第155話 改元と動く政治

こんにちわ。大変な正念場に差し掛かってきている悪役令嬢人妻の董青です。


新年です。新帝弁くんの即位に伴って、中平を改め光熹コウキ元年となりました。

私もついに16歳です。


16ではありますが、結婚したり事業をしたりなど実感としては25歳ぐらいの気分です。

この時代の人って寿命が短い分だけ14,15でも一人前の仕事をしますし、結構考えがしっかりしてる大人なんですよね。



ということを考えていると、若白髪の賈詡カクさんが痩せた手で紙をめくりながら報告をはじめました。


「今の朝廷ですが、現皇帝の母である何太后が摂政されておられます。しかし、それを気に食わない董太后(先帝の母君)が政治に参加させろと要求しては断られて揉めているとのことです」

「……新帝弁くんが政治をするのでは?」


弁皇子は政治の実績もあげてましたし、部下に曹操さんや劉備さんもいて実力が足りないわけではないと思いますが……。

などと思っていると、賈詡さんが意外そうに言いました。


「新帝陛下は服喪中でございます」

「ああ、なるほど……」


どんな高位高官でも親が死んだら官職を辞めて実家に帰らないといけないわけですし、儒教の見本であることを求められる皇帝が先帝の祭りをおろそかにするわけにいかないですよね……ってそれはそれで困りますね。政治が混乱したら三国志が始まってしまいます。


「って服喪それは建前なんじゃ?実際には政治しますよね?」

「いえ、きわめて真面目に服喪されておられるそうです。大きな反乱もなく緊急事態にはありませんので」


うーーん……たしかにあちこちの反乱は昨年中にほぼ鎮圧されました。

幽州では張純の乱が起きましたが、これは州牧そうとくとして着任した劉虞リュウグさんが公孫瓚コウソンサンさんを使って早々に鎮圧したとか。

同じように益州の反乱は劉焉リュウエンさんが鎮圧しています。青州の河伯教団の反乱は前に孔融さんに降伏しました。

北方騎馬民族の鮮卑センピは涼州の董卓パパと并州の丁原テイゲンさんが抑え込んですっかり襲撃もないそうです。


各地の黄巾残党や五斗米道は私が吸収しましたし、土地と職にあぶれた人たちは続々と荊州の孫堅さんのところに送り込んで新田開発してもらっています。


たしかに地方で大規模な反乱は起きなさそうです。

ただ、新帝が政治をしないのでは中央で何か起きそうでいやなんですけど……。なんか着々と面子がそろいつつありますし。丁原さんとか。



などと考えていると、賈詡さんが得意げに続けました。


「新帝の服喪は儒学者からの評判がすこぶるよろしい、服喪明けには名君になられるだろうとの噂が新聞にも載っております」

「……賈詡の案ですか?」

「いえ、服喪は曹校尉曹操の案で。新聞はワシのです。どうせ大将軍何進車騎将軍何苗驃騎将軍董重が喧嘩をはじめますでな。新帝がどれに肩入れされても禍根を残します。適当にやらせておき疲弊させます。万が一暴走したら西園軍親衛隊を使って鎮圧すれば後々やりやすく」



「うーん、さすがは三国志でも1、2を争う性格の悪いお二人の案ですね。教育に悪いので聞かせないでください」

私はお腹の子をかばうように布団をかぶせました。このオジサンは胎教に悪いです。


「それはもうしわけありません、……三国?」

「あー、三国?漢、安息ペルシャ大秦ローマですね」

しまった。賈詡さんが不思議そうな顔をするので適当にごまかしておきます。



「今日はそれだけですか?私も忙しいのですけど」

「忙しいと言うのは、そのグネグネでしょうか?」

「グネグネではないです、マタニティヨガ……えっと……導引術です!」


私はむしろの上で、手を伸ばしたり、足をぐねったりとさせながら答えます。


ふぅ、ふぅ。

有酸素運動になるぐらいの強度で床運動を続けます。

ヨガとか詳しくは覚えていませんので、導引術を取り入れた我流ですが、結構効きますね。



忙しいと言っているのに賈詡さんは気にせずに話しだしました。

「現時点では予定通りと思いますが、何か気になるところや追加の策があればと」

「気になるところですか」


両手を挙げてゆっくりと円を描くように下ろし、深呼吸をしながら考えます。

三国志では……


大将軍何進派閥が暴発して宦官皆殺し事件を起こさないかですね」

「ありえますので大将軍何進の兵は監視しております。察知次第、西園軍で抑え込みます」


いいですね。三国志のお話では袁紹が西園軍の指揮官でしたし、袁術も近衛兵を率いていたはずですが、今はどちらも兵は持っていません。何進は大将軍ですが、太尉軍事大臣は曹操さんのお父さんの曹嵩さんですし、西園軍の実働部隊を握っているのは曹操さんと劉備さん、そして曹操さんのお友達です。


となると主力が宦官に怨みのある名士たちになりますが、実戦部隊を持っているわけではないので簡単に鎮圧できそうです。

えっと、三国志のお話ではさらに地方から諸侯を呼び集めて戦争の原因になったんでしたっけ。

特に董卓パパが危険です。絶対に呼ばれないようにしないと。


「となると、地方の州牧そうとくを軍隊ごと呼びこんでやるかもしれませんね?」

「さすがに地方軍を勅命なしで動かしたらまずいですが……、例えば?」

「父上とか?」

「さすがに宦官派のお父上や孫将軍孫堅を宦官討伐に呼ばないでしょう」


それはそうですね。

いや、逆かも。


「逆に宦官が父上や孫将軍を呼び出して大将軍何進派閥を討伐させるとか?」

「なくはないですが、それなら宦官はまず都にいる五営近衛兵西園軍親衛隊を動かそうとするでしょう。わざわざ地方軍を呼ぶのは牛刀で鶏を割くようなものでは」

「そうですね、ですが父上以外の牧も要注意です」


丁原さんとかありそうな気がします。


「ははっ、見張らせておきます」

賈詡さんがお辞儀をして退出していきました。


おおむねこれで良さそうかな?後漢が滅びる根本要因の農民反乱は抑え込んでるから、多少は洛陽で揉めても乱世にはならないはず……。それに何か揉めそうならすぐに把握すればいいかな。



「よし、安心しました」


私は独り言を言います。


グゥ……。


「安心したらお腹が空きましたね……」


最近は運動の効果もあってご飯がとても美味しいのです。

二人分食べないといけないから大変ですね!



 ― ― ― ― ―




美味しくご飯を頂いていたら、趙雲さんが走りこんできました。


「長安支部から緊急連絡です!董将軍が軍を率いて洛陽に向かっておられるとの由!」

「なんで?!」


私は箸を取り落としました。













※論語 陽貨第十七 

 子之武城。聞弦歌之聲。夫子莞爾而笑曰。割雞焉用牛刀。子游對曰。昔者偃也。聞諸夫子。曰。君子學道則愛人。小人學道則易使也。子曰。二三子。偃之言是也。前言戲之耳。

 孔子様がある町に行くと、琴の音や歌声が聞こえました。孔子様は笑って曰く「こんな田舎町で音楽とは、鶏を割くのになんで牛刀を用いるのかね」。弟子の子遊が答えて「音楽は礼儀を学ぶこと、君子にも民衆にも学びが大事だとおっしゃったのは先生ですが」。孔子様曰く「まったくその通りだ。さっきのは冗談だよ」。

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