三人用/【お泊まり編】

この台本は【お泊まり編】です!!


▶始めに

・台本の自作発言、作品の転載、登場キャラクターの性転換、台本の内容が壊れるような行為は禁止です。

・使用されるときは、不特定多数の目に入るところ(コメント欄やキャプションなど )に『台本タイトル』『作者名』の明記めいきをお願いします。


・そのほかの細かい お願い事は【台本利用上のお願い】のページ(▶https://kakuyomu.jp/works/16816700427787953461/episodes/16816700427788115278)を読んでください。



・当作品は【親の言いつけで〜破談ですよね】と同一キャラが "見合いで対面してから、交流を開始する馴れ初め台本" となります。

前作(【お見合い編】)と併せて閲覧して頂けると、より楽しめると思います。


|ू・ω・` )どうも、作者の瀧月です。

【お見合い編】の後日談で入籍している諭と絢乃ですが。

はて、この二人はどういう風にくっついて、入籍まで行ったのだろう?という作者本人の純粋な疑問からシリーズ化することになりました。


これからは、入籍するまでの一年間を思い出 深い話だけではありますが、台本化していきます。


ぜひ、二人の行く末を見守ってくださいませ〜!!


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【上演 目安 時間】

▶約40分


【比率】

♂1人:♀2人:不問0人の3人用


【配役・キャラ紹介】

風神かぜかみ まなぶ

▶24歳/国防軍に所属する士官しかん

・不機嫌な顔(デフォ)をしている。話し方もぶっきらぼう。結構、グイグイ来る。強い。


寒原かんばら 絢乃あやの

▶22歳/大地主の次女

・感情豊かで素直になれない性格。押しに弱いところがある残念な美人。


♀寒原 母

▶娘(絢乃)の幸せを願いすぎてついつい口出しをしてしまう。優しいときは優しいし、叱るときは叱る良き母親。

▷寒原 母のセリフ数の都合上、兼ね役にナレーションをお願いします。


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【配信用テンプレ】


題名▷不機嫌なお見合い相手シリーズ 第二話/お泊まり編

作者▷瀧月 狩織

(【任意です】台本リンク▷上演に使用する台本ページのリンクを貼ってください)

■配役表■

♂風神 諭▷(演者の名前)

♀寒原 絢乃▷(演者の名前)

♀寒原の母/兼役 N ▷(演者の名前)


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劇タイトル/ロングバージョン


『不機嫌な お見合い相手との破談がダメなら、攻略されないように攻防します。』


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【台本 本編】


絢乃:語り

『どうも、お元気ですか。アタシ、寒原かんばら絢乃あやのといいます。

つい この間、一人暮らししていた街から連れ戻され……もとい拉致されて見合いの席に立ち会ってから十八日が経過。アタシは、まだ実家に居ます。


というより、残るしかないと言ったほうが適切ですね。なにせ、一人暮らししていたマンションは既に解約され、荷物も実家の自室に運び込まれているのです。


いくらマンションの契約更新の年だったからって、本人に意思確認をせずに解約するのはいかがなものか。

アタシは、勝手なことをして実家に居座らせようとする両親……いいえ、この場合は母の存在にとても嫌気がさしています。』


(間)



──2077年 初夏(水無月の頃)



N:寒原家 居間いま。時刻は午後二時過ぎ。



絢乃:(なにかの鼻歌)〜♪



寒原 母:ねぇ、絢乃あやの



絢乃:んー?なに、母さん

(お茶を飲みながら)



寒原 母:お見合いのあと、風神かぜかみさま とはどうなったの?連絡は取り合っているの?



絢乃:うっ……ゲホッゴホッ……



寒原 母:あら、大丈夫?



絢乃:んんっ!…ケホッ…鼻にはいっ、んー、ノドも痛い……



寒原 母:何よぉ、むせたりして。やだわぁ、この子ったら



絢乃:あー、えっと風神かぜかみさま ね…うん…

<>



絢乃:語り

風神かぜかみまなぶさん。

アタシの見合い相手だった人です。北関東 生まれの育ち。

現在は国防軍こくぼうぐん陸上要員りくじょうよういんとして部下を指揮しきする側として務めている、という話を聞いたのは……記憶に新しい話で……』


<>



寒原 母:それで?個人的な連絡先くらいは聞いてあるのでしょ?



絢乃:えっ、まあ、知ってるけど……



寒原 母:なぁに、あなた。

何も音沙汰なしとかじゃないでしょうね?



絢乃:あのー、いや、それがね?

風神かぜかみさま はご多忙たぼうみたいだからヒトコトふたことわすだけ、というか……



寒原 母:なにそれ!そんなんじゃダメよ!

しっかり、アピールしなきゃ!

風神さま みたいな安定した生活が約束されている将来も有望な男性を!逃しちゃ後悔するわよっ!



絢乃:デ、デスヨネェ……



<>

絢乃:心の声

《言えないっ!本当は、すでにカラダを知ってます……なんて!!

しかも、その一夜だけを美化してるのか何なのか知らないけど子供の頃につくったケガのあとを手掛かりに捜すような重い人だったってことも!!

……そんなこと、口が裂けても言えない!!》



N:絢乃は視線を逸らす。母親からの追求ついきゅうという説教は止むどころか激しくなる一方だ。



(間)



寒原 母:(あーだーこーだー)──だから、絶対に逃しちゃダメなのよ!



絢乃:あーーー、もぅ!わかった!わかったから!



寒原 母:コラっ、絢乃あやのっ!どこ行くの!話はまだ終わってないわよ!!



絢乃:今は、ほっといて!!



N:耐えきれず逃げ出す絢乃あやの。母親の声が追いかけてくるものの、なんとか財布とスマホを持って、外に駆け出す。



(間)



N:自宅から三十分ほど歩いた先にある村の公園。

はたけに四方を囲まれているが敷地は広い。

自治会の建物、ベンチが三脚。遊具も鉄棒、ブランコ、ジャングルジムのみで。どれも塗装がはげて、色褪いろあせている。




絢乃:はぁ……、アタシってば逃げてばっかりじゃん……




N:ため息をついて、ブランコに腰かけ足先で軽く地を蹴って、揺れる。




絢乃:夕方までに母さんの怒りがおさまってるといいなぁ…(ため息)



諭:もし、帰れないなら。

その時は、私と食事にでも行くか



絢乃:へっ……、えぇっっっ!?ま、ま、まなぶさんっ!?



諭:なんだ。そんなに驚いた顔して



絢乃:えっ、だって、なんで居らして??



諭:今日から非番でな。

もちろん、アポはちゃんと取ったぞ。返信はなかったが



絢乃:え、連絡くださったんですか?でも、アタシのスマホには何も通知なんて──って、あれ、これ音楽 聴く用のやつだ……



諭:(小さく笑う)慌てて出て来るからだろう



絢乃:うっ……ですよねぇ……



諭:それで?

こんなとこで、何をしていたんだ。逃げ隠れるにしては、随分と見晴らしがいいが?



絢乃:……だいたい、気持ちを整理したいときはこの公園に来てるんです



諭:なるほど、思い出の場所なのか



絢乃:思い出なんて、そんなキレイな場所じゃないですよ

……たんに、ここしか来る場所がないんです



諭:(何か言いかけるも)

……そうか。まあ、見晴らしもいいし、のんびり考え事するにはうってつけだろうな



絢乃:辺ぴなとこだって、言っても問題ないですよ。

だいたいの人は、都市部に出ちゃうくらいには生活するにも不便な土地ですから



諭:だからと言って、ここは貴女あなたが生まれ育った村だろう



絢乃:まあ、そうですけど……



諭:だが、似たようなものだな



絢乃:何がです?



諭:私の実家がある土地も似たような景色なんだ。

山に囲まれ、田畑があって、魚の泳ぐ川があって……



絢乃:でも、さすがにここまで田舎じゃないですよね



諭:そうだな。さすがに、ここまで田舎じゃない。一時間くらい車を走らせれば、にぎやかな街に出られる



絢乃:じゃあ、ちょっとだけ長閑のどかな場所って感じですね



諭:そうとも言えるな。

……少しは興味を持ってくれたか?



絢乃:それは、まなぶさんに対してってことですか



諭:そうだ



絢乃:……今のは、たんなる世間話せけんばなしです



諭:そうか。残念だな




絢乃:心の声

《残念か。そう言わせたのはアタシのほうなのに。なんで、ちょっとだけ胸が苦しいんだろう…》



<>

<>



N:時は少し戻って、まなぶ寒原かんばらの家を訪ねた時。

──丁寧な運転で、寒原家の外壁へと車を乗りつけた。車から降りてくる諭。



諭:心の声

《連絡が返ってくるのを待っている間に、自宅に着いてしまったな。……もしかして、着信拒否されている訳じゃないよな?》



N:一抹の不安で、眉間みけんにシワがよる。顔つきが尚更なおさら、険しくなった。



諭:いいや、暗い考えはやめておこう。

……とりあえず、家の前だが自宅の電話にかけてみるか



<>



寒原 母:『はい、もしもし。寒原かんばらです』



諭:お世話になっております。風神かぜかみです



寒原 母:『あらぁ、風神かぜかみさま〜

わざわざ、自宅に電話されるなんてどうされたんです?

もしかして、お父さんにご用でしたか?でしたら、今は出掛けておりますよー』



諭:そうですか、家長かちょう殿どのはご不在ですか



寒原 母:『ええ、そうなんです〜』



諭:……あの本当の用件は別にありまして。

本日、そちらにお嬢さん、いえ、絢乃あやのさんはいらっしゃいますか



寒原 母:『あら、絢乃あやのですか?いると思いますけど。ちょっと、呼んできますね』



諭:ええ、お願いします




N:端末越しに保留中の音楽が流れる。待たされること三分後──



諭:心の声

《行き違いじゃないと楽なんだがな……》



寒原 母:『もしもし。風神かぜかみさま?』



諭:はい



寒原 母:『本当に、申し訳ないですー。あの子ったら書き置きもなしに出掛けたみたいで……』



諭:そうでしたか。何か、ご友人と急用でも入ったのでしょうか



寒原 母:『いえ、たぶんですけど。気分転換に出たかと』



諭:気分転換?何かあったのですか



寒原 母:『お恥ずかしい話で、かなり些細ささいではあるのですけれど、言い合いになりまして』



諭:そうですか……、なるほど。わかりました。探してみます



寒原 母:『探してみる?それはどういう──』



諭:それと、絢乃あやのさんはスマホを持って出掛けていますか?



寒原 母:『あー、そうそう。

あの子ったら連絡のつくスマホのほうを置いていったみたいで……』



諭:わかりました。ありがとうございます。見つけたら、ご自宅まで お連れしますね



寒原 母:『あの、風神かぜかみさま。今はどちらに』




諭:今、ちょうど村に来ていますので



寒原 母:『あらあら、まあまあ!遠路はるばると〜。お父さんに報告しなきゃですね〜』



諭:ええ、そんなわけでして。一旦、失礼します



寒原 母:『はい〜、娘をよろしくお願いします〜』



<>

<>



諭:心の声

《なんて やり取りがあったが、公園にいるとは思わんかった。

てっきり、村の商店通りにいるかと思って先に回ったがハズレだったしな。

……見つけた時、彼女の背中が寂しそうに見え、衝動的に背後から抱きしめたくなった。が、我慢した。そんなことしては、本気で破談にされそうだ……》



N:二人の間に沈黙がやってくる。そよそよと風が吹いて、木が揺らめき、ブランコの鉄の囲いの上にまなぶは腰掛ける。



諭:ふっ、…うー…(アクビを堪える)……んんっ、失礼



絢乃:まなぶさん、お疲れですか



諭:あー、まあな。

昨晩……いや、四日前まで樹海で野外演習やがいえんしゅうをしていたんだ

報告書をかたすのに少々 手間てま って、こんな時間になったがな



絢乃:え?樹海って、富士の?



諭:ああ、そうだが?



絢乃:まっ、まさか、お仕事のあとにココまで居らしたんですか??



諭:ああ、そうだ



絢乃:ダメじゃないですか!ちゃんと寝なきゃ!



諭:ん?いや、別に睡眠は短時間で大丈夫なように慣らしてある。そもそも、道中のサービスエリアで仮眠はした



絢乃:だ、だからって……せっかくのお休みの日にこんな田舎まで来なくても……



諭:田舎であろうと、なかろうと。私が貴女あなたに会いたかったからだ



絢乃:ッ……、な、なんでアタシなんですか



諭:なんで、とは?



絢乃:アタシが、放蕩ほうとうしてたのは知っていますよね



諭:もちろん。だから、あの一夜があったのだからな



絢乃:うっ……、あの、アタシ。ずっと家のシキタリが嫌だったんです



諭:シキタリ?



絢乃:はい。代々、寒原かんばらの家は結婚するのに問題ない年頃になったら順次、お見合いして、ご縁があったら入籍っていうやり方をしてきました。



<>


諭:心の声

《なるほどな。寒原かんばらのしきたり、だったのか。

家同士のお見合いなんて、時代が古いなんて思っていたが。それを利用して、再会する場をもうけてもらった私が言えた立場じゃないな。》


<>


絢乃:……でも、そうなると。

もし、お付き合いしている人がいても家のゴタゴタに巻き込んだりして、なんだが面倒だなって。そんなシキタリに振り回されるなんて……アタシの人生ってなに?って感じが嫌で、嫌で



諭:……絢乃あやのさん



絢乃:あ、すみません……変に語ったりして……



諭:いや、大丈夫だ



絢乃:あの、それと。

アタシに四つ年上の姉がいるのはご存知ですよね



諭:ああ、知っている。綾子りょうこさん、だったよな



絢乃:はい。

……姉さんは、シキタリの通りにお見合いして、十五歳も年の離れた人と入籍することになって……姉さんが嫁ぐ日。

言われたんです。『あや、きみだけは心から好きになれた人と結婚してね』って。

その言葉がトゲみたいに刺さっちゃって。だから高校卒業と同時に家を出たのに……



絢乃:心の声

《自分の背中の傷痕きずあとを言いワケにして、なかなか出会いがなかった。出会ってもアタシが大地主の娘だからで、アタシを見てくれる人なんて居なくて……

アタシを見てくれたかと思ったら、傷痕のことで揉めたりして、ストーカーする変な人に目をつけられたりして、それで家族に心配かけて……》



N:下唇をきゅっ…と噛んだかと思えば、それでも言葉を続けて、へらりと悲しげに笑う絢乃あやの



絢乃:結局、心配かけるだけかけて連れ戻されたりして……

家を出た意味、なかったな…って……




諭:心の声

《……これじゃあ、私のひとりよがり、だな。絢乃あやのさんは、別に私の事なんて忘れていたくらいだ。再会なんて望んでいなかったのだな》




N:まなぶは、口を引き結んだまま胸の中で痛みを覚えた。家族に迷惑をかけたことを引け目に感じている絢乃あやの。顔を俯かせ、ワンピースの膝部分の布を握る。しばらくの沈黙。

それから、寂しげな顔でまなぶを見やって告げる。




絢乃:……だって、まなぶさんもイヤイヤで来られた見合いだったでしょ?



諭:は?それは違う



絢乃:え?



諭:いや、すまなかった。

今、理解した。私と貴女あなたの間には齟齬そごがあるようだ



絢乃:そご、ですか



諭:ああ、まったくの食い違いだ



絢乃:それは、どういう……



諭:心の声

《今は、独りよがりでも良い。とにかく、誤解をなくさなければ》



諭:……見合いの席でも話したが、私は二年前の一晩を共に過しただけの貴女あなたかれ、もっと知りたいと思った。だから、さがしていた



絢乃:……二年もよく続きましたね



諭:本当にな。

私は、物事に対しての執着は薄いはずなんだ。

職業柄、いいや、これは生来せいらいと言って過言かごんじゃない



絢乃:じゃあ、なんで



諭:貴女のことを調べれば調べるほど、と言った感じだな。

貴女の父君ちちぎみ母君ははぎみかいして、知ったこと。

──そして、見合いの席で貴女を見た途端とたんちた。

一目惚れなんて信じていなかったが、こればっかりは脳の勘違いを信用してもイイ



絢乃:……つまり、それって。お見合いが嫌で、そのようなお顔をされてたわけではないんですね?



諭:顔?……あー、いや、すまない。言葉不足にも程があるな。あのな、絢乃あやのさん。

言い訳のようだが、私は表情が顔に出にくいのだ



絢乃:え、そんなことってあるんですか?



諭:ある。まあ、こればかりは実体験だな。私が五歳だったか。

そのくらいの物心ついた時から耐え抜き、弱音を吐かず、父や母の期待に応えようと剣の道に進み、国防の道を選んだ。

……そしたら、いつしか笑うことも難しくなっていたんだ



絢乃:そんな幼い頃から……、どうして、ご両親の期待に応えようと思ったんですか



諭:そうだな。

褒めてもらえるから単純に嬉しかったのだ。期待に応えれば、自分をきたえる気持ちも強まった。だが、言ってしまうのならば弟たちが少しでも好きに、自由に生きて行ければと思ったからだ



絢乃:弟たち、ですか



諭:ああ、私には四人の弟がいてな。私が長男で、五男──いいや、末っ子とは一〇歳の年の差だ



絢乃:四人も弟さんがいるのですか……



諭:ああ、成長ざかりの男五人が騒ぐ家を仕切ってくれた母は大変だったろうな。

父は、国防官こくぼうかんとして国を守っていたから留守がちでな。



絢乃:じゃあ、そんな お父上に姿に影響を?



諭:国防官になった理由は、他にもあったな。

けれど、私の思いとは反してな。どういうわけか。五人のうち二人は軍属に関わる職にくし、一番 好き勝手やってるのは四男くらいだな



絢乃:まなぶさんはステキなお兄さんですね



諭:どうだろうな。

話したとおりだが、私は常に不機嫌みたいな顔をしている。

実家に住んでいるあいだは、末っ子なんて私が苦手なのか近づきもせんかった



絢乃:今もけられているのですか



諭:いや、どうだろうな。

今は全寮制の学園に入ったし、私の職業柄もあって実家で会うことも、文を送ることも、ましてや通話することもないからな



絢乃:……それは寂しいですね



諭:寂しいの、か。そういう自覚もなかったな



絢乃:(小声)……不器用な人…



諭:ん?何か言ったかな



絢乃:いいえ、なんでもないですよ



諭:そうか。



N:地域放送の時報じほうの音楽が鳴り響く。少し音がわれている童謡の『赤とんぼ』である。




諭:む?もう、こんな時間か。私は、絢乃さんの母君ははぎみに連絡してくるな。



諭:心の声

《短い時間だったが、互いのことを話せてよかった。》




絢乃:え、はい。いってらっしゃいませ



N:ジャングルジムのほうへと離れて行くまなぶ。そんな彼の背中を見つめながら絢乃あやのは考えた。



絢乃:心の声

《……なんか。興味があるのか、ないのかアタシ自身がわからない。でも、黙ってるわけにもいかず、会話をしたけど……》



N:少し陽の下がってきた空を見上げる



絢乃:……会いたかったって言われて、悪い気はしなかったなぁ……




N:その呟きに応えるものはいない。



<>



諭:もしもし。

こんばんは、風神かぜかみです。さきほど、絢乃あやのさんと無事に合流しまして



寒原 母:『あら〜、わざわざ お電話ありがとうございますー』



諭:いえ、お陰で見合いの時より身の上の話ができました



寒原 母:『それはよかったですわ〜。ああ、そうそう。風神かぜかみさま、本日はどこに宿泊されます?』



諭:用件が済んだので、街に戻ろうかと考えておりましたが



寒原 母:『でしたら、我が家に泊まってってくださいな。

夕食もご用意しますし、何ならお父さんも、久方ぶりに「まなぶくんと一局打ちたい」と言ってますから〜』



諭:心の声

《一応、休みをもぎ取るときに、もろもろの申請を出してはいるが……あきらかに基地から離れ過ぎている……

いや、でも。想い人の実家に、婚前こんぜんだと言うのにお泊まりなんて早々できない。一応、今回の残留業務ざんりゅうぎょうむ陸曹長りくそうちょうが担当してくれているし、緊急時には指揮の代理はしてくれるだろうし……、部隊の総指揮は大尉殿たいいどのの役目だしな、よし。》




寒原 母:『風神かぜかみさま〜?』



諭:ああ、失礼。

……では、奥方様おくがたさま家長かちょう殿どののお言葉に甘えます



寒原 母:『ええ、そうしてくださいな。それと、風神かぜかみさまは好きな食べ物とかありますの?』



諭:好きな食べ物ですか……、そうですね。私はトリ肉の天ぷらが好きです



寒原 母:『わかりました。では、お戻りをお待ちしておりますね〜』



諭:はい、ありがとうございます。失礼します。



(間)


──通話 切断後。



諭:お待たせしました。

ご自宅まで送ります。戻りましょう



絢乃:あ、はい……(立ち上がる)



諭:……母君ははぎみのことだったら、気にしなくても大丈夫かと



絢乃:だと、いいんですけど……



諭:心配なら、私から話を通そう。そうすれば、貴女の母君も事を大きくしないはずだ



絢乃:……そうですね…



N:絢乃あやのの寂しげな笑い顔に、言葉が詰まるまなぶ。理性を総動員させ、なんとかこらえたのだった。(いつに増して顔が怖くなる)



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<>



N:──さて、その日の夜。

寒原かんばらの家。自室でゴロゴロしていた絢乃あやのに、母親から入浴するように声がかかった。




絢乃:はーい、分かってるー。

……(ため息)……あー、もぅ!!



N:絢乃あやのは自室のベッド──正しくは小上がりになっている畳の上に一人暮らしのときに使っていたマットレスをいてある。──の上に横たえているヨレヨレの、うさぎのぬいぐるみを抱きしめてもだえた。




絢乃:心の声

《……聞いてない。聞いてないよ。まなぶさんがお泊まりするなんて!

てっきり夕飯を食べたら帰るかと思ってたのに!!

いや、食卓を一緒に囲むのも、ものっすごく気まずかったけど!!

帰宅したときに、母さんのご機嫌すぎる態度で理解してれば!!

いや、反対したら、それはそれで怒られてたかもだしなァ……

でも、今。まなぶさんは客間に居るはず!ってことは、この部屋から遠い!?

よ〜し、会わない!大丈夫!!》




N:抱きしめた圧で、余計にクタァ…となったぬいぐるみをベッドに置く。




絢乃:お風呂に行こ!そして、鉢合わせないように気をつける!!



<>



N:絢乃 入浴中。



絢乃:はぁ〜……広いお風呂って最高〜……

実家の良いところって、夕飯を考えなくても出てくることと、浴室が広いことくらいよね……



(間)



絢乃:にしても、まなぶさんの食事してるときの姿、カッコよかったなぁ…

手の感じと、飲み込むたびに上下する喉仏のどぼとけとか……

アタシ、あんな人と本当に……



N:シャワーのコックからぴちょんと水滴がたれた。



絢乃:──あー!ダメダメ!!そんなじゃないんだから!!

アタシは、まなぶさんのことなんて!……ことなんて……んんっ!

のぼせる前にあがろっ!!



N:なかなかに騒がしい入浴である



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<>



絢乃:は〜、サッパリした〜

……ん?話し声がする……



N:柱の陰に隠れる絢乃。



諭:はい、私も久しぶりに腕がなりました。

ええ、また打ちましょう。はい、今夜はこのへんで。

おやすみなさいませ、家長かちょう殿どの



絢乃:心の声

《あ、まなぶさんだ。ってことは、今までお父さんと将棋でもしてたのかな……。小さい頃にアタシも教えてもらったことあるけど、難しくて楽しく思えないから苦手なんだよね……

と、というか。この廊下を突っ切らないと自分の部屋に戻れないんですけど…!今は、なんとなくまなぶさんと対面したくない気分なのよ…!

早くどっか行ってよ〜…!》



N:その場にしゃがみこむ絢乃あやの。そのとき、廊下の床板が音をたてる。



諭:ん?

(声を低めて)──誰だ。



絢乃:心の声

《えっ、気付かれて?》



諭:そこに隠れているのは、知れているぞ



N:キシッキシッ、まなぶの足音が徐々じょじょに近づいてくる。

暗闇に溶けているが、眼差しの鋭さは刀身とうしんの如く。

あと一寸ちょっと絢乃あやのがいる曲がり角で──




絢乃:にゃ、にゃーん……



諭:……っ、んん……そ、そうか猫か……



絢乃:にゃ、にゃう……



諭:くっ、ふふっ、やめてくれ、笑ってしまうだろ……!



絢乃:なーう!!



諭:くふっ、あはははっ…!



絢乃:心の声

《つい、ふざけた反応しちゃったけど。まなぶさん、本気で笑ってくれてる?……笑うと、また雰囲気が違ってくるものね》



N:廊下に響くまなぶの笑い声。

夜になんだ?と、寒原かんばらの父が部屋から状況を確認するものの。ふざけ合う二人の姿を見て、静かに部屋に戻ったのはココだけの話。



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<>



絢乃:あ、あのー。そろそろ笑うのやめませんか?



諭:ふふっ、そうだな、そうなんだが……



絢乃:そんなに面白かったですか?



諭:ふふふっ、なんかツボに入ってしまってな、すまない……



絢乃:そうですか



N:止まったかと思いきや思い出し笑いをする。なかなか笑いがおさまらないまなぶに対して、眠気と闘いながら律儀に待っている絢乃あやの




絢乃:あ、もしかして お酒 まれました?



諭:ん?ふふっ、よくわかったな



絢乃:ええ、まあ。お父さん、打ってる間は軽く呑むから……

だから、まなぶさんも口にされたんだろうなって



<>


絢乃:心の声

《納得した。だから、笑い続けてるのね。まなぶさんってば、お酒を呑んでも顔色とか変わらないタイプかな。

だから、スイッチ入ると笑い上戸じょうごとかになるのかも……》


<>



諭:ふふっ…、んーはぁー…(伸びをする)



絢乃:戻られます?お部屋、わかりますか



諭:うん、大丈夫だ



絢乃:本当に?ダメそうなら送りますよ。灯り落としてるから廊下も暗いですし



諭:……貴女の部屋はどこだ?



絢乃:え、アタシの部屋はこの先ですけど



諭:そうか



絢乃:まなぶさん?



諭:お邪魔じゃなければ、少しでいい。もうちょっと貴女と居たい



絢乃:……えっ、あっ……



N:絢乃あやのの横髪を指先でいて、小首を傾げてみせるまなぶ




諭:ダメ、だろうか



絢乃:ダメって言ったら……



諭:だったら、お借りしている部屋に戻る



絢乃:……っ、だ、ダメじゃないです



諭:そうか。ありがとう



N:お酒の効果は絶大ぜつだいだ。

格段に気がゆるくなっているのが分かるまなぶに手を引かれ、絢乃あやのは自室へと戻ることになった。



<>

<>



N:──朝、絢乃あやのは目覚める。




絢乃:……あ、れ……??いつの間に寝て……あ……




N:隣にはきたえられたたくましい胸板。

──と言いたいが、寝間着の浴衣がはだけた格好で眠っているまなぶが居た。みるみる覚醒していく意識。




絢乃:心の声

《ウソ、まさかアタシってばまた??いいえ、そんなわけない。

だって、特になにもなかったはずだもの!そう、何もなかった、のよ!覚えてないけど……!!》



N:顔を手でおおって、うな絢乃あやの。その間に、素早く意識を覚醒させ、目覚めるまなぶ




諭:……朝か



絢乃:えっ、はい。おはよう、ございます…



諭:ああ、おはよう



絢乃:あの、つかぬ事をお聞きしますが……



諭:ん?



絢乃:何も、ないですよね



諭:何もないとは?



絢乃:あ、いえ。気のせいならいいのです。

はい、失礼しました。顔、洗ってきま──



諭:目覚めて、相手がいるというのは不安にならなくて気分がイイ



絢乃:ッ……本当に、何もなかったんですよね?!



諭:どうだろうな



絢乃:ま、まなぶさんのハレンチ!!



諭:あ、おい。絢乃あやのさん。なんだ、その捨てゼリフは



絢乃:いてこないでくださいっ!



諭:いていかないと、洗面所の位置が分からんだろっ



絢乃:そうやって、話題かえて はぐらかすとこ嫌いです!


<>



諭:心の声

《まあ、昨晩は他愛のない話をしていただけだ。

その間、眠気に負けないようにうとうとしてる絢乃あやのさんが可愛かった。

それで、イタズラ心ですこーし激しめにキスをしたのだが、そのまま気絶したんだよな。

なにぶん、寝てる相手に手を出すほどえちゃいないから寝顔を見つめていたんだが。気づいたら私も寝落ちし……

そしたら、朝だったってのが事実だ。まあ、本人が覚えていないならノーカンってことで黙っておこう。》


<>



諭:そうは言われても、覚えていない貴女にも責任があるんじゃないのか?



絢乃:また、そういうこと言う!!




寒原 母:あらあら、朝から元気ねぇ




絢乃:ッ、母さん……


諭:ああ、奥方様おくがたさま。おはようございます



寒原 母:おはようございます、風神かぜかみさま



絢乃:お、はよう……ございます……



寒原 母:はい、おはよう。絢乃あやの

──おふたりさん、仲がいいのは微笑ほほえましくて、よろしいこと。

ですが、まだ朝早いのです。音も響きますよ



絢乃:はぃ……、ごめんなさい……



諭:大変、失礼しました




寒原 母:わかればよろしい。ほら、顔洗ってらっしゃい。

ご飯、用意しておきますから



絢乃:は、はーい……



N:そう告げて、居間へと入って行く寒原かんばらの母だった。



絢乃:……


諭:……



絢乃:……怒られちゃいましたね



諭:ああ、なんとも新鮮な気分だ。私は自分の母にしかられたことなんて、滅多になかったからな



絢乃:……ふっ、ふふふ……



諭:おい、なんで笑う



絢乃:いえ、なんだが面食らってるまなぶさんが目新しくて……



諭:ったく、面白がったりすることじゃないだろ



絢乃:ええ、まあ。そうなんですけど



諭:なあ、絢乃あやのさん。少しは、私に興味をもってくれたか?



絢乃:……ええ、まあ、本当に、ちょっとだけです



諭:そうか。手厳しいな



絢乃:ええ、でもこうやって笑って過ごせたら悪くないかな。

……って思ってますよ



諭:本当か?絢乃さん、その言葉に──



絢乃:お先に!顔洗ってきます!!



諭:おい、またそうやって逃げるのか!ズルいぞ!



絢乃:ズルくないですー!



<>

寒原 母:(ため息)……まったく。また、バタバタと騒いで。

注意の意味がありませんでしたわ。

……まあ、若いうちにこそ言い合って過ごすのも悪くはないのでしょうね。



寒原 母:ねっ、お父さん。

あの子がすこやかに幸せになれるなら、なんでもいいかもしれないと母親として、ワタシは思います



<>

<>



絢乃:語り

『騒がしく、互いの思い思いを会話しながら許された時間を過ごす。

何がきっかけで、それを「恋」と自覚するかは分からない。

けれど、アタシはまだ攻防します。

そう簡単に、ちるわけにはいかないのです』




諭:語り

『相手から反応があることの嬉しさ。

ああ、感情が動かされるというのはこういうことか。

私が喜んでばかりではダメだ。

攻略し続けるには策を練り、相手の顔色や感情を探ってこその「恋愛道」。

剣のように、ただひたむきに向き合うだけでは叶わぬもの。

さて、次はどうするか。』



<>

<>


───────────

劇タイトル/ロングver.


▶不機嫌な見合い相手との破談がダメなら、攻略されないように攻防します。



〜ショートタイトルver.〜

【お泊まり編】 おしまい




──────────


台本公開日 2021/11/27(土)

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