第168話 泣いて煽る

話は少し戻る。




董卓は青が泣いたと聞いて突然慌てだした。


「いかん?!青が!?あの青が泣いただと?!軍は解散じゃ!!貴様ら涼州へ帰れぃ!!!」

「いや、義父上。青が泣いたぐらいで何を慌てておられるのですか。私たちには勅命が……」


余りにもの取り乱しように牛輔が呆れたように声をかける。


董卓はそんな牛輔を睨みつけて言う。

「牛輔、お前は青が泣いたところを見たことがあるか?」

「はい?いや、ないですな。いつもヘラヘラ笑っておりますが」

「……青は産まれた時から泣いたことがない、常にニコニコ笑って居った」

「へ?!あ、あれ?そ、そういえば……」

「変な噂が立って嫁入りに差し支えてはと思って乳母にも家人にも黙らせていたのだ……その後の大暴れで無駄になったが」


董卓は一度言葉を切ってゆっくりと続ける。


「その青が泣いて頼むだと?!天変地異が起きるに違いなし!よって牛輔よ。お前は皆をつれて涼州に帰れ」

「私が?!では義父上はどうなさるので?」

「徐晃よ、青は何と言っていた。わしが軍を率いて上洛するのがまずいと言って居ったのだな?」

「はい!そのとおりです!」

まっすぐに答える徐晃。


「よろしい!ではわしはこれより一個の董仲穎である!牛輔、お前が前将軍だ」

というが早いか、董卓は首にかけた前将軍たいしょう印綬みぶんしょうを牛輔の首にかけた。


「ちょ?!義父上?!!」

愕然とする牛輔が取りすがるのを無視して董卓が宣言する。


「老人一人、孫の顔を見に行くだけである!とはいえ、誰か供をせんか。上司部下ではなく、董仲穎個人としての頼みじゃ」

「応!!!!」


他の董卓軍の将校がお互いに顔を見合わせる中。

ざざっと、李傕、郭汜が董卓の前に進み出て、両手を組み合わせて頭上に掲げてひざまづく。

二歩ほど遅れて、馬騰が同じようにひざまづいた。


「よし、この程度ならば軍勢とは呼べまい。老人が供をつれているだけじゃ」


董卓は満足そうに頷くと、今更供をすると言い出した他の将校たちを押しとどめ牛輔と共に涼州に帰るように言い含めた。


「よし!では孫の顔を見に行くぞ!」



 ― ― ― ― ―



董卓パパはそこまで語ると、誇るようにふんぞり返って言いました。


「というわけで、わしは軍勢を連れておらん。これで悪い予言は当たるまい?」

「あ、はい……」


どうも。董卓パパの娘の董青です。


孫の顔を見に来てくれたのは嬉しいのですが……その洛陽がまさしく政変のど真ん中なんですよね。

董卓パパが変に活躍すると政権を取ってしまって、董卓独裁政権から反董卓連合軍に一気に物語が進んでしまいかねないので、軍隊を持たない個人で来てくれたのは良かった……のかな?


でも、ひとまず李傕さんや郭汜さんに新入りの馬騰さんまで連れてきてくれたおかげで、無事に呂布を捕らえることができました。

こちらの怪我人も盛大に伸びている楊奉さん他護衛信者数名で済んでいます。


「父上が来てくださって助かりました。ありがとうございます」

「ははは、気にするな。孫の顔を見たかっただけじゃ……しかし、徐晃も趙雲もなかなか強いな。わしの横やりなど要らんかったのではないか」

「まぁ、楽勝でしたしね。なんかそこの武者も見掛け倒しというか大して強くないので」


武器と甲冑よろいかぶとを取り上げ、簀巻きにして転がしてある呂布を指さしてわざと馬鹿にするように言います。

董卓パパが万が一にも呂布を気に入って部下にするとか言い出さないように、呂布が弱いということにしておかなければいけません。


董卓パパはちょっと納得いかなかったようで、不思議そうな顔をしました。

「……強くないか……?呂布といえば……」


ちょっと悩んだ瞬間に転がっていた簀巻きが怒鳴り始めました。


「誰が見掛け倒しだ!この卑怯者ども!」

「あなたですが」



「俺は正々堂々と一騎打ちをしていたのに、貴様らが横やりに横弓をいれて卑怯にも囲んで騙し討ちをしたのではないか!!いや、三人同時に来ようと油断さえしていなければ!」

「……」


うーん、なかなか負け惜しみが強いですね。さすが呂布。物語の三国志でも自尊心に満ちて他人を平気で陥れたり裏切ったりと信用できない人でしたが、ご本人もあまり変わらなさそうです。


「油断していなければ、簡単に勝てたんですか?」

「もちろんだ!さぁこの縄を解け!もう一度やりなおしだ!」

「……横やり入れる前に、ウチの夫にずいぶん苦戦してたくせに?」


横目で呂布に事実をぶつけて差し上げます。

「なに?!俺は押していたし、勝つのは時間の問題だったぞ!」

「へーー。ただの棒きれを持った民間の美青年に、并州の精鋭官軍の正規の将が甲冑に大きな戟もった完全装備で襲い掛かって、時間をかけないと勝てないんですかー?」

「がああああああ?!殺す!殺す!!!」


簀巻きのまま飛び跳ね始める呂布。


「青、やめい」

董卓パパにぺしっと頭をはたかれます。


さすがに言いすぎましたか。呂布の顔がもう真っ赤です。


「まぁ、たしかに。こやつは大したことはなさそうだな。徐晃のほうが見込みがある。馬騰よ。こやつは倉庫にでも放り込んでおけい」

尊命ぎょい!」


呂布が馬騰さんに連行されていきます。

ほっ、董卓パパが無事に呂布を見限ってくれました……。


「ここまで青を恨んでいなければ部下にしようかと思っていたのじゃがなぁ?」

「てへ」


董卓パパに睨まれてしまいました。



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