第131話 重大な陰謀

こんにちは、三国志の悪役、董卓の娘の董青ちゃん14歳です。

ついに悪役令嬢らしく断罪されて暗殺されるところでした。それでいろいろあってちょっとイチャイチャしちゃってましたが、そもそも暗殺事件ですから気を取り直さないと。



董家屋敷の広間に、悪だくみ担当の賈詡カクさん、武力担当の趙雲チョウウンさん、遊侠やくざ担当の劉備リュウビさんに集まっていただきました。


そう、実行犯についての調査の会議です。




いつも明るい笑顔の劉備さんがいつもの軽い感じで切り出しました。

「で、だ。今回の刺客なんだが」


許攸キョユウだな、殺そう」

四角い顔の趙雲さんががっしりと筋肉質の身体を震わせて発言します。


遊侠やくざを集めていたところまでは分かっているから他になかろう」

若白髪の賈詡さんもそれを聞いて頷きました。



「待て待て?!調査結果を聞いてくれよ?!許攸は違うんだって!今回の刺客と許攸が集めてるやつらは別系統なんだ、関係がねぇ!」


勿体ぶるつもりだった劉備さんが焦ってしゃべりだしました。


「む、では袁紹陣営の誰だ?」

「前涼州刺史か荊州刺史のどちらかですかな?」


趙雲さんと賈詡さんが次々に話すのを劉備さんが止めます。


「まてまて、たしかに袁紹の仲間には許攸以外にも暗殺をしそうなやつがいる。それよりも聞いてくれ。許攸の動向を調べてたら大変な事実を発見したんだぜ?」


劉備さんが得意げに胸を張るので、たぶん聞いて欲しがってるんでしょう。


私が聞いてあげることにしました。

「それはいったい……?」


劉備さんが重々しく口を開きます。


「聞いて驚くな、許攸は皇帝陛下への謀反を企んでやがる。陛下が故郷の冀州キしゅう河間国カカンこくに帰省なさるときを狙って陛下をとらえ、退位させて別の皇族を即位させようってんだ」



それを聞いて趙雲さんと賈詡さんはあっさりと。


「なんだ、どうでもいい」

「それより暗殺をしそうなやつだ……分かった、豪傑ごのみの何顒カギョウだろう」



あんぐり、と劉備さんのアゴが下に落ちました。


「え?いやいや?!その反応はおかしい!?大逆事件を突き止めたんだぞ俺?!」


ですが、趙雲さんと賈詡さんは気にも留めません。


「どうでもいいな、それより主公とのの敵討ちが先だろう!」

「そのとおり!董家と公明どのに手を出せばどうなるか天下に見せしめなければ!」


劉備さんが食い下がります。

「まてまて、お前らそれでも漢の臣下……臣下……あれ?」


趙雲さんと賈詡さんが大威張りで答えました。

「元黒山軍で、今は河伯教団だ」

「元涼州軍で、今は主公の家臣だ」

「ぎゃあ?!ここには反逆の者しかいねぇ?!」


劉備さんが天を仰ぎます。



あまりにも可哀そうなので、私も口をはさむことにしました。


「まぁまぁ、私は官位持ってますから……むしろ玄徳さんは持ってないでしょう?」

「俺はぁ!?皇族だからぁ?!無位無官だろうと心は漢室こうしつにあるんだよぉオオオ?!」


劉備さんの叫び声が広間にむなしく響き渡りました。




……



「それはそうと、私も公明くんを殴られたのは許せませんので、袁紹配下で暗殺しそうな人を教えてください」

「……漢室の味方がいねぇ……」


劉備さんがぶちぶちと愚痴っていますが、さっさと吐かせることにします。


「まぁ、そっちはあとでやりますから、早く」

「賈詡さんのいうとおり、何顒だな。あいつはもともと豪傑・遊侠にも顔が広いし、若いころには暗殺事件を起こしてる」


賈詡さんが名士の調査票を渡してくれました。


何顒カギョウ伯求ハクキュウ南陽郡ナンヨウぐん襄郷県ジョウキョウけんの人。若いころは洛陽の儒教学校である太学たいがくに通っていて学問に励んでいました。そのころ友人の父の仇を聞いて代わりに殺して首を墓前に捧げたとか。それで豪傑や遊侠の間では名前を高めたとのことです。


……いや?普通に殺人犯ですよね?なんで良いことをしたことになってるんでしょう??

儒教の名士って普通に血なまぐさいんですよね、文化とか礼儀とか関係なく、わりと野蛮じゃないですか?


で、そのあとは党錮の禁があったので何顒は地方に逃げました。汝南・南陽の間で豪傑遊侠の人脈を活用して反宦官組織を結成。洛陽に潜入して、宦官で捕まりそうになった名士たちを次々に地方に逃がしてさらに称賛されたとのことです。袁紹とはその時からの大親友でお互いに宦官皆殺しを誓い合った仲だとか。


その後、黄巾の乱で党錮の禁が解かれたので、袁紹の同僚として何進に仕えて重臣となっています。


中々の人物ではありそうですが、三国志では聞いたことが無い名前ですね。




劉備さんが不満そうにぼつぼつ話します。


「あー、で、許攸が組織してる集団と、何顒の遊侠仲間は違うんだが今回の刺客は後者の関係者……らしい。それっぽいやつを見たって話があるんだが、調べても誰もはっきりしたことはいわねぇ」



それを聞いて賈詡さんと趙雲さん。

「失敗したから口封じに走ってるのだろうな」

「決まりだな、何顒を殺そう」


ちょっと話が物騒なので、私は止めました。

「いやいや、待ってください。公明くんは大痣ができたんですから、半殺しでいいです」

主公とのがそうおっしゃるなら」


劉備さんも口をはさみます


「あー、その。……大将軍何進の重臣で袁紹の親友で、洛陽でも一等級の名士さんを半殺しにする話をしてるって理解してる、よな?」

「おう」

「そうだな」

「はい」


平然と回答した私たちを見て、劉備さんはがっくりを肩を落としました。


「……あのう、その気持ちの半分でいいので、皇帝陛下への謀反についても考えてくれませんかね……?」


劉備さんの悲しそうな声が広間に消えていきました。





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