三人用/【すれ違い編④(終)】

こちらの台本は【すれ違い編④(終)】となります!


▶始めに

・台本の自作発言、作品の転載、登場キャラクターの性転換、台本の内容が壊れるような行為は禁止です。

・使用されるときは、不特定多数の目に入るところ(コメント欄やキャプションなど )に『台本タイトル』『作者名』の明記めいきをお願いします。


・そのほかの細かい お願い事は【台本利用上のお願い】のページ(▶https://kakuyomu.jp/works/16816700427787953461/episodes/16816700427788115278)を読んでください。



出会いの話は『お見合い編』/【親の言いつけで〜破談ですよね。】という劇台本です。


連作(すれ違い編)の最終話!

今作も"見合い後、交流が続き…なかなか会えない日が続いた挙句…!?" となります。


前作からの連作(【すれ違い編①・②・③】)と併せて閲覧(もしくは上演)して頂けるとより楽しめると思います。


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【上演時間】

▶70分くらい


【比率】

男声1人:女声1人:ナレーション(不問)1人の3人用。


【登場キャラ紹介】

寒原かんばら 絢乃あやの

▷22歳

▷とある村の大地主おおじぬしの娘(次女)

▶喜怒哀楽がはっきりしており、押しに弱いので残念美人なところがある。

見合い相手への気持ちを自覚し、それらを泣いたり、なぐさめられたりしながら赤裸々に告白する羽目になる(がんばって~!)

(※新潟の方言を話すシーンがありますが、ネット上の方言変換サイト様の内容を引用しております。イントネーションが分からない人は、標準語で演じてください( ˙꒳​˙○)マル)



風神かぜかみ まなぶ

▷24歳

▷国防陸軍 所属の幹部士官(少尉しょうい

▶常に不機嫌な顔つきで、話し方もぶっきらぼう。それでいて、不器用。

今作では、不器用なりに気持ちをどストレートに投げつけることにした。そんな吹っ切れ具合いをお楽しみください。(ただただ欲に素直なだけ)



不問 N(ナレーション)

長文が読む得意な人にオススメな役。この役なきゃ台本が回らない。

今作ではどえらい長文と、ラブシーン(当作品比で盛り盛りな内容)を読んでもらうことになります。がんばってください(゚д゚)!


──────────


劇タイトル〜ロングバージョン〜


▷不機嫌なお見合い相手に、捕まりましたが。待ち構えていたのは罠でした。



─ショートタイトルver.─

【すれ違い編④(終)】

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▶台本 本編◀



諭:語り

『車窓越しに輝くネオンの灯り、雨のせいで輝きもにじんでしまって残念だ。

私の気持ちは、今の天候と似たようなものだ。濡れて、なんとも言えない感情が染み込んでくる。すぐ真横に居るのに、タクシーに乗り込んでから言葉をわしていない想い人。


ずっと、黙ったままで視線もまじわらない。


彼女の気持ちを晴らすことが私に出来るのだろうか。何がどうして、彼女にあんな言葉を吐かせるまでに至ってしまったのか。

恋愛道 劣等生の私には、分からない。』


<>

<>


N:街の中をタクシーが走り抜け、目的地であるホテルの近くでまった。

運転手からのお客さん、着きましたよ。の言葉に二人して顔を上げる。



諭:ありがとうございます。……降りよう絢乃あやのさん



絢乃:……はい



諭:む、足元が悪いな。滑りやすくなっているみたいだ。絢乃さん、手を



絢乃:いえ。大丈夫です。見えてますから



諭:……そうか。余計なお世話だったな



N:まなぶが差し出した手は、絢乃あやのの前から引っ込められる。あっさりと引き下がった諭に対して、絢乃が顔をあげることはなかった。むしろ、どこか別のところを見ているかのようなうつろな雰囲気だ。



(間)



諭:はい、料金追加プランで一泊だけ。

ええ、そうです。ニーマルナナ号室で大丈夫です。それと貸し出し可能な掛け布団がありましたら、二枚ほどお借りしたいのですが



N:まなぶが夜勤の受付担当と言葉をかわしているあいだにも、何かと同室でも大丈夫か?などの意思表示をくものの絢乃あやのからまともな返答はなかった。

あきらかに、この客を泊めて大丈夫か?なんてホテルの従業員に思われていることだろう。



諭:心の声

《さっきから何を考えているのか。

どうして、こんなにも内側から痛みを覚えなきゃいけないのか。わからない。

私には、貴女が遠く感じる。》



N:宿泊の手続きがめばエレベーターで目的のフロアに行くあいだも、二人に会話はなかった。

それもそのはず、元よりまなぶは口数が多くない。絢乃あやのと親しくなる為に頑張ってきただけで、相手が黙ってしまうなら掛ける言葉なんてない。



諭:心の声

《こんな状態で、何から話せというのか。

いや、まずあやまらんと。

あの愚女ぐじょの悪ふざけで絢乃あやのさんを傷つけたのは明らかだ。そして、少しずつ誤解をとく。絶対に問い詰めてはダメだ。言い方は選ぶ。》



N:鍵を開けて部屋の戸を閉めれば、二人っきりの空間だ。

よっぽど大きな声を出さなければ隣室から苦情は来ない。窓際に備え付けのローテーブルに買い込んだ惣菜そうざいや荷物を置くまなぶ

そして、戸の前から動く気配のない絢乃あやのに視線をやる。



諭:さて、まずは腹ごしらえをしよう。

話はそれからでも……絢乃さん?



絢乃:……ごめん、なさい……



諭:どうして、貴女が謝るのだ



絢乃:ごめんなさい、アタシが悪いんです…

アタシがこんなだから……



諭:なっ、……おい、そんなところで座り込んでは



絢乃:アタシが、いけないの……

こんな気持ち自覚しなければよかった……



諭:(ため息)



絢乃:……ッ、ごめんなさい……



N:気持ちが不安定な状態で聞こえたため息。

それに酷く怯えた様子でカラダを縮めて床に座りこんで顔を隠す絢乃。



諭:心の声

《……違う。違うんだ。

貴女を責めたいわけじゃない。

そんなとこで座ってはカラダを冷やすし、傷だって痛むはずだ。どうすれば、どうすれば……

──そうか。そうだ、今、私にできることは》



N:何を言っても追い詰めてしまうだろう。

そう悟ったまなぶは、歩み寄って包み込むように絢乃あやのを抱きしめた。



諭:わかったから、謝るな。

貴女が何に対して、罪悪を感じているのか知らん。これから互いに分かり合えるように話し合うのだろ?

だから、今は謝ったりするな



絢乃:っ、……まなぶさん……まなぶさんっ……



諭:ほら、ソファーの辺りが空調が効いてて一番あたたかい。そっちで話そう



N:まなぶは、泣き出して鼻をすする絢乃あやのの手を引いてソファーへといざなった。絢乃からソファーに座らせ、その隣に腰かける諭。

手は繋いだまま、傍にいるから泣かないでくれ、そう暗に告げる。



(間)



絢乃:心の声

《泣き落としみたいなことで、なさけない。

まなぶさんに抱きしめられて、感じた あたたかさ。繋がれた手のぬくもり、こんなにも優しくしてくれるのにアタシは、何が不満なの。

外で言い合った時にカラダだけの関係だって勢いで言ったけど、それも否定してくれてた。そもそも、カラダなんて繋げないわ。

諭さんは、ちゃんとアタシを思ってくれている。心からアタシを思ってくれてる。

なのに、この関係に名前をつけなきゃ安心できないアタシがいる。


惚れた弱み?惚れたら、こんなにも欲張りになるの?ロクな恋愛をしてこなかったツケが回って来てる。》



(間)



N:室内に備え付けの壁時計の秒針が静かにまわる。




諭:……絢乃あやのさん、あのな



絢乃:……はい…



諭:私は、貴女だけを日々、想っていることはわかってほしい



絢乃:はい…



諭:それでいて、私は浮気なんてしていない。

たしかに、あの愚女ぐじょ──アイツは、花箋かせん二等陸曹にとうりくそうという部下の一人でな。

あれは事故とも言えるが隙を見せた私の落ち度だというのは認める。

しかし、アイツはうちの小隊しょうたいのトラブルメーカーなんだ。

模擬戦や実戦、まあ、カラダを動かしたり、命の取り合いで気分が高まっていると誰彼かまわずちょっかいをかけてくる



絢乃:……そうなんですね……



諭:あ……いや。これは言い訳だな。

すまない、絢乃さん。私の不手際で貴女を悲しませたのだから先に謝るべきだった




(──深呼吸をし、顔を上げ、真っ直ぐな眼差しで絢乃を見やる諭は……)



<>



諭:ごめん。もう、貴女に失望されるようなことはしない



<>



N:傷つけないように言葉を選んでいるのがよく分かる態度。

こんなに優しいのは、絢乃あやのが相手だからだ。

彼の部下がこんな態度のまなぶを見たならば、『こんなに優しいなんてウソだろ、この人、本当に鬼神きしん小隊長しょうたいちょうなのか??』と疑うレベルである。



<>

<>



N:しばらく静寂が室内を支配していた。

だが、ついに絢乃あやのまなぶの言葉にポツリポツリと応えだす。



絢乃:ごめんなさい。

アタシ、今までわかっていなかったんです……、まなぶさんの気持ちをちゃんと理解できていなくて……あきれちゃいますよね……



諭:いや、あきれたりはしない。

ただ、伝わっていなかったのかと残念ではあるな



絢乃:そうですよね……。

でも、アタシ、大華はるかちゃんに言われて、こうやって村から連れ出してもらって、やっと気づいたんです……



諭:何を気づいたんだ



絢乃:アタシの気持ちの変化にです



諭:変化?



絢乃:はい。……そのですね、今まで付き合ってきた人なんかと比べるのもオコガマシイとはわかっているんです



諭:ああ、まあ、そうだな。

見知らぬ奴らと比べられるのは良い気分はしない



絢乃:ですよね……、

でも今まで言い寄ってきた人ってアタシの内面まで見てくれなかったんです。

アタシって、仮にも大地主おおじぬしの次女ですし、実家のお金とか土地 目当てで、気がある振りばかりで、アタシのことはどうでも良さげな人が多くて……

好きってなんだろって、愛って何?って疑ってかかるようになってから男の人なんて、すぐきていなくなるって……



諭:私は、金目のことなんてどうでもいい。

国防の職にいているほうが、よっぽど稼ぎがある。

……にしても、貴女の魅力に気づけんかった阿呆あほうどもに会うことがあれば、こぶしくらいは、お見舞みまい したいな



絢乃:(小さく笑う)……なんですか、それ……



諭:おかしいか?



絢乃:(柔らかい笑みを)ええ、とても



諭:……そうか。あー、それで?

貴女の気持ちの変化とやらはどうなったんだ?



絢乃:えっと、それで。

今までの人とまなぶさんは、全然 違うんだなって気づけたんです。

まあ、諭さんがアタシとの二年前の一晩ハジマリを忘れずに捜してくれたから今がありますし……



諭:絢乃あやのさん……



絢乃:この関係を続けられてるのも、すっごく忙しくて大変なのに。

時間を使って会いに来てくれてるからで、アタシのことを大切に思ってくれてるからこそだって。

大華はるかちゃんの指摘から向き合うことができて……

そういうところに胸があたたかくなって、時にはドキドキとかモヤモヤさせられて……




N:顔を俯かせ、言うか躊躇ためらった絢乃あやの。しかし、黙っている間に何かしらの自問自答をした後にまなぶをしっかりと見つめて──



(間)



絢乃:アタシ、まなぶさんが好きです。

好きで、これが惚れてるっていう気持ちなんだって、気づけたんです




諭:ッ……そうか、そうか……




N:実に感極まるまなぶ

さまざまな気持ちが波のように押し寄せてこらえた結果が相づちであった。

繋いでいる手が微かに震える。



絢乃:あ、でもですね



諭:ん、なんだ?



絢乃:アタシ、あのキスシーンだけは忘れませんから。本当にまなぶさんのこと、ヒドイ、なんて人よ。バカ、嘘つきって思ったんです。



諭:うぐっ……(空いてる手で胸を押さえる)



絢乃:えっと、カセンさんでしたっけ……

その女性の隊員さんが恋人なんじゃないかって勘違いするくらいにお似合いだったのが、嫌だったんです



N:足の指が遊んでしまう。落ち着きのなさがあらわになっている絢乃あやの

まなぶは、何やら考えた素振りし、首を傾げた。




諭:心の冗談だろ??私とあの愚女《ぐじょと??そんなの天地ひっくり返っても有り得ん話だ!!》




諭:(咳払い)……そんなに似合いだったか?



絢乃:え、はい。とても。

だから、アタシとは遊びだったんだって思い込むくらいに



諭:私がこんなにも貴女を思っていると自覚してくれたのに?



絢乃:……だって……



諭:だって?



絢乃:だって、アタシ、まなぶさんと付き合ってないのかもって思って……



諭:は?おい、待て。

私たちは、付き合ってなかったのか?



絢乃:……え、やっぱり付き合ってたんですか?




N:絢乃あやのの衝撃的な発言。

まなぶは、目元を手で覆って顔を天井に向けてしまう。




諭:……ハハッ、なるほどな。

オカシイとは薄々感じていた。

じゃなきゃカラダだけの関係だの。本命が他にいるだの、言い出さんよな



絢乃:なんですか。その反応。

なんか、アタシが悪いみたいじゃないですか



諭:いいや、違う。

今は、自分自身にあきれているのだ



絢乃:そうなんですか?



諭:ああ、そうさ。

気持ちばかりではダメだったな。

私たちの間にはハジマリにもなった一晩はあるが、まずもって関係を明確にするべきだった



絢乃:えっと、そうですね?




N:さすがは、真面目さにきょくふりしている。

まったく伝わっていないし、完全に絢乃あやのの頭の中は疑問符だらけである。まなぶが絢乃をまっすぐに見つめた。




諭:絢乃さん、聞いてほしい



絢乃:な、なんですか



諭:私は、たしかに貴女の見た目に惚れた。

それがきっかけで、捜し続けていたのもある。



(間)




諭:……絢乃あやのさんも、変わったと言ったな。それは、私の中でも同じだ。

お見合いから交流を続けてきて、様々な一面を見て心がかれていったのだ。

──例えば、家のお手伝いさんとのしたしげな様子や、食事をするときのはしの持ち方ひとつにしてもだ。

ご両親の教育が身についているし、愛情を受けて育ってきたのが理解できた。



<>


絢乃:心の声

《なんか、いろいろ見られてたってことよね……?うぅ、今更だけど……すっごく恥ずかしい……》


<>



諭:……だがな、見た目だけじゃない。

今まで見せてくれた怒った顔、照れた顔、思ったより子どもっぽいところ、長女さんのことや、ご両親のことを大切に思っているところ。

貴女の素直な感情表現にうらやましいと思うなかで、元気を貰える。




絢乃:心の声

《アタシって。まなぶさんのなかでは元気をあげられる存在なのね……。まあ、たしかに諭さんよりは気持ちの上がり下がりはあるものね》




(間)



N:気持ちを語ってくれるまなぶを直視できず、顔をうつむかせながらモジモジと話を聞いていた絢乃あやの。すると──




諭:絢乃さん、私を見て



絢乃:……はっ、はい……



諭:……私は、貴女を愛している。

寒原かんばら絢乃あやのさん、私と恋仲になってくれませんか?



絢乃:……えっ、あ、その……

(嬉しさで泣き出しそうな)

……はい、よ、ろしくお願いしますっ……



諭:ああ、こちらこそ。不束ふつつかな男だが、よろしくな




N:まなぶは、めずらしく慈愛じあいに満ちた笑みを浮かべた。そんな表情に心臓が高鳴る絢乃あやの

固まっている絢乃を見て、小さく笑う諭。そして、子どものタワムレくらいのキスをする。途端に視線をらし、赤面した絢乃。




絢乃:んっ…と、その、なんだか恥ずかしいです……



諭:そうか。だがな、絢乃あやのさん。

今後はもっと凄いことをしていくつもりだ。結婚を前提に付き合ってほしいからな



絢乃:えっ!そっ、それは!気が早いと思いますッ



諭:む、そうだろうか?

私の将来の計画としては、貴女が傍にいることで成り立つものだと考えている



絢乃:だ、だからって結婚まで考えてるとは思わないじゃないですかっ



諭:ふむ、気が早かったか。

だが、私は本気だ。

今後、貴女の気が他のやからに向かないよう努力せねばならんからな



絢乃:努力する方向が間違ってますってぇ……



諭:そんなことないだろ



絢乃:じ、じゃあアタシからも望みを言っても?



諭:ああ、なんだ



絢乃:えっと、本当は、まなぶさんとデートしたいんです……



(間)



N:じらって顔をうつむかせながら言葉を並べる絢乃あやの。その言葉に驚いたような表情を浮かべるまなぶ



絢乃:えっと、ですね。

都内から村まで来てもらうのは大変でしょうし、アタシだって貯金くらいあります。

だから手を繋いで歩いたり、街で美味しいものを食べたり、お泊まりとかは予定が空いてないとムリなのは承知してます。

なので、日帰りでいいのでちょっと遠出して景色眺めたり、そういう <恋人らしい> ことをしたいなって……



<>



絢乃:……思っているのですが……



諭:それが貴女の望みなのか



絢乃:えっと、はい、そうですね……



諭:(ため息)……それが望みとはまったく



絢乃:ッ、……ダメでしたか?



諭:ダメなわけないだろ。

むしろ、この五ヶ月間でいつになったらワガママ言ってくれるのか待っていたくらいだ



絢乃:ワガママって、アタシはそんな歳でもないですよ



諭:(小さく笑う)そう言うだろうと思ったさ。

……だが、これで明確めいかくにできたな。

私は結婚前提に。貴女はいろんなところに出かけて、思い出を作っていきたい。悪くない今後の話じゃないか



絢乃:そう、ですね



N:まなぶの表情こそ動いていないものの、声の調子や仕草しぐさで機嫌がいいのは見てとれる。




諭:ああ、そうだ。これだけは話しておこう



絢乃:え、はい。なんでしょうか



諭:今回、私は現場を抜け出してまで貴女を追いかけたわけだが



絢乃:あ、そうですよ!それ、もの凄くダメなことですよね?!



諭:そうだ。凄くダメなことだ。

なので明日あすの昼までには、基地に戻る予定だ。戻っても確実に上官からの怒りは落ちるだろう。

だが、それを理解したうえで抜け出して来たのだ。貴女が気にすることじゃない



絢乃:き、気にすることじゃないって言われましても……

上官さんに怒られたあとは、どうなっちゃうんですか?



諭:もっと上の幹部かんぶたちで話し合いがされて、そのあとに……

ああ。温情おんじょう左遷させん、いや転属か。

最悪は免職めんしょく……まあ、クビになるかもな



絢乃:そんなクビだなんてっ……、



諭:……だから、貴女が気落ちすることじゃないと言っただろ。

絢乃あやのさんは、軍人じゃない私は嫌か?



絢乃:い、嫌じゃないですけど……

軍人じゃないまなぶさんは想像できないです……



諭:(小さく笑う)私もだ。

軍属であることが、私の存在意義だからな。まあ、温情の転属でも下手したら最北とか最南に行くことになるかもな



絢乃:そ、そんなぁ……

それだとデートとかも、いま以上に無理になるってことじゃ……?



諭:まあ、そうだな。

だが、遠方に転属になったら貴女にも着いてきてもらうから安心してくれ



絢乃:えッ……!?



諭:嫌なのか?



絢乃:っ、ま、まなぶさんって本当に強引ですねっ アタシが断るとか思っていないんですか?



諭:断られても、徐々に説得を重ねて、快諾かいだくしてもらう。

時間が許される限り、その日がダメならば、次の日とな。



絢乃:……頑固もの……



諭:言われ慣れた言葉だな。

頭がカタイ、融通ゆうづうがきかないと身内から散々、言われてきたことだ



絢乃:ちゃ、ちゃんと相談はしてくださいよ?



諭:もちろん、するさ




N:頬にくちづけた。普段より幾分いくぶんか優しい表情で。




諭:心の声

《ああ、心が繋がるというのは、こういうことか。

今までがどれ程 ひとりよがり だったのか自覚させられるな……。にしても、自分で言ったが最悪の場合は免職めんしょく。……まあ、そうなったら警備会社に入社するとか、今の年齢なら貯金を元手もとでに警察学校に通って警官になっても良いかもな。 》



絢乃:心の声

《本当に、悔しい!なんで、こんな余裕があるの!?アタシばっかりドキドキさせられてるじゃない!ズルい人っ!

まなぶさんって、ジワジワ毒で仕留めてくる罠よ、絶対……!》



<>



N:互いの気持ちが再確認でき、話もひと段落ついた。

時計が示すのは、二一時を過ぎた時刻じこく。夕飯の用意しようとソファーから腰をかしてビニール袋をあさるまなぶ




諭:(独り言)……少なめのと、特盛のレンチンご飯、インスタントのみそ汁…、千切り野菜の袋…

……お、私の好きなハマトリ屋のトリカラじゃないか…こっちはレンコンと肉のはさみ揚げか……



絢乃:あ、あの!まなぶさん!



諭:ん?なんだ、まだ話があるなら食事してるときにで(も)──!?



絢乃:んっ……



N:まなぶのパーカーを掴んで、引き寄せて口づけをしてみる絢乃あやの。反射的に目をつぶってしまい相手の顔が見れない。

諭は、少しだけ驚くもののすぐにイタズラを思いついた子どものような気分になった。

そして相手の腰に手を回して──




絢乃:ッん、ん〜〜〜!!

……ぷはっ……はぁーっ、はぁーっ……



諭:……なかなかに積極的だな。

気持ちの確認が取れた途端に、お誘いか



絢乃:なっ!?べ、別に誘ったつもりは……

にしても!くやしいっ…負けたぁ…!



諭:ふむ、なんの勝負だったのか知らんが、勝てたのならば男冥利おとこみょうりだな



絢乃:あの、まなぶさん!

なんで、そんなに余裕しゃくしゃくなんですか!アタシばっかり辛いのですが!



諭:ほぅ?私がいつ余裕があるなんて言った?



絢乃:え、えっと……言われたことはない、ですけど……



諭:だよな。まあ、本当は、我慢が得意ってだけで余裕なんてあってないようなものだ。

しかも、今は互いに怪我をしている。万が一、理性がとんだら誰が止められると言うんだ?



絢乃:えっ、あ、その……



諭:私は、優しくしたい。

……だから。あんまり、あおってくれるなよ?



N:ぎらり、獣さながらな昂った眼差しで警告したまなぶ。獲物として狙われる気分を味わう羽目になった絢乃あやのは、縮こまった。




絢乃:は、はい……すみませんでした……



諭:分かってくれたならそれでいい。まあ、ケガさえ治れば話は別だがな



絢乃:ま、諭さんの、むっつりスケベ!!



諭:ははっ、なんとでも



N:やはり、どこか余裕があるように見えるのは、彼が長男として生きてきた上でつちかい。身につけた世渡よわたじゅつなのだろう。

ふくれっ面をする絢乃あやのの頭を少し乱暴に撫でれば、ビニール袋を片手に部屋を出て行くまなぶ

フロアの中央付近に用意されている電子レンジなどが使える場所へと向かったのだ。



(間)



N:部屋の中に一人で残される。ソファーの上で、顔を手で隠して何やらもだえる絢乃あやの



絢乃:ぜーんぶ、諭さんのせいだぁ……*こげんに、しょーしぃーんわ…

(*こんなに、恥ずかしいのは)



<>



絢乃:あ、*そろっと(そろそろ)スマホの通知、確認しなきゃ……



N:いそいそとベッドの上に置いてあるポーチ型のカバンからスマホを取り出す。

すると、そこにズラリと従妹の大華はるか筆頭ひっとうに両親からも不在着信や心配するむねのメッセージが届いている。




絢乃:えっ!?大華はるかちゃんからなら分かるけど、なんで母さんやお父さんからも連絡が入ってるの!?




N:届いている通知を確認して、驚きと戸惑いで顔が引きつっていく絢乃あやの



絢乃:……想像以上に大変なことになってるわ……



諭:どうした?何かあったか



絢乃:あ、まなぶさん。おかえりなさい。えっと、それが……



N:部屋に戻ってきたまなぶに事のあらましを説明する絢乃あやの

静かに相づちをうつ諭だったが、どうしましょう、と頭を抱える彼女に対して──




諭:では、夕食後に謝罪の連絡はしよう。

腹がいていては、冷静に話せない。初手しょてにご実家にかけてくれ、私が話せば貴女の母君ははぎみも強くは責めないだろうしな。

そのあとで、イトコのあの青年には通話でもするといい。最後に回すむねをメッセージで伝えて待っててもらおう



絢乃:あ、は、はい!わかりました。そのようにします




絢乃:心の声

《すごい……、さすがは軍人さんって感じ。

いいえ、職業は関係ないわね。元々の頭の回転の良さが違うのよ。

……アタシひとりだと、こんなに冷静な判断なんてできなかったし、納得しかないわ。

にしても、諭さんってば大華はるかちゃんのこと、まだ男の人だと思っているのね。……あとで、ちゃんと教えてあげなきゃ》




(間)



N:レンチンしてきた品物をテーブルに広げていくまなぶ




諭:さて、夕食後の予定は決まったわけだ。とりあえずは、腹ごしらえといこうか



絢乃:はい、食べましょう。

アタシも、お腹空いていたんです



N:絢乃あやのは、笑顔で応える。

食事をしている間に互いに好きな味の話をしたり、流れでイトコである島埜しまの大華はるかの話題に触れることで角が立たないように『女性』であることを伝えた絢乃あやの

その話の内容にまなぶは、もの凄い驚いた顔をし、何やら深く黙考もっこうしたあとに次に会ったら土下座する。とまで言い出したのは別の話である。



(間)



N:夕食から二時間かけて。

謝罪しゃざい行脚あんぎゃならぬ通話やメッセージをすることになった絢乃あやのまなぶ

初手に、絢乃の両親との通話。

電話越しだと言うのにペコペコと頭を下げる諭の姿がおかしくて、笑いだしそうになったり、母親に泣かれて戸惑とまどったりする時間がありつつも。

絢乃あやのは、イトコの大華はるかに心配かけたこと、明日も会って事情を話すという約束を取り付けたのだった。──さて、そのあいだのまなぶは?



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諭:……はい、中隊長ちゅうたいちょう

必ず明日の昼までには戻ります。

わかっております。ええ、くだされる処罰に関しては意向いこうにしたがいます。

免職めんしょくも覚悟の上であります。はい、では、また明日。




N:受話器じゅわきをかけて、通話終了。

自分のしたことだ。いはないという雰囲気である。

まなぶは、表通りにそなえられた公衆電話から部下に預けていた自身のスマホを経由けいゆうして、所属部隊しょぞくぶたいへと連絡を入れた。もちろん、受話器越しに耳をつんざいた『カゼカミぃ!!』から始まる怒りと呆れで上擦うわずっている上官の声を思い出し、肩をすくめる。




諭:……ははっ、遠方への転属はまぬがれんかもな。

自分の招いた結果だが……

私は、絢乃あやのさんが悲しむ顔なんて見たくないな




N:まなぶは、おもむろにスウェットパンツのポケット越しに何かを撫でた。明らかにポケットに何か入れてます。といった感じになっているが、少し考えた顔をする。




諭:心の声

《……髪留かみどめ。ワニグチに開くタイプの。

機嫌取りのしなと思われたら嫌だと思うおのれがいる。

夕飯の買い出しのついでに覗いた雑貨屋で見つけた。

華美かびな品が目のつくところに並べられているのに、ひっそりと店のすみに用意されていたものだ。

絢乃あやのさんの横髪あたりにつけたら似合うだろうと、買った。

まだ話し合いもできてないタイミングだったから機嫌をモノで治させるみたいで、そんなのはダメだと直感で隠した。……今は、互いの気持ちが分かり合えたのに、渡せないでいる。不甲斐ふがいない。》


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諭:まあ、渡すのを悩んだところでバレるのも時間の問題だしな……



N:公衆電話ボックスから出て、外の冷えた空気を軽く吸って吐いてホテルの中へと戻った。


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諭:絢乃あやのさん、いま戻った。……絢乃さん?



N:絢乃あやのは、ベッドに腰掛けているがうつらうつらと舟をこいでいる。まなぶが電話しに行くから外に出ると告げたときは、従妹いとこ大華はるかと通話していたはずだ。



諭:風呂上がりか?

まったく、髪もかわかさずに眠るのはさないか。風邪をひくぞ



絢乃:ん……まなぶさ……おか、えり…なさぁ……



諭:ああ、ただいま。

ほら、かわかしなさい。きれいな髪がいたむぞ



絢乃:ん……おきたらぁ…やりますぅ……



諭:それは、寝落ちる寸前の言い訳だろう。

(ため息)……仕方ない。私がやろう




N:洗面所からドライヤーを取って来て、すでに半分 寝ている絢乃あやのがいつでも寄りかかってきても大丈夫なよう彼女の背後に胡座あぐらをかいたまなぶ

そして、彼女の髪に温風を当て始める。




諭:心の声

《……人の髪をかわかしてやることなんて、随分ずいぶんと久しぶりのことだ。昔に弟たち相手にしたきりだな。にしても、絢乃あやのさん。急に気を許しすぎじゃないか?心が通い合うと嬉しい半面、緊張するな。これからも、こういう接触は増えていくのだろうか。》




絢乃:……んふふ……、くすぐったいです……



諭:まだ乾いていない。もうちょっと我慢しててくれ



絢乃:はぁい……



N:剣の道を選んできたえてきた結果、硬く少し荒れた指先が絢乃あやのの髪をいていく。

ドライヤーのモーター音だけが室内に響く。

濡れ感や湿り気がなくなってきたのを実感でき、温風を止めた。



諭:よし、乾いたぞ



絢乃:んー……ありがとぅ、ご……ざ……



諭:絢乃さん?……寝落ちたのか



N:言葉の途中で寝落ちた絢乃あやの

予想どおりにまなぶの胸へともたれかかるかたちで寝息だけが返ってくる。




諭:走り回ったんだ疲れているよな。

絢乃あやのさん、私を受け入れてくれて、ありがとう。……おやすみ、良い夢を



N:彼女の額にくちづけを落として、ベッドに横たわらせて布団を掛けた。

それから、まなぶはソファーのほうに移動して上半身だけ裸になる。買い出しのときに薬局で購入したボディーシートで気休めにカラダの汗やニオイをぬぐっていく。ついでに、髪や頭もいた。

さすがに入浴なんてすると腰のケガのせいで血の湯を作ってしまう可能性があるので遠慮した。




諭:心の声

《私も、ただの男だ。

久方に会えた好いた相手を横に、昂らずに眠れるほど出来ちゃいないしな。》



N:つまりの自制心を総動員させてソファーで眠ることを選んだわけだ。……こうして、二人の気持ちが通い合った夜は静かにけ、穏やかに日がのぼるのだった。


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──翌朝。


絢乃:……んー、あれぇ……



N :ベッドからカラダを起こして、寝ぼけた目を擦る絢乃あやの。辺りを見渡して、首を傾げた。



絢乃:まなぶさん、どこ……?



N:起きて早々に探すのが まなぶ という状況に気持ちが通い合った効果は歴然。なかなかの進歩なわけだが。隣に眠った痕跡こんせきがないのを見て、目を瞬かせる絢乃あやの



絢乃:……まさか、帰っちゃったの……??



N:身一つで絢乃あやのを探しに来てくれたまなぶ

つまり、本人がいないということは既にホテルを出て、職場であるアケボノ基地に戻ってしまった、という思考に至ってもオカシクはない。

顔を手でおおって、ぶつぶつと弱音を吐き始める絢乃あやの




絢乃:(小声)……どうして?なんでよ。昨日の今日じゃない。

もう少し一緒の時間あっても許されるはずでしょ?アタシ、すっごく会いたかったのに。だって、まだ朝七時よ?実家に泊まってくれた日より別れるの早いじゃない。ていうか、帰るなら帰るって書き置きくらい残していってよ……



(間)



絢乃:まなぶさんの、バカ



(間)



諭:私がなんだって?



絢乃:え……



諭:おはよう、絢乃あやのさん



絢乃:えっ、ま、まなぶさん、なんで……



諭:なんだ?まだ夢の中にでもいるのか。私なら、ここに居るぞ



絢乃:あ、はい。おはようございます……

あの、てっきり、お仕事場にお帰りになってしまったのかと……



諭:さすがに無言で帰ったりしないさ。

──(小さく笑う)まあ、これで分かっただろ?相手に置いていかれる気分ってやつが



絢乃:なっ、なっ、それって!二年越しの意趣返しってやつですか!?



諭:意識したつもりはないが、そうなったみたいだな



絢乃:ほんとっ、意地が悪いですねッ



諭:そういう部分も受け入れてくれるのだろ?



絢乃:……ッ、そうですよっ!好きになっちゃったから受け入れられちゃうんですっ!



諭:嬉しい限りだな



絢乃:……でも、なんで居なかったんですか。

てっきり隣で眠られたのかと思ったんですけど



諭:隣で眠らなかったのは自制心を優先したまでだ。

それと、さっきまで留守にしてたのは、日課の走り込みをしてきたからだな



絢乃:自制心って、またそういうことを……



諭:仕方ないだろう。走ってきた方が、気が晴れるのもあったしな



絢乃:……そうですか。アタシも、支度することにします



諭:そうか。支度ができたらホテルの朝食にでも向かおう



絢乃:わかりました



N:いそいそとベットから降りて、洗面所へと向かう絢乃あやの

その後ろ姿にまなぶが声をかける。




諭:絢乃あやのさん、今日は髪をう予定はあるのか?



絢乃:ええ、結びますよ。

今日も大華はるかちゃんと会いますし、外に出ますから



諭:そうか



絢乃:それが何か……まなぶさん?



諭:えっと、そのだな。好みじゃなかったら申し訳ないのだが……



N:めずらしく歯切れの悪い物言いで何かを躊躇ためらまなぶ。不思議そうにしつつも待つ絢乃あやの



諭:心の声

《渡すなら今しかないだろうが。躊躇ためらうなど私らしくないぞ。ばしっときめていけ、特攻魂。当たって砕けろだ》



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諭:絢乃さん、手を



絢乃:え、手ですか?こうです?

(絢乃、手のひらを上にしてパー)



諭:ああ、まあ。それでいいか。……受け取ってほしい



絢乃:えっ、これは……



諭:その、プレゼントというやつだ。貴女に似合うかもと買ってみた



N:絢乃あやのてのひらに乗せられたのは、昨晩、衝動的に選んで買った和風な髪留めである。

真ん中に桃色のり糸でい合わされた一輪の花。華美かびになりすぎず、それでも目を惹くデザインで、その花から濃緑色の織り糸が葉っぱを抽象的ちゅうしょうてきに表している。




諭:えっと、だな。

買い出しのさなかで立ち寄った店で、見つけたのだ。

桃色な花が貴女の瞳のようで、似合うはずだと直感だったのだ。しかも濃緑色の糸を使われているから、これだ、と衝動的に買った。つまりだ、会えない日とかは、この髪留めを見て寂しい気持ちをごまかせれたら……



N:しどろもどろ、言い訳のような購入のきっかけを話すまなぶ

ちらり、絢乃あやのの顔を盗み見る。そこには、それこそ、道端でひっそりと咲く花のような笑みを浮かべている絢乃が居るではないか。




諭:あ、絢乃あやのさ──



絢乃:ありがとうございます、まなぶさん



諭:あ、ああ。貴女の趣味にあったならさいわいだ



絢乃:いえ、趣味ではないです



諭:ぐっ、そ、そうか残念だ



絢乃:でも、アタシを思ってくれて嬉しいです。大切にします



諭:大切にしてくれるのは有難ありがたいが、ちゃんと使ってくれよ?



絢乃:ええ、使いはしますよ。壊したくないので出番は多くないとは思いますが



諭:そうか。まあ、時々でもお目にかかれるならそれで良いさ



絢乃:えっと、……あ、そうだ!



諭:ん?



絢乃:ちょっと待っててくださいね!手早く支度しますから!



諭:お、おう?



N:外出用の服と洗顔道具、そしてメイクポーチをかかえて洗面所の戸を閉めてしまう絢乃あやの。ただ座って待つには手持ち無沙汰なまなぶ

時間は有効に。腕立て伏せでもするかと床に手をついた。



(間)



諭:……きゅうじゅうはちっ……きゅうじゅうきゅう……ひゃくっ!



N:反復動作で起き上がり、息をつく諭。

手始めに腕立て伏せ五〇回。しかし、五〇回を終えた時点で、まだ絢乃の支度が済んでいないのを理解して百回に増やした。



諭:心の声

《女性の身支度は長いな。

だが、父さんはこういう待ち時間に文句を言う男は嫌われるから黙って待つ余裕の心を持ちなさい、と教わったし、私の態度は正解だと思いたい。》




諭:いッ……はぁー、ふぅぅー……

無理し過ぎたか?




N:腰に違和感を覚えるまなぶ

手持ち無沙汰だからと筋トレをしていたが、少々負荷をかけすぎたようだ。

実は、寝起きの時点で腰の刺し傷がかなり痛んだ。しかし、絢乃あやのを置いて医療機関を受診するわけにも行かず。

医療テントから拝借はいしゃくしておいた痛み止めを飲んで、あとはおのれに痛くない、我慢だ、そう言い聞かせた早朝の葛藤かっとうがあったのだ。




諭:(小声)……この軽い痛みだけで済むのが約三時間と考えて、絢乃さんと朝の食事をして、すぐ別行動になるとしても、基地のある最寄り駅まで電車で向かい、そのあとにタクシーで……




N:自分に対する挑戦で今日の予定をぶつくさと独り言を吐きながら組み立てる諭。




諭:……薬の効果が持って五時間だな。

まあ、上官の前では粗相そそうしないよう気を張るしかないな



絢乃:お待たせしました〜



諭:ん?いいや、筋トレをしていたから問題な──……!!



絢乃:どうでしょう。

昨日、大華はるかちゃんと行ったお店で買ったものなんです



諭:ふむ。そのスカートのたけが貴女の足首を隠している分、なかなかにそそ──



絢乃:もぅ、またそういう下世話げせわなことに持っていく!



諭:あーすまん、すまん。

似合っているのは事実だからねないでくれ

《私は、貴女の脚が好きだからな……、》



絢乃:本当に、思ってます?



諭:もちろんだ。

《他の男に見せたくないくらいに、なんてな。さすがに重すぎるか……》



絢乃:……あ、でですね



諭:ん?どうした



絢乃:この髪留め、せっかくのプレゼントですもの。まなぶさんの手でつけてほしいんです



諭:いいのか?



絢乃:はい。お願いします



諭:じゃあ、後ろを向いてもらって……

えっと、すまん。どう付けるのが正解なんだ?



絢乃:あ、この髪ゴムの上から挟むようにして



諭:なるほど、こうか



絢乃:はい、えっと……どうですかね?



諭:ああ、私の見立てた通りだ



絢乃:その、似合ってます?



諭:とても似合っている。ワンポイントカラーというのだったか?……貴女によく合うな



絢乃:(小声)……くっ、表情はいつもと変わらないはずなのにっ……まなぶさんに褒められるとダメージが……



諭:ん?なんのことだ



絢乃:い、いえ。独り言です



諭:そうか。では、朝食にでも行こうか。絢乃あやのさん、手を



絢乃:はい、ぜひ



諭:……なんだか、素直な貴女は新鮮でいい。とてもいとおしいよ



絢乃:またぁ、そうやってさらっと言いのけるのはずるいですよっ!



諭:言えるときに言っておきたいのだ。いいだろ?



絢乃:むぅ……、まあ、アタシも愛してます。まなぶさんのこと



諭:(息を飲む)──ありがとう、絢乃あやのさん




N:愛を告げ合い、手を繋ぎ、精一杯の笑みを浮かべてみれば満面の笑みが返ってくる。

こうして <恋人> としての初めての朝を無事に迎えた風神かぜかみ まなぶ寒原かんばら 絢乃あやの

二人の愛だ恋だの話は、これからも続いていく。



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諭:語り

『五ヶ月。長かったようだが、いた相手から素直に言葉が返ってくる日がやって来たのだ。嬉しさが込み上げるし、この瞬間だけは自身を褒めても許されよう。しかし、甘えてはならない。

今後も、剣の道とは違う熱意と努めを忘れず、彼女が離れていかないように思考と策を巡らせねば。恋愛道は、一筋縄ではいかない難所だから。』



絢乃:語り

『アタシの気持ちをひとつ告げるだけで、惚れた人が嬉しそうにするのが伝わってきます。こう、不機嫌な空気がやわらぐのが分かるのです。

愛だ、恋だが何なのか、それは明確にはできるものではありません。人それぞれ違うけれど、まずもって<離れがたい><傍にいてほしい>という感情に応じることで成り立つものだと理解しました。

これからは、会いに来てくれるのを待つのではなく。会いに行くのです。これが、アタシのなかでの大きな一歩。

どうか、受け止めてください。アタシも、アナタをれますから。』


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劇タイトル


▷不機嫌なお見合い相手に捕まりましたが、待ち構えていたのは(甘い)罠でした。



─ショートタイトルver.─

【すれ違い編④】


───────────


おしまい




【すれ違い編④】完!



連作でございましたが!

すれ違い編は、ハッピーエンドにて終了!


これからも、諭と絢乃の入籍までのやり取りや出来事を紡いで参ります!!よろしくお願いします!!






台本公開日▷2022年8月18日(木)



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