第118話 保険と豊かな生活
「徴兵保険?」
「はい、毎月たった10銭の支払いをするだけで、徴兵されたら2000銭の保障が払われます。これで
「毎月たった10銭払うだけで、2000銭も貰えるだか!?」
「ええ、しかも万が一15年間徴兵が無かったらもう支払いの必要はなくなりますが、お支払いはいつ徴兵があっても必ずします」
「はーー、それはいい話だべな」
「しかも河伯の巫女様のお話なら信用できるべな」
口々に感想を述べる
「あなた方は信用していますが、途中で
「そんな小銭を払えないやつはいないべな」
「はははは」
さてと、今日の私は保険勧誘員です。
あっという間に
同じように
河東郡は10万戸ですから、毎月100万銭が入る計算です。
いや、全戸が加入するわけじゃないですけど、10分の1でも毎月10万銭ですね。
もちろん、大規模な徴兵があれば支払いは大きくなります。ただ、漢朝では徴兵は各地方の治安維持や辺境警備などの期限つきの常備兵役に当てられます。反乱や遠征などの臨時の兵役は無期限での募兵で志願兵を集めることが多いです。
なので十分に計算はたつと考えました。
もし全員が徴兵されたら赤字ですが、先に多額の銭が入りますのでその銭を運用できれば利益のほうが勝るでしょう。それに利益を出すよりも徴兵で民の生活が崩壊するのを防ぐのが主目的なのです。儲けますけど。
ただし、保険については信用が命なので、河伯教団が十分な信用を得ている地方でしかできません。
なので支部のある地域を中心に広げていくことになりますが、保険金を差し引いても毎月何十万銭という収入が見込める予定です。
さて、元手が得られたので商売を広げていきます。
これらの元手は
また専業の人たちだけでなく、農閑期には副業としてもできるように商売のやり方を教える商売も作りました。
お茶、砂糖、
こうして小売で財産を得る人が増えると、教団で扱っているこれらの商品の売り上げも同時に増えていきます。
そして職人信者さんに褒賞が支払われ、職人信者さんは自分以外が作ったものを銭を出して買います。
商品が飛ぶように売れ、東西南北の教団支部間での貿易もさらに盛んになります。
河東本部の鉄、陶器、石炭。
洛陽支部の装飾品。
長沙支部の茶、砂糖。
関東支部の穀物、絹織物。
長安支部の家畜、そして将来的には綿織物。
これらが忙しく売り買いされています。
さらに、希望者がいれば信者の紹介で信者以外にも貸し出しを行うようにします。
銭行の預銭通帳や口座で取引が行われ、銭が動かなくても商品が動き、富が生み出されます。
こうして
― ― ― ― ―
「青、なんていうかさ。ものすごく胡散臭くない?」
「……酷いことを言いますね皇子」
商売の仕組みを見て、弁皇子が溜息をつきました。
「銭行ってさ、持ってる以上の銭を貸してるよね?」
「よく気がつきましたね。でもすぐ回収できてますし、利息も積もって黒字です」
「たしかに、なら大丈夫なのかなぁ??」
行商人向けの貸し出しは基本的に即日か長くても3日程度なので、基本的にはすぐに利息が付いて返ってきます。しかも貸し出した銭は大部分が教団の産物の購入に充てられるので実際に動く銅銭は少ないです。
弁くんは騙されていますが、どちらかというと商家向けの口座決済のほうが将来手に入るはずの存在しない銭で売り買いを立ててるのでまずいですね。
「うーん、でもモノを動かすだけで利益がでるのはどうなんだろう?」
「動かすだけだと思ってるなら行商をやってみればいいです。大変ですよ」
「それは見学したけど」
なんか引っかかってるようですね。
「それにご覧ください。河東の民は明確に他の地域よりも良い暮らしをしています。これが虚業ですか?」
「うん、それは確かに」
河東郡安邑城の市を民が行き交います。
喫茶信者が開いている茶店では、砂糖を使った
栄養不足なほどに飢えている人はほぼ見当たらず、みなそれなりの服装ができています。
農家には鉄の農具や耕牛が増えて、
そして、広場には紙芝居を楽しむ人たち。
また、新聞を読み上げる読み上げ業者もいて、文字が読めない人たちが聞き入っています
あ、新聞です。
各教団支部で相場を調査させて、穀物などの相場と相場の見通し、大きな事件などを報告書にまとめていたんですが、私だけが読んでいてもしょうがないので新聞として発行することにしました。
主に商家に高く売れてるんですが、相場情報とか秘匿してもしょうがないので新聞読みと名付けて、人を集めて有料で読み上げてもらう商売を作りました。
相場情報だけでなくて、各地の事件や気象、災害などの情報も読み上げるので人気があるみたいです。
「もちろん、民の生活の基本は農業です。ですから、事業の儲けは各地で灌漑と新田開発に使っています」
弁くんがうなずきます。
「ですが、人は穀物のみに生きるにあらず。服も必要です。鉄の農具も必要です。陶器の水瓶も必要です。石炭を燃やして暖も取ります、そして身体の用だけでなく、紙芝居を見たり、点心やお茶だって心を楽しませるために必要なのです。これらすべてのものを増産して、良民に広く行き渡らせる。これが国が富むということなのです」
「そうだね、民に十分な田地を与えて農業をさせたうえで、これらの工業や商業も必要ということか」
「ええ、そして民がこれらの仕事で銭を稼げば、国家の税も楽に払えます。無理な政治をして銭をかき集める必要もなくなるでしょう」
弁くんはやっと納得したようで、すっきりとした表情で言いました。
「そういう政治をしたいよね、これからもよろしくね?」
「はい!」
様々なものを多く生産して国を富ませる方策について弁皇子から皇帝に進言してもらいます。
民間の富が増えて税の集まりが良くなると聞けばあの銭ゲバ皇帝も喜ぶことでしょう。
弁皇子が皇太子になって、治水灌漑、新田開発を中心に民のための政治をしてくれれば
さてと、早めに弁皇子を洛陽に帰さないとまた趙忠さんに怒られる……。
何がええ、青と一緒に居られないの?ですか。
私も忙しいんです。早く洛陽に帰ってください。
ご両親の機嫌取りよろしくお願いしますよ?
頑張ってくださいね。
私は公明くんと書類仕事のもとにいかないと。
なんか不満そうな弁皇子を馬車に押し込んで見送りました。
※
・徴兵保険
本朝では明治時代に始まった保険で徴兵で働き手を失って経済的に打撃を受けることを防ぐ狙いがありました。しかし掛け金を払えるのがそれなりの家しかなかったので貧困層は恩恵を受けられなかったようです。董青は社会福祉優先でほぼ利益なしでやってますが、それでも一時的に銭はものすごく集まっちゃいます。
定期的な徴兵選抜が支払いの対象で、志願して募兵を受けるのは保険の対象外です。
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