第142話 結婚式!

「おめでとうございます!」

「おめでとう!」

「おめでとう!」


信者さんたちが列になって花びらを撒いています。

私は公明くんに手を取られてしずしずと式場に入場しました。

米撒きらいすしゃわーなども考えたんですが、穀物を撒くというのは漢人文化的に嫌がられそうだったのでやめておきます。



式場には董家代表として董旻トウビン叔父様、董白トウハクちゃんと親族の皆様。そして徐家からは公明くんのお母さまと親戚の方々。

そして河伯教団関係者からは四角い顔の趙雲さんに連れられた教団の熟練信者プロしんじゃの皆さま。

取引先からは呂伯奢さんや洛陽近辺の商家の皆様。

そして劉備関羽張飛の三兄弟が参列してくれています。



そして河伯を祭る教団のまえで、臨時司祭に就任した楊奉さんが、冠を被り真っ黒な長衣ろーぶに青い肩掛けを下げて、私たちを出迎えます。


白無垢へのお色直しも考えたんですけど、白って漢だと喪服なんですよね。なので厳粛な感じを出すと黒が基調になってしまいます。


さて、最高潮です。



楊奉さんがぎごちなく動きながら、誓いの文章を読み上げます。


「新郎、漢の破賊校尉、河東郡楊県の徐晃、字を公明。そなたは聖君孔子の教えに従い、新婦に礼を尽くし、親愛を捧げ、健やかなるときも、病めるときも、豊かな時も、貧しき時も、共にあって真心を尽くすことを天と地と黄河の諸神に誓いますか?」

「はい、真っ直ぐ誓います!」


公明くんがまっすぐ前を向いて宣言しました。


「新婦、漢の前将軍の娘、隴西郡ロウセイぐん臨洮県リントウけんの董青、字を木鈴。そなたは聖君孔子の教えに従い、新郎に礼を尽くし、親愛を捧げ、健やかなるときも、病めるときも、豊かな時も、貧しき時も、共にあって真心を尽くすことを天と地と黄河の諸神に誓いますか?」

「はい、誓います」


や、やっぱり気恥ずかしいですね。自分で全部台本を書いてるとさらに……。私はちょっと照れてうつむき気味に答えました。



楊奉さんは長い文章をつっかえずに読めたことにほっとしたようです。


「では指輪をお互いに授けあってつかあさい」


当然この時代に指輪はありますが、結婚指輪などありません。私がやりたいだけです。


仲が良い夫婦の象徴であるオシドリのオスメスをそれぞれに彫りこんだ金の指輪をまず公明くんにはめてもらいます。

そして、私も公明くんの指に指輪を通しました。



「これにてこの夫婦は天と地と黄河の諸神に祝福され、永遠に幸せになることでしょう!」


おーー!


初めて見る儀式に戸惑っていた参列者も、楊奉さんの掛け声にあわせて一斉に沸き立ちます。めでたい、めでたいとお互いに言い合っています。


そこに董白ちゃんが進み出ました。


「お祝いに歌うのじゃー」


 

♪ ミサゴの夫婦がカンカン鳴いて


 黄河の中州に降り立った ♪


♪ とてもきれいな巫女さまは


 りっぱな君子とおにあいだ ♪



詩経は昔からの流行詩を孔子さまが集めた本ですから、割と普通の人も知っています。みんな聞いたことがある歌ですし、意味も難しくないので、参列者の皆さんがワイワイ言いながら合唱します。


 

♪ ミサゴの夫婦がカンカン鳴いて


 黄河の中州に降り立った ♪


♪ とてもきれいな巫女さまは


 りっぱな君子とおにあいだ ♪


董白ちゃんの指揮で参列者が三回歌ってくれました。



ふふ、この時代で一番すごい結婚式しましたよ私は。どーですか。

私は満足げに指で光る指輪を眺めながら宴会に突入した結婚式を眺めていました。



 ― ― ― ― ―




しばらくして、私たちは夫婦で趙忠さんのお屋敷に呼び出されました。


「あのねぇ、やりすぎ」

「えへへ、そうですよねぇ」

私はとても幸せなので、くしゃくしゃと笑いながら答えます。


趙忠さんは夫婦でそふぁに座りながら、はぁと溜息をつかれました。


「名士の皆さんから漢室こうしつの婚儀よりも派手ではないか、不敬であるとか淫靡すぎるだとかなんとか文句があったのよ?」

「話で聞くだけでもすごさが分かっちゃうんですねぇ」


私は胸を張りました。


「あのねぇ……ま、いいわ。銭を稼いだら贅沢するものだし、贅沢しないならなんのために働くのか分からないもの」

「あれ?おとがめなしですか?」

「私たちだって漢室こうしつより立派な葬式とかするし?朝廷では適当にごまかしておくから気にしなくていいでしょ」


趙忠さんは本気で文句を言ってるのではなかったようで、適当に流してくれました。

宦官基準ではセーフだったようです。


「しかし、史候(弁皇子)への輿入れが流れて悲しんでるかとおもったら、河伯教団の教主に嫁入りして贅沢三昧とか、転んでもただで起きない娘ね」

「えへへ」


いちおうそういうことになっています。


河伯の巫女は謎の美少女で董青ちゃんとは関係が無いので、公明くんに官位を譲って教主に就任してもらい、教団に何の関係もない私が教団に輿入れしたということに。


教団の教主は長らく非公開だったので、実は公明くんだったんです!ということで皆さんに驚いてもらいました。なんだってー!?


「河伯教団は尊王愛国の教団で、政府にも協力的だし、私たち宦官にもちょくちょく贈物をくれるから陛下にもうまく説明してるのよ?」


ありがとうございます。


「木鈴が嫁入りしちゃって、史候(弁皇子)が落ち込まないかと思って心配してたんだけど、なんか心機一転で政治に一層打ち込むようになって陛下も喜んでおられるわ。あと宦官を殺せーとか騒いでる名士ばかを告発してくれて私たち宦官もスッキリ」

「それは良かったです」


というと趙忠さんは公明くんの方に振り向きました。


「えっと、河伯の教主さん?ふつつかな娘で良く暴走するけど、家庭に入ったらよく尽くすと思うから、よろしくお願いね?」

「はい!まっすぐおまかせください!」


なんでちょっとお母さんっぽいんですか?!私お母さん早くに無くしたからそういうことされるとちょっとうるっときちゃうじゃないですか。なんで宦官がお母さんなんですか。


なんか釈然としない思いを抱えながら、教団洛陽本部に帰ることにしました。



ちょっと薄暗くなってきたので公明くんと一緒に急いで馬車を走らせます。



あれ?通りの向こうから騎馬の人たちが近づいてきますね?毛皮の服を着てるので異民族でしょうか?




・贅沢三昧の「ざんまい」は仏教用語です。仏教は後漢代にようやく白馬寺ができたので、当時的にはハイカラな言葉だったと思われます。

・出典 詩経 国風 周南 「関雎」

 關關雎鳩 在河之洲

 窈窕淑女 君子好逑

・詩経が気になるあなたは「崔浩先生の「元ネタとしての『詩経』」講座」を読もうね!カッコ内で検索してみて!

・董青ちゃん伝は話が史実からかけ離れてきました。史実のほうは「とても困っている董卓さん」にまとめております。

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