第139話 (閑話)裏切者の視点2
賈詡は劉備を連れて、弁皇子に策を提案している。
「ところで殿下(弁皇子)、殿下は真実に基づいた提案をされたら怒りますか?それとも話をお聞きになる方でしょうか」
挑発である。
若い少年がどういう反応するかなどこの若白髪の中年はよく分かっている。
「もちろん、真実に基づいた話であれば怒らずに聞くよ?」
「では申し上げます。殿下には三つの利があり、三つの欠点がございます」
「へぇ、教えて?」
堂々と言っているが別に三つ無くていいのだ。三つあると言うと根拠があるように聞こえるのが大事だ。適当に天地人やらにでもこじつけておけばよい。
「まず最初の利ですが、人の利です。殿下には天下を改革する名君としての資質がおありだ。それはこのように身分の低い人間の話でも素直にお聞きになる。それを見ぬかれたわが主君の董お嬢様は殿下にさまざまなご提案をされている。人を得ることができる。これが人の利です」
劉弁は満足そうに聞く。
「うんうん、でもそれは青が正しいことを言うからだよ?」
「そのとおりでございます。正しい意見を取り入れ、邪な意見を退けるのが名君の資質でございましょう」
これも適当である。他人の意見の良否を判断するのが最も難しい。
「二つ目の利ですが、天の利、すなわち天子の支持があります。
「うんうん」
「三つ目の利ですが、地の利、すなわち民の支持です。殿下は董お嬢様の提案を受けて民の暮らしを改善しようとお考えだ。それにより民が喜び殿下に懐けば漢朝は永代にわたり安泰。これを為せばもはや殿下の徳は歴代の名君に並び超えましょう」
「まったくそのとおりだね」
劉弁はとても気分よく聞いている。
「ですが、同時に三つの欠点があります。まずは、地の欠点。民の生活の改善はまだできておりません。地方の役人は私利私益を考えて重税を課して民を苦しめ、反乱軍に投ずるものもいます。これがそのまま天の欠点になります。朝廷の反乱や財政の問題になっており、天子たるお父上、陛下はそれらに心を悩まされ、皇太子を立てるに至っておられない」
そこまで言うと劉弁は少し不満そうに問い返した。
「それは分かってる、どうすればいいの?」
「これらはすべて一つの問題から生じます。殿下に良い臣下が足りておられない。せっかく殿下が良い意見を取り入れようにも、良い意見を言う臣下がおらねば意味がありませぬ。殿下に良い臣下が集まれば改革が進み民も懐き、陛下も自信を持って殿下を皇太子に立てられましょう。しかし今は宦官ばかりが周りにおられ、天下の名士から殿下は宦官に騙されていると誤解されております。大変勿体ないことです」
劉弁は少し困ったようにつぶやいた。
「そんなことを言われても
劉弁は皇子として立場が中途半端である。皇太子でもないし、地方王でもない。よって収入もないし、部下らしいものは身の回りの世話をする宦官と、教育係、道士たちぐらいしかいない。
「ははは、
「徳といってもどうすればいいの?」
すかさず賈詡は両こぶしを胸の前で合わせて劉弁に拝礼した。
「はっ、まずはこのワシにお命じ下さい。部下になれと。殿下には人の意見をお聞きになる名君の資質がおありです、給料はそれだけで十分です」
「おいっ!図々しいオッサンだな!?殿下!ここにも殿下の忠実な臣下がおりますぞ!劉玄徳!劉玄徳をよろしく!」
「あ……えっと。うん。じゃあ臣下になってくれる?賈詡、劉叔父さん」
「ははっ!この賈詡、一命を賭して殿下の改革と天下安泰のために尽くしましょう」
「この劉備も皇族として、わが兄弟全員にて全力でお仕えしますとも!」
劉備はすぐ皇族皇族というが、
賈詡も改革と天下安泰のために尽くすとは言ったが、董青を皇后にするためには尽くすとは言ってない。それはもう一つの主君たる董青が自分で決めることだ。
「さて、晴れて殿下の臣下となりましたからには殿下を名君にするために献策をいたしますぞ!」
こうして賈詡は董青から劉弁に寝返った。
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