第137話 裏切り

「……ううむ、美しい少年だと思っていたが、女性だったとは。どうだ、嫁に来ないか」

「人妻ですっ!!!」


女だとわかった瞬間、曹操さんに口説かれてます。いったいこの小さなおじさんはどういう神経をしているんでしょうか。


公明くんが珍しくにこやかに怒気を孕んで凄みます。


「それ以上仰るなら追い出しますが?」

「……む、ご夫君か。これは失礼した」


曹操さんは素直に謝りました。

変な人ですけど悪い人ではなさそうですね。


「で、いったいなぜおれを呼び出したのだ。いや、わかっている。袁本初エンショウと手打ちがしたいんだな?わかった、任せろ。上手く話しをしてやろう」

「はい?」


頭のいいひとにありがちなのですが、頭の回転が速すぎて結論から話すので全然ついていけないことがあります。


あ、手打ちができるのはあり難いかも、そろそろお出かけとかしたいですし。


……いや?それより先に、「私が呼び出した」んですか?!


「何?!違うのか?そなたの使者から洛陽に来るように頼まれたのだが」

「え………あー……、そういうことをするのは……賈詡さんッ!!!!??」

「はい、お待たせしました」


というと、若白髪の中年が平然と曹操さんの後ろから現れました。


……



「実際のところ、あれは何伯求カギョウ殿のところのはねっかえりの暴走でな。袁本初エンショウとそなたら董家の悪口でもりあがっていたら、それを聞いた下っ端が先走ったとかなんとか」

「それはそれでムカつきますが?あと、そんなの信じるとでも?」

「そういうことにしておいてやってくれ、すでに仕返しはしただろう」


ありがたいことに、曹操さんは袁紹派閥の情報をよくご存じでした。

やっぱり刺客を送ってきたのは袁紹派閥で間違いないようです。


「で、お互い痛み分けでもあるし、そなたらが天下の名士を襲撃したことを悔い改めて、史侯弁皇子への輿入れなどという大それた思い上がりを諦め、下賤の貧乏人に嫁入りして謹慎を示しておるので、袁本初としては本件を許してやってもよいそうだ」

「……は?」


なんでしょう、喧嘩を売ってるんでしょうか。いや、まぁ、外観だけみれば、そういえなくもない??私は最初っから弁皇子と結婚するつもりありませんでしたけど……


「下賤の貧乏人……」

うちの旦那様が落ち込んでるじゃないですか!


賈詡さんも予想外だったのか、ちょっと頬をひくつかせながら言います。


「……孟徳様、それではもう一回ヤレと言われているのも同然ですが」

おれは正直に話しているだけだぞ、あいつはそういうやつなんだ!世の中を自分の価値観でしか理解していない!」


……やっぱり曹操さん、袁紹さんのこと嫌いですよね。宦官の孫だからってそうとう虐められてますからね。


「だから、適当に謝罪の文でも送れば、それで本初エンショウは自分で納得して自己満足する……あいつとは喧嘩するだけ無駄だぞ?」


実感がこもってます。きっといろいろあったんでしょう。いろいろあったのに気にせずにいじめられ続けてきたんだと思います。……なんで友達続けてるんですか?


「まぁ、嫌だろうから文面はこっちで作ってもよいが」

「はぁ……」


うん、とっても馬鹿らしくなってきました。

本当に相手するだけ無駄ですね??


「よくわかりました、どうでもいいですね。お任せします」

「任されよう」


小さい曹操さんが胸を張ります。


「で、おれへの見返りなのだが。もともと男の木鈴どのを部下として登用するつもりだったのだが、人妻では困るな……はて?」

「ああ、それなのですが、大変すばらしい機会を用意しております」


若白髪の賈詡さんはそういうと、曹操さんをつれてどこかに行ってしまいました。



……



「下賤の貧乏人……」

「公明さまが立派な旦那様なのは私が知ってますから!」


その後、公明くんを一生懸命励ますのに大変苦労しました。

やっぱり名族連中はムカつきます。

どこかで袁紹はとっちめてやりたいですね。





 ― ― ― ― ―




そのころ、洛陽城内の道士屋敷に曹操がいた。

その周りに劉備、関羽、張飛が武器を持って取り囲んでいる。


曹操は顔面蒼白になっていた。


そこに少年が1人進み出て言う。


寡人ぼくが劉弁だ。で、曹操よ。父皇帝に関する企てにつきすべて教えてもらおうか」

「……だましたなっ?!」


曹操の恨み声に賈詡は軽く頭をさげた。


(……だからおれはこんなガバガバな策はうまくいかんと許攸に言ったのだ!あの馬鹿め、もう庇えんぞ!)




劉弁の告発により、許攸が捕らえられた。


そして拷問を受けた許攸の自白により、冀州キシュウ刺史そうとくを筆頭に、名士・名族が多数捕らえられ、反逆罪で処刑された。



 ― ― ― ― ―




「ということがございまして」

「説明してっ!??」


はい、美少女人妻の董青ちゃん15歳です。

賈詡さんが帰ってきたかと思えば急な報告に頭が追い付きません。


私の知らない所でいろいろ起きていて混乱しています。


それを見た賈詡さんが私と公明くんに向かって座りなおすと、深く頭を下げて土下座しました。


「ははっ、実はこの賈詡、弁皇子に寝返りました」


なんですと?!

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