第144話 洛陽教団本部

こんにちわ。悪役令嬢人妻の董青ちゃん15歳です。

私は今、洛陽の河伯教団新本部にいます。


新本部というのは旧本部が始まりの地である河東郡安邑県にあるからですね。



教団の総力を挙げて確保した新本部は、百人は集まれそうな大きな中庭と、いくつもの房子へやで構成されています。


部屋数は洛陽で民間になんとなく許される上限に近い感じですが、そのうち私たち夫婦で使っているのは寝室1つで、あとは物置一か所を除いて教団の用事に使っています。

まぁほとんど教団の本部に寝室を借りてるだけのようなものです。


そもそも二人とも自分の生活に贅沢したいという気持ちはあまりないので、家具がたくさんあるとか、財宝がたくさんあるとかではないです。多少の書物と衣服、装飾品が少し、そして公明くんの武器防具ぐらいですね。


そんな私たちも食事はいいものを頂いています。


本部の信者さんと同じものですが。


「今日は咖哩かれーだよ!」

「お代わりしますね!」


なかよく太った炊事信者が二人、食事を配っているので受け取りに行きます。本当は身分の高い人には召使が持っていくのですが、教団ではそういうこと気にしなくていいので本当に気分が楽です。アツアツの出来立てが食べられますし。


南は長沙支部から運んできた玄米を炊き上げて、咖哩かれー汁をかけていただきます!


「いや、米も美味いですね」

「そうでしょ?咖哩かれーも麦ごはんよりこっちのほうが……」


木を削って作ったすぷーんを使って、食事を口に運ぶ公明くん。

河北生まれの彼は麦やあわが主食で米はあまり食べてくれなかったんですが、だんだん米の良さに慣れてきてくれました。


うんうん、やっぱり食事の好みや食の楽しみが共有できないと夫婦って続けていくの大変ですから、これは嬉しいですね。


本当は白米がもっと美味しいんですが、白米食を広めると脚気になるとかなんとか読んだ気がします。それに玄米のほうがビタミン豊富で健康にいいので、健康優先の我が教団では玄米を推奨しています。



食事が終わったらお仕事です。

私は各地からの報告書を読み、公明くんがそのとなりで信者さんの悩みを聞いています。


いや、支部が増えましたね。こうなるといろいろ問題が出てきます。


「……文章だけだと分かりづらい……」


漢字!漢字は素晴らしいんですが、漢文はかなり内容を端的に要約して書いてしまう傾向があるんですよね。なぜ?紙が高いからです。だから文字は詰め詰めに意味も詰めて省略して書くのでわかる人にはわかるけど分からない人が読むと意味が変わってきてしまうことも。


さらに装飾語が多いので事実より言いたいことを優先する文章になりがちです。教養の高い人は例え話とか古典を引用したりして、そっちに引っ張られてしまって実態がみえなくなるとかあるあるで。


なので、教団の文書には装飾語と丁寧語謙譲語、古典の引用などを一切禁止して、事実と意見を分けて記載するように徹底しています。それでも教養のある人ほどそうしてくれないんですが。


昔みたいに相場の数字だけ調べてる分にはよかったんですが、いろいろ相談ごととか、調査報告とか、新聞用の記事とかも送ってくるようになると、文章だけだと読み取るのに苦労します。


「やっぱり出張いきたいなぁ、現地指導しないと」

「だめですよ、危険です」


信者のお婆ちゃんの話を聞き終わった公明くんがにこやかに宣言しました。


そうですよねー、劉豹くんがいつ襲ってくるか分からないし……ああ、まさかちょっとしたすれ違いから略奪愛を宣言されるなんて。


あれ?私、思ったよりモテてますね。なんで結婚決めてからモテるのか……。

はっ、三国志には人妻を奪い合う話が結構あったような?人妻って実はモテる?!時代は人妻?!


「木鈴さん?」

「ごごご、ごめんなさい公明さん?!」


って馬鹿なことを考えてたら旦那さまに心配されてしまいました。



次の報告書っと。



「うーん、植林が上手く行ってませんね」


新しい支部を作って最初にすることがあります。蜜柑や桃、李などの果物や絹づくりのための桑の木、そして防風用の松などの植林です。


この大陸の中原、つまり中心部分は漢人がもう千数百年住み着いています。人が住むということは、木の家を建てて、薪で温まって、開墾のために森を切り開いて、とにかく木が減るということです。


そのせいで土壌が流出して洪水が起きてという悪循環になります。


それらを防ぐために、植林を推奨しているんですが……


「せっかく植えた木を切り倒して薪にされちゃうとは……」


当然、みなさん自分の家の近くの木から薪を取りますよね。で家の近くの荒れ地に木が生えたら、早速伐りに行く人がでちゃいます。


それを防ぐためには教団所有の土地にしたり、土地の父老ちょうろうに話を通したりしますが、こっそり伐るやつがでます。


「取り締まりには限度があるから、そもそも薪の需要を減らす……やっぱり石炭団子の供給を増やしたほうがいいかも」

報告書を読みながら河東支部での炭鉱の拡張を検討します。



「ですので、符水まじないみずでは病気は治りません!病気は身体の五行の乱れの表れ、薬を飲み、五色の食事を食べ身体を整えるのが河伯の教えです!」

「いや、符水も効きます!」


いや、何を言い争いしてるんですかいまさら。


信者と面談中の公明くんが地方からきた支部の信者と言い争いしています。

符水が効くとか効かないとか……うーん、布教を広げるのはいいけど黄巾っぽい教えが入り込んできてません?


「そこまで言うなら実験すればいいのでは?」

「実験?」

「何をするのですか?」


公明くんと地方信者さんがこちらを向きました。


なんか言い争いしててもしょうがないのでしょう。こういうのは証拠えびでんすです。


じゃあまず病人を百人集めますか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る