第170話 新帝の劉弁に報告
「いや、新帝陛下はどこに?!なぜ連絡が取れないんですか!?」
私は思わず叫びました。
皇帝が威儀堂々と立てば反乱軍も旗を巻いて降参せざるを得ないでしょう。
「陛下の場所を探ろうとしましたが、謀反の最中には誰も通すわけにはいかぬと宦官に押しとどめられ」
「ええ……」
となると大宦官の
こうなったら陛下を立てるしか事態の収拾はできないはずです。さらに狙われてるのは宦官さんたちなのに陛下を隠すような真似を……なぜ??
「とりあえず陛下に直接事態を伝えないと……
直臣の賈詡さんで会えないとなると、お側に仕えている小羊さんに連絡とるしかないです。
というかすでに使者は送ったのですが……
ああ、直接お話をする手段があれば……。
「父上、とりあえずすぐに動けるようにしましょう」
「うむ」
「趙雲さん、護衛信者さんのうち馬に乗れる人を選んで下さい。各地の支部に連絡を。曹操さんにも伝令を出します!」
とにかくあちこちに伝令を出して、正確な情報をつかみ、すぐに動くしかないです!
― ― ― ― ―
その少し前。
帝都洛陽はその名のもととなった洛水の北に佇んでいた。
城壁は南北
北宮と南宮である。
その南宮に大将軍何進に従う袁紹と袁術の兵が襲い掛かってきた。
その主力は、西園軍という新規の皇帝直属部隊に栄誉も待遇も奪われた
「宦官を討つのだ!」と声をかけながら、袁紹はまっさきに
そして、袁紹は官位では
宦官の討伐を布告し袁紹は
その他の
結果、袁紹と袁術が好き勝手出来る状況が整ったのである。
― ― ― ― ―
さて、何進と袁紹袁術らの挙兵を聞いて、北宮に居た新皇帝の劉弁は怒った。
服喪の間は静かにしておいてくれと何度も頼み込んでのこれである。
「賊を討伐せよ!」
「
さっそく側に控えていた劉備と西園軍に南宮を奪回するように指示し、劉備は弟二人とともに勇んで出撃していった。
そして、宮中に宦官を派遣して状況を調べさせる。
「賊は大将軍何進」
「袁紹、袁術らが宦官討伐の命令書をかかげております」
「并州刺史丁原の兵も洛陽に入っており、宦官を討つと称しております」
「屯騎校尉が賊に味方しております!」
「越騎校尉が賊に味方したと!」
「虎賁、羽林よりも賊に味方するものが!」
戻ってきた宦官たちの報告は恐るべきものだった。
皇帝を守るべき近衛部隊から次々に反乱軍に参加する者が増えている。
裏切っていないのは西園軍ぐらいなものである。
ただ、挙兵に加わった部隊にしてみれば、皇帝に逆らっている認識はない。
ずっと専横の限りをつくし、彼らを虐げてきた宦官討伐を、大将軍と
なので、皇帝の劉弁が兵の前に出ていき、一喝すればすぐに指揮を取り戻すこともできるはずだった。
しかし。
「陛下、賊の手先はすでに宮中の兵にまで及んでおります。ここは危険かと存じます」
中常侍の張譲が恭しく言上する。
「ま、周りがすべて賊と申すか……」
劉弁はがっくりと肩を落とした。
「口惜しきことながら……陛下の安全を守るため、もはや頼るべきは、曹校尉の兵のみかと思われます……」
趙忠が太った口を震わせながら、頭を下げる。
どこに派遣した宦官からも悲観的な報告ばかりはいってくる。
もはや洛陽は賊の兵で満ちており、皆が皇帝たる自分を狙ってくるように思えてきた。
なお、賊である何進や袁紹袁術たちは皇帝を殺すつもりは一切なく、宦官を殺すつもりしかない。
しかし、宦官にそれをそのまま素直に報告する義理はない。なにせ皇帝に頼りその権威を借りるしか宦官にできることはないのだ。
よって、「賊は我らを討伐すると称して、実は陛下を害そうとしております」という報告になる。
張譲がそう捻じ曲げた。
「危険でございます」
「ち、朕は……」
劉弁は改めて挙兵した兵を抑えるため、南宮に向かおうとした。
……が、足がすくんで動かない。
「陛下を害そうとしております」
そもそも、本気で命を狙われたことなど今までない。
安全に暮らしてきた16歳である。
「あぅ……」
腰が砕けて座り込んでしまった。
「陛下、ご安心を。我らが必ず守りまする」
張譲と趙忠が劉弁を囲んで励ます。
その実、狙われているのは彼らで、彼らは皇帝を使って自分を守ろうとしているので逆である。
しかし、劉弁には分からない。報告は宦官からしか来ない。
そこに劉備の弟、関羽が飛び込んできた。
劉備は挙兵した部隊と対峙したため、情報の違いを把握したのだ。
「陛下、宮中の兵は偽の命令に騙されております。ここは陛下に御出馬いただき、勅をいただければ説得ができるかと!」
だが、関羽は、宦官たちに止められた。
「今は、危急の自体ゆえ、報告は我らが伝える」
「……馬鹿な!我らは陛下直属の兵だぞ!」
関羽と宦官たちが押し問答をしている間に、張譲と趙忠は少数の信頼できる宦官たちと共に皇帝をつれて北宮から北の穀門を出て、孟津の港へ向かってしまっていた。
しかし、馬車に載せた新帝劉弁の側に当然のような顔をして座っている張譲の顔は不満でいっぱいだった。
なんという恩知らずのやつらだろう。北軍五営も、虎賁、羽林は陛下を守るために禄を得ているのではないのか。
そしてこのような事態に備えて西園軍を宦官の孫である曹操に率いさせてあるのに、なぜ居ないのか。
董卓も董卓だ、このような事態のために呼び寄せてあったのになぜ間に合わないのか。
まったく、回りは無能しかいない。これではどうやって陛下を守っていけばいい。
新帝も……先代の霊帝は外戚の竇武が反乱したときは剣を抜いて「討伐する!」と息巻いていた。芯があって我らをきちんと使える良い皇帝だった。
それがちょっと兵が寝返っただけでこの体たらくだ。我らがきちんと教育せねばなるまい。
南宮と北宮の大勢の宦官たちには死守を命じてあるので、十分時間稼ぎができるはずだ。
皇帝とともにあれば何とでも巻き返せる。
まずは西園軍と合流し、改めて董卓や孫堅を呼びつけ、賊を討伐する。
そうすれば小うるさい外戚や名士を改めて黙らせて、次の世代も宦官の天下である。
次の外戚は董氏となるが、董卓に政治力はないし、名士人気が致命的にないのでいくらでも操りようがある。
張譲と趙忠はひそひそと語り合い、次の手を打ち始めた。
「あうあう……」
劉弁の
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