第141話 大さわぎ

※董青ちゃん視点に戻ります



こんにちは美少女人妻董青ちゃん15歳です。


袁紹さんと刺客を送りあって一か月ほど経ちました。

残念ながら月のものなどがあったので、子供はまだまだ先のようです。



さて、いろいろありましたが、ようやっと準備が整いました。


「ではやりましょうか」

「やるんですな……」


若白髪の賈詡カクさんがちょっと引いてます。

準備は手伝ってくれたくせにいざとなったら冷汗かくとかなんですか。


「どうです?美少女だと思いませんか?」


私はお祝いの赤に染め上げた見事な絹の服を見せびらかします。

頭にはまっしろな面紗かおぬのをかぶり、手には巨大な花束を持っています。


そして髪には公明くんからもらったローマ金貨の髪飾り、帯留めも孟津支部の信者の作った特注品です。


「すばらしいお姿ですな!輝いておられる!」


趙雲さんが四角い顔に満面の笑みを浮かべています。


「お姉さま、お奇麗なのじゃ……、わらわの時もこれで!」

董白ちゃんが寄ってきて褒めてくれました。



そして昇進したばかりの董旻トウビン叔父様が呟きます。

「ああ、兄者がいればなぁ。泣いただろうに」

「もうやったじゃないですか」


そうです。結婚式は一度やりました。

袁紹派閥の襲撃を警戒してほそぼそと静かに。



だから。

手打ちは終わりましたからね。




「おお、木鈴どの!車列の先導は任せてくれ!」

「めでたいな!」

「酒がうまいぜ!」


そして正規の軍人として登用された劉備、関羽、張飛さんが武装してやってきました。お仕事は洛陽城内の警備だったはずですが……。


劉備さんが福耳をなびかせて目くばせをしてきました。


「警備だぜ?なんせ襲撃事件とかあって物騒だろうよ?」

「ありがとうございます!」


こんどはちゃんと結婚式をやりますよ!


 ― ― ― ― ―



董家屋敷の門が盛大に開かれました。


中からは劉備さんの騎兵隊が先導します。

十数騎ですが熟練の甲冑武者の群れは悪者を追い払うのに十分です。


その後を趙雲さんと信者隊が続きます。

こちらは「董」の字の幟やこの日のために作った赤い提灯を押し立ててにぎやかに歩いていきます。


その次に董白ちゃんと女性信者隊が歌いながら進んでいきます。

手に手に花をもって、花びらをまいていきます。


♪カササギが家を作って、ハトが住みにやってきたよ


 お姫様は新居にお帰り、みんなでお供しよう♪



♪カササギが家を整えて、ハトがお掃除するよ


 お姫様は新居にお帰り、みんなでお見送り♪



♪カササギが家で持ってる、ハトがたくさん子を産んだ


 お姫様は新居にお帰り、みんなでお祝い♪



そして、私は馬車に乗ってしずしずと洛陽の大通りを進みます。


周りの洛陽市民は一体何ごとかと列をつくってみてきますが、私の服装をみて皆さん感心してもらっているようです。



列のうしろには嫁入り道具ということで私の部屋の私物やべっどなどを運ぶ信者さんたち。


そしてさらに後ろの人たちが餅乾くっきーを配って歩きます。


最初は数十人で屋敷を出たのですが、洛陽の民がぞろぞろとついてきて、数百人の大行列になってきました。




 ― ― ― ― ―



洛陽城の片隅に、大きなお屋敷があります。

新しく作った河伯教団の洛陽本部です。



そこの門前に公明君が、信者たちを連れて待っていました。


公明くんの服装は黒く染めた絹の冠に、黒の上着から白い内着を覗かせ、腰に佩いた剣には教団で作ったローマ金貨の飾りをつけています。


見た目はどちらかというと西洋服たきしーどっぽさがありますが、これは私の趣味です。


公明くんの胸には校尉たいさ印綬みぶんしょうがかかっていました。

はい、軍人の位とか別に欲しくないので、河東太守にお願いして公明くんに譲ってもらいました。


行列が洛陽本部の門につくと、門が大きくあけ放たれました。

屋敷の敷地には酒や食事がずらりと並んでいます。



「近所の皆様、董家のお嬢様とうちの校尉たいささまの婚儀の日じゃあ。ぜひ飲み食いしてお祝いしてつかあさいや!」


頭の禿げた熊のようなおじさん、楊奉さんが叫ぶと、周りの住民の皆さんが歓声をあげて、行列について屋敷に入っていきます。


たいへんにぎやかです。




「おい!なんだこの騒ぎは!通せ通せ!」


おやー?なんかうるさい人たちが来ましたねー?



公明くんがやってきて、私をかばうように前に立ちました。



「なんだなんだ孟徳、いきなり俺をどこへ連れて行こうと言うのだ」

「いやぁ、いったい何ごとだろうなー、本初どの。おれにはまったく想像がつかん。おそらく婚儀だと思うが、いったいどこの高位高官か大富豪の嫁取りであろうかなーー」


人込みから出てきたのは、まず私よりも背の低いおじさんが1人。

そしてその人よりは背が高いですが、品のよさそうな笑顔の張り付いたようなおじさんがもう一人。

護衛の取り巻きを連れて、騒いでいる住民を蹴散らして通ってきます。



その二人に目標を定めて、私は頭を下げます。

そして公明くんが声をかけました。


「あ、これはこれは。袁本初(袁紹)さまと曹孟徳(曹操)さまではございませんか。我が婚儀にお越しいただきありがとうございます」


その発言を聞いて曹操さんがうっかり、とばかりに頭を叩いて話しかけました。


「おお、花嫁が誰かと思えば董木鈴どの、ではそなたが夫の徐公明どのか!いやいや、たまたま通りすがっただけで、申し訳ない。いやぁ、どこの高位高官か大富豪の嫁取りであろうかと、本初と話し合っていた所だ。なぁ本初?」

「……そうだな」


袁紹さんが張り付いたような笑顔のまま、苦虫を嚙み潰したように口をゆがめました。



「これはこれは大変な名士にお会いでき、夫婦ともにまっすぐ光栄です。ぜひ祝っていただけませんでしょうか」

「そうだな、いやぁ、めでたい。んー、めでたいなぁ?本初ぉ?」

「……オメデトウ」


曹操さんがなぜか楽しそうに袁紹さんに話題を振ります。


って今、どこから声出したんですか袁紹さん。なんか地の底で押しつぶされた牛がうめくような声でしたが。


まぁ、これで天下の名族、袁一族の次世代を担う袁紹さんにお祝いしてもらった婚儀となりますね!



そこで袁紹さんが何かに気が付いたように口を出します。


「婚儀がめでたいのはよいが、行列がおおすぎないか?これでは身分のほどを……」

「いえ、最近、馬車が襲われたりして物騒ですので、これは護衛を頼んでおりまして」

「ぐっ……」


公明くんの釈明に言葉を詰まらせる袁紹さん。これでも笑顔が張り付いたままで大変礼儀も言葉も乱れないのはすごいですね。


「さて、立ち話も何です。ぜひ屋敷に来ていただいて酒でもいかがでしょうか。大変な光栄ですし」

「おお、それはよいな本初?」

「用事があるゆえ失礼する!」

「あ、おい!本初?!待ってくれー」


適当に言い訳をすると袁紹さんはツカツカと去って行ってしまい、曹操さんが慌てて後をついていきました……。



あれー?下賤の貧乏人って何のことでしたっけ?

ねぇ?ねぇ?ねぇ?





私は公明くんの顔を見て、公明くんも私の顔をみてにっこりと笑ってくれました。





・出典 詩経 国風 召南 「鵲巣」

 カササギの家にハトが嫁入りする詩です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る