第134話 董卓一族の決断
董旻叔父上に連れられ、公明くんが部屋に入ってきました。
何かを言い含められたのか、腰をかがめて董卓パパの前にでました。
そして床に座り込むと額を床に擦り付けて土下座します。
私もそっと隣に移動しました。
公明くんが言います。
「董閣下、このたびはご報告ご相談が遅れ、順序を間違えて大変申し訳ございません。罪は万死に値いたします」
……そこまで言わなくていいと思うんですが。私が我慢させなかったせいでもありますし……。
「今にも一刀両断にされるべき身ですがご厚情に甘え、伏して一度だけお願い申し上げます。河東郡楊県の徐晃、不徳非才の若僧でございますが、お嬢様を一生をかけて守り抜き、必ず幸せにすることを誓います。何卒お嬢様を頂けませんでしょうか」
この時代の婚姻の申し込みは花嫁本人じゃなくて、一族の長である父親にするんです。
でもまぁ、事実上私に言ってるようなもので、ちょっと嬉しくなっちゃいますね。えへ。
つんつん……なぜか董旻叔父様が肘で突っついてきます。
「おい、青も頼め」
あ、嬉しくてついボケっとしてました。
私も頭を下げてお願いします。
「父上、公明さまの仰せのとおりです。公明さまに命を救っていただいた恩を返すべく、なにとぞ嫁入りさせていただけませんでしょうか」
董卓パパがゆっくりと口を開きます。
「……話は分かった」
「はっ!」
二人して頭をさらに下げました。
董卓パパが話を続けます。
「ところで、史侯(弁皇子)が青を妃にしてもよいと言っておられるのは、二人ともわかっているか?」
「……はい」
「だからそれは断ったんですけど」
私は不満げに呟きます。
本人が嫌だと言ってるのに面倒ですね。
「青が断ったから済む話ではあるまい、帝王の家の話だ。さて、徐晃。皇帝陛下が青を差し出せと仰せになったら?もしくは史侯(弁皇子)が即位なさって青を皇后にすると勅命にて命じたら、そなたはどうする?」
「……お嬢様に従い……いえ、お嬢様を失うのはもう考えられません。渡しません」
「うぇへへへ」
顔を上げて、真剣な面持ちで言い切る公明くんの横顔がとっても男前で、愛に満ちた言葉につい変な笑い声がでてしまう私。
「青!真面目な話をしとるんだぞ?お前はどうなのだ」
董卓パパに怒られてしまったので、回答します。
「……私も公明さまから離れるなど考えられません、拒否します」
きっぱりと言い切った私を見て、董卓パパは、でもにっこりと微笑みました。
「そうか、ならばしかたがないな」
「いや、まずいだろ兄者!?勅命を無視するのか?!逆賊になるんだぞ!?お前らもそこはちょっと弁えるところじゃないのか?!お前らだけじゃなくて一族が滅びかねないんだぞ!」
董旻叔父上が慌てて口をはさみます。
「大丈夫ですよ、弁皇子は私のことをそこまで好きじゃないですから」
「それだけはない!!!史侯(弁皇子)がお前を特別に考えておられるのは見たらわかる、というかそうじゃないとあんなにウチにお越しにならんだろうが!」
そうかなぁ??だって口説きもしないし……。冗談みたいに「妃になる?」とか言うだけじゃないですか。そんなこといわれても納得しがたいです。
董卓パパはそんな叔父上はさておき、公明くんに次の質問をします。
「うむ、で、徐晃よ。匈奴の王子も青を欲しがっているぞ?匈奴の大軍が来て青を渡せと言えばどうする?」
「戦います」
「ならばよし」
「兄者あああ?!」
董旻叔父上の叫び声が響き渡りました。
……
「旻、お前もなかなかうるさい男になったな」
「いや、兄者が平然と漢朝と匈奴を敵に回すと言うからだろ……しばらく徐晃に青をあずけるのはいいが、さすがに勅命ならお渡しするしかないぞ?!それに、兄者も外戚になるのを楽しみにしていたじゃねえか」
いや、それは初耳ですね?!皇帝の母方の親戚が政治を牛耳る外戚政治は政治改革で無くすんですよ。だから董卓パパに外戚になんてなってもらうわけにいきません!
「……旻よ、よく考えよ。青がそんなことを大人しく聞くと思うか?」
「聞くわけないな。だから
「難しいだろうなぁ?」
「え?いや?兄者の命令ならさすがに大人しくする……するよな?!」
董旻叔父上がおそるおそる私たちを見ました。
フリですね?やれってことですね?
「……申し訳ありませんが、一度妻としていただいたならば謹んで抵抗いたします」
公明くんがはっきりと言い切りました。
ならば私も言わざるを得ないでしょう。河伯の巫女をなめるなと。
「もし人の妻を平気で奪うような暗君がのさばるのでしたら、青巾の乱を起こす所存です」
ひくっ……董旻叔父上の顔がひきつります。
董卓パパは動じもせずにのんきに聞きました。
「青は今、たぶん10万は動員できるかの?」
「あと5年で30万に出来ます」
「ならば我が董卓軍団に……孫堅も来るかの?天下はひっくり返せるな」
董卓パパ、意外とノリノリですね?
「やめてくれ?!」
董旻叔父上が悲痛に叫びます。
「まぁまて、まだ何も決まっておらん。仮定の話だ」
「そうですよ、弁皇子が他人の妻を奪うような暗君にならなければいいんです」
「何かいい方法でもあるのか?」
董旻叔父上が質問します。
「あるのじゃ」
口をはさんだのは白ちゃんでした。
「わらわがお姉さまの代わりに輿入れすればすべて解決なのじゃ!」
「……いや、まだ10だろお前!」
「でも、弁皇子が20になればわらわは16。お姉さまよりもお似合いなのじゃー」
白ちゃんが扇をもってくねくねと色っぽい恰好をします。可愛いだけですけど。
って……そんなの考えてたんですか白ちゃん!?
それじゃあ私と白ちゃんが結婚できない……ああ?!公明くんと結婚するんだった?
「ふむ?白もずいぶんとしっかりと成長したな」
「お姉さまを見習いましたのじゃ」
私ったら白ちゃんの見本になれてたんですね……誇らしいです。
董卓パパが白ちゃんと話を続けます。
「そうかそうか。たしか、青がいない間は白が史侯の接待をしておったな?」
「皇子もわらわに優しいし、
「……それで史侯が満足するとは限らんが、一つの手ではあるな。白でも史侯と董家の関係は確保できるし、青も正式に結婚すれば奪いづらくはなるだろう。満足するとは限らんがな?」
あれ?白ちゃんを娶っておいて満足しない男が居るんですか?!
「そりゃー、隴を得たら蜀を望むのが劉家だからなぁ。桓帝は後宮に五千人の美女がいたし、 史侯は青も白も嫁にしたがるかもしれん」
不満そうにした私に、董旻叔父上が解説します。
……うわぁ。いや、それはちょっと我慢しなさすぎでしょう……。そんなことしたら本気で弁皇子を軽蔑しますよ私は。
「全部仮定の話だ、これ以上言っても仕方があるまい。弁皇子には正式に数年後に白を貰ってほしいと
董卓パパが裁定を下しました。
いや、お願いだから弁くん、暗君にならないでね……。
私も白ちゃんと結婚するのは諦めますから!
「っ!」
なんか白ちゃんが扇の裏で小さく手を握って、満面の笑みを浮かべています。
そんな白ちゃんに話しかけます。
「白ちゃん、そんなに弁皇子のことが好きだったんですか?」
「え?」
「……え?」
変な空気が流れました。
「皇后になって贅沢狙いじゃけど?」
あう、可愛らしい私の
※
・後漢書 岑彭伝
光武帝は敕書にて曰く 「人苦不知足,既平隴,復望蜀」(人の望みには限りがない。隴西を得たら、蜀が欲しくなる)
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