三人用/【吐き露わし編①】

この台本は【あらわし編①】となっております。


ついに!初デートです!!

やったね!!✌️

舞台は ヨコスカ です〜

(作者 ダイスキな街を舞台に書かせて頂きました)

不器用ながらにも【恋人】をエスコートしていくまなぶと、それに誘われる絢乃あやのをお楽しみください〜



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▶始めに

・台本の自作発言、作品の転載、登場キャラクターの性転換、台本の内容が壊れるような行為は禁止❌です。

・使用されるときは、不特定多数の目に入るところ(コメント欄やキャプションなど )に『台本タイトル』『作者名』の明記めいきをお願いします。


・そのほかの細かい お願い事は【台本利用上のお願い】のページ(▶https://kakuyomu.jp/works/16816700427787953461/episodes/16816700427788115278)を読んでください。


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【比率】

男声 1人:女声 1人:不問(ナレ)1人


【上演 時間】

35分〜40分程


【登場キャラ】


寒原かんばら 絢乃あやの

▷22歳

▷とある村の大地主おおじぬしの娘(次女)

▶喜怒哀楽がはっきりしており、押しに弱いので残念美人なところがある。

【恋人】との初デートに緊張しながらも相手と向き合い支えたい。と張り切っている。



風神かぜかみ まなぶ

▷25歳

▷国防陸軍 所属の幹部士官(少尉しょうい

▶常に不機嫌な顔つきで、話し方もぶっきらぼう。それでいて、不器用。

不器用ながらも【恋人】との初デートに心なしかうかれている。今作も頑張ってしゃべります。



不問 N(ナレーション)

▷長文が読む得意な人にオススメな役。この役なきゃ台本が回らない。

街の中の情景などを説明するシーンが多めなのでご注意ください。



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〜ロングタイトルver.〜

▷不機嫌なお見合い相手と、お出かけしながらココロのたけを語り合います。



〜ショートタイトルver.〜

あらわし編】


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──2078年の如月きさらぎ



N:寒い中、やさしく暖かな日差しが、雲間くもまから降りそそぐ年明けから二ヶ月後のとある日。

ザザァ……ザザァ……と寄せては引いていく波の音が聞こえる海に面した街に──



絢乃:これ、ペリカンですか?


諭:いや、カモメだ

クチバシの下に袋がないだろ


絢乃:たしかに……言われてみれば、ないですね


諭:カモメの水兵さん という曲があるくらいだからな。

このキャラクターは、海軍カレーの宣伝マスコット【スゥカレーくん】だ


絢乃:すぅかれーくん……



N:駅の改札を出たすぐ手前に建っている水兵服を着たカモメの石像の前で、風神かぜかみ まなぶ寒原かんばら 絢乃あやのの二人は立ち止まって話していた。



絢乃:不思議な愛嬌あいきょうがありますね。かわいいような…?かわいくないような…?


諭:私からすれば お世辞にも可愛いとは言えん


絢乃:……ふふ、まなぶさん、本当にはっきり言いますね。

でも、セーラー服なのはこの街をあらわしててイイですね


諭:そうだな。この街は海をまもる拠点と隣接しているからな


絢乃:ご苦労さまです、すぅかれーくん


諭:……貴女あなたは、ぬいぐるみが好きだろう。このキャラクターのぬいぐるみも街のお土産屋みやげやに置いてある。買うか?


絢乃:え?このコのぬいぐるみですか?そうですね……


諭:あ、いや、すまない。今のはなかったことに──


絢乃:いえ、見てみたいです。どんな感じなのか見てから判断します!


諭:そうか。じゃあ、観光のあとになるが、お土産屋みやげやにも寄ろう


絢乃:はいっ!



N:そう、今日は二人が恋人の関係になってから初めての日帰り観光地巡り……

いわゆる『デート』である。



(間)



N:時はさかのぼり。

このデートの約束が交わされたのは、年明け後の睦月むつき二日ふつか

その日も通話で互いの近況を話していた。



諭:『……とまあ、私は北関東の実家には戻って来れているが、4日から基地に戻って仕事はじめ だ。帰還きかんしてくる隊員を迎える業務があるからな』


絢乃:……本当に国防官こくぼうかんさん って大変ですね。たしか、先月の25日もそうでしたよね


諭:『……絢乃あやのさん。あの時は、すまんかった。初めてのクリスマスだったのに都合がつかなくて……』


絢乃:あ、いえいえ!仕方ないですよっ

両日とも平日でしたし、お忙しいのは重々 理解してますから!まなぶさんに謝ってほしくて話を掘り返したわけじゃ…!


諭:『……そうか。でも、物分りが良すぎるのも私は不安だ。恨み言なら いくらでも受け止めるからな』


絢乃:だから、大丈夫ですって。

あの日の夜、まなぶさん こっそり通話かけてきてくれましたよね?アタシ、声を聞けただけで、嬉しかったんですよ


諭:『……私もだよ。

あの日は、周りの目を盗んで部隊室を抜け出すのに苦労したし、めずしく外は雪が降っていてな。

まあ、寒さなんて気にならなかった。貴女が楽しそうに話してくれて心が救われた。来年こそ、一緒に過ごそうな』


絢乃:ま、まなぶさんは、また、そうやって……!


諭:『絢乃あやのさん?なんで怒ったんだ?』


絢乃:なんでもありませんっ!

《いつも、そうやって恥ずかしげもなくアタシが喜ぶようなこと言うんだから……》



N:絢乃あやのは、寝床ねどこに置いている ぬいぐるみ を抱きしめた。



絢乃:……年始早々に国防官こくぼうかんさんは大変ですね…


諭:『ん?ああ、大変か。……まあ、いつ何時なんどきの緊急に備える必要があるからな。残留ざんりゅうを経験してこそ国防官こくぼうかんだ、なんて先任曹長せんにんそうちょうが言っていたよ』


絢乃:その、残留ざんりゅうって何をされるとか……いても大丈夫ですか?


諭:『特にこれと言ったことはしないさ。宿直室で待機してるのがおもだな』


絢乃:まなぶさん以外にも残留ざんりゅうされる人はいらっしゃるんですか?


諭:『今回は私が任されている小隊の部下もいる』


絢乃:部下さんと過ごされるんですね……


絢乃:心の声

《部下さんって聞くと、やっぱり、あの女の人を思い出しちゃうな…。まなぶさんにその気がないってわかってるのに……。》


諭:『──絢乃あやのさん』


絢乃:え、はい?何でしょうか


諭:『部下と言ったが、花箋かせん二等陸曹にとうりくそう……いや、あの[厄介者]はいないから安心してくれていい。そもそも、アイツが残留ざんりゅうを希望することが ない。』


絢乃:え、あっ、ごめんなさい!アタシ、まなぶさんを疑ってるわけじゃ…!


諭:『そうなのか?

まあ、貴女が不安に思う要素は除いておこうと思ってな。私と共に待機するのは國岸くにきし陸士りくしと、安積あづみ少尉しょういの二人だ。どちらも信頼おける部下だ』


絢乃:そうなんですね。わざわざ、紹介してくださって ありがとうございます


諭:『礼を言われることじゃない。何せ、貴女と私は恋人なのだからな』


絢乃:こっ!?…っ、くぅ〜〜〜〜!!///;;



N:イヤホン越しに好みの声でさらり…と落とされる爆弾コイビトという単語に照れがまさった絢乃あやの悶絶もんぜつである。



諭:『どうした?足でもしびれたか』


絢乃:な、なんでもないです……



N:音声通話なので、まなぶが的外れな答えを返してきても仕方ないことである。絢乃あやのは、布団に突っ伏して火照った顔を埋める。



諭:『ああ、絢乃あやのさん。そう言えばな』


絢乃:え、はい、なんでしょう?


諭:『二月になってしまうが、土日とも予定を空けといてくれないか』


絢乃:あ、お休みが貰えるんですか!


諭:『ああ、一応な。何事もなければ、特別外泊の申請も通るはずだ』


絢乃:……その、久しぶりですね


諭:『そうだな。三ヶ月ぶりだ』


絢乃:嬉しいです。

……あ、お母さんに話しておきますね。夕飯を用意して貰えるように──


諭:『いや、そのことなんだが。悪いが、絢乃あやのさんのご実家には行けない』


絢乃:えっ……、じゃあ、なんで予定を空けてなんて言うんですか……?


諭:『えっと、そのだな……

(咳払い)……休暇の日、私と行ってほしい所がある』


絢乃:行ってほしい所……?


諭:『そうだ。絢乃あやのさんには、私のことをもっと知ってほしいからな。

だから、お金や時間を使ってもらうことになるが、都内まで出て来てほしい』


絢乃:……!!


絢乃:心の声

《それって、つまり!!デートのお誘いってやつですよねー!?わっわっ、どうしよう!!……今まで、村の周辺を散歩したり、家でゆっくり会話したりしてばかりで、恋人(?)らしいことなんてなかったのに、ついに!ついに!!》



諭:『……ダメだろうか』


絢乃:行きますっ!!


諭:『そ、そうか?』


絢乃:喜んでお受けします!

時間も貯金も使って会いに行きますっ!


諭:『……ありがとう』


絢乃:お礼なんて言わないでください。アタシのほうこそ誘ってくださって、ありがとうございます。


諭:『どういたしまして。

……(ため息)弟たちが騒いでいるようだ。また、乱入されると面倒だからな。今夜はこの辺りで。

詳細は、またおって連絡する。

絢乃あやのさん、雪掻きや、屋根からの落ちてくる雪には気をつけてな』


絢乃:はいっ、まなぶさんも凍結とうけつした道にはお気をつけて


諭:『ああ、また連絡する。それまで、息災そくさいでな』


絢乃:はいっ、まなぶさんもご武運を。……おやすみなさい


諭:『ありがとう。おやすみ』



N :通話が終了する。

絢乃あやのは、気分が最高潮さいこうちょうに舞い上がった。

まなぶとのあいだに起こった ※出来事モメゴトが互いの気持ちを向き合う機会にもなった秋。

それを『デート』と数えないならば、初めての都内での外出なのだ。

絢乃あやのは、嬉しさのあまり漏れそうになる喜びの奇声を強く抱きしめた枕に吸わせ、足をばたつかせたのである。



(※宣伝 失礼します!ぜひ【スレ違い編】①~④を読んでみてくださいね)



(間)



── 通話が終了しました。(一〇時間前)


絢乃:メッセージ

[おはようございます]

[今。地元の大きな駅から高速列車に乗りました]


諭:メッセージ

[おはよう。晴れてよかったな。]

[了解。 電車が止まらないことを願うよ。]


絢乃:メッセージ

おどかさないでください!]

[アタシの村なら鹿やタヌキの影響で止まりますけど ]

[さすがに高速列車は落雷とかないかぎり、大丈夫ですよね??]


諭:メッセージ

[落雷で済めばいいが、人為的じんいてきに問題が起こることもあるからな。]

[そうなると、私も仕事をしなければならないし休みが飛ぶかもな。]


絢乃:メッセージ

[えっ]

[それは困ります!!!!]

[騒動…都会…コワイ]


──諭が[大笑いしているクマのスタンプ]を送信しました。


──絢乃が[泣いている仔ネコのスタンプ]を送信しました。



N:そんなわけで、念入りにわされるメッセージと通話のお陰で、デートの当日。

二人は無事にトウキョウ駅で落ち合い、カフェで軽く一服してから目的の街まで私鉄の電車で移動。その後、現在に至った。



絢乃:……にしても、この駅の辺りは静かですね


諭:この駅の周辺は、観光客向けではないからな

もっぱら観光客が利用するのは中央の名がついた別の駅だ。ここは見てのとおり、タクシーとバスの乗り合い所だ


絢乃:そうなんですね。

……でも、カメラ持った人とか居ますし海の写真でも撮られるのですか?


諭:絢乃あやのさん、それ以外になにか気がつくことはないか


絢乃:気がつくこと、ですか?


諭:そうだ。駅の周辺にだいたいはあるはずの建物がないとは思わんか


絢乃:……えっと、コンビニですかね


諭:まあ、コンビニもないが。それとは別の建物だ


絢乃:うーん……、えっと……


諭:思い当たらないか?小さくても、大きくても絢乃あやのさんの村の駅の辺りにはあるはずだ


絢乃:駅の辺り……、あっ、おまわりさんが居ません!


諭:(微笑む)正解だ


絢乃:なんででしょう?なにか、理由があるんですよね


諭:もちろん、ある。ちょっと、海のほうに歩こうか


絢乃:あ、はいっ



N:ずんずん、進んでいくまなぶの後ろを着いていく絢乃あやの。足下がアスファルトからレンガ敷きの舗装道ほそうどうに変わり、オシャレな手すりの側で立ち止まる。


諭:ほら、この駅の周辺に警察がいない。あれが理由だ


絢乃:……わぁ!大きい船……!


諭:ああ、この識別番号ならば、護衛艦の最大級『ズイカク』だな。

我がニホン国が保有する最大の積載量せきさいりょうを誇るDDHの艦艇かんていになる。

言い換えるなら、ヘリコプターを積載せきさいし、発艦はっかん着艦ちゃっかんができる艦艇ふねということだ。


絢乃:なるほど……


絢乃:心の声

まなぶさん、陸軍のはずよね……識別番号(?)とか言っていたし、かなり、詳しいわね……幹部って海の乗り物も覚えなきゃいけないかしら……》



N:かなりの思い違いである。

ただたんに、まなぶが海軍の乗り物に詳しいだけだ。

しかし、そんな絢乃あやのを他所にまなぶの言葉がはっせられる。



諭:……そして、その周辺にあるのが、この街が誇る海のとりでのひとつ【国防海軍・ヨコスカ 守衛基地しゅえいきち】だ


絢乃:すごい、ですね。

かなり、広そうですし……

しかも、こんな大きな乗り物が海の上を動いているなんて……


諭:ああ、護衛艦ごえいかんの存在もそうだが。

この基地があるから東の海はまもられている


絢乃:東の海の護りがこの基地なんですね。そうすると、西はどこが?


諭:西は『クレ』と『マイヅル』だ。南が『サセボ』、北は『オオミナト』だな


絢乃:なるほど、勉強になります。……海軍の皆さん、日々のお勤め ありがとうございます



N:護衛艦ごえいかんに向かってたてまつる対象かのように深々と一礼する絢乃あやの。その姿をふっ…と目を閉じて笑うまなぶ



絢乃:(頭を上げて)……あ、もちろん。まなぶさん や 他の国防官こくぼうかんの皆さんにも感謝でいっぱいですよ。

ここ数年の平穏、外国の侵攻しんこうを遠ざけてくださっているのは、国防官こくぼうかんさんのお陰です


諭:……改めて、礼を言われると胸の奥が落ち着かんな


絢乃:え、そういうものですか?


諭:そういうものさ


絢乃:もしかして、照れてます?


諭:な、照れてなどない


絢乃:本当ですか〜?(ニヨニヨ)


諭:本当だッ


絢乃:ふふ、そうですか


諭:心の声

《お世辞にも。私の手はきよらかとは言い難い。血にまみれることが当たり前であり、血を流すのもしかり。

いくら彼女と恋仲だと言えど、秘匿ひとくするしかない仕事内容ハナシもある。

なのに、絢乃あやのさんに礼を言われると……少しだけ胸の奥が軽くなる、気がする……》



絢乃:あっ、あっちに大きなモニュメントがありますよ!──


諭:(小声)……惚れた弱みだな。絢乃あやのさんには勝てる気がせん……


絢乃:まなぶさーん!これ、なんですか〜!


諭:ん?ああ、それは──



(間)



N:さて、街を散策して時には写真を撮り、まなぶの知識 語りに相づちを打ちつつ街ブラ観光を楽しむ絢乃あやの

それから二人は、ヨコスカの名所。歴史に興味がある人ならば一度は訪れるであろう場所へとやって来た。



絢乃:ここが…、記念艦きねんかん 公園こうえん……!


諭:そうだ。我が国の国有財産にもなっている。

【ミカサ】という戦艦せんかんを土台にしていて、現在は復元されたカタチだが、内部に展示物を並べた史料施設になっている。

今から約150年前には【ミカサ】は実際に海上を進んでいた


絢乃:150年前……!

アタシ、ここに来るまでのあいだにも、いかりのマークが入ったポールとか、灯台とうだいのカタチをした公衆電話のボックスとかあって、ヨコスカって凄いな〜って思いましたけど……


諭:ここは、もっと凄いだろう


絢乃:ええ、とても!



N:なぜ、まなぶが自慢げなのか。そんな疑問はさて置き。

山と畑に囲まれた田舎育ちの絢乃あやのからすれば、観光地は目に映るものが全て輝いて見えるのだろう。無邪気に首を立てに振った。そして──



絢乃:あ、まなぶさん。あそこで他のかたも撮影してますけど……

あの、人物の石像って……


諭:ああ、あれは帝国時代の海軍の名将軍として語り継がれている【司令長官】の石像だな


絢乃:しれいちょうかん……?


諭:そうだな…、説明すると難しいのだが、まあ、この【ミカサ】に関わる主役だな


絢乃:主役…、とりあえず、すっごく偉い人の石像というのは理解できます!


諭:まあ、それでいいと思うぞ



N:これから記念艦公園きねんかんこうえんのメインを見学となるわけだが、歴史や専門用語に興味がない人からすればチンプンカンプンであろう。

絢乃あやのの反応は正常である。

──二人は券売機のある軒下のきしたへと移動した。



諭:ここで入場チケットを買って、あそこの施設員に見せれば入館できる


絢乃:大人が600円ですね。(チケットを買う)

……あれ、あそこって?


諭:ああ、船乗り場だな。

自然と歴史を学ぶことのできるサルシマという無人の離島に行けるのだが、行くには専門のフェリーで向かう


絢乃:サルシマ!


諭:興味があるか?


絢乃:あ、はい…//

行けるなら行きたいなー、とは思っちゃいました


諭:では、そうしようか。

チケット売り場で今日の出航しゅっこうがあるか確認してくる


絢乃:あ、アタシもご一緒します……!



(間)



N:数分後。

まなぶ絢乃あやのが歩を合わせて、チケット売り場の建物から出てきた。そして、入口付近で足を止めて肩を落とす絢乃あやの



絢乃:…予約が必要だったなんて知らなかったです…

一般向けの出航しゅっこうがない日もあるんですねェ……


諭:残念だったな。

予約が必要なのも、船を整備する時間を確保する理由もあるだろうし、タイミングが悪かった


絢乃:…チケット売り場に貼られてた紹介資料を見たら、なおさら、興味が出ちゃいました……

自然にできたほらとか離島の空気を体感したかったです……



諭:心の声

《…こんなに残念がっているのは初めて見た。私としては、絢乃あやのさんの新しい表情が知れて幸運だな……》


諭:……また来よう。今度は、しっかりと予約してな


絢乃:次が、あるんですか……?


諭:?、…ないと思ったのか


絢乃:あ、いえ!ごめんなさい!あ、えっと、その…今の言葉は気になさらないでください!本当に!またの機会に、ですもんね!


諭:……ああ、そうだ。またの機会に、だ



N:絢乃あやのの言葉にひっかかりを覚えたまなぶ。しかし、この場で追求してはろくな答えが返ってこないと直感的にさっして流した。



(間)



諭:絢乃あやのさん、足元には気をつけて


絢乃:あ、結構、急な階段なんですね。

……ヒールのある履き物はやめたほうがイイって、メッセージ頂いたときは山にでも行くのかな?と思いましたけど…


諭:山ではないが足元には注意が必要だ


絢乃:そうですね。街中を散策するにもヒールだと疲れちゃって、まなぶさんに ご迷惑おかけしたでしょうし…


諭:別に、疲れたら休めばいい


絢乃:それもそうですけど……


(受付員「いらっしゃいませ、記念艦【ミカサ】にようこそ。大人2名ですね。パンフレットはそこにありますので、ご自由におとりください」)



N:話しながらも鉄階段を登って、受付員にチケットを渡し、来場印を押してもらう。案内されたとおりにパンフレットを手に取る二人。

まなぶは、パンフレットを軽く読んで顔を上げた。



諭:よし、今年は大丈夫そうだな。

(パンフレットを閉じる)

絢乃あやのさんには これから見てほしいものがたくさんある。足元には気をつけながら進んで行こう


絢乃:は、はい。よろしくお願いしますっ



絢乃:心の声

まなぶさん、いつも以上にヤル気だわ……、何か、思い入れでもあるのかしら……》



──見学開始。


絢乃:わぁ…すっごく大きな板ですね…!


諭:実際の上甲板じょうかんぱんに使われていたかしの板材だそうだ

色が黒いのは、漆塗うるしぬりが時とともに深まった証拠だ


絢乃:えっと、つまりは、このうえをいろんな人が歩かれたんですね


諭:そうなるな


絢乃:凄いですね。……あ、この機械!


諭:モールス信号を送る機械を復元したものだ。この部分を押せば……



N:手慣れた様子で、機械のスイッチを操作して長音と短音を鳴らすまなぶ。その音を聞いて、壁に貼られている解説資料を見ながら絢乃あやのは──



絢乃:えっと…、トゥーーの長い音があって、トゥが短い音で……


諭:(咳払い)……行こう、まだまだ見てほしいものがたくさんあるからな


絢乃:え、まなぶさん?



N:どういうわけか、絢乃あやのの興味をそらすべく、他の展示物へと案内し出すまなぶ。いったい、どんな言葉をモールスしたのやら。



(間)



絢乃:…あれ、この金属板……


諭:ああ、この場所で殉死じゅんしされた乗組員の名前が彫られているものだ


絢乃:(手を合わせて、黙祷)

……150年前だとしても、この国を守ってくださった方が居たあかしですね


諭:(胸に手を当てて、黙祷)

……そうだな。私も歴戦の方々に恥じぬ働きをしていきたい



N:そんなやりとりをしつつも、絢乃あやのは目まぐるしい程の歴史展示物に圧倒される。

そして、かたわらで施設員の出る幕のないレベルに解説するまなぶの話を聞いて、時には驚かされ、時には専門的すぎて話に置いてけぼりをくらった。

そんなこんな施設の展示物を巡ること二時間。

──二人は【ミカサ】の上部で景色を眺めていた。

目の前には復元された羅針盤と、足元には偉人たちの立ち位置を紹介した銀プレートが貼られている。



絢乃:わあ!すごいですね……!


諭:なかなかの眺めだろう


絢乃:はい!ヨコスカの街がこんなによく見えるなんて…!


諭:今 見えている方角は、数年前の災害で手酷い状態におちいってしまった所だが……

この街も強く息づく街だからな。この【ミカサ】も修復専門の職員さんがたのお陰で、今も観覧できている


絢乃:こうやって何かを見ることができるのは、顔も名前も知らない方々のお勤めのお陰ですもんね……


諭:ああ、そうだな。


絢乃:……あの、まなぶさんは、どうして国防官こくぼうかんになろうって思われたんですか?


諭:私か?

私は、幼い頃から親や親戚たちの職務を全うする姿を見て育った。

国防官こくぼうかんになろう、そう強く自覚したのは、13歳の頃だ。あの時分じぶんに国を騒がせた出来事が起因している。


絢乃:13歳ということは、まなぶさん、お誕生日むかえましたし…12年前ですか?

……あ、もしかして国を騒がせた出来事って国防軍こくぼうぐんによる有人 離島の奪還作戦でしょうか?


諭:知っていたか。


絢乃:ええ、たびたびドキュメンタリーとして報道されてますし……


諭:私は、あのテの報道番組の内容はあんまり好ましくないな


絢乃:それは、まなぶさんが現職の国防官こくぼうかんだからですか?


諭:それもあるが……

あの作戦には私の父や、今地いまじ叔父おじも出動していた。

国防官こくぼうかんの身内だったから、家庭の空気が張り詰めていた時期でもあってな。

世間の大半からしたら国防官こくぼうかんは嫌われた日陰者だ。

恨まれて、ほとんど感謝なんてされん。

それでも、私は身内の背中を見てきた。国をまもる小さい陰として存在し続ける。それが、私のほこりになる。そう思っている。



N:真っ直ぐな視線で、ヨコスカのなかでも賑わっている方角を見つめるまなぶ。その横顔を見て、胸が締めつけられる感覚を覚える絢乃あやの。少し肌寒い風が駆け抜けた。



絢乃:……あの、まなぶさん


諭:うん?どうした


絢乃:アタシ、気づいちゃったんです


諭:なにがだ


絢乃:本当は、まなぶさんは、海軍に入りたかったんじゃないかな…って…


諭:……何故なぜ、そう思った?


絢乃:なぜ、って凄くキラキラしてました。

いつも以上に饒舌じょうぜつでしたし、なんでしょう、こう直感的に『まなぶさんはこの施設が、海軍の歴史が好きなんだな』って……


諭:(頭を搔く)

……あ〜〜〜、イカンなこれは……


絢乃:ま、まなぶさん?


諭:(ため息)……すまん、いろいろ恥ずかしくなった。そんなに分かりやすかったか?


絢乃:ええ、そうですね。

この街を歩いているあいだにも引っかかる点はありましたけど、この記念艦きねんかんを見学してから特にですね


諭:そうか……、絢乃あやのさん、いてくるの大変だったろう。すまんかったな


絢乃:そ、そんなことありません!いろいろ お話が聞けて楽しかったです


絢乃:心の声

《難しい話もあったけど楽しかったのは事実だし、まなぶさんが普段 見せない表情が見れて嬉しかった……、この感情は嘘じゃないもの……》



N:まなぶに穏やかな笑みを向ける絢乃あやの

まなぶは、その表情に目を見張ったが すぐにらして咳払せきばらいをした。



諭:……私は、中学生の頃までは海軍に行くつもりだった


絢乃:今とは、真逆ですね


諭:そうだな。

絢乃あやのさんが覚えているかは分からんが、私には 腐れ縁の友 がいてな


絢乃:覚えています。今地いまじ 澪留みおるさん、ですよね


諭:覚えていたか。

まあ、忘れられるような男ではないよな。澪留みおるは、印象に残る奴だからな


絢乃:ええ、いろいろ話をさせて頂きましたし……

その、海軍に入ろうと思っていた理由は、今地いまじさん が関わっているのですか?


諭:そうだな。

……元より私の父は『好きにしなさい』としか言わない人でな。

祖父や父。風神かぜかみの親族の多くが陸の国防にたずさわってきていたし、一人くらい違う存在がいても面白いじゃん?とな。澪留みおるに誘われていてな

当時の私も、それでいいか と思っていたのだ


絢乃:今のまなぶさんとは、なんだか違う感じがしますね


諭:今と違う、か。

まあ、そうだな。澪留あいつの言葉に流されていたわけではないが、漠然ばくぜんと、国防の職にくのだし

艦艇ふねに乗った海上 生活も悪くないかもしれない、そんな気持ちでいたよ


絢乃:(小声)海軍に所属している、まなぶさん……


諭:この記念艦きねんかんは、そんな澪留あいつと約束した場所でもあってな



N:まなぶが話している途中だが、ネットや本で得た知識から海軍の軍服をまとまなぶを想像する絢乃あやの

まなぶの腐れ縁である今地いまじ 澪留みおるが日に焼けた小麦肌であったことも踏まえて、真っ黒に日焼けしたまなぶも想像してみた。結果、なかなか良いかも。と思った次第だ。



諭:……絢乃あやのさん?

おーい、頬がゆるんでいるぞ。何を考えているんだ?


絢乃:えっ!あ、ご、ごめんなさい。アタシったら……


諭:まったく。ほとんど聞いていなかったようだな


絢乃:そ、そんなことありません!

まなぶさんが、海上生活も悪くないっておっしゃるから!もし、海軍の所属だったら青色の迷彩服とか、夏の白い軍服がとても似合ったんだろうなって……

あ、いえっ、なんでもないですっ!!


諭:ふっ、ははは……


絢乃:わ、笑わないでくださいっ


諭:すまん、すまん。まさか、私の話をそっちのけでそんな妄想をしていたとはな


絢乃:お話は、ちゃんと聞いてましたっ!


諭:ねないでくれ、からかい過ぎた。……でも、まあ。

結局、海軍に行かなかったのは、例の奪還作戦も関係していたし、陸軍兵りくぐんへい 専門せんもんの育成校が離島にあると聞いてな。そこを卒業できれば、身内のなかでイチ早く国防の職にけると思ったからだ


絢乃:育成校なんてものがあるのですか?


諭:あるぞ。陸・海・空、どの所属にも幹部を育成する機関は存在する。

まあ、私が卒業した学園は少し……いや、だいぶ特殊とくしゅではあったがな


絢乃:ということは、まなぶさんは 19歳 で国防官に?


諭:19歳になる年だから、そういうことになるな。

当時は、二十歳はたちを迎えていない若造がそれより年上の現職を部下にするわけだ。かなり風当たりも厳しいものだったし、うとまれたよ


絢乃:まなぶさん……


諭:私は、私の立場を見くびるやからには言葉や暴力でコトを済ませてきた。

理性的であろうと思い続けているが。いつ、タガが外れるか分からん。薄々、勘づいてはいるだろうが、私には暴力的な面がある。

正直、ロクな男ではないんだ。



絢乃:心の声

《こういう時は、なんて、声をかければいいの?まなぶさんと知り合うまで、国防の職とは無関係だったアタシが何を言ったって、ちっぽけだし、薄っぺらい言葉になっちゃう……》



N:まなぶから告げられる経緯なりたちを聞いて、無意識にカラダをさす絢乃あやの

まなぶは、自分の上着を脱いで絢乃あやの羽織はおらせる。



絢乃:え、まなぶさ(ん)──


諭:降りよう。さすがに冷えただろう


絢乃:…はい……



N:楽しかった気分が、どこか風の寒さにあおられて冷えてしまったようだ。

カンカン…、カンカン…と、絢乃あやのは、あがるときも要注意だった少し急な鉄製の階段を降りる。踏み外さないように気をつけながら。──時刻は 13時過ぎ である。



諭:心の声

《もう、こんな時間か。お昼時だし、移動するかな。

にしても、つい、話しすぎて妙な空気になってしまった。絢乃あやのさんに、気を遣わせることになってしまったし、猛省もうせいだな。このテの話題はあまりしないようにするか……》



N:スタスタと先を行くまなぶ絢乃あやののことを気遣う様子は今のところない。しかし──、



絢乃:まなぶさんっ


諭:絢乃あやのさん?


絢乃:アタシは、そういう部分もぜんぶ含めて、まなぶさんが大切ですから!!


諭:あ、ありがとう?



N:記念艦きねんかんの出入口になっている階段を降りた すぐそこの広場に足をつけた時、絢乃あやのが、まなぶのタートルネックのすそを掴んで そう告げた。



絢乃:まなぶさんは、話せることとか慎重しんちょうに考えながら話されますけど!

アタシは、覚悟のうえで諭さんとお付き合いしていくって決めたんです!

暴力的でも、理性でがんじがらめでも諭さんは、諭さんです!だから!!


諭:!!(嬉しさのあまり 深呼吸をする)

……絢乃あやのさん、わかった。貴女の気持ちは伝わった。だから、少し落ち着こう。お互いに


絢乃:…あ、はっ、ご、ごめんなさい……



N:のんびりとした空気がただよっている公園内。

誰かが急に声を張り上げれば、何事かと視線が集まるのは自然なことだ。そんな絢乃あやのを抱きしめることで、興奮を落ち着かせようと行動に出たまなぶ

集まりかけた視線も、なんだ痴話ちわゲンカかと、らされた。

背中をぽんぽんと叩き、子をあやすような手つきでなだめられる。



絢乃:…すみませんでした……

もう、大きな声 出したりしませんから離してください


諭:ああ、わかった


絢乃:……アタシの気持ち、嘘じゃないですからね


諭:貴女の言葉を疑ってはいないが。どうして、急にあんなことを?


絢乃:怒らないでほしいのですが……


諭:怒る?なぜだ


絢乃:なぜって、その、今地いまじさん から頂いた助言が関係してまして……


諭:…………。

……そうか、だが、知りたいから話してくれ


絢乃:心の声

《今の言葉のマはなに?本当に話して、大丈夫かしら??》



(間)



N:閑話休題かんわきゅうだい

まなぶの腐れ縁である【今地いまじ 澪留みおる】という男(普段は、国防海軍の艦艇乗りとして勤務しているので、ほぼおかにいない。)がまなぶに内緒で絢乃あやのに会いに来たことがあった。

その事実を諭が知ったさいに、澪留みおるを相手に剣道場で暴れ回っていた…。という諭の弟たちから 愚痴とも受け取れる報告 を受けている絢乃。不安になるのは仕方のないことだ。

(※番外台本【待ち伏せ編】参照)



(間)



絢乃:──支えになってあげて、と言われたんです


諭:はっ……?


絢乃:(深呼吸して)

……『国防官こくぼうかんってさ、息が詰まる職なんだ。世の中には不必要な職なんて存在しないけど、ワタシたちみたいに命がいつ散るか分からない職にいてると、生きてるのかシんでるのか分からなくなる時があるんだ。だから、寒原かんばらさん にはそういう無茶をするマナブくんの支えになってあげて』……と言われたんです。


諭:(頭を搔く)……あの、お節介が……


絢乃:その時に『支える覚悟と、逃げる勇気』を教えて頂いたんです。

だから、アタシには隠さずに話してください。任務とか、お仕事の話は無理でも。

まなぶさんの気持ちの中でトゲのようになっている事があれば、アタシは、それを抜いたり包んであげたいです。……ダメですか?


諭:(いろいろ堪えて)

……ダメな訳ないだろ。ありがとう、絢乃あやのさん。

私は、こんな性格だし。今後も我慢をいることや、辛い思いをさせることが多いだろう。でも、どうか。私を見放さないでくれ、頑張るから


絢乃:はい。一緒に頑張っていきましょ


諭:ああ、よろしく頼む


絢乃:ふふ、……じゃあ、まずですね


諭:うん?


絢乃:その、手を、繋ぎたいです。

お仕事の時の服装じゃないから大丈夫、ですよね?


諭:(少し笑う)ああ、大丈夫だよ



N:少し恥じらいを見せつつ、そう願う絢乃あやのまなぶは了承し、するりと手を繋ぐ。お互いのてのひらから体温と気持ちが流れ込むようであった。手を繋いで、公園内をぐるりと歩いたあと、公園を出てドブイタの通りに向かう。そのとき時計を見たまなぶ


諭:ヒトサン ニィハチか。

お昼ご飯は、何にしようか


絢乃:あ、それなら食べてみたいお店のメニューがあるんです


諭:ほう?では、行ってみるか


絢乃:はい!ぜひっ



(間)



絢乃:語り

風神かぜかみ まなぶさん。不器用で、優しい人。この人がアタシの「恋人」です。

ふとした時に国防官こくぼうかんとしてのクセが出てしまってて、独特な時刻の言い方に聞き慣れつつあるアタシがいて、ああ、これが付き合うってことなんだと実感します。

街中を歩いていれば、知り合いなのか迷彩服の人と会釈えしゃくしあう場面や異国の方に絡まれても、邪険にせず、異国の言葉で対応する姿とか。新しい一面を見れる今日は、とても得した日に思えるのです。』





──────────


不機嫌なお見合い相手シリーズ


三人用【あらわし編①】 おしまい



覗いてもらいたい内容がもっとありますので【吐き露わし②】に続きま〜す!


──────────


台本 公開日/2024年1月30日(火)

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