第148話 海が見えた絶望も見えた
「公明さん!海ですよ海!!」
「これが海ですか……河水(黄河)より少し広いぐらいでしょうか?」
私は前世ぶりの海にすっかりはしゃいでいます。
波しぶきに指をさしたり、潮の匂いを胸に一杯に吸い込んだりして海を満喫しました。
って公明くんがなんかボケたこと言ってますが、さすがに黄河の方が小さいですよね?
「河水の幅とは比べ物にはならんです。この北が北海(渤海)、東が東海(黄海)で、幅は狭いところで
案内をしてくれている
公明くんはピンと来ていないようで、さらに質問をします。
「それはずいぶん広いのですね、しかしこんなに広くて水はどこに流れていくのでしょうか?」
「……公明さん、海から先に水が流れる先はないですよ」
「そうなんですか?!」
私は浜辺の砂に図を書いて説明します。
「昔、南陽の
「なるほど……」
つまり天動説ですね。地動説を説明するには私の知識では難しいので、この時代の説に乗っかるしかないです。
「地は丸い水の球で、いくつか大陸が浮かんでいます。この
「はぁ……」
「そうだったのか……」
なんか公明くんも信者さんもずいぶん感心しちゃってますが、これは別に難しくはないはず……地が丸い球だと考えてるこの時代の科学者も中々なものです。地球平面説を唱える人はなかなか滅びませんからね。
そんなことを言いながら、海水をぱしゃぱしゃしたり、足を浸したりして遊んでいると公明くんが肩を叩いて言います。
「さて……海も十分見ましたね。支部に参りましょうか」
「……いかないとだめですか……?」
「もちろんです」
うう……嫌だなぁ……。
というわけで、青州にたくさんできた支部を回ることになったのですが……。
― ― ― ― ―
「だから
「しかし大賢良師さまの教えでは?!」
「だからウチは黄巾じゃないんですって!!!?はい、これが実験結果!!!文句があるならいくらでも条件かえて実験しますよ!灰になんの栄養があるか試しますか?誰に聞いたって誰で試したって肉と野菜でご飯をたくさん食べたほうが健康になりますからね!!!」
「うぐぐぐ?!」
あちこちの支部で何十回と繰り返した同じ議論を終えて、ふらふらと
公明くんが優しく抱えて
「疲れたぁ……」
と言って、公明くんに頭を撫でてヨシヨシしてもらいます。
公明くんは優しくため息をついて言いました。
「まさかここまで太平道が入り込んでいるとは……」
「いや、太平道が広まるのを予測してここで布教して、流民を取り込んでいるんですから当然の結果ではあるんですけど」
青州で布教を開始したのはギリギリの状況だったと言っていいでしょう。
黄巾の乱が鎮圧されたあと、太平道も一度は弾圧されて息をひそめていました。
しかし、黄巾の乱から3年、民の間で太平道が広まりはじめたころに河伯教団が大々的に組織的に布教を開始したのです。
先行して送り込んだ
異端だらけです。
「というか、こんなに宗教の需要があるのもおかしいんですよね」
「青州の民の疲弊はすさまじいものがあります。皆、重税や労役に苦しみ、借金をして土地を手放すものが多数おりました」
そうです。生活が安定していて健康な暮らしをしていたら宗教なんかに頼らなくても済みます。河伯教があっという間に信者を増やすことができたのは青州の政治が無茶苦茶で民から重税を搾り上げて苦しめているからです。
「先に政治を
弁皇子と言った瞬間に公明くんがちょっと微妙な顔をします。
気にしてるなぁ……うーん、私の旦那様はあなたしかいないんですからもっと堂々としてください!
「かしこまりました、調べてみます」
公明くんが調査してくれることになりました。
― ― ― ― ―
身長は
「
「……たしかにそういう勅命がありましたけどぉ!?」
ずいぶん前に弁皇子が「治水と新田開発をして民に
それで重税を課して民を太平道に追いやるとか、ああもう……
「ま、まぁでもそれで
「しかし、州刺史はまったく治水や新田開発をはじめようとせず……税はそのまま着服しているようです。州刺史は大宦官の
「………」
もみあげの青年がぼつぼつと説明してくれました。
宦官を少しだけ見直してたらこれですか?!
なんか極めてムカついてきました。
「……公明さん、青州の信者と関係者で何人ぐらいいます?」
「信者が十万、その家族親族含めると百万は」
よし、青州青巾党百万で蜂起しちゃいますかー!
※
・張衡(78年 - 139年) は後漢の科学者。天球儀や水時計、風向計、地震計などを改良、発明した。太陽年を365日1/4と、また円周率を3.16と計算した。
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