三人用/【長電話編】

この台本は【長電話編】となります。


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▶始めに

・台本の自作発言、作品の転載、登場キャラクターの性転換、台本の内容が壊れるような行為は禁止です。

・使用されるときは、不特定多数の目に入るところ(コメント欄やキャプションなど )に『台本タイトル』『作者名』の明記めいきをお願いします。


・そのほかの細かい お願い事は【台本利用上のお願い】のページ(▶https://kakuyomu.jp/works/16816700427787953461/episodes/16816700427788115278)を読んでください。


出会いの話は【親の言いつけで〜破談ですよね。】という劇台本です。


そして、当台本は 不機嫌シリーズ3作目です。


"見合い後、実家にお泊まりがあったと思いきや初めての長通話…何を話せというの……!?" となります。

前作(【お泊まり編】)、前々作(【お見合い編】)と併せて閲覧(もしくは上演)して頂けるとより楽しめると思います。


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【上演時間(目安)】

30分ほど


【比率】

♂ 1:♀ 1:不問 1の3人用


【配役表・キャラ紹介】

寒原かんばら 絢乃あやの

22歳/とある村の大地主の次女

▶喜怒哀楽がはっきりしているが、押しに弱いのが残念。ニイガタ美人。

見合い相手と交流を続けるうちに相手との関係をどうするべきか頭を悩ませている。



風神かぜかみ まなぶ

24歳/国防陸軍 所属の幹部士官(階級:少尉しょうい

▶常に不機嫌な顔つきで、話し方もぶっきらぼう。それでいて、不器用。

怒り爆発⇨ブチギレる と相手 関係なしに『貴様(貴様ァ!)』と言う。しかし、怒りが落ち着くのも。冷静になるのも早い。



不問 N(ナレーション)

長文が読む得意な人にオススメな役。この役なきゃ台本が回らない。


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劇タイトル

▶ロングバージョン

『不機嫌なお見合い相手と、通話をすることになりました。何を話せと言うのでしょう?』


▶ショートバージョン

【長電話編】


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【台本 本編】



絢乃:あ、もしもし……お疲れさまです


諭:ああ、お疲れさん。久しぶりだな



〈〉


絢乃:語り

『イヤホン越しに聞こえる相手の声。ぬくもりとかはさすがに届かないけれど、聞き慣れてしまった低い声が。淡々としているのに優しい声が耳の奥を伝って、胸のうちをじわりと熱をもって揺さぶられる。この気持ちはいったい何なの?』



諭:語り

『画面越しにいる動く彼女。

直接、触れたいと心が騒ぐ。画面に向けて、指を伸ばして彼女の輪郭りんかくをつるりと撫でる。冷たくて、物理の壁を嫌でも感じる。ああ、会いたい。貴女あなたに触れたい。

だが、今しばらくは我慢せねばならない。休みが取れれば、真っ先に会いに行こう。』



(間)


──2076年の夏頃(文月の頃)。


N:寒原かんばら 絢乃あやのの実家に、風神かぜかみまなぶがお泊まりした一夜から三週間が経った。

寒原かんばらの母親の陰ながらの応援と根回しによって確実に二人の関係は変化していた。何せ、チャットを送り合うことが増えたからだ。

──しかし、今夜の絢乃あやのの表情は暗いようだ。




絢乃:うぅ……、無理だよぉ……アタシ、通話とか馴れた人じゃないと緊張しちゃってしゃべれないのにぃ……



N:絢乃あやのは、鬱々うつうつとした様子で顔をせていた。

欠けたリンゴのマークで有名なメーカーのスマホを脚の短いテーブルの上に、画面をせた状態で置いてある。



絢乃:たしかに、最後に会ったのが三週間前だからって……

声を聞きたいから通話しようって……

何を話せって言うのよ!まなぶさんの、イジワルっ!!



N:これから通話しようという相手を思って頭を悩ませるあたり、よっぽど緊張しているのだろう。

しかし、無情にもチャット受信したのをしらせる通知音が鳴る。



絢乃:ッ……、やっぱ、予定が入ったから通話ナシとかにならないかなぁ……あ、はい。ならないですよねぇ



N:落胆らくたんして、送られてきたチャットの内容にため息をらした。こんなにも、嫌がられてるとはメッセージの送り主は知るよしもない。



諭:チャット[こんばんは、絢乃あやのさん]

諭:チャット[こちらの用意は整った。そちらはどうだろうか?]



絢乃:いつ送られてきても、かたい文面のメッセージ。

……これ、ダメです、って返したら余計な心配させるよね……



N:ちょっとした意地悪なメッセージを返そうとしたものの、打ち込むのをやめて 大丈夫です。とだけ返信した絢乃あやの



諭:チャット[了解。では、通話をかけさせてもらう]



絢乃:わっ、早っ!本当にかかってきた!……んんっ、よし!腹はくくって!応答、と。

──あ、もしもし……お疲れ様です



諭:『ああ、お疲れさん。久しぶりだな』



絢乃:そうですね



諭:『……』



絢乃:……



諭:『えっと、だな。絢乃あやのさんは、自室にいるのか?そちらの天気はどうだ』



絢乃:え、はい。自室です。

えっと、天気は……ちょっとだけ雲の動きが早いですけど、晴れてはいますよ



N:カララッ、窓を開けて二階部分から見上げる夜空。三日月が輝いている。いくつもの星がキラキラと瞬いており、都会と違った雰囲気なのを感じる絢乃あやの。イヤホン越しに、そうか。という短い返事。



絢乃:……その、まなぶさんは基地にいらっしゃるんですか?



諭:『私か?いや、今は北関東の実家に戻って来ている。実家の方面にある駐屯地で済ませなきゃいけない用があってな』



絢乃:あ、そうだったんですね。お疲れ様です。

……その、まなぶさんのご実家って勝手なイメージですけど広いのかなって思ってます



諭:『広い?ああ、まあ。広いほうではあるかもな。

日本家屋にほんかおく主屋おもやで、祖父が大切にしている植木の庭があって、離れの建物、見るからに古い蔵もある』



絢乃:日本家屋にほんかおくですか。それって、だいたい平屋ひらやが一般的ですけど……



諭:『よく分かったな。

そうだな……、例えるなら国民的なアニメで有名な家族が暮らす建物を想像してくれればいい。

まあ、部屋数はそれ以上だがな』



絢乃:そんな大きなお家を管理するって大変じゃないですか?

アタシのとこも、お父さんが山の使用料とか。

あとは、不動産の家賃やらの収入で何とかやりくりしてるって話してたことがありますし



諭:『たしかに、管理は大変だろうな。だが、風神かぜかみの男らが受け継いできた土地なんだそうだ。だから、祖父も父も頑張ってくれている。

この地を離れないのは、土地代が他県より高くないってのもあるな』



絢乃:あー、なるほどです。

都会よりはマシだって、アタシのお父さんも話してました



諭:『そうか。家長かちょう殿どの……、貴女のお父上も管理するにはひと苦労だろうな』



絢乃:ええ、アタシが男だったら受けいだりしても親戚から とやかく言われないのでしょうけど……



諭:『絢乃あやのさん、性別なんて関係ない。そんな前時代ぜんじだいな発言するやからはほっとけばいい。

……所詮、親戚なんだ言っても他人だ。私が言うのも何様だって話だが、絢乃あやのさんが相続について学びたいなら、そうすればいいと思うが?』



絢乃:……そう、ですよね。

でも、すみません。せっかく背中を押しくださったのに。

アタシ、難しい話は得意じゃないんです。あと、ここの土地を受け継ぐのはお父さんの兄弟のお子さんっていう話が決まっているので



諭:『そうか。受け継ぐ人が決まっているなら仕方ないな。

……いずれ、管理ができずに手放すことはあるだろうが気負うことはないさ。難しい話だからな』



絢乃:ええ、親戚とは仲が悪いわけじゃないので。いろいろ大丈夫だとは思います



N:これ以上、話を追求するのは無粋ぶすいと思ったまなぶ。だとイイな、とだけ短く答えたのだった。それっきり話が途切れてしまい一分半くらいの沈黙。

まなぶは、用意していた緑茶を飲んで何を話すかと考えていた。すでに室温に戻ってぬるくなっている。すると絢乃あやのが──



絢乃:……あ、その、話を戻しちゃうんですけど。まなぶさん、今は主屋おもやに居るんですか?



諭:『ん?いや、主屋おもやにはいない。

……前にも話したが、私を含めて五人兄弟でな。それぞれの自室をあたえると主屋の部屋だけでは足りないし、手狭になる。

だから、あまり実家に帰らない私なんかは離れの建物で寝泊まりしている』



絢乃:じゃあ。今は、その離れの建物でおひとりですか?



諭:『いいや、居間のほうでけいいつきが……、えっと、次男と四男がテレビゲームをしているはずだ』



絢乃:心の声

《初めて弟さんたちの名前を聞いたわ。メモとっておかなきゃね。えっと、イツキさん、ケイさん……どっちがどっちなのかしら……》



諭:『絢乃あやのさん?なにか、書き物でもしているのか』



絢乃:あ、いえ!なんでもないです。

その、いいですね。ゲーム。

同じ趣味があるだけで兄弟での年齢差も感じないって聞きますし



諭:『そういうものなのか』



絢乃:らしいですよ。

その、まなぶさんはゲームとかはされるんですか?



諭:『いや、私は誘われたらって感じだな。率先として、何かをプレイしようとは思わないな。どっちらかと言えば、ボードゲームのほうが得意だ』



絢乃:そうなんですね



絢乃:心の声

《ボードゲームね。お父さんとも将棋してたし、納得ね。……テレビゲームには、興味ない、と。

でも、想像どおりだったかも。まなぶさんが画面とにらめっこしてカチカチしてるのは……ちょっと面白いわね……》



N:脳内でテレビゲームするまなぶを想像して小さく笑う絢乃あやの



諭:『えーっと、ああ、そうだ。最近は、何をしているとか聞いてもいいか?』



絢乃:最近、ですか



諭:『そうだ。私のほうは、相変わらず任務と演習ばかりで面白みがないしな。まあ、話せない事柄も多いから絢乃あやのさんの最近はじめたことでもあるなら──』



絢乃:その、バイトを始めました。週三日の四時間から六時間 程度ですが



諭:『バイト?……こんなことを言っては失礼だとは思うが、働くようなところがあったのか?山に囲まれた農村地帯だよな』



絢乃:ふふっ……ほんと、失礼ですね。一応、ありますよ



諭:『そ、そうか。すまない。

とても貴女が商店街で働いてるとは想像できなくてな』



絢乃:たしかに、商店街は昔ながらの村民さんが頑張ってる場所ですから



諭:『どんな、業種か聞いても?』



絢乃:接客ですよ。

えっと、村おこし事業で地産地消ちさんちしょうがテーマのカフェが始まったんです。民宿みんしゅくとも共同の企画なこともあって、役所の人たちも気合が入ってて……

あ、役所の隣の敷地に新設しんせつされたんですよ。

で、先週からオープンスタッフとして働き出してて



諭:『そうだったのか。カフェでは、どんなものを提供してるのか聞いても?』



絢乃:まだ厨房ちゅうぼうでの立ち回りは任されてないんですけど……、果樹園かじゅえんれる くだものを使った飲み物とか、デザートとか、サンドイッチ系の軽食も食べられるんです




諭:『そうか。それは、とても興味がそそられるな』



絢乃:あ、えっと、それは来店することがあるってことですか?



諭:『ああ、嫌じゃなければ貴女がバイトの日にでも顔を出したい』



絢乃:えっ、そんな!

わざわざ、アタシが働いてる日を選ばなくてもいいですよ??



諭:『む?嫌なのか。私は、貴女が働いてる姿を見ておきたかったのだが』



絢乃:だっ、だって……



諭:『だって?なんだ、絢乃あやのさん』



絢乃:心の声

《制服のデザインがアタシに合ってるって自信もって言える状態じゃないから見せるなんて……

そもそも、せっかく都内から来てくれてもアタシがバイトの日なんかに来たら一緒に居られる時間なんてないし……、

そんな勿体もったいない ことしたくないし、……まなぶさんと少しでも居たいだけで……》




絢乃:…って、なによ!この感情っ!!



諭:『おーい。絢乃あやのさん、さっきから変だぞ』



絢乃:え、あ、ごめんなさい。

ちょっと考え事に熱が入ってしまって……



諭:『(ため息)……わかった。』



絢乃:ま、まなぶさん?



諭:『行かない。私に、仕事している姿を見せるのが嫌なのだろ?』



絢乃:えっ、いや、そうじゃなくて



諭:『何が違うんだ?あからさまに、口数が減った話題だったろ。なら、いいさ。残念ではあるがな』



絢乃:待ってください!そうじゃなくて!



諭:『かわりに』



絢乃:えっ、はい



諭:『バイト先の制服姿を見せてくれ。写真でも、いっそビデオ通話に切り替えてもいい。

私は、すでに見合いの席で軍服姿は披露してるしな。次は、絢乃あやのさんの番だ』



絢乃:えっ、え?



諭:『どうした?私は、変なことでも言っているか』




絢乃:心の声

《十分、変だし!突拍子がないです!!って大声で言いたい!!》




諭:『なんだ?だんまりか。せっかくの妥協案だきょうあんも嫌か。だとしたら、この折れた心は誰が直してくれると──』



絢乃:うぅ〜〜〜!!わかりました!!着替えてきます!!




N:まなぶの無茶ぶりすぎる提案に絢乃あやのは、キレ気味な声で返答し、程なくして音声がミュートにされる。

別に着替えてる間の音声を届けてくれても構わない。それが、まなぶの本音であった。



(間)



──風神 諭side──



諭:心の声

《なーんてな、意地悪がすぎたか。まあ、本気の拒絶じゃないってのは伝わってくる分。ちょっとしたからかいだったわけだが……》



N:通話を繋げているパソコンの前で伸びして、相手が戻ってくるのを待っているまなぶ

すると、廊下と室内をへだてているふすまの前がやたらと騒がしい。




諭:なんだ?(立ち上がり)

……おいっ、うるさいぞ!何を騒がしくしてるんだっ




N:ミュートを忘れたまなぶは、パソコンの前から立ち上がり、廊下へと声を響かせた。

そこにはまなぶの弟である次男と四男が居た。兄さん、アニキと呼んでから口々に言い訳をしだす。



諭:……ほぅ?テレビゲームを五本勝負で三本先に負けたほうが明日の蔵の掃除をするという名目で対戦していたと。

けれど、最後の勝負が引き分けだったから四戦目に負けたけいがやるべきだと、いつきは主張するんだな?



N:長身で細身のタレ目が特徴的な優男やさおがうんうん、うなずいた。彼が次男のいつき

その隣に身長こそ、この場の三人の中で一番低く猫目の童顔というアンバランスな顔つきの青年が四男のけい。不満げである。『それでさ!アニキは、どっちがやるべきだと思うの!』と四男は声を張る。



諭:(ため息)……ムダな言い合いに時間を使うな。おい、いつき。貴様、明日は休みとか言ってなかったか?



N:まなぶの問いかけに『僕にもやることがあるんだよ……』と答える次男。それに対して『ウソツキ!寝てたいだけのくせに!』と噛みつく反応を見せる四男。ため息をこぼす長男のまなぶ




諭:わかった。わかったから騒ぐな。……もう、二人でやりなさい。一人でやるより何事も協力し合うことで、早く終わらせることができるはずだ




N:廊下に響く二人のえーー!の不満げな声。まなぶ眉間みけんにシワがよる。




諭:だから、騒ぐな!!素直に協力しあうのなら小遣いでもやるつもりだったが、その気も失せたからな!!




N:四男が目を見開いて『うっそ、マジかよ!先に言ってよ、アニキ!』と言う。諦めの悪い次男が四男に耳打ちした。それを聞いて、何か気付いたような顔をする。




諭:ほら。話が終わったなら、解散しろ……ん?なんだ。もう、小遣いはやらないと言ったはず──




N:四男は、謝りつつも指摘した。『なんかの配信でも見てんの?さっきから呼ぶ声が聞こえてるけど』と。

まなぶは、ヤバいといった引きつった顔をする。次男がニヤリと口角あげ、まなぶ退けパソコンの前へと立つ。



諭:やめなさい!いつき

って、おい!けい!貴様は、私に抱きついてまで動きを止めるなっ!!



N:ニヤニヤしながら次男がパソコンのカメラ機能をオンにした。パッ…と画面半分が映像に切り替わる。

絢乃あやのの端末には、見知らぬ優男やさおふすまの前で揉み合っているまなぶと青年が映っている。戸惑いつつも声を発する絢乃あやの



絢乃:『え、あの、こんばんは?』



N:テンションが爆上がりして『わぉ!女の人じゃん!』と次男。まなぶと手押し相撲ずもうみたいな事になっている四男が『マジか!』と食いついた。



諭:いつき!余計なことをするな!!けいっ、貴様!いい加減に離さんかっ!!



絢乃:『えっとー、すみません。まなぶさん。これは、どういう状況ですか?』



諭:それはっ、このアホの二人から私が説明を願いたいくらいだっ!!



N:いたずらっ子みたいにニヤッと笑って腕に力を込める四男。

まなぶも負けじと足を踏ん張るが、靴下をはいているせいで畳の上をすべっていく。笑みを浮かべた顔で黙っている次男。



絢乃:『えっと、これはアタシもビデオ通話に切り替えたほうがいいですか?』



N:黙っているものの、ホント?見れるの?みたいな反応をみせる次男。あせった様子で声を張るまなぶ



諭:絢乃あやのさん!いい!切り替えるな!!



N:めずらしく感情が顔に出ているまなぶを見て、次男が『もう、兄さんってば水くさいな〜。良い人ができたらなら報告してくれればイイのに〜』とからかう。話に食いつく四男も『ホントだよ!いつの間に知り合ったの!職場の人?!』と反応した。



絢乃:『いえ、アタシはまなぶさんとはお見合いの席で知り合っただけで……』



諭:絢乃あやのさん、ストップ!律儀に答えなくていい!!



N:次男と四男は、『兄さん(アニキ)がお見合い!??!』という反応をした。めったにまなぶが所属の基地から戻って来ないこともあって、近況など知らななかったのであろう。



<>



諭:心の声

《冗談じゃない。

こんなかたちで、絢乃あやのさんを知られることになるなんて!父さんと母さんには見合い相手と交流を続けているむねは話してあったが、弟たちには一切、話していない!!》



<>



絢乃:『……なんで、そんなに嫌がるんですか。アタシって、紹介したくないくらいの相手ってことでいいですか?

じゃあ、こんな通話もおしまいにして──』



N:絢乃の言葉に、ビデオ通話になっている側がこおりいた。

だが、その瞬間。

ぐぇっ…と情けない声が響く。まなぶが組み合っていた四男を投げ技で畳の上へと叩きつけたのだ。四男は受け身をミスったのか気絶した。

まなぶの変化を察した次男は、表情をこわばらせる。



諭:いい加減にしろ。

……いつき。これ以上、私を怒らせるな



N:何とも、冷えた怒りである。

次男は、四男の後ろ襟首を掴んで部屋から出て行く。脱兎のごとく。

閉められたふすまの音を合図に、深呼吸したまなぶがパソコンの前に座る。カメラ機能がオフにされるも、すぐに音声が返ってくる。




諭:……絢乃あやのさん



絢乃:『……なんですか』



諭:すまない。さきほどは、貴女を傷つけるようなことを言った



絢乃:『……別に、傷ついてなんかいません』



諭:本当にすまない。

家族に貴女を紹介したくないなんて微塵みじんも思っていない



絢乃:『なら、どうして……』



諭:見ててわかっただろうが、遠慮がない奴らなんだ。

私がこんな性格だから、騒ぐだけ騒ぐ弟らの発言で絢乃あやのさんに失礼があってはと思った



絢乃:『そう、ですか……』



諭:……絢乃あやのさん。

本人たちは追い出したが、さっきまで居たのが次男と四男だ。

正直な話、あの二人はお調子者でな。それゆえに私なんかより他人との関わりに慣れている。自分らの顔が整っていることを理解しているからズル賢い奴らだ。

だから、そんな弟たちと貴女が話をすれば打ち解けるのも早いだろう、というのは明確な事実……

私は、そうなることが気に食わんのだ……



<>



絢乃:心の声

《これ、喜んでいいのかしら。

つまり、まなぶさんはヤキモチみたいな感情になるまえに弟さんたちを追い出したかったってこと、よね。

でも、弟さんたちにもヤキモチするなんて子どもっぽいのね。なんか、強く言われて、ちょっと悲しかったけどどうでも良くなっちゃった。

むしろ、気になるのはまなぶさん、アタシのこと本気なの……?》



<>



N:やはり、沈黙してしまう。

まなぶは、通話を音声のみに切り替えてからは頭を抱えている。気まずい、と声に出さないがモヤモヤとした心持ちで絢乃あやのが話し出してくれるのを待ってみた。




絢乃:『あの、まなぶさん』



諭:ああ、なんだ?



絢乃:『まなぶさんは、アタシのこと本気なんですか』



諭:本気、というのはどういうことだ?



絢乃:『お見合いの席でも、アタシの実家にお泊まりしてくれた日も話してくれましたけど。

まなぶさんは、アタシのことがとても興味あるっておっしゃっていたので……その……』



諭:ああ、そういうことか。



(間)



諭:……私は、絢乃あやのさんをいている。常に愛おしいと思っているし、許してくれるなら気持ちを伝える以上のこともしたい



絢乃:『そ、そうですか』



N:まなぶの真っ直ぐな告白に頬が熱を持ち、赤面する絢乃あやの。今の顔が見られていないことを安堵あんどする。ビデオ通話のモードにしなくて正解だったと振り返った。




諭:だから、貴女の些細ささいな表情をこの目で見ていたい。

だからこそ、貴女の働く姿やバイト先の制服姿なんかも見てみたいと思ったのだ




N:原点回帰(?)

弟たちの乱入さえなければ、今ごろは絢乃あやのの制服姿をおがめていたはずなのに。悔しさをにじませるまなぶ

絢乃あやのは、ハッとした。まだバイト先の制服のままであることを思い出した。ビデオ通話になるかもしれないと待機していたからだ。



絢乃:『あの、まなぶさん』



諭:なんだ?



絢乃:『見たいですか。アタシの制服姿』



諭:あ、ああ。見たい。見してくれるなら



絢乃:『じゃあ、少しだけですよ?』



N:立ち上がる音のあとに、画面が映像に切り替わった。

姿見の前でスマホを向けている絢乃あやのが映し出される。

まなぶは、無意識に喉が鳴ってしまう。



絢乃:『ど、どうですか?この上にエプロンを巻くんです。えっと、まだ新しい布地で着慣れてないので動きづらくはあるのですけど……』



N:指先で膝がギリギリ隠れるくらいのたけで、藍色あいいろのプリーツスカートをつまんでいる絢乃あやの。丸襟のワイシャツ、空色のリボンタイが若者らしさをあらわしている。

つるり、画面越しに絢乃あやのの腰から下を指でなぞるまなぶ



諭:心の声

《なるほど、若者向けな制服だ。……細身の女性に合うようなデザインだし、男性ならネクタイでスラックスなのだろう。にしても、スカートか。……絢乃さんのキレイな脚が他の人の目に晒されるのは少々、気に食わんな》



<>



絢乃:『まなぶさん?見えてます?』



諭:ああ、見えている。とても似合っているな



絢乃:『ありがとうございます。……あの、まなぶさんって、アタシが着るものって必ず褒めてくれますよね』



諭:ん?変だろうか。実際、似合っているからな。

……だがな、絢乃あやのさん



絢乃:『はい、なんでしょう』



諭:制服姿は、とても似合っている。だが、私としてはその格好かっこうを他の人には見せたくないのが本音だ。

スラックスとかではダメなのか?



N:諭から真面目な声で、スカートはやめてほしいというダメ出しを受けた絢乃あやの。自分がどれほど恥ずかしいことを言ったのか、後々で自覚したまなぶは何かを言いかけたが──




諭:あ、いや、今のは──



絢乃:『ぷっ、あははははっ……』



N:スマホが床に置かれたのだろう。映像は真っ暗になってしまうが、大笑いしている絢乃あやのの声ばかり返ってくる。




諭:笑わんでくれっ、私とて間違ったと思ったのだっ



絢乃:『いえ、その、すみません……w』



諭:(ため息)……面白いと思ってくれて、結構だよ



絢乃:『(咳払い)……笑ったりして、すみません。お父さん以外の異性の人から足をさらさないでほしいって言われたのは初めてで。……さて、お披露目は終わりです。切り替えますね』



N:テレビ通話から音声通話に切り替わる。まだクスクスと笑っている絢乃あやの

居心地の悪いまなぶは、普段以上に眉間にシワがよっている。つまりねた。



絢乃:『制服のこと、店長に話してみますね。この時期の店内って冷房がかかってるから寒くて無理です〜ってお願いすれば角が立たないと思うので』



諭:……聞かなかったことにしてくれてよかったのだぞ



絢乃:『いえ、私も出勤するごとにタイツとか履くのは手間だったので助言として受けとめます』



諭:そうか……



<>


諭:心の声

《こんなはずじゃなかったのに。

こんなでは、私が凄く嫉妬深いやつみたいではないか。精神的に重いと思われるのは本心ではないのだがな……》


<>



絢乃:心の声

《こうやって、まなぶさんからの感情を受けると何だか胸の中がいっぱいになるのはどうしてかしら。

アタシのほうこそ、まなぶさんのことが気になっているの?これって、なんて名付ければいい気持ちなの?》



<>



N:お互いに黙ってしまう。

気持ちの高鳴りだけが、耳に届く。かと思いきや。廊下がやたら騒がしく、そのあとにふすまが内側にバッタァーン!と倒れた。絢乃あやののほうにも大きな音として届いており、驚く。



絢乃:『え?な、なんの音ですか?まなぶさん、大丈夫ですか!』



諭:……貴様らァ



N:絢乃あやのの心配を他所に静かに怒りをまとうまなぶ

口々に、これには深い訳が!とかアニキ!たんまっ!!と言う声がはっせられたが──同時に悲鳴も響いた。



諭:万死ばんし!!



(弟たち:あぎゃーーー!!)



諭:いつきけい!ひとさまのいとまに聞き耳たてるとは何様だっ!!!!



(弟たち:うぎゃあーーー!!)



絢乃:『こんなに声を張ってるまなぶさんはめずらしいわね。男兄弟って、いろいろと容赦ないのかしら……』



N:そんな絢乃あやのつぶやきは、まなぶの耳にも説教されている次男や四男にも届かない。

はてさて、まなぶの告白に対して絢乃あやのが気持ちを自覚するのは、もう少し先だが。

恋愛は、異文化交流。実に、よく出来た言葉である。


<>



絢乃:語り

まなぶさんは、弟さんたちがイチの言い訳するならジュウの説教を返すという思考力の早さを披露してくれました。』



<>



諭:よし、分かったな。以上で状況終了だ。

これくらいで勘弁してやるから。さっさと出て行け



絢乃:心の声

《あら、やっと終わりかしら……》



諭:絢乃あやのさん、すまなかった。待たせたな



絢乃:いえ、大丈夫ですよ



諭:……おい、いつきけいを連れて、さっさと自室に戻らんか



(次男:兄さん、スマホ鳴ってるよ)



諭:あ?まったく、こんな時間に通話をかけてくるとは──

(鳴動するスマホを見て)

なっ、センドウ大尉たいいからだと……?

す、すまない!絢乃あやのさん!ちょっと職場から電話だ!すぐに戻る!きらないで待っててくれ!すぐ戻るからな!



絢乃:『あ、はい。わかりました。いってらっしゃいませ』



<>



絢乃:語り

『──まなぶさんの離席を、待ってました!と言わんばかりに通話相手が弟さんたちに替わります。嬉々とした声で話しかけてくださる弟さんたち。

やっと、互いの紹介ができて心の荷が少しだけ降りた気がします。

先に挨拶してくれたのが「漢字を『しげる』とよく勘違いされるんだよね~」と話すアタシのひとつ上の二十三歳で次男のいつきさん。

そのあとに元気よく名乗るのが遊び盛りで、四男のけいくん。十九歳。

おふたりとも、あんなにしかられても めげないと言う精神の強さがあって、自由で元気な人たちという印象。

あと二人の弟さんたちも似たような人なのでしょうか。話せる日が来るのが楽しみです。』



(間)



絢乃:語り

『それから、ここぞとばかり弟さんたちに話を振られれば応えて、流されるままに連絡先も交換することになりました。

まなぶさん 以外で異性の連絡先が追加されるのは、短大生 以来のこと。こんな日が来るとは、不思議な感覚です。



まなぶさんの「人との関わりに慣れている」というのも実感します。』



〈〉



諭:ふぅ、また長くなってしまった。すまない、絢乃あやのさん。今戻って──



絢乃『ふふ、そうなんですよ。……あ、まなぶさん おかえりなさい』



諭:いつきぃ!ケェイ!



(次男:やばっ…三度目はさすがに… )

(四男:うわぁ、アニキ!)



諭:貴様らァ!まだ残っていたのか!!邪魔をするなとあれ程、言っているだろっ!!刀のサビになるか、土にかえるか選ばせてやる!!



(次男:兄さん、改造木刀はまずいって!!)

(四男:それだけは勘弁してぇ!)



諭:ちょっかいをかけてきよって!!勝手な行動をとるな!命乞いなど、恥と思え!!




絢乃:『まなぶさーん!お家、壊さないようにしてくださいねー!!』



N:騒ぐに騒いでいる風神かぜかみ側の状況を音声だけで落ち着くを待つしかない絢乃あやのは、こんな人と上手くやっていけるのかな…? と一抹の不安を抱いたとか、抱かないとか。



〈〉


絢乃:語り

『あれほど、憂鬱ゆううつで。何を話せばいいのか、と緊張していたはずの電話の一夜は、初めてだらけで。

まなぶさんの新たな一面を知る機会にもなりましたし、弟さんたちのお陰でにぎやかにけていったのです。』



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劇タイトル/ロングバージョン


▷不機嫌なお見合い相手と、通話をすることになりました。何を話せと言うのでしょう?


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【長電話編】おしまい




台本 公開日

▶2022年1月7日(金)


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