番外 台本/三人用/【待ち伏せ編】

【不機嫌シリーズ/待ち伏せ編】


こちらの台本は、番外編【待ち伏せ編】となっております!箸休め程度にお楽しみくださいませ〜。



▶始めに

・台本の自作発言、作品の転載、登場キャラクターの性転換、台本の内容が壊れるような行為は禁止です。

・使用されるときは、不特定多数の目に入るところ(コメント欄やキャプションなど )に『台本タイトル』『作者名』の明記めいきをお願いします。


・そのほかの細かい お願い事は【台本利用上のお願い】のページ(▶https://kakuyomu.jp/works/16816700427787953461/episodes/16816700427788115278)を読んでください。



出会いの話は『お見合い編』/【親の言いつけで〜破談ですよね。】という劇台本です。



そして、当台本は 番外編です。

この台本 以前に公開している主役たちがワチャワチャしている台本たちも閲覧(もしくは上演)して頂けるとより楽しめると思います。


よろしくお願いします✨


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【上演時間】

▷45分~50分 程


【比率】

男声 1人:女声 1人:不問 1人の3人用


【登場キャラ紹介】

♀︎ 寒原かんばら 絢乃あやの

▷22歳

▶とある大地主の次女

▶喜怒哀楽がはっきりしているが、その分、押しに弱いので残念美人なところがある。



♂︎ 今地いまじ 澪留みおる

▷25歳

▶国防海軍 所属の士官しかん

▶明るくハツラツとしている。小首をかしげてウィンクとかしちゃうお茶目な性格。

▷いろいろあれだが、一応は三兄弟の長男。

▷身内を愛し、海で発生した害を陸に持ち込まない精神で<海の男>としての誇りと信念をもって生きている。



不問 ナレーション

▶相も変わらず出番がある。

タキツキ作品には必要不可欠な役です。長文読み、がんばってください。


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劇タイトル

▶ロングバージョン


『 不機嫌なお見合い相手の幼なじみが会いに来ました。いったい、何を言われるのでしょうか。 』


▶ショートタイトル

番外編 台本【待ち伏せ編】


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──2077年の夏の盛り(葉月の頃)。


N:徐々じょじょに空と雲が遠く感じる時季。

むせかえるような熱気がアスファルトを焼くなか、白い雲とどこまで続く青空の下で──



澪留:はじめまして、きみが寒原かんばら絢乃あやのさん だね。

ワタシは、きみのお見合い相手の腐れ縁。あいつが〈陸の男〉なら、ワタシが〈海の男〉ってやつだよ



<>


絢乃:語り

『 アルバイトしているお店の駐車場。大型バイクに寄りかかりながら声を掛けてきたのは、私のお見合い相手である<風神かぜかみ  まなぶさん >を知っていると告げてきた男の人。小麦肌が印象的な子供っぽい笑顔の人でした。』



(間)



N:この話は、寒原かんばら 絢乃あやの風神かぜかみ まなぶとの交流を始めてから二ヶ月程、経った頃。

村を訪ねてきた今地いまじ 澪留みおると、いろいろ語り合った日の一幕である。



(間)



絢乃:お疲れ様でした!お先に失礼しますっ



N:ぺこっ!と頭をしっかり下げ、店の裏口から外へと出ていく絢乃。更衣室に直接繋がっていることもあり、室内に居た人達が またね〜 と見送ってくれる。

今日は、バイトの勤務日。

バイト先は、村おこし事業の一環で役所の敷地にオープンしたばかりのフルーツパーラーだ。



絢乃:心の声

《やっぱり、新店でバイトを始めて正解だったわ。働いてる人は、同じ期間からスタートだし、熟練も未熟もないからあせらずにお仕事できるし、人当たりのいい人ばかりで気持ちいいわね。》



N:今のところ、問題なく働けているようでルンルン気分で裏口から正面口へと歩いて行く絢乃。

従業員用の駐車場が柵で囲われているものの、お客用と隣接している。



絢乃:心の声

《最近は、お天気も安定していて自転車で通勤するのがラクでいいわ。風が強い日とか雨の日だと、送迎そうげいしてもらわなきゃ遠いし……》



N:田畑が土地の大部分をめた村なだけあり、さまざまな施設と距離がある。絢乃がバイトを始めたフルーツパーラー。つまり、村役場の敷地に辿り着くには徒歩で三〇分かかるのだ。



絢乃:心の声

《あら、お客様かしら。失礼のないように前を通らせてもらいましょ》



N:従業員用の駐車場の柵の手前には花壇もある。その近くに大型バイクを停めた一人の男が立っていた。

花壇には、アジサイとツツジの低木が植えられている。開花の時季になれば華やかになるだろう。

絢乃は、男の前を会釈えしゃくして通り過ぎようとした。だが──



澪留:あ、きみ!きみ、寒原かんばら絢乃あやのさんだよね!



絢乃:えっ!?



N:声ならまだしも、急に手を掴まれて目を見開いて驚く。

こんな田舎で歳の近い男から声をかられることなんて、滅多にない。物凄くいぶかしんだ眼差しを送ってしまう絢乃。



絢乃:ちょっと、何ですか??放してくださいっ!

(カバンをブンブンと振り回す)



澪留:わおっ、ゴメンって!急に掴んだりしてさ!



絢乃:あのっ、このお店はそういう事をされると困るんです!おまわりさん、呼びますよ!!



澪留:あ、警察は困るなぁ……

いや〜さ。そういう事ってナンパ目的とか勧誘目的ってことかな?申し訳ないけど、違うんだよ



絢乃:じゃあ!なんだって言うんですか!



澪留:うーん、警戒心が強いのはとても良いことではあるけど、ちょっと話を聞いてくれるかな?



絢乃:ッ、(軽い咳払い)……すみません、取り乱したりして



澪留:いえいえ、こっちこそ ゴメンね



N:不審人物 扱いされても怒らないあたり、彼のふところはだいぶ深い。

それか、そういった扱いに慣れていて無関心の領域に達している可能性もある。だから、優しく感じるのだろう。



絢乃:あの、アナタはいったい……



澪留:あ、ごめん。名乗ってなかったね。

……初めまして、ワタシは今地いまじ 澪留みおる

きみのお見合い相手の風神かぜかみ まなぶとは、幼い頃から付き合いがあるんだ。

あいつが陸の男なら、ワタシが海の男ってやつだね



絢乃:海の男……?



澪留:そう、海の男。

まあ、職業を隠す必要もないから言ってしまうけど。

(背筋を伸ばし、顔を少しあげ)

ワタシは、国防海軍 ヨコスカ基地 所属の護衛艦ふな乗り!

今地いまじ  澪留みおる少尉しょういであります!



絢乃:あ、はい。ご丁寧にありがとうございます……



N:スポーツキャップに手を当てて敬礼をした澪留みおる。少し距離をとる絢乃あやの

にっと笑う澪留は、手馴れた様子でズボンの尻ポケットからチェーンで繋げている[国防軍 在籍者 手帖]という金字の入った黒革の手帖を見せる。海軍をしめす波といかりの紋章が入っている。それに対して、頭を深々と下げた絢乃。



澪留:よ〜し、これでお互いに顔見知りってことで大丈夫だね



絢乃:はい、そうなりますね



澪留:でね。寒原かんばらさん



絢乃:えっと、はい。なんでしょう



澪留:ワタシ、キミにいろいろ話しておきたいことがあるんだよね



絢乃:ですよね。じゃなきゃ、こんなド田舎に居らしたりしないですもんね



澪留:うんうん、話が早くて助かるな〜

でさ、ここって寒原さんのアルバイト先だよね。申し訳ないけど、ここ以外にお茶とかできる場所って……



絢乃:あるにはあります。けど、真逆の商店通りなので、徒歩だと一時間はかかりますね



澪留:あー、さすがは長閑のどかな農村クオリティ……



絢乃:あの、今日 知り合ったばかりでどうかとは思うのですが



澪留:うん?どうしたのかな



絢乃:アタシの家なら、ここから自転車で十五分なのでお嫌でなければですが



澪留:えっ、さ、さすがに斬られるかな〜



絢乃:斬られる?



澪留:うん。マナブくんにね。正直に話すなら興味本位で来たんだ。

あの、マナブくんがお見合いしたって聞いてさ。

いつき、あ、マナブくんの弟くん からの手紙を読んで、驚きで甲板かんぱんから落ちるとこだったよ~



絢乃:そんな、一大イベントみたいな……



澪留:いやいや!本当に、驚いたんだよ!

だから、休暇を貰ってすぐに実家に帰省してね。そこからマナブくんの弟くん達から、この村のこと聞き出して来たわけ。

で、寒原さんに会いに行くってことはマナブくんに話してないんだよね〜

だから、知れたりしたら……

いやぁ、怖い怖い




絢乃:心の声

《弟くんたちってことは、いつきさんとけいくんが原因ね……。しかも、マナブくんって呼んでいるし、本当に幼い時からの知り合いなのね……》




N:疑っていたものの、馴れた口調で語る澪留みおるに警戒心を解いていく絢乃あやの

まなぶの怒る姿を想像したのか、澪留みおるがわざとらしく自身を抱きしめて身震いしてみせた。



澪留:とまあ、そんな感じで。公園とかでもいいんだ。今日は、天気も崩れないらしいし



絢乃:あ、でしたら。ここから、そんなに遠くないところに大きな公園があるんです。そこで大丈夫ですか?



澪留:おっ!じゃあ、そこで〜



絢乃:じゃあ、案内しますね。今地いまじさん。アタシ、自転車なのでお先に行きます



澪留:どうぞ〜。見失わない距離で着いていくねー



N:絢乃あやのは、バイトを上がったこと、寄り道をするというむねのメッセージを母親に送った。そして、颯爽さっそうと自転車にまたがってこぎ出した。澪留みおるも前置きのとおり。持ち前の視力で見失わない距離をたもってバイクで追いかけたのだった。



(間)



──しばらく走り、そして公園に到着。



澪留:は〜、本当に田畑しかないねー



絢乃:お疲れ様でした



澪留:寒原かんばらさん、案内ありがとうね



絢乃:どういたしまして。あの、本当にスゴいですね



澪留:なにが?



絢乃:アタシが自転車で走り出して、五分くらい経ってから追いかけてきましたよね?



澪留:あー、そういうねw 

うん、全然。問題なかったよ

ワタシ、視力には自信あるから!

まあ。護衛艦ふな乗りは、視力と聴力が優れてないとなれないからね〜



絢乃:フナノリさんって狭き門なんですね



澪留:一番、狭き門なのは航空機の操縦士だけどねー



N:公園の駐輪場で、バイクと自転車を停める絢乃あやの澪留みおる

歩きながらブランコの近くにあるベンチに向かって、そこに座った。




澪留:うーん、(伸びをする)

はぁ〜〜〜……

ほんと、良いとこだね〜

騒がしさとはえんのない感じが気持ちいいよ



絢乃:あの、少しだけまなぶさんからお聞きしてはいるのですが。

まなぶさんの出身の町は、ここまでド田舎ではないにしろ。似たような雰囲気の場所だとお聞きしています。……今地いまじさんもまなぶさんと同じ出身ですか?



澪留:うん、同じ町だよ。

そもそも、ワタシの今地いまじとマナブくんの風神かぜかみとは、付かず離れずな関係を昔っから続けてきたんだー

何代か前のご先祖さまには、お互いの血縁が混じりあったこともあるみたいだけど。

今ではすっかり家同士の仲良しさんって感じかなー



絢乃:本当に歴史のある家柄なんですね……



澪留:あはは〜、そんな ご立派なもんじゃないよー

むしろ、寒原かんばらさんのほうが歴史があるんじゃないの?



絢乃:あー、たしかに二百年近く、この村の地主をしてるとは聞きます。けど、どうなんでしょう。

……アタシ、次女なので知らない事が多いんですよね



澪留:なるほど、次女さんなんだね。えっと、上は?お兄さん?お姉さん?



絢乃:姉です。すでにとついでいますが



澪留:なるほどね。きみのお家は早いうちにとつがせてしまうのが決まりなのかな?



絢乃:よく分かりましたね



澪留:うん、きみのお姉さんってことはワタシと歳が変わらないんだろうなーって思ってね。マナブくんとワタシは同い年だし



絢乃:……本当は、アタシも乗り気じゃなかったんです



澪留:マナブくんとのお見合いが?



絢乃:いえ、まなぶさんとではなくて。家のシキタリである一八歳から徐々に始める花嫁修業が、ですね。

お見合いは、その慣習の一つでしかないんですけど……



澪留:なるほどね。家のシキタリだったんだ



絢乃:……はい。

けど、まなぶさんはシキタリなんて関係ない。あなたと再会したかったから、この見合いの場をもうけてもらったんだ、と話してくれて。



澪留:あ〜、マナブくんなら言いそう〜

……ってことは、二人は元々面識があったのかい?



絢乃:えっと、二年前に一度だけですね。お酒の席だったんですけど……



澪留:へ〜、一度会ったきりで再会を望むほどとは。あのマナブくんがねー



N:カラダの関係──もといワンナイトがあったことは伏せて話したものの。察しのいい澪留みおるのことだ。何かしら勘づいている可能性はある。



澪留:まっ、寒原かんばらさん。

美人さんだし、マナブくんの面食いスイッチを刺激しなくもないよね!



絢乃:えっ、び、美人だなんて そんな……



澪留:学生の頃とかモテたんじゃないのー?



絢乃:えっ、そ、そんなことないわけじゃないですけど……



澪留:そっか、そっか〜

あ、ちなみに中学生時代のマナブくんは孤高の星だったよ。あの性格だからね。陰でモテても告白する子は少なかったかな〜



絢乃:そ、そうなんですね



澪留:しかもさ!告白を断るときのマナブくんの決まりゼリフがね。

ありがとう。気持ちは嬉しいが、答えられない。私は、国を守ることで手一杯だからな、とか言っちゃってさ〜

もう、こじらせ過ぎてて笑うよね〜



絢乃:……そんな若い頃から国を守る職になるって決めてたんですね



澪留:うん、アイツは誰よりも真面目だから。

兄弟の中で国防の職が務まるのは自分だけだ、とか言ってたからねー



絢乃:……今地いまじさんも、同じでしたか



澪留:うーん、どうだったかな。

まだ、中学生のときは漠然ばくぜんとしてたんじゃないかなー

いつかは、海に出るんだ〜くらいの。

……寒原かんばらさんはどんな中学生だった?



絢乃:アタシは、ひねくれてました



澪留:それは、反抗期だったから?



絢乃:それもありますね。

まあ、だいたいは姉と比べられている気がして、それに応えられる結果が出せないのが嫌で……



N:絢乃あやのは顔を俯かせるものの、すぐに顔をあげて笑う。



絢乃:自分勝手に、追い詰められていただけなんですよ



澪留:……そう。まあ、その年頃にはありがちなことだよね



絢乃:そうなんですよ。

反抗期をこじらせて、素直になれなくて。高校を卒業してから両親に内緒で都内に飛び出してみたり。

今となっては、本当にバカなことしてきたなーって……

お父さんも、お母さんも、ずっと心配してくれてたんです



澪留:……いいんじゃないかな



絢乃:え?



澪留:高卒とともに国防官こくぼうかんになったワタシが言えた側じゃないけどさ。

よっぽど仲の悪い家庭じゃない限り。親はどんだけ振り回したって、心配させたって受け入れてくれるものなんだよ。……特に、娘なんてのはカワイイからね



絢乃:そう、なんですかね。

(少し考えて)……まあ、そうですよね。じゃなきゃ実家に連れ戻されたりしないですもんね



澪留:あ、連れ戻されたんだ。いったい、どんな心配をかけたの?



絢乃:そうですね……、ちょっとだけシにたいなって思ってた時期があったんです。



澪留:えっと、それは……



絢乃:一年くらい前です。

まだ都内で暮らしていた時の話ですね。掛け持ちしてたバイト先の人と折り合いが悪くなって働きづらくて、だんだんと疲れちゃいまして。

それと、同時期にちょっと変な人にも目をつけられてストーカー被害に遭っちゃって……



N:妙な空気になる。

いくら諭の幼なじみと言っても絢乃とはハジメマシテの間柄。澪留みおるの人柄のせいで、話しすぎてしまったようだ。



絢乃:あ、えっと、すみません。つい、話しすぎて──



澪留:(顔を手で覆い)……おうふぅ……、予想より重い話だった。ゴメンね、軽いノリで聞いたりして



絢乃:あ、いえ、アタシのほうこそ。スミマセン。

なんだかんだ解決した話ですし、アタシも生きてますから。



澪留:いや、まあ。命あってこその物種とは言うけれど……

ちなみに、この話。マナブくんは知ってる?



絢乃:はい、知っています。すでにお話させてもらったことなので



澪留:その時、マナブくんはなんて言ってた?



絢乃:いえ、特に変わったことは話されてませんでしたね。そうか、辛い思いをしたな、よく逃げ出してくれた、だったかな?



澪留:ホント?急に刀を手入れしたりしてなかった?



絢乃:刀の手入れ?えっと、どうだったでしょう。……うーん、すみません、覚えてないです。もう、一ヶ月も前に打ち明けたことなので



澪留:なるほど、おっけー。あとで調べるよ



絢乃:何をです?



澪留:んにゃ、こちらごとだよ。でもまあ、セーフだね。また首の皮が繋がったよ



絢乃:あの、先程から斬られるとか、なんとか言われてますけど……



澪留:うん?ああ、ワタシなりのセーフラインだよ。

あんまり寒原かんばらさんの事情を知り過ぎると、マナブくんが怒るからね



絢乃:まなぶさんって、そんなに子供っぽいですか?



澪留:んにゃ、ワタシより大人だよ。むしろ、出来すぎる男かな。

ただ、色恋に関しては落第生……まあ、口下手な奴だからね



絢乃:あ〜、たしかに。

言われてみれば、そうですね。

よく黙ってしまう時間とかあります。それでも、アタシと居る時はよく話してくれますよ。ちょっと話し方が固いなって感じますけど……



澪留:そっか、そっか~。

まあ、マナブくんなりに頑張ってるんだろうね。あいつ、表情筋が一番 仕事しないけど~



絢乃:そうなんですよ!今は慣れたから大丈夫になりましたけど!

お見合いの時も、ずっと無表情でイヤイヤに来られたのかと思ったくらいですし。正直、気まずくってどうしよう、って感じで!



澪留:やっぱ、マナブくんらしいやw

てか、相手に気まずいって思わせる時点でお見合いとしては失敗だよねぇ

それもさ。弟くん達から聞いたけど。あいつ、軍服で来たんだって?いくら国防官の正装だからってないよな~



絢乃:たしかに、お見合い相手が軍人さんとは思ってなかったので驚きました。



澪留:誰だって思わないよ~

……国防官ってさ。基地とか駐屯地から出てこないし、よっぽど結婚 願望が強い人とか恋人をほっしてる人じゃないと出会える職じゃないって言えるからね〜



絢乃:じゃあ、アタシはまなぶさんと出会えたのはめずらしいと言えるのでしょうか……?



澪留:うん、とても。すっごく、めずらしいよ~



絢乃:心の声

《今、考えると。まなぶさんの軍服、かっこよかったな。あれから調べてみたけど、陸軍だけでも夏服とか作業服とかあるって見たし、諭さんが着てるところ見てみたいかも……》



澪留:心の声

《おやまぁ、寒原かんばらさん。表情がゆるんじゃって。何だかんだ、仲良くやってるのかな?》



N:本人のいないところで言いたい放題の絢乃あやの澪留みおる

今頃。まなぶ本人は、クシャミを連発して自身の体調 不良を疑っているかもしれない。



(間)



澪留:さて、そろそろのどいてきたんじゃないかな



絢乃:あ、そうですね。言われてみれば……



澪留:この公園に自販機とかあるかな?



絢乃:えっと、自治会の建物の中に三台と、遊具のある出入り口側に二台あります



澪留:自治会の建物は、あの瓦屋根かわらやねの?



絢乃:そうです



澪留:おっけー、ありがと。寒原かんばらさんは、なにが飲みたい?



絢乃:あっ、アタシは大丈夫ですよ



澪留:えー、奢らせてよ。お礼にしちゃあ安いだろうけど、話しに付き合ってもらってるしさ



絢乃:あー、なるほど?

えっと、じゃあ、お言葉に甘えて。微糖のミルクティーがあったらお願いします



澪留:微糖の?おっけー。買ってくるねー



N:すたこらと絢乃から離れ、自治会の建物へと向かった澪留みおる。その後ろ姿を見て──



絢乃:心の声

《まっずくな背筋……鍛えられたカラダつき……。同じ国防官なのに、まなぶさんとは似てない。海と陸って、どんな違いがあるのかしら……。》



N:ふぅ……、吐いた ため息は青く澄んだ空に消えていく。



(間)


──しばらくして。



絢乃:今地さんってば遅いなー、何してるのかしら……



N:スマホで時間を確認すれば、かれこれ一〇分は経っていた。

飲み物を自販機に買いに行くだけなのに時間をかけすぎている。

絢乃あやのは、ベンチから立ち上がった。



絢乃:ちょっと様子見ね



N:澪留みおるが向かった自治会の建物へと絢乃あやのも向かう。



絢乃:心の声

《もしかしたら、自販機の飲み物が売り切れてて他のところ行ってくれてるかもだし……確認はしておかなきゃ……》



N:こういう時に連絡先を交換しておけばさがしに行く手間もはぶけるのだが。たぶん、澪留みおるのことだ。まなぶのことを真っ先に考えたうえで、交換し合うことを拒否するだろう。




絢乃:……今地いまじさーん、いらっしゃいますかー?



N:そろり、少し重たい押し扉から館内へと入って老朽化ろうきゅうかで内側から盛り上がってしまっているビニール敷きの床を歩く。そして、受付から右に曲がれば自販機が備えられている待合室が見えてくるのだが──



澪留:あっ、いやぁ、観光ではないですよー?知人に会いに来ただけでして~

おっと、おかあさん。あんまり触られるとくすぐったいですから。ね?やめましょ?



絢乃:心の声

《あ、なるほど。これはいくら待っても無理ね。完全にお婆さんたちに囲まれちゃってる……》



N:角を曲がれば目的の人物がいた。

しかし、若い男がろくに残っていない田舎の村だ。

澪留みおるのような いかにも鍛えられたカラダつきで、健康というのが見てとれる若い男。しかも、整った顔立ちの男とくれば尚のこと、お年寄りの興味のまとになるのは致し方ないことだ。



絢乃:……今地いまじさん、飲み物ありましたか?



澪留:おっ、ああ!寒原かんばらさん!ごめんね~!



絢乃:心の声

《助けてって言いたそうな眼差し……》



N:澪留みおる絢乃あやのの存在に気づいて、名前を呼ぶ。

とすれば、お年寄りたちの視線は絢乃に移る。そして、質問責めという集中砲火を受ける羽目に。口々に この若い男とはどんなだ?どこで知り合った?もしかして、この前の見合い相手なのか?などとわいのわいのと騒ぐ。



絢乃:えっと、今地いまじさんはアタシのお見合い相手ではないです。お見合い相手の幼なじみさん であって。

その、今地さんとアタシの関係は……



澪留:ワタシたちは、友人だよね?



絢乃:そ、そうです!

今地いまじさんの立場は、しっかりした方なんですから!友人として誇らしいんです!



N:お年寄りからの包囲の目標でなくなったのをこれ良しとし、すぐさまに助け返す澪留みおる絢乃あやの澪留みおるがたんなる友人の関係だと知っても納得がいかないのか、まだ食い下がって根掘り葉掘り聞こうとするお年寄りたち。そこに助け舟が。



絢乃:あ、ムラタさん



澪留:(小声)……誰だい?



絢乃:(小声)……ムラタさんです。この自治会の建物を管理されている人で、村で唯一の不動産を営んでいるアタシのお父さんの旧友です



澪留:(小声)……なるほどね。お婆さんたちの扱いも慣れてるみたいだし、かなり顔が広そうだね



絢乃:(小声)……ええ。優しい人なんです。怒らせるとあれですけど



澪留:(小声)……あー、だからお婆さんたちが素直なんだね



絢乃:(小声)……そういうことです



N:ふたりがヒソヒソと耳打ちしているあいだに、ムラタさんから小言を受けたお年寄りたちは、澪留みおる絢乃あやのから離れて行った。ムラタさんが向き直って、すまなかったね。とだけ言い残して立ち去ってしまう。



澪留:わぁお、紳士的。かなりスマートな人だね



絢乃:ええ、愛妻家としても村では有名なんです



澪留:そっかぁ、あんな紳士な人と暮らしてる奥さんがどんな人なのか興味が湧くなぁ



絢乃:あー……、そうですね。一言で言うなら肝っ玉 母ちゃん です



澪留:えっ、意外



絢乃:お父さんから聞いた話では、ムラタさんって外では紳士的な人ですけど。家の中ではダラしないらしいですし



澪留:あ~、そっかそっか。押しの強い人に引っ張ってほしいタイプなわけだ



絢乃:たぶん、そうです



N:言いたい放題はどちらなのか。根拠のないネタで盛り上がるのは、年齢なんて関係ないのだろう。



(間)



澪留:いやぁ、まさか 部屋を貸してもらえるなんてね



絢乃:本当ですね。ムラタさんにも気を使っていただいて



澪留:本当、感謝だね。

人の目とか気にせず話せるから有難いな〜



N:外に出ようとしていた二人を呼び止めたムラタさんは、先程のびとでも言うのか管理人室の鍵を開けてくれたのだ。

古めのエアコンからは部屋をがんばって冷やそうとしている風を出しており、モーターが微かな音をたてている。小上がりの畳の上に脚の短いテーブルが置かれているので、それを挟むように向かい合って座っている絢乃あやの澪留みおる



絢乃:心の声

《なんだか、デジャブというかなんと言うか。お見合いの席みたい……》



N:澪留みおるに奢ってもらった飲み物のペットボトルを指先でいじりながら視線を迷わせる絢乃あやの

澪留みおるは、テーブルに肘をついて手の甲にあごを乗せた。



澪留:それでね。寒原かんばらさん



絢乃:あ、はい。なんでしょう



澪留:いろいろ話さなきゃいけないって前置きしたけどさ



絢乃:あ、はい、そうですね……



澪留:うーんと、捕って食いやしないからさ。緊張しなくてもいいんだよ?



絢乃:えっと、はい。だ、大丈夫なので。お話、続けてください



N:改まって引き締まった場の空気に絢乃あやのが顔をこわばらせる。それを見て澪留みおるは、笑う。クスクスと口元を手で隠して。



澪留:うん、じゃあ。話というより お願い になるのかな



絢乃:お願いですか



澪留:うん、お願い。

……ひとつ、何があっても国防軍人として責務を果たしたマナブくんを責めないでほしい。

強い心で許してほしい



絢乃:つよい、こころ?



澪留:うん、強い心。ものすごくアバウトで分かりにくいかもしれないけど、かなり重要なことなんだ



絢乃:えっと、どうして。心の強さが大事なんでしょうか



澪留:どうしてだと思う?



絢乃:えっ、えっと、えっと……

(顔を俯かせて)……ごめんなさい。分からないです……



澪留:うーん、たずね方を変えるね。

寒原さんからして、国防軍人ってどういうイメージかな。

……恐ろしい存在?危険な集団?



絢乃:あ、えっと……

アタシが思うに、国防官さんは紛争地や被災地を助けてくれる存在です。

……正直、この年齢になるまでまなぶさんや今地いまじさんのような職業の人と関わることがなかったんです。ニュースで騒がれてるような事件に巻き込まれることも、被災することもなかったですし……



澪留:ふむふむ、前時代な答えだね



絢乃:……前時代?



澪留:あ、ごめんね。

別に否定しているわけじゃないんだ。ワタシだって、当事者じゃなかったら 寒原かんばらさん みたいな感覚だったろうし、助けてくれる存在って思ってくれてる人がいるなんて、今の時代、めずらしいしさ



絢乃:そうなんでしょうか……

アタシの周囲の人は、だいたいがそう言った考えの人ばかりな気がします



澪留:そっか、国防軍人の一人として嬉しい限りだね



N:絢乃は、顔を俯かせてしまう。

澪留みおるも少し黙って、ペットボトルのお茶を飲んだ。壁時計の針が進む。



澪留:……あ、ほら、例えで言っちゃったけどさ。

今の新しい組織になってから、ワタシら、国防官ってのは危険な集団だと思われているんだ。国の存亡そんぼうを任されている組織なわけだから、常日頃から銃とか刃物とか扱えるように修練を積んでいるし……

言い方を変えれば、人を殺す方法、命の奪い方を身をもって知ってる



絢乃:……け、けど、それと心を強くすることはどう繋がるのでしょうか



澪留:寒原さんの言葉を借りるなら、国防官は助けてくれる存在なんだよね?



絢乃:はい、そう思っています。



澪留:けどね。マナブくんは寒原かんばらさんのことを助けに行けないよ



絢乃:……あっ……



澪留:理解してくれたみたいだね



絢乃:……はい。つまり、今地さんがおっしゃりたいのは、国防官と近しい関係になったら期待してはいけない。

他の人の救助を優先することは責務であり、もしかしたら生きた状態では二度と会えなくなる。……それらを許せる心であれってことですね。



澪留:うん、大正解。

でも、まあ。正直なところ、国防官も人間だからね。身内が被害や被災したって分かったら、ほっぽり出して助けにいきたいよ。けど、国防の名の下では駒でしかない。ただ、無事でいてくれ、生きていてくれ、死にたくない。と心の中で叫ぶしかできないんだ



絢乃:……そうですよね……



N:絢乃あやのは、澪留みおるの言葉を噛みしめた。今のところ、まなぶと過ごせる日々を平穏だと思っている。しかし、いずれ。いつしか、そういった『別れ』が来るかもしれない。自覚していなかった分、じわりじわりと嫌な想像が心を侵食する。



澪留:……とまあ、重い話になっちゃったけどさ。国防官と近しい関係になるって覚悟がいるんだ。

だから、寒原かんばらさんにはそれを知ってほしくてさ



絢乃:いえ、大丈夫です。アタシも、今の環境に甘えていたので



N:真っ直ぐな眼差しで澪留みおるを見つめ返す絢乃あやの。その眼差しに微笑ほほえむ。



澪留:……あ、そうそう。お願い事は もうひとつあるんだ



絢乃:え、はい。なんでしょうか



澪留:覚悟が必要っていったけど。次は、逃げる勇気ももってほしいんだ



絢乃:逃げる、勇気?



澪留:うん。さっきも言ったけど、国防官って人の命を奪う方法を知ってる。だから、傷つけあって心がボロボロになってしまうこともある。

ワタシに至っては、正式な国防官になって五年目なんだ。


(間)


澪留:けれど、その五年間に仲間のふねや海を荒らした国のふねが煙をあげて、炎に巻かれて、海の中へと沈んでいくのを見た。すべて、この目で見届けたことなんだ。

直接ではないにしろ、ワタシが奪った命、失うことになった未来なんだ。



N:静かな声で語る澪留みおる

絢乃あやのは、なんて言葉を返すのが正解なのか分からず息を呑んだ。



澪留:……だから、何かと耐えて過ごしているから ヒトを傷つけまいと立ち振る舞うんだ。

特に、マナブくんは理性でがんじがらめに耐えようとする。

けど、その凝り固まった心をほぐせる人が必要なのも確かなんだ。けれど、場合によっては火に油。慰めようとした側が身の危険に繋がるかもしれない。だから──



絢乃:逃げる勇気をもつ、ですね



澪留:うん、そういうこと。

今後さ、寒原かんばらさんがマナブくんと近しい関係じゃなくなっても。

ワタシが話したようなことって人間関係には大切な要素だと思うんだ。

だから、自分を気にかけてくれる人のことは大事に。そして、自分のことを愛してあげてね



N:やはり、澪留みおるは優しく穏やかな笑顔を浮かべた。絢乃あやのは思ったのだった。



絢乃:心の声

《ああ、優しすぎる人。こんな人がアタシの生きている国の海を守っている。

陸には自他ともに厳しいけれど、やっぱり優しい人が駆け抜けて救ってくれている。

……アタシは、そんな人達と出会えている。気にかけてくれる人を大事に。自分を愛せるように、ね。》



(三秒くらいの間)



──その後。


澪留:いやぁ、結局。だいぶ、長いこと話し込んじゃって悪かったね



絢乃:いえ、とても学びになりました。ありがとうございます



澪留:いやいや、こちらこそ付き合ってくれて ありがとうね。



絢乃:……今地いまじさんは、また海に出られるんですか



澪留:うん、指令が下りたら出るよ。何せ、ワタシは《海の男》だからね



絢乃:そうですよね。……ご武運を



澪留:うん、ありがとう。

寒原かんばらさんも、元気でね。それと……あ、いや。なんでもない。今日は楽しかった!じゃあね!



N:澪留みおるは、フルフェイスのヘルメットを装着し、夕暮れ時の村を颯爽さっそうとバイクで走り出した。

その姿が視野から消えるまで絢乃あやのも見送った。



絢乃:あの人が、まなぶさんの幼なじみさん……

(スマホが震える)あれ、着信?誰からだろう ── はい、もしもし。



N:着信の相手は、まさかのまなぶだった。

元気か?から始まる世間話と、今日は何をしていた?という問いに対して、嘘が下手くそな絢乃あやのは、根掘り葉掘り何があったのか報告させられた。

──後日。まなぶ澪留みおるの実家がある北関東の とある町では……



澪留:うおわぁ!!マナブくん!!それは、ダメだと思うんだ!!あ、いや、黙ってキミの想い人に会いに行ったのは反省してますから!!

その、改造した木刀を振り回して追いかけてくんのは勘弁してぇえぇ!!!!



N:騒々しく声を張って逃げ惑う今地いまじ 澪留みおると、改造した木刀(五キログラムのおもり入り)を振り回して鬼の形相で追いかける風神かぜかみ まなぶ

そんな二人をドン引きしつつも、長兄ちょうけいの怒りに怯える風神かぜかみの弟たちの姿があったそうだが……。──そんなこと、絢乃あやのが知るよしもない。



(間)



澪留:語り

『余計なお世話だと思った。

だから、立ち去るときに言いかけたことは飲み込んで、心の内に仕舞っておく。大丈夫だ。あの子なら、ワタシの不器用な幼なじみを任せられる。そう、確信した。芯のある子だから、不器用なアイツもそういうところに惚れたんだろう。……おふたりさん、幸せになってね。』



絢乃:語り

『捨て身の覚悟で国防してくださっている人たちがいる。

そんな人たちが、どれほど危険なことと隣り合わせなのか。

アタシの想像できる範囲では薄っぺらくとぼしいもの。……アタシは、アタシを想ってくれる人が心をコロさずにいられるようにしてあげたい。癒せる立場になりたいと思ったのです。──強くなります。覚悟と勇気を抱いて。』



【番外】待ち伏せ編


〜おしまい〜





台本公開日

2022年9月19日(月)



どうも、瀧月です✨

主役ふたりが【すれ違い編(全4話)】でおさまるところにおさまったので、とりあえず箸休めな番外台本を投稿していきます。今後とも、不機嫌シリーズをよろしくお願いします🙇⤵︎

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