいなのがあったんだよね。

あ、長くなるけど話していい?



諭:ここまで来たら聞きたくなるだろ



澪留:それもそっかw

……でね、堂々と迷彩服で街を歩いてた。目的のお店で呼び出し待ちしてるとき、部下の一人が列から離れた所で喫煙してたんだ。

……そしたら、急に銃声が聞こえた。異国の言葉で怒鳴られて、穏やかな昼過ぎが騒然となるし、周囲がまどう人で騒がしくなった。でも、なんか変だなって気づいた。

迷彩服を着てるワタシたちを狙っているのが理解できたんだ。一人、また一人とたれて倒れていったよ。



諭:……海軍は、陸軍とは違うからな。街中まちなかでの対応にうとくて当たり前だ。



澪留:それにしたってさ。

ワタシは、自分の無力さに打ちのめされたよ

全然、カラダが動かなかったし、目の前が真っ暗になった。けどね、実行犯の取り押さえにあたってた同僚が『今地いまじ!しっかりしろ!動け!!』と怒鳴ってくれて、我に返った。そのあとは近くに居た人と手分けして、たれた人の止血することに必死になった。



諭:……そうだったのか。

(酒を飲み、少し考える)

……それで、止血 作業に回っていた貴様が、なぜ、怪我したんだ?



澪留:そう、それがワタシのヘマに繋がるんだけどさ。

騒ぎを聞きつけた非番の隊員とか。

基地から出向いてくれた衛生隊員とかが後のことを対応してくれたんだけど。ワタシ、気を抜いちゃったんだよね。まだ、実行犯が残ってるかもしれない現場で



諭:……ああ、そういうことか。隙を見せたとこで、貴様もズドンッ…か



澪留:うん、大正解。

物陰に隠れてるヤツが居たみたいで、その気配や殺気に気づけないくらいに頭がいっぱいだったんだよね。

……まだ、たれたのが右胸だったのが不幸中の幸いだけど。運が悪ければ、大量出血も有り得たわけで……



諭:これこそ、『命があっての物種ものだね』だな



澪留:だよね〜

いやぁ、奇跡の積み重ねなんだなーってベッドで目を覚ましたとき、カミサマに感謝しちゃったよ。……めちゃくちゃ痛かったけど



諭:銃創じゅうそうは、刺し傷より痛いからな



澪留:経験者しか理解できないよね〜



諭:そうだな。

私も鎖骨と左肩に銃弾があたった時は生きてることを恨んだくらいだ



澪留:今でも痛む?



諭:時々な。天気が悪いと少しだけ皮ふが引きる感覚がする程度だ



澪留:そっか。……ワタシもそうなるのかな?



諭:まあ、キレイには治らんし、皮ふは隆起りゅうきするかもな



澪留:そっかぁ

まあ、これを教訓に何事も気を抜かずに行動するのを心がけるよ



諭:営内にいる限りは大丈夫だろう。だが、迷彩服や軍服で出歩くときは特に気をつけろ。

……にしても、貴様は幼い頃から何かしらのアクシデントに巻き込まれても無事だったことが多いからな。今回もそのテだろう



澪留:そうねー。

スピリチュアルぽく言うならワタシの寿命を『守護霊が見放す気がなかった』のかもね〜



諭:それもそうだな



N:そう答えたあとにまなぶは、グラスを片手に少しボーッとしていた。



(少し俯いて、深呼吸)

諭:……貴様が生きてて良かった



澪留:うん、本当にね。

私も、マナブくんが生きててよかったよ。こうやって お酒を飲みわせるのも【幸運キセキ】なわけだし



諭:そうだな。(少し笑う)

……澪留みおる、こっちの酒も飲んでみていいか?



澪留:どうぞ〜

遠慮せず、じゃんじゃん飲もうや〜!



N:しんみりとした空気になりかけたが、酒の力を借りることでやいのわいのと他愛のない話をした。



(間)



──大晦日/夜11時 過ぎ


N:かれこれ三時間 経過。

酒を飲みながらの談義は大いに盛り上がっていた。途中、まなぶの弟である次男のいつきも酒飲みに参戦した。そして、話題は酔っている時にしか話さないような内容になってきた。

まなぶは、顔色こそ変わっていないがかなりのお酒を飲んでいる。澪留みおるも、だいぶ酔いが回っており へらへらとしたゆるんだ表情でグラスをゆらゆらしながら話す。




澪留:でさぁ、出港前に飲み屋で見かけたがめちゃくちゃ好みの顔だったけど、異性と遊び慣れてる子でさ〜…なんか違ったんだよねー…



諭:貴様、あいかわらず貞淑ていしゅくな女性が好みなのか?



澪留:そりゃあ、周囲に人がいるのに場を気にせず色気を振りまくよりは控えめでしとやかながイイとは思うよー?



諭:だが、そのなにか違ったと断った相手をまずもって誘ったのは貴様だろうが。

なのに勝手に幻滅されたりして、相手からしたら迷惑な話だな。(ぐびっと飲む)

……ごのみしているが、帰港のたびに遊んでいると聞いたぞ



澪留:はぁ?んなことないし!ワタシは、こう見えて遊ぶ相手は選んでるからなぁ!?



諭:遊んでいることは否定せんのだな。

……そうやって後腐れなく 遊ぶだけ遊んでいるから 本命 をつくれずにフラフラしているんだろ



澪留:まだ、ワタシには早いって思ってるだけですぅ!艦艇かんていでの生活が楽しいからねっ!!

というか!そういう マナブくん だって激重げきおもな感情を抱いてるくせに、ヘッチャラな顔して付き合ってんでしょ!寒原かんばらさん と!



諭:……何を今さら。

私が執念しゅうねん深い男だってことは貴様が一番 分かっているだろ?

(眉をくっと上げ、鋭い視線を投げかける)



澪留:うわっ、ヤダヤダ。こんな重たい感情をぶつけられたら 寒原かんばらさん 逃げちゃうよ



諭:澪留みおる。たった一回会って、数時間 話しただけの貴様が 絢乃あやのさん を知った気になるな



澪留:ほーら、そうやって すぐくんだからさ

寒原かんばらさん が 遊び慣れてる人だったら マナブくん から逃げるのも時間の問題だな!



諭:アリもしないことを言うな、愚鈍ぐどんが。

それ以上、絢乃あやのさん に対して失礼なことを言ってみろ。首とカラダを斬り離してやる



澪留:けっ……、酔いが回ると 普段 以上 に口が悪いんだからさぁ!



(慈『それはお互い様だよ…』)



N:長男ズの言葉の投げつけ合いをちびちびと酒を飲みながら眺めている風神かぜかみの次男。──すると、急にまなぶが度数高めの焼酎しょうちゅうびんから直飲じかのみし、グビグビと飲んで一息つく頃には目がわっている状態で言葉を発した。




諭:……ああ、ならば教えてやろう。

愚鈍ぐどんな貴様に理解できるように、絢乃あやのさんの魅力をな!




澪留:おー、いいねぇ、それが聞きたかったんだよね〜



N:澪留みおるが拍手する。

まなぶのお見合い相手でもあり、恋人となった【寒原かんばら 絢乃あやの】を話題にあげたのは普段、ノロケないまなぶに色恋の進展を話させるためのあおり文句。

酔っていても策士さくし今地家いまじけの長男・澪留みおる

『ノロケを聞きながら年越しかなー…』と風神かぜかみの次男は遠い目をした。



(間)



諭:絢乃あやのさんは、育ちがいい女性だ。食事をするときのキレイな箸の使い方。会いに行けば、こちらを気遣ってくれる心の優しさ、それでいて、笑った顔やねた顔のなんて かわいらしいことかっ



澪留:うんうん、それで〜?



N:まなぶがここまでノロケに饒舌じょうぜつなのは酔っているからである。

しかも、まなぶはこんなに酔っても次の日に記憶があるタイプなので、酔いが抜けてから かなり後悔する。

それに反して澪留みおるは、酔うと陽気さに拍車がかかるが、酔いが抜けると記憶が飛んでいるタイプなので何を言ったのか、何をしでかしたのか ほとんど忘れる。これのせいで、遊んだ相手に平手打ちをされたことが何回かある。




諭:本当に理解しとるのかァ?

そもそもなッ、絢乃あやのさんはろくな交際経験がないかただ。

絢乃あやのさんの生家せいかのことや他にも懸念けねんする点があって 散々、心を折られる経験してきたからこそ、本気になれずにいた。

私は、すべてを理解したうえで絢乃あやのさんのご両親とも懇意こんいにさせてもらっているのだ!



(慈『ほぼ詐欺だよな。付き合ってる人の親御さんと仲良くすることで、逃げ道を塞ぐのって』)



N:そう堂々と語る長男に対して、次男があきれたのような口調で核心かくしんをついたのだ。



諭:いつきぃ、詐欺とはなんだ、詐欺とは。

私と家長殿かちょうどのが親しくなったのは、偶然だ。それが、上手くえんが繋がって 絢乃あやのさん と再会となっただけだ



澪留:お見合いの後に連絡先を着信拒否にされてたら、意味もなかっただろうし〜…



諭:まあ、それは幸運と言えるだろうな。絢乃あやのさんも私と会うことを嫌だとは一言も言ったことがないからな



澪留:寒原かんばらさん、あの押しの弱さならさ。

本当は、拒否れないだけじゃん? マナブくん、お見合いの席に帯刀たいとうしてくるような陸軍人だし。



諭:なんでそんな事まで知ってる?いや、あれは護身用だから模造刀もぞうとうだ。

……だが、その、今は怖がられていない。たぶん



澪留:模造刀だからって嫌でしょw

たぶんって、急に歯切れが悪いですなぁ〜?



諭:黙れっ、私は怖がられないように慎重しんちょうに過ごしているのだっ

今回だって、入院したと一報 いれたら 通話できない分、たくさん心配するメッセージをくれたからなっ

(飲む)……私の誕生日にもな!入院中で会えなかった分、メッセージカードを送ってきてくれた!



澪留:惚れられてる自信があるのか、ないのか分かんない発言〜



(慈『酔ってる兄さん、からかいがいのあるオモチャくらいしか思われてないね。みおるくんの悪い癖が出てるなー』)



N:やんや やんやと盛り上がる長男ズに遠い目をする風神かぜかみの次男。

酒をそそいで、飲む。飲んでは、語り、そそいでは飲む。そんな行為をひたすら繰り返して、澪留みおるがふとたずねた。




澪留:ところでさぁ、マナブくん

寒原かんばらさん とデートしたー?



諭:でぇと?してるぞ



澪留:おー、最近はどこ行ったの? あー、でも入院してたからクリスマスは一緒じゃなかったんだっけ?



諭:クリスマスは残留ざんりゅうだったから会えんかった



澪留:ありゃ、残念。残留ざんりゅうなら仕方ないね

……で、どこ行ったのー?



(不機嫌シリーズ 用語解説②

残留ざんりゅう。当直業務のこと。部隊員 同士の日程調整するうえで発生する休日を犠牲にした基地や駐屯地から外出できない日。特別手当が支給されるので、えて【残留】を希望する隊員もいる。)



諭:うん? でぇと は出かけることだろ?

それなら、奥方様おくがたさまに頼まれた 買い出し を絢乃あやのさんと行ったぞ

その前は、公園で日向ひなたにあたりながら会話したりだな



澪留:……マジで言ってる?



N:『この場合は、本気だろうね』とあきれ気味に缶チューハイを飲む風神かぜかみの次男。



諭:うん?なんか、変か?



澪留:いやいや、イヤイヤ。

ないわ。マーーージで、ない



諭:なんだ??



澪留:ちょっと待ってて



N:用意してあった酔い覚ましの水を廊下から取ってくる澪留みおる。外気でかなり冷えていて酔いが程よく飛びそうだ。



澪留:はい、マナブくんの分



諭:お、おう?



N:空いていたグラスに水をそそいで、それを一気飲みした澪留みおる。水を飲み干せば、ひと息 ついて酔いを無理やり飛ばした。



澪留:ぷはぁ……(グラスを置く)

(真面目な顔)マナブくん、そりゃないよ



諭:み、澪留みおる??



N:澪留みおるの態度の変化に困惑するまなぶ。肩をすくめて『みおるくんのスイッチ入れちゃったかー』と苦笑いをする風神かぜかみの次男。これから始まるであろうことを察した。



澪留:いいかい、マナブくん。

ワタシたちは国防官こくぼうかんだ。休みは不定期だし、外出をするにも申請して許可が必要。分かるよ? わかるけどさ。……寒原かんばらさんに甘えすぎんのはどうかと思う



諭:甘える?何がだ。なんで、貴様、そんな説教くさく……



澪留:いくらさ。マナブくんの今までの恋愛遍歴れんあいへんれきがあっさりしたもので、寒原かんばらさんこそが大本命で夢中だってのはよーく分かる。

けどさ、相手の村を散歩したり、日向ぼっこしたりって……



N:澪留みおるまなぶの肩をガッ!と掴んで顔を近づけた。圧に負けて後ずさる諭。風神かぜかみの次男は、その状況を酒のさかなにしながら笑う。



澪留:隠居後の老夫婦か!!

キミたち、恋仲になったばかりだろう が!!寒原かんばらさんがその行為だけで満足してるとでも!?



諭:な、き、貴様……



(慈『このテに関しては みおるくん の勝ちだな〜…』)



澪留:なので!マナブくんの!これからやってくる新年の抱負ほうふは、仕事とは別に寒原かんばらさんとの仲を深めること!!ハグしたり、手を繋いだり、いっそ熱くキスをわしたり!男を見せろ!分かった!?



諭:だーー!澪留みおる!さっきから何なんだ!!

貴様に言われんでも私のペースでするに決まってるだろ?!



(慈「マジな顔して、ひっどい話だなwww 誰か、この酔っ払いたち止めてェ?www」)



澪留:分かってるなら、これから仕事始めで忙しいだろうから?

落ち着いてからでいい!デートに行け!どこでもイイから!あ、どこでもって言ったけど ワタシたちの村や相手の村を散歩するってのはナシだからな!!



(慈『あー、お腹いたい…w 言い負かされてる兄さん面白いなぁ…』)



N:熱弁する澪留みおるにやや押され気味のまなぶ。その状況を傍観者ぼうかんしゃとして笑う風神かぜかみの次男。



澪留:で!どこに行くの!?

泊まれるなら温泉とかも良いだろうけど、日帰りなら行けてシズオカか、カナガワのほうだよな〜!



諭:待て、待て。なんで、貴様が予定を考えるんだ?



澪留:だって、マナブくんが失敗したら可哀想だから



諭:余計なお世話だ!!



澪留:痛ぁ!!なんで、ビンタすんだよっ!!



諭:さっきから勝手に騒ぎよって!ほっといてくれ!私には私なりの考えがあって──



N:何かと言いまくる澪留みおるに、眉間にシワを寄せて言い返そうとしたまなぶの言葉に被るように……除夜の鐘が重なった。



(慈『あ、新年 迎えた…』)



澪留:え、わっ、鐘が鳴るってことは年越しじゃん〜!



諭:(ため息)……煩悩ぼんのうまみれの新年の幕開けか……



澪留:なんか、悔しいなぁ

まあ、そういう新年もありか〜

(床に正座し、座礼)

マナブくん、イツキくん。あけましておめでとう〜



諭:ああ。おめでとうさん

(同じく座礼する)



(慈『はーい。あけましておめでとうございまーす』)



澪留:あ、そうだ。蕎麦そば 食べよ!ワタシ、インスタントだけどカップ蕎麦もってきたんだ!



(慈『いいね〜。おれ、お湯 沸かすね』)



N:年越しそばを年明けてから食べるのが今地家いまじけの習わしのため、長年の付き合いから慣れた様子で石油ストーブのうえに水を注いだヤカンを置く風神かぜかみの次男。




諭:(ため息)……なんだか、一気に疲れが来たな……

澪留みおるっ、貴様が勝手に騒ぎ出すから変な空気だろうが



澪留:他人にせいにするなよ〜!だって、騒ぎたくもなるさ。なんで、知り合ってから半年以上も経つのにデートしてないんだよっ



諭:……わざわざ、都内に来てもらうのは気が引けるからだ。交通費だって馬鹿にならん。ならば、私から通うことで相手の負担にならないようにしたいのだ



澪留:あー、そういうね。

寒原かんばらさん、ニイガタだもんね。高速列車を使うにしても都内からだと遠いし、マナブくんの考えも分からんでもないけど



諭:澪留みおるに話しておくが、すでに辞令がおりたから配属先を異動いどうする。都市部を離れる前に思い出の一つや二つは作っておきたい



澪留:そっかー、マナブくんも異動かー。会える日ももっと限られるかもだし、遠距離はシンドいね



諭:(呆れ顔)……やっと、こちらの気持ちを理解したか



澪留:まあね。だから、ワタシにも本命はいないわけだし



諭:だが、私はいずれ絢乃あやのさんと入籍するつもりだ



澪留:えっ、マジ?



諭:ああ。



澪留:あー、えー?

(気持ちを噛み締めて)

……マジか〜〜〜!

え、じゃあ尚更なおさらさ。デートするべきだね。

今だって、会えてないのに結婚したら寒原かんばらさんには一人っきりで家にいてもらう訳でしょ?

ワタシの同僚みたいに長期の任務から戻ったら見知らぬ男と奥さんが一緒にいて、騒ぎになるくらいならさ。寂しい思いさせないように思い出つくんなきゃー

(お酒 飲んで)……結婚や交際は異文化交流なわけだし



(慈『僕たち、独身なのに。みおるくん、やたら説得力あるの不思議だな〜』)



N:お湯が沸くまでのあいだ、おつまみのイカの姿焼きを食べる風神かぜかみの次男。真面目な口調で持論を展開する澪留みおるに苦笑いした。



澪留:そもそも!海の男のほうが気苦労が多いですから!記念日、誕生日!身内の冠婚葬祭かんこんそうさい!そういうイベントは艦艇勤務かんていきんむである以上、ほぼ出られないからね!

(日本酒を飲む)……でも、帰るべき場所は欲しいわけよ



諭:そうだな。

私たちのような特殊な環境下を理解し、それでも出迎えてくれる相手とげたい



澪留:まあ。それが理想だよねー



諭:ああ、どこまで実現できるかは分からん。絢乃あやのさんともいのない一年にしたい



澪留:応援してる、頑張れ



諭:ありがとう



澪留:どういたしましてー



諭:そういう澪留みおるはこれからの一年をどうするのだ?



澪留:……ワタシは、また こうやってマナブくん や イツキくんとお酒飲めれば 良いかな



諭:そうか。今年の二月には、けいも酒が飲める年齢になるからな



澪留:お〜、ケイくんも二十歳か〜

次に集まるときは、ますます賑やかになりそうじゃん



諭:ああ、そうだな。……澪留みおる



澪留:んー?どしたのー?



N:酒のせいでヘラヘラと表情をゆるめ、自分の腕を枕にしてコタツのテーブルに突っ伏している澪留みおる。その姿を見つつも酔いさまし用の水を飲むまなぶ。そして──



諭:ちゃんと帰ってこい。

貴様のことだ、海こそかえる場所だなんて思っているだろうが、そうはさせない。貴様がシにかけたときは私が邪魔だてしてやる



澪留:……うっはぁ〜!聞いた?聞いたかい?イツキくん!(顔を上げる)

めちゃくちゃ重たい感情だよね〜!そんなガチな顔されたら地獄の閻魔もビビっちゃうよ〜



諭:おい、私は本気で──



澪留:ありがとう。そう言ってもらえて、嬉しいよ

私の戻ってくる場所はココだって再確認できた。ちゃんと、帰ってくる



諭:誓えよ?



澪留:おうよ!

説磨流とくまりゅう】の門下生もんかせいに、二言なし!



N:澪留みおるは、ニカッと笑ってこぶしを突き出す。その拳を応えるようにコツン…とまなぶも右のこぶしをぶつけた。



澪留:……おやおや、湯がいたみたいだねー



諭:どれを食べるんだ?



澪留:ワタシ、カレーそばにしようかなー



諭:貴様、本当にカレーが好きだな



澪留:そりゃあ、海の男といえば【カレーライス】だからね!



(慈「みおるくん、なんかオススメのカレー屋さんとかある?」)



澪留:おすすめのカレーね!イツキくん、良い質問ですな〜!お答えしんぜよう!



諭:ふっ……、どういうテンションだよ



澪留:お!マナブくんの初笑い 頂きました!



諭:なんでもかんでも 初をつければ良いってもんじゃ……



澪留:ほらほら、マナブくん ふうあけないとお湯 そそげないよー?



諭:澪留みおる……

貴様、日が昇ったら覚えとけよ?



澪留:うわ〜、こりゃあ 打ち込み稽古げいこ 三十本コースかな〜



(慈「ほんと、兄さんたちが揃うと騒がしくて困っちゃうなー」)



N:風神の次男が苦言くげんていしたが、それをおまえが(きみが)言うか?と思いつつもスルーすることで受け流した長男ズ。

こうして、久方ぶり顔を見合わせた幼なじみたちの飲めや語れやの夜は平穏に過ぎていったのである。







──おかで待つものたちに、幸あれ。国防軍人に武運長久ぶうんちょうきゅうを。






番外台本【酔い晒し編】


──────────


〜ロングタイトルver.〜


不機嫌なお見合い相手は、腐れ縁の青年とほがらかに笑うみたいです。



おしまい


──────────



台本公開日:2023年11月16日(木)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る