第135話 漢家(皇室)よりも大事なことに忙しい

「で、董姓になるんだろうな」

「……」


董卓パパの発言に公明くんの目が泳ぎます。


わしには息子がおらん。牛輔は牛姓は捨てられんと言って居った。ならば涼州の董卓軍団は婿養子に継いでもらうしかなかろう」

「え、公明くんは教団の仕事があるから上げませんよ?」


ゴリおししようとする董卓パパを止めます。結婚の許可は貰いましたけど、いきなり単身赴任とか嫌ですし、公明くんを取られると仕事が回りません。


「し……公明くんも嫌なら嫌と言っていいですよ」


私に促され、公明くんが決心したように言いました。


「じょ、徐家は大した家ではないですが、それでも祭りが途絶えるのはちょっと……」

「なに、董卓軍団はともかくとして、では侯爵と董家の祭りは誰が継ぐというのだ!」


董卓パパの後ろで董旻叔父様が「俺!俺!」とかやってますが、董卓パパは無視してます。婿養子がどうしても欲しいようです。


「青よ、董家の祭りが絶えては先祖に申し訳ないと思わんのか……、息子を亡くした父を哀れだと思ってここは譲れ」

「……む、えっと……」


なんか急に天下の話から一家の先祖のお祭りを継ぐ話になってますが、これはこれでこの時代、個人的には極めて大事な話です。だからすべてを解決する道は……。


「董家と徐家に後継ぎができればいいですか?でしたら私が男を二人産めばいいですね?」

「お、お嬢さまがいいなら……」

「……む、孫が増えるな、それは良い。しかし、一人では不安だぞ。董家の男の孫を2人だ」

「わかりました、じゃあ徐家も2人ですから4人ですね!ちょっと大変ですが任せてください!」


私は胸を張って言いました。まぁ、今14歳ですから、20そこそこで終わることでしょう。


「えっ?で、でも……」

公明くんが何か指折り数えてますが、4人は4人ですよ?それぐらい普通です。


「大丈夫です、がんばります」


にこっと公明くんに笑いかける私。




つんつん。


董白ちゃんが背中をつつきます。


なんでしょう?白ちゃん。


「……なんで男だけ選んで産める計算なのじゃ……」

「あ」


……すると確率は半々だから、男女で8人?!いや、ちょっと待って。



「それに、育たない子の可能性もあるのじゃ?」


……うん、この時代、乳幼児死亡率が極めて高いですね。それも考えると……12、13人ぐらい産まないと男子を両家に残せない……??


う、迂闊うううう?!


「ぼ、僕も頑張るから!」

「……あう……」


いきなりすごいことを約束してしまいました……。



 ― ― ― ― ―



年が明けて、中平四年(187年)のお正月となりました。

弁くんは宮廷の行事で忙しく、ほとんど禁中きゅうでんに詰めています。


さらに15歳になった弁くんの加冠の儀せいじんしきがあり、大赦が宣言されました。



私、董青も15歳。


私も元服があり、私はかんざしを指して髪の毛を上げることになりました。

これで私も立派に大人の女性です。……胸は育ってませんが。胸は育ってませんが。


そしてそのあと、私たちは、河東と使者のやりとりをして。

婚約の儀があって。


徐家の人たちにも上洛してもらって、顔合わせを行って。

結納やらなにやらをばたばたと済ませ。



ついに婚儀の日。


私は赤い服をきて花飾りをして、花嫁として、新しくもらった房子へやに入りました。


公明くんは、董家の婿養子であり、徐家の後継ぎでもあるという微妙な立場になっています。状況により姓を使い分けるんだかとか。まぁ、例がないことではないらしいですが、董卓パパがごり押しして、贈り物をして何とか徐家の人にも納得してもらいました。



「お嬢様……きれいです」

「ですから公明くん……もう夫婦なんですから青って呼んでください……って、夫にくんづけは変ですね。公明さま?」

「……あ、いや、すみません。さまは、ちょっと……ものすごく照れます……」


公明くんが真っ赤になってしまいました。背の高いがっしりした美青年がはにかんでいるのはなんていうか、その……可愛いですね。


「あ、あの、人前では青さん、でどうでしょう……」

「では私も人前では公明さんとお呼びしますね」


ぽてっと私は公明くんの胸に頭を預けます。


「でも、今はふたりっきりですね?公明さま?」

「……」


公明くんが優しく私を抱き寄せます。


そして、ゆっくりと唇を重ねました。



「あ、あの、あまり急がなくても……ちゃんと産みますし?」


公明くんは我慢してくれませんでした。







 ― ― ― ― ―



二月。


河南尹しゅとけん滎陽ケイヨウで兵士の反乱があり県令けんちじが殺されました。これを受けて予定されていた皇帝の河間への巡幸りょこうが中止になりました。


滎陽ケイヨウは洛陽から東、汜水関(虎牢関)という関所を通って出たところで、首都防衛の要地です。





そんな折、珍しく洛陽にいる董卓パパが困っています。


「ううむ、史侯(弁皇子)への面会要請が通らんぞ」


正月が過ぎて、後のことを相談するという趣旨で私の結婚と白ちゃんの輿入れを提案しようと上洛してきたのですが、滎陽の反乱の対策を取るということで弁皇子が禁中きゅうでんから帰ってこないのです。




「えっと……あれ?最近、劉玄徳リュウビさんを見ませんね?」


敵討ちと結婚式の準備で忙しかったので、劉備さんを暫く放置していたらいつのまにかいなくなっています。


まぁ、皇帝の巡幸りょこうも中止になったから今は慌てなくていいか。



そこに董旻叔父様がウキウキしながら帰ってきました。


「おーい、兄者!喜んでくれ。俺も出陣が決まったぞ!河南尹何苗さまのお供をして賊退治だ!そうそう、劉備も部下についてくれることになったぜ。あいつの兵強そうだから助かる!これが全部、史侯のご指示だそうだぜ!」


ああ、なんだ。劉備さん最近見ないと思ってたら、弁皇子のところに行ってたんですか。


ん?

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